表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/95

89.ガーホイ、海の町

僕たちにとって、あの件は災難以外の何物でもなかった。

どう振り返っても酷くて大変で、起こらなければどんなに良かっただろう。


だけど、僕が事故に遭っていなかったら、地下に仕事があること、そこで働く人たちの存在を普通の人は知らないままだった。


あの日、事故は起こり、僕たちのことを全く知らなかったはずの多くの人が、僕の行方を心配し、支援し、僕が発見され、助けられ、一命をとりとめ回復した事に安堵し喜んでくれた。


それだけで終わらず、その影響が色んなところで現れていく。


当事者でありながら、不思議な気分になる。

報われたとか救われたとかじゃなくて、戸惑う。


だけど、たまに思う。

あの日。

普段にない深さまで降りて、そこから歴史を見せるようにして、チームにいた一人、ゴロウは僕にこう言ったはずだ。


地下で、こんな風に働いている人がいるとは、どの歴史にも残らないだろう、と。

研究所で生まれた人は、皆嘘をついて生きている、とも言っていたと思う。


だけど。

もう、歴史の1つになるだろう。皆が存在を知ったから。


歴史とかいうものは、意図して変えるものでは無く、案外、意図されず変わっていくものなのかもしれない、なんて僕には思える。


***


さて。ガーホイに返答をした翌日。今日はユリも一緒に、研究所へ。


ソウの部屋の扉が開いたら、ソウがニコニコ待機していた。

「あー!」

とユリに向かって手を広げる。

「ソウくん、おはようー! 元気ねー!」

ユリも嬉しそうに手を伸ばして頭を撫でてあげる。


「・・・」

僕はなんだかジト目になった。

僕、こんな風に迎えてもらったことが無いんだけど・・・。

ソウは男児だからか、女性にはとても愛想が良い。

拗ねるぞ。


ちなみにソルトも顔をのぞかせたけれど、ソウがユリと楽しく遊んでいる様子に、リクさんのお手伝いの方に行ってしまった。ガーホイが来たら戻ってくるらしい。

今日は、ガーホイも午前中に来るのだ。


合流できたらすぐ、ガーホイと僕とユリで、海に向かう予定。


***


有料の高速のルートを使わせてもらったので、昼食の時間を少し過ぎたころに海の町に着くことができた。

ガーホイを招いている町。

それにしても良い天気。

海も久しぶりだからテンションがあがる。ついでに宿をとって、海で遊んでから帰るのもいいかも。


さて、この町にはご老人のみ8人住んでいる。

そして、全員が自分の家の近くの空き家にガーホイを熱心に勧誘しているのだ。


結果、ガーホイは家を決められずに困り果ててしまった。

そして僕たちに、どう選べばいいかアドバイスが欲しい、と相談してきたのだ。


***


見て回ったのは4軒。

残りは、あまりにも古くて、ガーホイが歩いた時に、壊れる音が聞こえたらしい。だからすでに候補から外されている。


さて、確かにどの家も立派に見える。

1軒1軒、別のご老人が出てきて、自ら案内してくれた。

今も、この家の隣に住むというご老人が僕たちの感想を待っている。

うん、ガーホイが選びづらいという気持ちもよく分かる。


どう決めれば良いんだろう。困った。

僕がユリに視線を向けると、意外な事に、ユリは少し考えるようにしていた。


あれ?

「・・・あの、思うのですが、ガーホイさんは魚を取って、それを他の町に運んだりしますよね」


慎重な言葉に、僕とガーホイ、それから案内してくれたご老人の1人がユリを見つめる。

ユリは、ご老人に気を遣いつつも、勇気を出すように、顔を赤らめながらも言った。


「だったら、海にも行きやすくて、他の場所にも行きやすい場所にある家が良いと思います。あの、ごめんなさい、システムが、大分古いと思って・・・。ガーホイさんがこれから住むなら、もう少し、新しい方が良いと思うんです」


とても言いにくいらしい。けれど、ユリは勇気を出すように、ご老人にこう告げた。

「あの、これは私が思った事なのですが、皆さんがガーホイさんに快く『使って良い』って言ってくださったのなら、そのお家を全部、一旦回収して、その資源で、ガーホイさんに新しいお家を建てたらどうでしょうか。ガーホイさんのためにはその方が良いと思うんです。・・・そうしたら、皆さん全員の厚意で、ガーホイさんがこれから長く住めるお家ができると思います・・・」


僕とガーホイは、驚いてしまった。

ご老人はじっとユリを見つめている。


僕とガーホイは言葉もでない。

古い家を回収して、新しい家をなんて発想。


とはいえ、落ち着いて考えてみれば、それは可能で当たり前の手段だ。

使わない資源は回収し、他の必要なものに変えて使うのが普通だ。


「全部を回収して、なぁ」

とご老人が吟味するように呟く。


ユリはまだ顔を赤らめながら、ご老人に告げた。

「はい。私個人の感想ですが、皆さんがガーホイさんに提供しようとしているお家の、資源を、ガーホイさんに差し上げるという形で良いのじゃないかしら、って。8つの家の資源が使えるなら、思うように希望するお家を建てて、家具も揃えることができます。船だってレンタルじゃなくて持つことができるはずです」


「なるほど、のぅ・・・」

ご老人は、ユリから目線を外して、今見終わったばかりの、ご老人オススメの家を眺めた。


「なるほどのぅ」

と、もう一度呟いた。


***


そこからはとても速かった。


ご老人方の間で、ユリの案でまとめようと決まったらしい。

僕の運転で付近をドライブ中のガーホイに、ご老人の代表者からそう連絡が入ったのは、1時間後の事だった。

ガーホイは驚いていたが、ユリはホッと笑っていた。


そのまま、どの場所に家を建てると良いか、ドライブしながら探すことになった。

どうやらユリはそのつもりでドライブを希望していたらしい。

びっくりだ。


そして、その2日後。ガーホイの新しい家は完成した。


ガーホイの希望を汲み、ユリの友達が設計してくれて、分解物質から作り出された。

システムも新しいけど、何より、いろんな人に遊びに来てほしいという希望が詰まった大きな家。


中央のチームの人たちにも遊びに来て貰いたい。

僕とユリや、ソルトやソウやリクさんにも来て欲しい。

町のご老人も遊びに来て欲しい。


家はすぐにできるものだから、とユリが断言するので、近くの宿に泊まって海で楽しみつつ待っていたから、完成初日、僕たちもガーホイと一緒に見に行くことになった。

8人のご老人も車で迎えにいったので、揃っている。


外から見えた家に、ガーホイは茫然としつつ、感動していた。

ふるふると震えて、涙目になっていく。


家の中に踏み込んで、これは夢かよ、とガーホイは呟いた。


「ガーホイくんの家じゃよ」

とご老人の一人がガーホイに言った。


ガーホイが大泣きしはじめて、老人たちは囲んで、笑ったり慰めたりした。

僕たちももらい泣きしてしまった。


一息ついて、ガーホイは僕たちにも目を留めた。

「どんどん来てくれよ。俺一人じゃ大きすぎるからよ」

未だに涙の残る顔で、照れながらそう言ってくれたので、僕たちも、泣き笑いのまま、うん、と頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ