木々の魔法と冒険者の話(後編)
頭の上から声が聞こえたので、旅人は身を起こし見上げた。
かすかな月明かりを受けて木々の葉は暗闇の中でほのかに白く照っていた。
「どうか、お願いです」声は後ろから聞こえた。
振り返ると、そこには美しい人が立っていた。旅人は驚き、黙っていると美しい人は旅人の目を見つめて話しかけた。
「聞こえたのですね。私の声が。どうか私を助けてください。お願いです」
旅人は目の前に立つ美しい人の切実な声に反応して「あなたは一体誰なんです」と問いかけた。
美しい人は旅人の反応に喜びの表情を浮かべて答えた。
「私の名前はシルヴァ、この森に暮らしていたのですが魔法にかけられてしまい、動けなくなってしまいました。どうか私を助けてください」
旅人は美しい人の眼差しと切なげな声に魅了されてしまい、その願いを聞いてみたくなった。
「どうすればあなたを助けられるのです」
美しい人は旅人の問いかけに一度目を閉じてから喜びの笑みを浮かべて答えた。
「ありがとう、私にかけられた魔法は木々による魔法です。だから薬で解くことができます」
「その薬は何処かにあるのですか」
「いいえ、薬はどこにも存在しません。ですが、作ることができます」
「その作り方を知っているのですか」
「はい、知っています。まず、材料を集めます。『1つは暗く湿った大地に生まれる白き粉、1つは木々の根元に眠り木々と共に生きる白き塊、1つは大地の中に城を築きその中に蠢く白きもの、1つは濡れた大地、木々をゆるゆると渡り歩く硬き鎧を纏いし柔らかきもの、そして最後の1つは湿った大地に広がる緑の敷物を食べるものの体から出てくる塊』この5つを乾いてしまう前に混ぜ合わせてください」
「順番は決まっているのですか」
「いいえ、順番は決まってはいません。大切なのは乾いてしまう前に混ぜること。日の光や強い光に触れないこと。そして、混ぜ続けることです。お願いします。薬を手にして私を助けてください…」
美しい人は両の手を握りしめて旅人を見つめた。旅人は最初から決めていたように首をゆっくりと縦に動かして「わかりました」と答えた。
瞬間、目の前が白くなり美しい人は見えなくなった。
目の前が突然暗くなった時、オレはお袋の部屋にいることを忘れていた。
机の上のライトが消えている。
月明かりが音もなく机の上の紙の本とオレの両手を照らしていた。オレは本を閉じて紙の袋に入れ、自分の部屋に移動した…
月光の量は変わらないが、オレは朝まで何度も紙の本を読んだ。それから、黒いファイルに入っているお袋が集めたであろう紙の資料と紙のメモ書きも読んだ。
ほとんどが意味不明だったが、1つだけハッキリしたことがあった。
お袋はこの本に書いてある薬を作ってマツリを「木変病」から救おうとしていたということだ。
ただ、この本は謎が多すぎるし、書いてあることが曖昧だった。お袋もそれで苦労したに違いない。本の作者は検索してもヒットしなかったし、この謎解きに協力してくれた人の名前も書いてない。
彼女の協力が必要だと思った。今日は登校日ではなかったけど、身支度を整えてからダメもとで学校へと向かった。




