↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Code Ω  作者: ニコル
PR
24/65

第24話 死んだはずの第零号


『CODE Ω――第三段階、別系統で再起動』


誰もいないはずの中央制御室に、機械音が響いた。


リナは、意識を失ったダニエルを抱きかかえていた。


「ダニエル! お願い、目を開けて!」


返事はない。


呼吸はある。


だが、神経活動を示すモニターには、ほとんど反応が表示されていなかった。


「どういうこと……? 神経制御プログラムは停止したはずなのに」


リナは端末を確認した。


CODE Ωのメインシステムは停止している。


世界各地への強制接続も遮断された。


それなのに、別の場所から信号が送られ続けている。


「ヴィクター! この施設以外に、CODE Ωの中枢がある!」


ヴィクターはアレクサンダーへ銃を向けたまま、眉をひそめた。


「何だと?」


「メインシステムとは別のネットワークが動いている。しかも、こちらの停止命令を無視してる!」


アレクサンダーは、床に落ちていた端末を見つめた。


「そうか……第三段階が起動したのか」


「知っていたのか!」


ヴィクターが父親の胸ぐらをつかんだ。


「何を隠している!」


「離せ、ヴィクター」


「三年前、何があった? ダニエルの母親に何をした? そして、今度はリナを何に利用しようとしている!」


アレクサンダーは息子を見つめた。


「お前は、真実を知りたいのか?」


「当たり前だ!」


「ならば、一つ教えてやろう」


アレクサンダーの声が低くなる。


「CODE Ωは、最初から一つのシステムではなかった」


ヴィクターの手が止まった。


「第一段階は、脳の損傷を修復し、失われた記憶を補完する技術。第二段階は、複数の神経系を接続し、情報を共有する技術。そして第三段階は――」


彼はリナを見た。


「人間の意思そのものを、別の人格へ移す技術だ」


リナの顔が青ざめた。


「人格を……移す?」


「正確には、記憶、感情、判断基準を含む人格情報を複製し、別の神経系へ接続する。だが、完全な移植が成功した例はない」


「だから、第零号を作ったの?」


「違う」


アレクサンダーは首を振った。


「第零号は失敗作だ。ダニエルも、リナも、ヴィクターもな」


「……俺たち全員が?」


「お前たち五人は、CODE Ωの適合者として選ばれた。しかし、本来の計画にはもう一人、必要な存在がいた」


リナは息をのんだ。


「第六号……?」


「そうだ」


アレクサンダーは、壁面モニターを起動した。


そこには、六つのベッドが並ぶ研究室の映像が映し出された。


五つのベッドには、それぞれ子供が横たわっている。


そして、六つ目のベッドには、誰もいなかった。


ただし、画面の端に記録が残されていた。


第六号:適合率、測定不能。


人格情報:登録なし。


神経接続先:全候補者。


「第六号は、肉体を持たない」


アレクサンダーが告げた。


「候補者たちの神経情報を統合するために設計された、人工人格だ。だが、三年前のECLIPSE事件で、管理者の制御を離れた」


リナは画面を見つめた。


「それが、今動いている別系統のシステム……?」


「おそらくな」


「そんな……。でも、人工人格なら停止させられるはずよ」


「通常のシステムならな」


アレクサンダーは静かに答えた。


「第六号は、停止させられることを前提に設計されている。だから、停止命令を受け取るたびに、自分の構造を変更する」


ヴィクターは父親をにらんだ。


「それでは、永遠に止められないじゃないか」


「だからこそ、ダニエルが必要だった」


アレクサンダーは、意識を失ったダニエルを見た。


「第一号は、システムの認証鍵であると同時に、システムを拒否できる唯一の存在だった」


「……じゃあ、さっきの拒否コマンドは?」


リナが尋ねた。


「第六号を止めるための鍵でもあった。しかし、お前が管理者権限を再定義したことで、権限の移譲先が変わった」


「誰に?」


アレクサンダーは答えなかった。


その代わり、彼の端末が震えた。


新しいメッセージが届いていた。


送信者:Ω-000


件名:最終管理者へ


本文には、短い文章が記されていた。


『リナ・アシュフォード。


あなたが新しい管理者です。


これより、あなたの意思を最優先します』


リナの手が震えた。


「私が……管理者?」


その瞬間、施設のすべてのモニターが点灯した。


映し出されたのは、世界各地の研究施設。


それぞれの施設に、同じマークが表示されている。


Ω-000


そして、その中央に、一人の女性が現れた。


リナと同じ顔。


だが、目の色は違っていた。


金色の瞳。


「……あなたは誰?」


リナが問いかける。


女性は、微笑んだ。


『私は、あなたが忘れた記憶の持ち主』


『そして、あなたが本来なるはずだった存在』


リナの頭に、激しい痛みが走った。


白い部屋。


幼い自分。


ガラス越しに見つめる女性。


そして、聞こえてくる声。


『この子に、私の記憶をすべて渡さないで』


リナは膝をついた。


「やめて……!」


女性は、画面の向こうから優しく語りかけた。


『大丈夫。もう、何も恐れる必要はない』


『あなたは私に戻ればいい』


「私は……私よ!」


『本当に?』


女性の瞳が、金色に輝いた。


『あなたの好きな食べ物は? 初めて友達になった人の名前は? 子供の頃、夜眠れなかった理由は?』


リナは答えられなかった。


記憶がない。


いや、記憶はあるはずなのに、その一部が霧に包まれていた。


『あなたが大切にしている思い出も、私が与えたものかもしれない』


「……違う」


リナは震える声で言った。


「たとえ、最初の記憶が誰かから与えられたものでも……今の私が感じていることまで、あなたのものにはならない」


女性は、少しだけ寂しそうに笑った。


『そう言うと思った』


その直後、モニターに警告が表示された。


第六号:神経接続率、六十二パーセント。


接続対象:全候補者。


第一号――応答なし。


第二号――認証済み。


第三号――接続準備中。


第四号――所在不明。


第五号――生命反応なし。


リナは画面を見つめた。


「第五号……カイ」


ダニエルを救うために命を懸けた少年。


あのとき、彼は確かに撃たれた。


だが、遺体は確認できていない。


そして今、システムには「生命反応なし」と記録されている。


「カイは……本当に死んだの?」


誰も答えなかった。


そのとき、別のモニターに新しい信号が表示された。


第五号――外部接続を検出。


接続元:第七研究施設、地下医療区画。


ヴィクターが目を見開いた。


「何だと……?」


アレクサンダーの表情が変わった。


「あり得ない。あそこは、三年前に封鎖されたはずだ」


リナは端末を操作した。


映像が切り替わる。


暗い医療室。


ベッドの上に横たわる、血まみれの少年。


胸には包帯。


腕には複数の点滴。


カイだった。


しかし、彼の身体に接続されているのは医療機器だけではなかった。


首の後ろに、小さな神経接続端子が埋め込まれている。


画面に文字が浮かび上がった。


第五号:生体活動、再開。


神経接続率:九十一パーセント。


第六号への接続を開始します。


「やめて……」


リナがつぶやいた。


その瞬間、カイが目を開いた。


彼の瞳は、赤く光っていた。


『……聞こえるか、ダニエル』


意識を失っていたはずのダニエルの指が、わずかに動いた。


カイの声が、施設全体に響く。


『俺は、まだ死んでいない』


彼は、画面の向こうで微笑んだ。


『だが、もうお前の知っている俺じゃない』


そして、カイの背後に、見覚えのある男が現れた。


黒いスーツ。


銀色の瞳。


アラン・クロス。


三年前に死んだとされていた、ダニエルの母親の同僚。


アランはカイの肩に手を置き、静かに告げた。


「計画を再開しよう」


「第六号を完成させる」


その瞬間、世界地図のすべての光点が赤く染まった。


CODE Ω――第三段階、進行率七十三パーセント。


最終管理者:リナ・アシュフォード。


次の選択――人類の意思を守るか、五人の候補者を救うか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。