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図書室の司書

 登校日以外の日、学校の正門は閉じられている。オレは警備員のいる裏門(職員用の出入口)に向かった。


「どうしましたか?」

 警備員は当然の質問をオレに投げてきた。

 オレは正直に「司書の先生に急用があるのですが。もし、今日学校にいるのならば取り次いで欲しいのです」と伝えた。

 警備員は表情を変えずに「君の名前は?」と事務的な口調で尋ねてきたので、「はい、キビタキ ワタル、と言います」と丁寧に答えた。

「ここで、待っていてください」台詞を残して警備員は裏門の脇にある詰所に戻り、なにやら端末を操作している。時折、左耳のイヤフォンに左手を当てて(うなず)きながら話をしている。そして、大きく頷いた後に詰所のドアを開けて出てきた。

「司書のカツイさんは本日在校しています。君のことを話したら『通して下さい』と許可が下りたので、このパスカード渡します。図書室以外の扉に触れないように気をつけて下さい。警報が鳴ります」と言って、オレの首にパスカードをかけてくれた。

 オレは礼を言って、図書室に向かった。


 彼女はカウンターの中でオレが来るのを待っていた。

 休校日なのに、学校で何をしているのか気になったが「急用という事を聞きましたが、何かありましたか」という彼女の問いかけに「はい、見つかりました。紙の本が」と急いで返事をした。

 彼女は驚いた顔をして「どこにあったのですか?」「どうやって見つけたのですか?」と矢継ぎ早(やつぎばや)に質問してきた。

 オレは昨日の夢の話から順を追って説明した。


「その本を今、持っていますか」と彼女が尋ねてきたので、「はい」と答えてパックバッグの中から紙の袋を取り出して、袋ごと彼女に渡した。

 彼女は好奇心に(あふ)れた眼差(まなざ)しで「見てもいいですか」と尋ねてきたのでオレは頷いた。彼女は袋の中から紙の本を取り出すと、表紙、背表紙、裏表紙を丹念に見てからカウンターの上に本を置き、表紙をゆっくりとめくった。


 彼女が読んでいる間、オレは足踏みをしたり、室内を歩き回って待った。


「キビタキさん」彼女から声がかかった。

「はい」と返事をしてカウンターに向かうと、「この本をスキャンしてもいいですか?」と聞かれたので頷いて「必要なら黒いファイルも見てスキャンしてください」と答えた。彼女はファイルの中身を確認した後、何枚かを取り出して、紙の本と一緒に奥の部屋に入っていった。


 数分して戻ってくると紙の資料をファイルに戻し、紙の本とファイルを紙袋に丁寧に入れた。

 それから、「キビタキさん、これは貴方用のデータチップです。スキャンデータが入っているのでリード端末に接続して使ってください」と言ってデータチップを渡してくれた。

「紙の本は貴重です。汚したり壊れたりしないように普段はリード端末で読んでください」

「わかりました。ありがとうございます」オレはバッグの中からリード端末を取り出し(もら)ったデータチップを差し込んだ。


 全画面に緑色の表紙が表示され、いつもの癖で左にスワイプすると画面が変わらなかったので画面から彼女の顔に視線を移すと彼女は「この本は縦書きなので、左端をタッチするか右方向にスワイプしてください」とオレに告げた。ページをめくる感覚で右にスワイプすると緑色から画面は白色に変わり、昨日と同じ「1・始まり」という章題が表示された。もう一度スワイプすると次のページが1ページだけ表示された。


 今までは当たり前だったが、昨日、何度も紙の本のページを手でめくって2ページを同時に眺めていたので何だか違和感があった。

 オレは独り言のように「紙の本は何か、全然違うんですね」と彼女に向かって(つぶや)いた。「はい、紙の本はデジタル書籍と違って情報量に圧倒的な違いがあります。だから、今の時代でも研究者や好事家(こうずか)は紙の本を収集しているのです」「私も久しぶりに紙の本に触れ、読みましたが楽しませてもらいました」彼女はオレの呟きに呟きで答えた。


 そして「ではキビタキさん、本題に入りましょう。貴方はこの本を読んでどうしたいと思いましたか?」彼女の質問にオレは少しだけいつもより大きく息を吸って答えた。


「オレはこの本に書いてあった、旅人が作った魔法を解く『薬』を作ろうと思ってます。ただ、オレにはこの本に書いてある5つの『材料』が何なのか、お袋の書いた『資料』を呼んでも検索しても全く分かりません。だから、カツイさんオレに協力して欲しいんです」


 彼女はオレの真剣な願いに真剣な眼差しで「はい」と返事をしてくれた。


 夢の声以外に現実世界で初めてオレに協力者ができた。

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