対人戦闘 (残酷描写あり)
こんばんはシルビアです。
今日も研究所巡りをしてからお散歩でした。 お散歩の最中にエイジア様に魔法の話しをしたら、考えてくれるというお返事をいただきました!
私にも魔法を使うときがきたのです。 この魔法で敵をばったばったと倒して、近づくものみな拳でねじ伏せるのです! あれ、魔法だと拳じゃないのかな? まぁ、いいのです、敵は撃つべしって言ってましたし。
でも、夕飯の後からずっとその魔法のことで作業をするとかで、ぜんぜんかまってくれなくなってしまいました……
集中したいからって話しかけるのもダメって言われてしまって、しょんぼりです。
いつものように早朝トレーニングのためテレポートで移動している。この辺は人気が無いので魔法手甲の実験をしてみよう。
「よし、とりあえずこれなんだが、ちょっと装備してみてくれ」
「はいっ、ってこれっていつもの手甲ですよね?」
不思議そうな顔でいつもの手甲を装備してシャドーをしている。 まぁ見た目では今のところ変わらないのでそんなもんなんだが……
「よし、それじゃ魔力循環をして手甲を意識してみてくれ、発動名は「ウェイブ」だ」
「はい、やってみます!」
半身構えになって軽く腰を落とした姿勢で集中をしている。 さすがにランク上の人から教えてもらっただけあって、結構サマになった構えをしている。
まだ武器などの装備にまで魔力循環の通し方をさせてなかったため、ちょっと苦戦していたようだが、ようやく魔力が手甲にも流せるようになったようで、手甲がシルビアの属性色である赤を帯びてきた。
「よし! 拳を突き出して唱えるんだ!」
「はい! 届け、私の拳!「ウェイブぱんち!」」
……そして、4回目にしてようやく発動して空気を拳で打ち抜いて、衝撃波が草原を走っていった。
「よし、よくやった。 次は手甲に魔法力が溜まったら今の衝撃波をイメージして集中してから打てば発動しやすくなるので、要特訓だ!」
「はい! おやっさん!」
そして、シャドーの中にウェイブを組み込んで鍛錬が始まるが、さすがに魔力循環をしたままで走って殴ってウェイブと集中を行えば当然MPが無くなる。 もちろん発動を失敗してもMPは減るので、10分も走らないうちにMPが無くなって前のめりにぶっ倒れた。
「よし、一旦休憩だ。 そのまま寝転がって聞いてくれ。 魔法は発動させなければMPは減らないが、発動したら発動失敗をしてもMPが減る。 魔力循環は発動までの速度や強度を高めるために魔法使いが一般的に戦闘時に取る行動だが、激しい運動をしながらするものじゃないので、当然走りながらとか複雑な動作をしながらすると循環中のMPが霧散して体外へ漏れてしまうことがある。 だが、それで良い、最初から全てができるわけじゃないので、そのまま鍛錬を続ける。 強くなれ!」
「はい! おやっさん!」
寝転がったまま肩で息をしているレベルだが、シルビアの目は静かに燃えていた。 新しい戦い方を身につけて強くなるという意思が込められているようだった。
そしてそれからも特訓は続いた。 10分走って30分休んでというなんとも言えない特訓方法だが、地味に成果は出ているようで、最初のように魔力枯渇でぶっ倒れるようなことになる前に休むようになり、走っている時間が徐々にではあるが伸びてきている。
結局シルビアの熱意により朝5時から始めたトレーニングがお昼前まで続けられ、空腹に負けたところで午前の特訓を終了した。 食事とお昼寝タイムを挟んでから、午後のトレーニングを行い夕暮れ時まで走って終了したが、最後には15分ほど走っていられるようになっていた。
そして異変は次の日の午前トレーニングで起きた。 昨日の失敗を生かして簡単に食べられるサンドイッチなどを持って来て朝食代わりに食べて、さて走り始めるかと思ったところでようやく気がついた。 何人かに囲まれていることに。
周りは1mぐらいの背の高い草原になっていて、周囲が見渡しづらくなっている。
今立っている場所は街道なので、馬車が行き来できるギリギリ幅ぐらい5mあるか無いかの砂利を含んだ轍の残る普通の道で、道の端は比較的に草の背丈は短いが4、5m先は屈まれたら見通せるか微妙だろう。
私の気配感知では魔物なのか人間なのかもわからないが、3体は居るのがなんとなく分かる。 横を見るとシルビアが回りを見ながら鼻を鳴らしている。
「エイジア様、街道の向こうの茂みに2人と後ろの茂みに1人居るみたいです」
「人って事は人間か? 逃げる準備をしておいてくれ」
さすがは獣人の嗅覚といったところか、私の気配感知では生物だと解っても人間かどうかまでは分からない。 しかし、魔獣能力は取ってないのに素ででここまで分かるのは凄い話だ。もし魔獣能力の嗅覚を取ったらどれだけ探知能力があがるのか楽しみだ。
この魔獣能力は四足の獣・翼有る獣・水棲の獣・鱗の獣・知性有る虫・不死者・魔族が習得することができる。 そして、それぞれの種に纏わる能力が用意されており、ビースト族は五感や身体などを強化するものが特徴だ。それとは別に共通能力が用意されているが種族特徴を無視した物もあるがコストさえ払えば取ることができる。
例えば四足の獣であるシルビアが飛行能力を取得することもできる。 まぁ何で飛べるかはキャラクターへの設定次第だが、飛行能力を手に入れたあとで、能力を使用するときは翼が生えるとか無理な設定を盛り込んでも良いのだが、飛行にしか使えないという縛りが付いてくる。
話を戻そう。
下卑た笑いを浮かべながら30代ぐらいの小汚いオッサンが草むらから出てきて、私達の前後の街道を塞ぐ、腰にはナイフやショートソードを下げているが、こっちが子供だと分かったせいなのか、組し易いと思って無手で出てきた。
「よう、お嬢ちゃんたち、こんな辺鄙なところでなにやってるんだい? オジサンたちが安全なところまで送っていってやるよ」
「げへへ、まぁ、いつお家に帰れるかはわからないがなっ」
「おっと、逃げるんじゃないぜ、痛い思いはしたくないだろう?」
誰何するまでもなく、明らかに盗賊だった。 身ぐるみ剥いで奴隷商に売られるパターンだと思うが、オッサンまでとの距離はざっとだが6mぐらいある。とりあえず逃げる前に人物鑑定をする余裕ぐらいはありそうだったので、早速スキルを使ってみてみる。
種族 人間
性別 男
レベル 22
ジョブ 盗賊
年齢 35
属性 土
HP 182
MP 66
最初に話しかけてきた奴はレベルが22の割にはHP・MPを見る限り強くはない、そしてその他2人も似たり寄ったりの数値だった。
だが、仮に私が不意打ちで1人倒したとしても、シルビアが1人をけん制している間に、もう1人に割り込まれたら終了だし、テレポートを併用して戦えば勝機は出るが、そこまでして人殺しをしたいわけではない、出来るのであれば戦闘不能にして衛兵にでも引渡して終わらせたい。 まぁ、盗賊なので行き着く先は犯罪奴隷で死ぬよりキツイ事になるか、問答無用の死刑かなので実質手を下していないとはいえ殺しているのと変わりは無い。
こんな盗賊を生かしておけば、逃げられない人は殺されるか何かしら酷い状況になるのは解っているのだが、だからといってモンスターのように殺すには抵抗がある。
甘いか、いずれこの世界で冒険者として生きていけば人を殺すことも出てくると思う。
遅いか早いかの違いだとは解っているのだが、今はまだ逃げるという選択肢があるから迷いが生まれる。
そんなことで迷っている間に、へらへらと笑いながらオッサンが近づいて来ている。 不意打ちするにしてももう手遅れだ、逃げるしかない。
そう思って護符でテレポートを発動させようとして、後ろに居るシルビアの手を掴もうと手を伸ばしたのだが、一瞬早くシルビアが動いた。
敵に気を取られて気づくのが遅かった。しゃべらないで大人しいと思ったのは間違いで、後ろで魔力循環と集中を終えて、すでに拳を振りぬいていた。
「ふっとべっ、ウエイブぱんち!」
シルビアの雄叫びのような裂帛の気合と共に、不可視の衝撃波が空気を割って、前方2人の内の後ろに居た男の胴体に突き刺さり、後方へと弾き飛ばす。
やってしまったのはどうにもならない、取り急ぎ魔力循環を行い魔力を活性化させる。
対象は目の前のオッサン、後ろの男が吹っ飛んだ際に上げた汚い呻きに気を取られて後ろを向いている。
殺らなければ殺られる、それがこの世界の常識だ。
敵のHPは182、MPを見る限り魔法防御はそこまで無いから、MP200をつぎ込んで貫通効果を載せて凝縮、分割を入れて放つ、発動補助の短剣を抜いている余裕がないので、APを使って発動補助を行う。
「螺旋魔力弾!」
頭部に1、胸部に2、腹部に1の4点ショットを発動させる。
しかし、折角の無詠唱なのに思わず魔法名を唱えてしまったのが仇となった。
私の声に反応して目の前の盗賊がこっちを振り向く際に、横へ一歩分ずれて頭部と腹部への一撃が回避されてしまった。 当然ダメージは半減してしまい殺しきれなかったが、HPの9割以上を一気に無くしたため風穴の開いた胸を押さえてうずくまる。
「ぐはっ、げぇ、げはっ、くひょぉ、ま、まほ…うつかい、げはっ、か……」
肺に穴が開いたのだろう血反吐を吐きながら、苦痛に歪んだ顔でこっちをにらんで来る。
「あ、兄貴ぃ、てめぇ、やりやがったな!」
後ろに居る男がそう叫んでこっちへ走ってくる音がする、が、後方へ振り向く気は無い、何故ならば初撃を打ったシルビアはすでに、魔力循環で溜めた魔力を手甲からほとばしらせながら、後方へ向けて構えていたからだ。
シルビアは半眼になり、いつもの半身構えを取って呼吸を整えている。あれは気孔術の武息術だろう、次の行動の成功率を上昇させる呼吸法のスキルだ。
そして、静かに一歩前に出て、駆け寄ってきた男に攻撃をしかようとしていた。
いつの間にかカウンターを覚えていたようだ、トト達に鍛えられていたのは見ていたが実践で使えるまでになっているとは驚きだ。 APを使って回避率を上げて回避してカウンターを狙ったのだろう……って、あれ、プレイヤーキャラじゃないのにAPって使えるのか? というか、APなんてあるんだろうか?
疑問が頭を巡り、信じて振り向かなかったのだが、気になって余所見と解っていながらチラ見してしまう。
左手の手甲を前に構えて突っ込み、敵の突き出してくるナイフを受けようとしていた。 武息術は回避のための補助だと思ったのだが、よく考えれば武息術で上昇しても回避率はかなり厳しい、シルビアも自身のことだからそのことは分かっていたのか、食らう前提でのカウンターを行っていたのだ。そして、手甲を滑らせて左腕にナイフが刺さってしまうが、苦痛に顔をゆがめながらも、そのまま右拳を裂帛の気合と共に振りぬく。
「食らえ! ウエイブぱんち!」
ゲーム上では、カウンターを放つときは敵の攻撃を見てから、回避カウンターか防御カウンターかを宣言しなくてはならない、回避カウンターは回避できなければ発生しない、防御カウンターは耐え切らないと発生しない。 回避に失敗したから防御カウンターに切り替えるということはできない。
故に、回避を諦めて防御カウンターを選んだのだろう。
格闘技の拳弾で敵の胴を殴り、そのまま魔法を発動させた。 そう、この攻撃は魔法剣と同じ原理の攻撃だがこんな方法を教えた覚えはない、自力で考えたならかなりの戦闘センスだ。
打ち込んだ拳からウェイブが運良く発動して衝撃波を打ち込み、男を数メートル後方に吹き飛ばす。 だが、さすがに1撃でしとめられるほどには、まだ拳の威力も魔法の威力も弱かったため、後方に飛ばされて転倒しているがまだまだといった様子で、腹を押さえて立ち上がってくる。
「このクソガキがぁ、切り刻んで殺してやる! 」
「無理です。私が殴り倒します!」
シルビアの怪我は気になるがヤル気のようなので後ろは任せて、前の2人をどうにかしよう。
一番初めにシルビアが魔法で弾き飛ばした奴が起き上がって、ショートソードを抜いて走り込んでくる。 先ほどの胸を打ち抜いた男は瀕死なので、起き上がることも出来ずにのた打ち回っている。
人殺しがどうとか言っている場合ではない、それにこの傷ではどの道死ぬのが分かっているレベルだ。 楽にしてやるとかは思ってないが、万が一にも死んでやる気は無いので発動補助の掛かった剣を抜いて、倒れてもがいている奴にウェイブを発動させて止めを刺す。 ウエイブで地面に縫い付けられるように衝撃波を叩き付けられて、ぶちゃっと言う音と共に胸から血が吹き上がり男は動かなくなった。
さすがに後方へと吹き飛ばされたとはいえ、止めを刺している間に目の前にまで来ている。
「このヤロウ、よくもグレイをヤりやがったなっ!」
男は走ってきた勢いのままショートソードを振り下ろそうとしているが、そんなもの食らったら即死してしまえる勢いだ。 なにせ私のHPは絶賛成長途中の38点しかない、鎧と肉体防御入れても50にすら届かないのだ。
APを使って回避率を引き上げる。とにかくこの一撃をしのがないと後が無い。
「当たってたまるか、こんなところで死ぬわけにはいかないんだ!」
APをつぎ込んだ瞬間、振り下ろされるショートソードがスローモーションのように見えて軌道が分かる。さすがにAPごり押しで回避率を100%に引き上げただけある。
剣の軌道から体を逸らして手に持ったナイフで攻撃をしかける。つまりはカウンターだ!
運良く突き出したナイフが相手のわき腹を抉るが、所詮は魔法使いの一撃でスキルも何もないタダの通常攻撃じゃダメージもほとんど出ておらず、鎧で威力がそがれてわずかに皮膚に傷を付けただけにとどまった。
「くっ、ガキが生意気に避けやがったか、だがお前のナイフの腕じゃ俺は殺せないぜ!」
10才にも満たない子供が自分の一撃を避けたことに驚いたのか、カウンターを仕掛けてきたことに驚いたのか、男は虚勢を張るが警戒して一歩後ろに下がった。
そして、十分な時間稼ぎには成ったようだ。 右手に十分な魔力がたまったので、強くイメージして魔力を具現化する。
「鎖の剣発現! 切り裂け鋸刃!」
残りのMPで作りだせるのは頑張っても1ターン程度、この一撃で終わらなければ奥の手(貯めてたMR結晶)を使わなくては成らない、出来れば使いたくは無いのだが、結晶を消費するにもポーションを使うのと同等程度の時間は必要になるので、この場でそんな隙は致命的なものに成りかねない。
そして、作り出したチェーンソーで横なぎに攻撃をすると、男はその刃を自分のショートソードでガードした。戦技のソードガードだろう狙いは良かったのだが、聖戦技のソードガードでなければこの攻撃は防御できない、この攻撃は武器攻撃に見えて魔法攻撃だ。
「な、バカな、武器が……ぐふっ」
魔法防御力の有る物、もしくは魔法剣でなければ意味が無い、一瞬の抵抗があった後に角材を削り切るようにショートソードを切断して腕と胴を真一文字に薙いだ。
込められたMPが少なかったために、真っ二つにはならなかったが腕と胸の部分をざっくりと切り裂き血が噴出す。 回避行動なんて取れないのでその血を浴びながら、MP切れで脱力して膝を着いてしまいチェーンソーが霧散した。
男はまだ生きてい居るが、利き腕と胸が骨まで達する傷とこの出血では立ち上がれないだろう。 それでも私は、自分とシルビアが生きていくために、手に持っていたナイフを振り下ろした。
男が動かなくなるのを確認して、後ろを振り向くとシルビアも決着がついていた。
左腕と肩に刺し傷があるが、勝どきを上げるかのように右拳を高々と天に突き上げて遠吠えをしていた。
「あおーーーーん!」
そして、足元には顔面がぱんぱんに腫れた男がうめき声を上げて転がっていた。
お読みいただきありがとうございます。
遅くなってすみません。
しばらくは週末前後に休みになるので、その辺りで更新になります。




