8の日
目が覚めてもしばらくは夢の内容が理解できなかったオレは個人端末で検索してみた。
「ページをめくる」
……次のページに進むためにpageupボタンを押すこと。または画面端をクリックすること。
初めて聞いた言葉だった。
リード端末はスクロールするだけで読み進められるのでpageupボタンは付いていないし、画面端をクリックすると最初の目次に戻ってしまう。
訳が分からなかったのでまた、学校の図書室を訪ねてみた。
幸い司書は手が空いているようだったので
「あの、すいません。聞きたいことがあるのですが」と告げた。オレの顔を覚えてくれていたようで
「目当ての本は見つからなかったのですか?」と尋ねてきた。
「はい、でも、今日は本のことではなくて、いえ、本に関することなのですが『ページをめくる』って言葉の意味がよく分からなくて…」
その言葉を聞くと司書はニコリとして
「『ページをめくる』とは電子化される前の古い本。紙で作られていた本を読むときに1枚の紙をつまんで右から左に送って下の紙を読む行動のことです。こんな感じで」司書は身振りで示してくれた。
「でも、どうしてですか?」と尋ねてきたので
「いえ、変な話なんですが、夢で『ページをめくりなさい』と声が聞こえてきて検索しても訳が分からなかったので…」とオレは初めて「夢」の話をした。
「不思議な夢ですね。ただ、残念なことに、ここには『紙の本』は無いんですよ」
「どこに行けばありますか?」
「政府直轄の『中央図書館』か上級学校の『研究資料室』ならまだ、保管されているかもしれませんがほとんどが電子化されているので期待は出来ません。一応問い合わせてみるので、次の登校日に来てみてください」司書は「夢」の話に興味を持ってくれたのか、元々親切な人なのかはわからなかったが、問い合わせを買って出てくれた。
月は半分まで光を回復し街の照明も半分ほどしか点いていない。暖房の無い室外はかなり寒くむき出しの顔はピリピリした。
家に帰るとすぐに『紙の本』について調べてみた。2050年頃までは普通に生産されていたらしいが、需要の減少と保存の問題から電子書籍に置き換わり、大災害以降は公式には1冊も作られていないらしい。古い本も電子化され、研究者や一部の収集家が保存しているくらいで現存数はかなり少ないらしい…オレの街に収集家がいないか検索したがヒットしなかった。
今のところ、頼みはあの司書だけだった。
(10の日)
走って学校に行きたかったが、発電のためには小刻みに歩みを進めなければならない。オレは出来る限りの早歩きで登校した。始業前に図書室に向かい、司書がいるか確認した。ガラス越しに姿が確認できた。
急いで扉を開けて司書の顔を見た。彼女はオレを確認すると作業の手を止めて
「結論から言うと、『木変病』に関する『紙の本』はどちらにも存在しない。関連のありそうなものも存在しない。また、仮にあったとしても貴重なものなので司書や中級校生には閲覧は許可されない。デジタルアーカイブにアクセスして下さい。と…」
彼女は申し訳なさそうにオレに告げた。
「ありがとうございました」と礼を言って力なく立ち去ろうとしたオレに彼女は
「あなたの学生カードを貸してもらえない。もし、何かわかったら連絡するから」と言ってくれた。
月は膨らみ輝きを強めつつあった。
オレは白い息を吐きながら力なくフワフワとした足取りで家路についた。




