11の日
冷えた体を温めるためにキューブ食に水を混ぜてスープを作った。本当は子供の頃に食べたシチューを作りたかったが、肉もジャガイモも牛乳も手に入らない。それでもドロドロに溶けたキューブ食のスープは体を温め、少しだけ気落ちしたオレの心をホッとさせてくれた。
銀色の光線が何本も差し込む荒野を珍しく風が吹き抜けた。不思議と寒さは感じなかった。虫の鳴き声が何処かから聞こえてくる。久しく感じたことない緩やかな空気に包まれてオレは空の月を見上げながら歩き続けた。
「探しなさい、本を探しなさい」
「本はお前のよく知っている場所にあるから、諦めないで」
「そう、方向は間違っていない。本はお前のすぐ近くにある。よく知っている場所だから、思い出しなさい」
(よく知っている場所…オレのすぐ近く…)
「そして、ページをめくるのです。本はお前に道を示してくれます。1ページ毎に道を示してくれます。だから、諦めないで探しなさい。本を探しなさい」
優しく温かい声は光線の向こう側から風に乗って流れてきた。オレは2度頷いて歩みを進めた。
「オレのすぐ近く」そう呟きながら目を覚ました。
オレのすぐ近くで、よく知っている場所。紙の本が在る場所。オレが忘れてしまっている場所…
オレは目を閉じて意識を巻き戻した。
10年前、街は明るかったがもう街に本屋は無く、今と同じでリード端末に直接ダウンロードするかデータチップを差し込んで読んでいた…友人も知り合いにも紙の本を持っている奴なんていなかった…
8年前、最初の『木変病』のニュースを見た。
6年前、オレの街でも『木変病』が始まった。
3年前、リョウ、ハル、妹のマツリ、そしてササキさんが固まった…マツリが固まり始めた時、お袋は半狂乱だった。マツリに付きっきりで看病していたけど、完全に固まってからは自分の部屋に引きこもってブツブツ呟くことが多くなった。オレはお袋の精神が心配で部屋から出てくることがあれば、必ず声をかけたが「うん、わたしは大丈夫。マツリを救えるのはわたしだけだから」とギラギラした目つきで話すものだから恐怖心を覚えた…かと思えば、何日か家を空けることもありオレは心配でもあったけど、家の中でひとりぼっちになったようで寂しかった…
そういえば1年ほど前にお袋がキラキラした顔で帰って来た日があった。「なにかいい事でもあったの」と聞いたら「うん、探していたものがようやく見つかった。これでうまくいくかもしれない」と久しぶりに笑顔になったから「よかったね」とオレも笑顔で返した。あの時、お袋は紙の袋らしきものを抱えていた……
3か月ぶりにオレはお袋の部屋の扉を開けた。
窓から月明かりが差し込んでいる。机とベッド。何も変わっていない。
机の上のライトを点けてみる。点いた。バッテリーはまだ残っているみたいだ。あの時はなんだか悪い気がして開けなかった引き出しを開けてみる…あった。紙の袋が。ドキドキしながら袋を引き出しから取り出す。呼吸が止まっていたのに気づいて大きく息を吐いて袋を開ける。黒いファイルと緑色の紙の本が入っていた。少し体が震えた。手も震えた。ギュッと右手を握りしめてから袋の中の紙の本を取り出した。本は右側が綴じられていて左側を開けるようになっていた。表紙には題名が書いてあった。
「木々の魔法と冒険者の話」
体の震えは大きくなり、歯がガチガチと鳴った。
オレはブルブル震える手で表紙をめくった。




