回復薬2
こんばんはシルビアです。
あれから商業ギルドへ行ってなんとかロトンって町まで行く馬車を予約できたようです。
ロンダさんって言うエイジア様のお知り合いの方が、この商隊のリーダーだそうでなんとかなったようです。 ですが、旅費が足りないそうなので、今から薬草摘みをすることになりました。
薬草は可愛らしい葉っぱが沢山付いている草で、ちょっとスーっとする匂いがします。あんまり嗅ぎすぎるとくしゃみがでそうですが、これを集められるだけ集めるようです。
匂いを嗅ぎながら草を取っていたのですが、甘くて良い匂いのする花を見つけました。良い匂いです。赤紫のふわっと広がった花で、甘い蜜の匂いがたまらないので、ちょっと摘んでおきましょう。お部屋に置いておいたらお部屋が良い匂いになるに違いありません! エイジア様もきっと気に入るはずなのです!
ん、甘い蜜の匂い、こっちも、あっちも、んー、沢山取れました! あれ……何か忘れているような気が……
そして、お部屋に戻るとエイジア様が職人さんのような顔つきになってしまいました。この顔はダメです、いけません。 この顔をするとゼンゼンかまってくれなくなります。ですが、ちょっかいを掛けると普段と違って本当に怒られるので、大人しくしてるしかありません……さみしいので、ベットで転がっていましょう。
夜10時ともなれば殆どの商店は閉まっていて、酒場や色町と詰め所ぐらいしか明かりを灯しておらず、静かになり始めた町並みを横目に小走りで商業ギルドへ向かう。
冒険者ギルドは24時間年中無休だが、商業ギルドは開いてるのだろうか? 下手をしたら冒険者ギルドまで走らないといけなくなりそうだ。
そんなことを考えながら走っていると、遠目に商業ギルドが見えてくる。どうやら明かりが付いていて、入り口に人が数人居るようなのでまだ開いているようだ。
「それじゃ、親方、ご馳走さまでした」
「おう、明日は遅めの出発だからって夜更かしするなよ」
「はい、失礼します」
逆光で顔が見えないが、ロンダさんの声のようだ。 すくなくとも閉まってないようなので、歩調を緩めて呼吸を整えよう。 息切れしている状態で人に合うのは恥ずかしいので、歩きながら深呼吸をしてついでにクリーンで汗を消しておく。
「おや、こんな時間にどうかされましたか?」
クリーンを使った魔力に反応したのか、ロンダさんがこっちを振り向き私だと分かったようで、声をかけてくる。
「こんばんは、明日の出発前に作っておいたポーションを売っておこうと思いまして、遅い時間ですが、まだ買取はやっていますかね?」
「商業ギルドも早朝からの出立がありますので常に人はいますよ。 もちろん買取もやっているでしょうが、前回は見せて頂く機会がありませんでしたが、宜しかったら一度私にも見せていただいてもよろしいですか?」
「そうですね、ぜひ見て感想をお聞かせいただけたら幸いです。 なにぶん田舎で覚えた技術ですから、売り物になるのかどうかも分かりませんので、相場なども教えていただけたら助かります」
「では、中でお話ししましょう」
そうして、酒場に案内されテーブルに付いて飲み物を注文してからポーションを取り出す。 試しの1本は回復率が違うから勘定が面倒になると思い、とりあえずは売る用の15本をテーブルに並べる。
「では、失礼して鑑定させていただきますね」
「はい」
そう言ってポーションを一本手にとって見ているのだが、唐突に険しい顔になる。
「エイジア様、このポーションはエイジア様が作られたのですね?」
「はい、そうですよ」
まずい、なにがまずいのか分からないが、まずい状況だ。 この反応は前にもあった。 だがあの時は錬金術を使ったために起きた不幸な事故だが、今回はちゃんと薬師らしく調剤器具で作ったもので錬金術は……乾燥にしか使ってない。 あれ、乾燥行程がまずいの?
「なにか変なところでもありましたか?」
恐る恐る聞いてみると、私の反応をみて大きくため息を付いて話し始める。
「HPやMPの回復ポーションは普通に市販されているのですが、両方同時に回復できるものは市場には出回っていないのですよ。 無いわけじゃないのですが、製造方法は失われていて今の薬師では作れないのですよ……」
「はい?」
「前にオークションで見たことがあるのですが、HP/MP回復500 状態異常回復の効果が付いたエリクシールポーションは金貨200枚で落札されました。 と言えば想像は付きますね?」
「濃度を上げれば回復力はそれに到達するから、やりようによっては200金貨近い金額を稼ぎ放題、ひゃっほー……」
空気が重いのでふざけようとしたが、視線が痛くて途中で言葉が止まってしまった。
またやってしまったようだ、今度は薬師としてもアウトらしい……
「もちろん、その金貨200枚のポーションはどこぞの貴族がステータスの為に買っただけのお飾り用でしょう。 最低でもアイテムボックスを持っていないと品質保持期限が切れて使い物にならなくなるでしょうしね」
「ですよねー」
「ですが、製造方法が分かれば量産して安価で提供できる可能性がある。 それは冒険者や、私達のような行商をする商人の生存率を高めることができるのです」
「はぁ」
唐突に熱く語り始めたロンダさんに付いていけず、気の無いような返事しか出来なかったが、次の瞬間テーブルに額を押し付けるようにロンダさんが頭を下げて懇願してくる。
「お願いします。 その製法を売ってください」
「あ、いや、ちょ、ちょっと頭を上げてください。 良い大人がこんなところで子供に頭を下げないでください」
私の動揺も気にせず、そのまま頭を下げ続ける。 ちらっと横から顔を覗き見たのだが、商売の為に頭を下げているような感じがしない、そんな必死さが瞑った目元、顔つきから窺える気がした。
「分かりましたから、頭を上げてください」
「本当ですか! ありがとうございます!」
今度は椅子から立ち上がり、直立不動から最敬礼をしてくる。 そんな一連の騒ぎを前に回りの人たちと酒場のバーテンが驚いた顔でこっちを見て、ひそひそと話しをしている。
視線が痛すぎる。 だが、視線がこっちに来ているということは、このポーションを見られるということなので、そそくさと鞄に詰めておく。
さて、あの距離から鑑定が出来るのかどうかはわからないが、これ以上ここで話しをするのはまずいだろう。
「とりあえず、詳しい話しは明日、馬車の中で話しましょう」
「わかりました、明日お待ちしております」
念のため程度に、酒場にいる客の顔を見渡しておく、客は3組、2、2、3人、それとバーテンの爺さん1人、杞憂で終わってくれればいいのだが、利を前にした商人が怖いのは現代でも同じなので、念のために覚えておく。
何事もなく寮に戻ってこれたので、ホッと一安心してさっさと寝よう。 6時集合だから4時には起きないといけない……すでに12時近い、あと4時間って起きられるか不安だ。
私のベットを占拠しているシルビアを横にずらして、隙間に入って寝ることにした。
「エイジア様、起きてください。 もう日が昇ってますよ。 エイジア様!」
「ふぇ?」
シルビアにゆすり起こされて、周りを見るとすでに日が差し込み始めている。 嫌な予感がして机の懐中時計を見ると、すでに5時半でした……
大急ぎで荷物を纏めて、と言ってもそれほどな荷物は無いのだが、最低限と思って顔を洗って時計を見るとあと5分で6時だった。
遅刻寸前です。全力疾走でギルドに向かっても20分は掛かるだろう。 取るべき行動は1つですよね?
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
「おはようございます。早速ですが出発しますので馬車にお急ぎください」
商隊はすでに出発寸前で、私達を見つけたロンダさんの安堵の表情から、すっぽかされたと思っていたようだった。
「すみません、遅くなってしまって」
「いえいえ、私も昨日は遅くまで着き合わせてしまってすみませんでした」
早速馬車に乗り込み、開いているスペースに腰を下ろす。 馬車と言っても荷馬車であってロトンへ持ち込む商品が所狭しと積み込んであり、御者台の後ろになんとか座れる程度の空きしかないのだが。
今日は馬車が4台での移動で、ロンダさんとお弟子さんに商業仲間の3人、そして護衛の冒険者が6人、付属品な私達2人で合計13人という、行商としてはかなりの人数だ。
配置としては、荷馬車の御者台に商人と冒険者が1人ずつ乗り込み、馬で3人の冒険者が前2後ろ1で配置されている。 ちなみにだが、昨日会ったユーリは馬で先頭を進んでいる。
最後尾を行く馬車の御者台には、ロンダさんとお弟子のルカスさんが座り、その後ろのスペースに私とシルビアが荷物に混ざって座っている。
「狭くてすみません、護衛が6人しか手配できなかったので荷馬車の数を抑えたために、荷物が多くなってしまったのですよ」
「いえ、大丈夫ですよ。 無理を言ったのはこっちですし、なによりも徒歩で移動しないで済むだけありがたいですよ」
そうして王都を出て街道を進み、喉かな穀倉地帯を移動している頃になって話しを切り出した。
「ところで、夕べの話しですが、今お話しても大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です」
御者台から振り返り期待の眼差しでこちらを見つめるが、四十のオヤジにそんな目で見られても気持ち悪いので、いつもの商人らしい顔に戻って欲しいのだが……
「それじゃ、ちょっと横に座らせてくださいね」
そう言ってロンダさんの横に移動する。 御者台は2人で座るようになっているが、子供の体格なので多少狭くはあるが横に入り込むことができた。
「その製法の買い取りですが、この製法で得た利益の3%を定期的にいただけるという契約でどうでしょう?」
「は? いや、その条件でよければこちらとしても助かるのですが、それだとエイジア様の手元に来るお金はたいした金額にはならないのでは……」
私の話しの意図が掴めないのか困惑顔のロンダさんだが、真意を掴もうとジッと私の目を見てくる。
「もちろん最初はそこまでな金額にはならないでしょうが、仮にロンダさんがこれを流通させようと思うなら薬師ギルドを頼らないといけなくなりますよね? 私が行っている交渉を薬師ギルドにもロンダさんが行ったらどうでしょう? 利益の何%を得ることができるかはロンダさんの交渉術次第です。 どうでしょう?」
「なるほど、そういうことですか」
頭の中でソロバンをはじいたのか、十分な採算を認めて商人らしい笑みがこぼれる。
「もちろん、薬師ギルドを頼らずに独力でやってもいいですし、私としては午後のおやつが買えるだけのお小遣いが貰えればそれでいいんですよ。 あと、私の名前が表に出ないように取り計らっていただければそれでかまいません」
「名前が出ないようにですか?」
「はい、自衛手段の乏しい子供がこんな技術を持っていたなんて、ろくなことがおきませんよね?」
「分かりました、ではそれで契約を結びましょう。 午後の休憩の時に契約書を作成しますのでそのときに製法の話しもお願いします」
「あー、製法の話しなんですけど、実はちょっと実験をしてみないといけいないんですよ。幾つか懸念がありまして、付与術士じゃないと作れない可能性があるんです」
「それはどういう?」
「薬師が普通に作る手法を見たことがないのでなんとも言えないのですが、魔力循環で機材と薬草に魔力を送り込みながら生成するだけで、昨日の効果のポーションが作れるんですよ。 もしかしたら、私が付与術士だからその効果になるのかどうかを試さないといけないんですよ」
「なるほど、そういうことでしたらさほど問題はありませんね。 付与術士を雇ってポーションを作成してもらえば良いということですから、でも、実験はしてみる必要がありそうですね」
「ですね、だれか魔力循環が出来る人が居れば実験ができるんですが、まぁ、この旅が終わったら信用の置ける人を探して実験してみましょう」
「探すには及びませんよ、私も魔力循環はできますので」
話しを横で聞いていたルカスが唐突に声を掛けてきた。 ずっと黙っていたので軽く存在をスルーしていたが、ちゃんと話しは聞いていたようだ。 だが、魔力循環ができるということはルカスは魔法系の職業を持っているということなのだろうか? 見た感じは魔法使いには見えない、ガッシリとした肉体をしていて戦士といった体格なのだが、まぁ、魔法使いも接近戦が出来るように鍛えている人も居るし、変ではないのだが……
「そうですか、では町に着いたら実験してみましょうか」
「いやー、待ち遠しいですな。 こんなに胸が高鳴るのは冒険者を引退して以来ですよ」
そんな会話をしながらの旅はのんびりとしたもので、すでに2日目になっていた。
昨日はバタバタしていてポーションの考察をしていなかったのだが、今のうちに考えを纏めつつ書き留めておこうと思っている。ルーズリーフを取り出して、念のために日本語で書いておこう。
まず、薬草を乾燥させずに使うと効果は上がるが品質保持が難しくなる。ということなのだが、ぶっちゃけて腐るってことなんだろうと思う。
生で作っても一回加熱しているのだから雑菌で腐っているのではないと思うのだが、他の要素で考えるとやはり酸化することによっての劣化ではないかと考えている。 あとは調剤器具や保存容器の衛生面も問題だと思う。
酸化防止剤を作れると良いんだけど、あとは、缶詰式に……缶切りが必要になるか、アンプル式はどうかな、あれなら……ってそれだと錬金術を使わないと作れないのか……
瓶詰めなら行けるのか、あれなら密閉しても開けるのは問題ないし、イメージとしては栄養ドリンクだけどそれが一番無難そうだ。
①薬草をすり潰してそのまま使用するとどうなるかを調べる
②薬草をすり潰して搾って薬草汁と絞りかすを調べる
③①②で出来たものをそれぞれ、水、アルコール、炒りで加熱して調べる
実験するのはこんなところで良いか、アルコールは酒から抽出すれば良いとして後は薬草に他のものを混ぜても、効果が変わらないかどうかも実験してみよう。
ふと視線を感じて横を見ると、さっきまで寝ていて大人しかったシルビアがジッとメモを見ている。
「エイジア様、その文字はどこの言葉なんですか? 見たことない文字ですけど」
「ああ、これは私の故郷の文字で日本語って言うんだよ」
「ニホンゴですか、聞いたことが無いのですが遠い国なんですか?」
「んー、遠いのかな、もう帰れないと思うけどね、私も故郷がどこにあるのか分からなくなっちゃったんだよ」
そういえば私の設定した境遇をシルビアには話していなかったのを思い出して、一応キャラクターの身の上を話しておく、中身が異世界の人間であることは今のところ明かすのはやめて置く、話しても良いのだが知ったところで理解が出来るかもわからないし、一応いつか話すこともあると思っておこう。
「そうだったんですか、可哀相です。 いつかお父様に合えるといいですね」
涙ぐむシルビアを見て、そこはかとない罪悪感を感じるが、いまさら嘘設定ですとか言い出しづらいのでそのまま黙って慰めておく。
「まぁ、今はシルビアが居てくれるので寂しくないから、あんまり気にしてないよ、だからシルビアも笑っていてくれればいいんだよ」
「はいぃ」
タオルで顔を拭いて鼻をかんであげ、ついでに荷物から昨日のうちに採取しておいた薬草とすり鉢と乳鉢を取り出してシルビアに渡す。
「とりあえず、もうすぐお昼休憩だろうから、それまでにこの薬草をすり潰しておいて欲しいんだ」
「あ、はい」
「とりあえず12本あるから、これだけやっておいてくれればいいし、あ、あと魔力循環ですり鉢と薬草に魔力通してやってね、疲れたら休むようにね」
「はい」
とりあえず雑菌類を排除するために、クリーンの魔法を持続で掛けてついでに偽装で魔力反応を誤魔化しておこう。
このクリーンの魔法は術者の認識に応じて効果が変わる。
簡単には汚れを消すという効果なのだが、術者がそれを汚れと認識したらそれを消すことができるという、かなり凶悪な魔法だがこの世界ではお掃除用便利魔法として認識されている。
回復魔法を掛ける前にクリーンを掛けると、傷口に入っている不純物である砂やら雑菌を消せるのだ。 つまり、砂や泥は消せるということなのだが砂に含まれている鉄も消せるし、雑菌が消せるということは、視認し識別した毒や酸をも消せるって事だと思い、GMに確認したところ、可能であるという認可も得ている。
閑話休題
シルビアはなにか不思議そうな納得行かないって顔をして、すり鉢を受け取って薬草を擂り始める。 籠手に魔力循環を行う訓練をさせておいたのが功を奏したのか、すり鉢に魔力を通すのは私より上手く問題なくやっている。
さて、その間に栄養剤瓶を作っておこう。 幸い幌馬車の荷台と御者台の間は布で仕切りがされているので、開けられない限り見られることはないので、ちゃっちゃと作ってしまおう。
魔方陣を用意して昨日作った瓶を取り出して、蓋は昨日の鉄と中敷はビニールなんて無いので木をシート状にして蓋の内部に敷いて、コルクのような感じを狙ってみる。
では錬成。 まぁ、日ごろ愛用していた栄養ドリンクなので、なじみのある瓶は簡単に作れたが、これを錬金術なしで製造するとなると中々に労力が必要になりそうだ。
まぁ、そんなこんなは全部ロンダさんに丸投げしてみよう。
仕切り布を横にずらして、御者台に顔を出して話しかける。
「ロンダさん、ちょっといいですか?」
「はい、なんでしょう?」
「こんな感じの瓶を作れないか、ちょっと考えてもらえないかと思ってるんですが」
そう言って作った栄養ドリンク瓶をロンダさんに手渡すと、ロンダさんは繁々と観察してしきりに頷いたりしていた。
「なるほど、瓶の蓋のように被せて縛るのではなく、ガラスを加工して螺旋のおうとつを作って、それの対になるように鉄を加工して蓋にしているのですか、ガラスと接触する部分には木材で覆ってる。 素晴らしい技術ですね、もしかして、これもエイジア様が作られたのですか?」
「実家に合ったものなのですが、火、土、水の3属性魔法が使えれば簡単に作れるそうですよ」
咄嗟に嘘を付いてしまったが、あながち間違っては居ないはず、火魔法でガラスを溶かして、土魔法で形状を変化させて、火魔法と水魔法で温度と湿度を調節してやれば作れそうだし。 たぶん……
「まぁ、魔法を使わなくても何とかなるとは思いますけどね、ガラス瓶を鑢で削って溝を作って蓋は型に嵌めて作ればなんとかなりそうですよね」
「なるほど、王都に戻ったら鍛冶屋に相談してみましょう」
「それは差し上げますので、ご一考ください」
そして、仕切りを戻して座りなおすと、横でシルビアが白目を向いて気絶していた。魔力枯渇で飛んだようだった。
お読みいただき、ありがとうございます。
遅くなってすみませんでした。




