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ダンジョン


「さてと、もうコインは作らなくても良いんだけど、2,3日は営業するって言っちゃったから作っておくかな……あっても困らないしね」


 宿に戻り夕飯を食べて部屋に帰ってきたのだが、寝るにはまだ早いのでコインの製造をしておくことにする。


「ってそういえば、ステータス確認してないや……」


 ステータスを呼び出して確認すると一気に3Lv上がって10Lvに成っていた。そしてまた魔導学にスキルが1個足されている。あとは10Lvになったことによって、ジョブのどちらかを上級職へ変換できるようになっていた。ただ前提条件が足りていないために成りたい上級職が表示されていないので、一旦保留してレベルアップ作業に移る。


 いつも通り知能と神気に割り振りをしてから、上級職への前提条件を満たすスキルを取っていく。

 細工5Lv 鍛冶5Lv 彫金5Lv 魔方陣知識5Lv にレベルアップさせたところで、前提条件を満たしたのか上位職表示に錬金術師がでたので、付与術師を錬金術師にクラスチェンジする。


 上級職になった瞬間、恩恵によってステータスが上昇する。

 体の細胞が沸き立つような感触があり、そして血液が沸騰するかのような高揚感が徐々に収まり、一段高まった自身の性能に軽く身震いがでる。


「よし、これで錬金術が効率化するはず、また色々作れるぞぉ」


 この世界の術系統は重複習得することによって消費コストを軽減することができるのだ。

 例えば初期作成でジョブを神官・神官と2重にすると所持系統が神聖魔法・神聖魔法となり神聖魔法2Lvになる。

 特典としては神聖魔法の魔法を習得するときに消費SPが-1され、神聖魔法の消費MPが全て半分になるのだ。 もちろんジョブとして所持系統を2Lvにしなくても、系統取得で2Lv分のSPを支払えば同様のことはできるのだが、上級職の系統はSPを支払っても習得できないので、ジョブを両方とも同じ上級職にする必要があるのだが、私の場合は背景設定ですでに上級職を持っていたのでこれで2Lv目となるのだ。


「よし、前提も取ったし、残りSPで奇跡系統と病魔克服を取るかな、呪符として需要高いから結構売れたんだけど、今の世の中ならもっと売れるんじゃないかな……」


[ヘイルス SP1 MP4 病魔に蝕まれても1日で対抗の効果をあらわします。]


 コストの割りに恐ろしい効果なんだがゲーム時代は神官なら誰でも唱えられた。ギルドの書庫を見る限り奇跡系統は失われていて、残っているのかはわからないけど疫病にまで効果を及ぼすので取れるなら取っておきたい魔法の一つだ。 


 奇跡系統はぶっちゃけた話し戦闘時の魔法系統じゃない、事前に唱えておいて効果のあるものが多く、下手したら何に使うのか分からない魔法も多々あるほどだ。

 残念なほど効果の無い魔法か、驚くほど高性能の魔法かの2択というのがこの奇跡魔法だ。


 そしてこのゲームの中で3つしかない「復活」効果のある魔法系統でもある。奇跡の究極魔法は死者蘇生の魔法だ。といっても死後1時間以上経ってるとどの魔法でも復活はできないのだが、それでも現実世界となった今では価値は計り知れないものだろう。


「現実となった今使う気にはならないんだけどね、死は平等に訪れるものだし……まぁ身内が死んだら唱えちゃうかもだけどね」


 私は苦笑しつつ今はまだ取る事も出来ない魔法よりは、手短な魔法をと初歩魔法を取ってステータスを閉じた。




「さてと、コインも作ったし銭湯行って寝よう。明日にはシルビアも帰ってくるだろうし、色々忙しくなるなー」


 ジョブ特典の上級変換能力を手に入れて格段に効率が上がったので、1時間と経たずに残った材料の分をコイン化することが出来た。

 とは言うものの魔核の在庫が尽きて、数種類を10枚程度しか作ることができなかったのだが新しい能力のテストとしては十分だった。




「ん、んーーー、良く寝た。なんか疲れが吹っ飛んだようだ……って、寝過ごした……もうかなり日が高い」


 鎧戸の隙間から挿す日がえらく高く、すでにお昼近くになっている。久々にみごとな寝坊だった。


 井戸で顔を洗ってお昼間の食堂で朝食を食べていると、サマンサさんが笑いながらお茶を注いでくれる。


「いつもは早起きなのに今日は遅いんだね。夕べは疲れた顔してたからぐっすり寝れたようだね」

「ええ、昨日はごたごたしてて疲れが出たんでしょう。まぁ、今日は狩りに行く予定じゃなかったので良いんですけどね。それと今日から1人仲間が増えるんで2人部屋に変更お願いします」

「おや、仲間ができたのかい、それはよかったじゃないか、がんばんなよっ」




 遅めの朝食を終えてとりあえず露店をしに南門の方へ移動する。いつも通り裏路地経由で果物屋の横に陣取り店開きだ。


「おはよう……おそようございます。今日も宜しくお願いします」

「ははは、今日は遅かったんだな、何人かお客が来てお前さんのことを聞いてたぞ、今日はやってないのかってな」

「そうなんですか、悪いことしちゃったな……気を取り直して、がんばりますかー」


 しばらくして妙に冒険者が少ないことに気づく、あとはなんか妙にざわついている。いつもの賑わいとは別の雰囲気が回りに漂っている。


「オヤジさん、なんかあったんですか? なんか市の雰囲気がいつもと違いますけど」

「あ? ああ。いつもお前さんが来る時間頃にな5人ぐらいの冒険者が傷だらけで帰ってきたんだが、ダンジョンの2階だか3階だかで隠し扉が見つかったらしいんだ。でそこを開けたらキラーアントの巣に繋がってて命からがら逃げてきたって話しさ、よりにも寄ってこんな時にな……」

「こんな時とは? 何かあるんですか?」

「ん? 知らないのか? 今朝方冒険者ギルドと魔術師ギルドの招集があって、北の森にゴブリン討伐に精鋭がかりだされてるんで、ダンジョンの対応が遅れそうだって話しだ、今ダンジョンに入ってるやつには避難指示が出ているらしい。残った冒険者がダンジョンのテント村で町にキラーアントが流れないようにバリケードを作ってるって話だが、奥まで入ってる奴らはまずいかもしれないな。さっきから避難者が町に来てるけど状況はよくないらしいぜ」


 今の話を聞いて頭が混乱して呆然となる。私が昨日ギルドでゴブリンの話しをしたせいでダンジョンの危機に対応できてないらしい。しかし、そんなことよりもシルビアのことが心配で居ても立ってもいられない。テーブルクロスでコインを一纏めにしてストレージに放り込み、奴隷商の館へ走り出す。


「お、おい、どうしたんだー………ダンジョンに誰か大切な人でも居たのかな……」


 後ろから果物屋のオヤジの叫びが聞こえたが、それどこどろじゃなく走り商館へと飛び込む。


「シルビアは戻ってますか!」


 顔なじみになったアルルに掴みかからんばかりに詰め寄り、シルビアの安否を確認する。


「い、いや、まだもどってないが、あんたは一体誰だい?」


 アルルは驚きながらもシルビアが今だ戻らないことを告げるが、私が誰だかわからないようで困惑気味に問い返す。


「すみません。今はそれどころじゃないんで、失礼します」


 再度南門へ向けて走り出す。とりあえずダンジョンへ向かわなくてはならない、大人でも徒歩3時間ぐらいかかる距離、私の足では倍はかかってしまうので馬か馬車を調達しなくてはならない。いつもの市の所に馬を扱ってるところがあったのを思い出し馬屋へと走る。




 なんとか馬を手に入れてダンジョンのテント村へとたどり着いた。門を出るときに偽装を解除しなくてはならなかったので今は子供の姿だ。それと馬を乗りこなす為に残っていたSPで乗馬スキルを習得して馬に回復魔法を掛けながら全力で走ってきた。


 テント村というよりは集落に近い状態だが、奥のほうに人だかりと建物を壊してその石材や木材を運んでいく冒険者達が見える。

 人だかりのところへ行くと材木を集めて柵のような簡易のバリケードを作っている。そしてその先には異様な漆黒の扉が見える。


 両開きの扉は内側に向けて開いた状態で、高さ5m横に3mぐらいの大きさで、何の材質で作られているのかわからないが漆黒の大理石と表現したら近いだろうか。扉の奥は炭鉱のようなむき出しの岩肌が続く通路になっていて奥へと道が続いている。しかし、扉は広場にぽつんと立っているので、後ろにそんな坑道があるような岩山は存在していない。ただ扉がそこに立っているのだ。


 その扉を囲むように柵が出来上がっていて、中に10人ほどの冒険者が武器を扉に向かって構えている。

 大盾を持ったのが4人、槍が4人、剣が2人、そして柵の上に高台を作ってそこから弓を射っているのが2人。


「よし、次のキラーアントを倒したら交代するぞ!次の奴らは用意しておけよ!」

「「「「おう!」」」」


 どうやら出てくるモンスターを交代で倒しつつバリケードを突破させないようにしているようだ。そして柵の中央に高台がありその上で40ぐらいの厳ついオッサンが大声で冒険者に指示を出している。


 柵のすぐ横には仮設テントがあり、神官服の人達がそこでけが人の治療を行っているようだ。とりあえずそこでシルビアについて聞いてみよう。


「すみません。知人がダンジョンから戻ってないんですが、どこで話しを聞いたら分かりますか?」

「それでしたら、そこのテントで対策会議をしているはずですが、そこにダンジョンに入った人の名簿があるはずですよ。出てきた人の確認をしているはずですから」

「すみません。治療中なのに、ありがとうございます」

「いいんですよ、心配なのも分かりますが、落ち着いてくださいね」


 30台ぐらいの細身の神官は治癒魔法を使い続けて疲労しているだろうに、邪魔をした私を励ますように笑いかけてくれる。

 神官に手持ちの回復護符を渡して使い方を説明する。


「ハイ・エード程度ですが、それで治癒できる人に使ってください。ありがとうございます」

「すみません助かります。お気をつけて」


 神官と別れ会議をしていると言うテントに向かう。

 テントはいわゆる屋形テントと言うやつで、骨組みに上だけ天幕が付いているタイプで、中央に机を置いて4人の男女が話し合いをしている。そのうちの2人に見覚えがあるウィルキンとメルルだった。


「すみません、人を探しているのですが、ここにダンジョンに出入りした人の名簿があると聞いてきたのですが」

「それだったら、あっちの男に言って調べて貰って」


 会議をしていたうちの1人、50才ぐらいの初老の女性が、天幕の横に机を置いてそこで書類を確認してる男を指差す。 メルルやウィルキンもこっちをチラと見たが会議中なので目で挨拶するのみで声を掛けてこなかった。


「すみません。人を探しているのですが、3日前にダンジョンに入ったパーティーにシルビアって言うポーターが付いて行ってるはずなんです。今日戻る予定だったのですが、出てきていますか?」

「えーっと、そうだね……いや、まだ出てきていないようだね。だけどCランクのパーティーと一緒に入ってるようだからたぶんだが大丈夫だと思う。気を落とすなよ」


 男は名簿を確認すると残念そうな顔をして、気休めだと解っていても励ましをくれる。

 その時先ほどの指示を出していたオッサンの大声が聞こえる。


「救助者だ! 救護班入れ! 剣班は救護班を護衛、盾班は救助者がでたらトレインを足止めろ! 待機剣班は救護班が離脱と同時に入って援護しろ、護衛の剣班は救護班と一緒に離脱だ!」

「「「「おう!」」」」


 ダンジョンから冒険者が戻ったようで周りが慌しくなり、名簿を確認していた男も急いで柵の方へ走っていくので私も付いていく。


 柵の中は冒険者達の見事な連携で、4人の避難者が柵の外へ誘導されていき、トレインしてたキラーアント4匹が次々に駆除されていく。


 そして、傷だらけになった4人の冒険者が治療テントに運び込まれていく、4人は血まみれで腕が無い者や足が無い者も居る。止血をしていないところを見ると、逃げてくる間に食われたのだろう。無傷の男が背負っていた仲間を降ろして泣き叫ぶ仲間を励ましている。

 神官たちが大急ぎで回復魔法を掛けているが欠損部位が元に戻っていない。欠損を直せる人が居ないのか、それとも消耗を控えるために止血と生命維持が出来るところまでしか回復していないのかは分からないが、とりあえず一命は取り留めたようだ。


「大変だったところすまないが、パーティー名と個人の名前、状況を分かる範囲で構わないから説明してくれ」


 名簿を持っていた男が、避難者の無傷だった男と話しをしている。


「ランクCの草原の暁だ。戻ってこれたのはアギル、ナルシア、ドロア、俺エディの4名だ、後の2人、ロノアと荷物持ち奴隷は途中ではぐれちまった。1階フロアの途中で横から来たアースモールとそれを追っていたキラーアントの群れに阻まれてはぐれちまったんだ。あいつらは通り抜けられないと思ったみたいですぐに反対方向へ走って行った。俺達は助けようとしてキラーアントとその場で戦ったんだが、3人が怪我をしちまって逃げてきたんだ」

「そうですか、はぐれたのはロノアさんとシルビアさんで間違いないですね?」

「あ、ああ、たしかシルビアって名前だったはずだ、俺は助けに戻るんでこいつらのこと頼む」


 そう言って男はよろよろと立ち上がり剣を持って、ダンジョンへ行こうとしている。


 私はその話しを聞いて混乱していた。

 私が1人でダンジョンに入ってシルビアを助けられるだろうか、いや、シルビアが助けを求めてるんだから急いでいかないと、でも、ダンジョン内の視界の利かないところで私が戦えるだろうか……そう迷っていると、そのボロボロに成っている男が、仲間を助けにもう一度ダンジョンに戻ると言って立ち上がった。

 ただ立ち上がるだけでもふらついているのに、仲間が3人も手足を食われて重症になっているのに、もう一度ダンジョンに戻ろうとしている。


 私は臆病者だ。ゲームが現実になって不利な設定をしたことを悔やんでいた。自分が死ぬかもしれないと不安になっていた。そんな時に銀に似た女の子を見つけて奴隷と言う立場を利用して自分の不安をごまかそうとしていた。あまつさえ仲間が出来たと都合の良い解釈をして仲間を金で買うということに目を背けていた。そんな仲間を助けに行くと言うことすら、見ず知らずの冒険者に遅れを取った……なんてクズなんだろう、現実の俺はこんなに卑しくて臆病者だったのか……こんな惨めな人間だったのだろうか……


 そんな自分が悔しくて涙がでてきた、俺はこんなにかっこ悪い人間だったのだろうか、自分に対して怒りが湧く、こんな醜い人間で居たくない、大切な人を守りたい! シルビアの笑った顔がもう一度見たい、だから、死なせない!


 拳を強く握り締めて覚悟を決める。迷ってる場合じゃないこの瞬間にもシルビアは死にそうな目にあっている。ダンジョンの入り口と冒険者達を見てそのまま行っても入らせてくれるわけが無いと思う、狙うのは門の後方から柵を越えて前に回って一気に中に入る。

 螺旋弾は貫通して後ろに当たる危険があるので、使えるのは鎖刃刀チェーンソーだけだろう。それか接触して上から頭部に向けて螺旋を使うかだ。噛まれる前に頭部を破壊しなければ確実に死ぬだろう。


「よし、行こう。シルビアが待ってる」


 隠密を使って扉の後ろに回りこんだ。所詮1Lvだから前に回り込めば確実に見つかるだろう、後は全力で走るだけだ。 1階ではぐれたと言っていたから左手の法則を使って端から探すしかない、首から残りのコインを全部掛けて準備はできた。

 そして、前に回りこむ。


 偶然が味方したのか、さっきの男がダンジョンに入る為柵を乗り越えようとしてそれを抑えるのに回りの視線がそっちに集中していた。そして気づかれることなく中に入ることができた。


 中は薄暗かったが魔族なので暗視がある問題なく進めそうだ。索敵コインを使って30m範囲を検索するが敵が多すぎる。ざっと見ただけで20は敵が居るほとんどが3、4匹で動いているのか、そこらじゅうに移動している集団が居る。


 気休めだが強化と防御のコインを使って身体強化を掛ける。鎖刃刀を2本作り出して長さを5mぐらいまで拡張して、鞭というか触手のように動かすイメージで両手から伸ばす。


 早歩きぐらいの速度でダンジョンを進む、まずは10m先に居る3匹の敵からだ。キラーアントにこの魔法が通用するのか試さなくてはならない、無理ならば何とかして逃げてサーチで接敵しないようにかいくぐってシルビアを捜索しよう。


 直線状の通路の奥で右に曲がれるようだ。サーチからしてその右の通路に3匹居るようで、こっちに向かって移動している。

 丁度良いので螺旋弾と円月輪弾を試させてもらおう、ここなら射線状にほかの冒険者が出てくることも無いだろう。螺旋弾2発、円月輪2発を作り待機させて足元の石を通路の奥へ蹴る。


 ギギ、ギギギィという、金属が擦れるような音を立てながらキラーアントが角を曲がってくる。体長は2mぐらいでテラテラと黒く艶光る甲殻、ギチギチという音が牙のような顎から聞こえる。蟻をそのまま大きくした姿だ。


 そしてこっちを見つけたのか凄い速度で向かってくる。逸る気持ちを抑えて3匹が直線通路に出るのを待って円月輪を撃つ、1匹目の足と胴を切断して2匹目に突き刺さって魔法が消える、2発目の円月輪は3匹の真上で6つに分割して降り注ぐが、どれも甲殻に傷をつけるだけでほぼダメージが無いようだ。


 続いて螺旋弾を撃ち転倒している1匹目の目の前で、4つに分割して貫通力を試すが、1匹目の甲殻を貫通して内部にダメージを通したが後方へは抜けなかった。

 2発目の螺旋弾は2匹目の頭部に当たって頭部を粉砕して、3匹目の胴体甲殻と胴体を半ばまで抉って効果が消えた。


 そして3匹ともこれだけの傷を負ってもまだ生きているのか、ギィギィと耳障りな音を立てて蠢いている。流石に立ってこっちへ向かって来れないようなので、近づいて鎖刃鞭を真上から叩きつけてみると、当たった瞬間甲殻で一瞬止まるが問題なく切断でき、真っ二つになってさすがに動きを止めた。

 胴体と腹部の継ぎ目を狙って薙ぐと抵抗無く切断できるようだ。3匹目は胴体が半ばまで抉れているがこちらを威嚇して蟻酸を吐いてきたが、防御護符の効果時間内だったので体の少し手前で弾かれて回りに飛び散る。


 鞭で継ぎ目を狙って4つに切り分けて実験終了。分割さえしなければ螺旋も輪も使える。

 そして空間が広いので魔力弾を上に待機させて打ち下ろせば、単体ずつしか倒せないが誤射せず倒せることが分かった。ならば後はいつものようにやればいいだけだ。


 敵をサーチして、近づかれないように、遠距離から倒す。


 螺旋弾を4発上空に浮かべて走り出す。サーチが切れないように注意だけしてなるべく戦闘をしないで済むように立ち回り通路を進む。

 途中やはり犠牲になったのであろう冒険者の装備品が血まみれになって転がっていたりもするが、シルビアで無いことだけを確認してとにかく進むことにする。


 そしてしばらく行ったところで、敵影が6匹固まって動かないところがある。

 食事中で動かないのか何かがあって動かないのかは分からないが行ってみよう。


 通路の角からそっと敵影があったところを見ると、壁に向かって何かをしている蟻が居る。

 6匹のうち1匹だけが甲殻が赤く腹尻の刺針が他の蟻よりも大きく出ている、体長も他の蟻よりも一回りほど大きく明らかに格が上だ。

 黒が働き蟻だとしたら赤いのは兵隊蟻だろう、その6匹が土壁を削って穴を掘ろうとしている。


 良く見ると壁の四方が一段窪んでいる。隠し部屋……というほどには隠されていないがその奥に部屋があるのだろう。そこを開けようと土壁を掘っているということは、その奥に誰かが居る可能性が高い。


 どうしよう、5匹だけなら何とかなるかもしれないけど、兵隊蟻も一緒となると無理かもしれないステータスを確認する。MPはほぼ満タンだが5匹を上手く倒せたとしてもそこで枯渇する。マテリアルの予備も無くその状態で兵隊蟻を倒すのは不可能だ。今までの戦闘で2Lv上がっているので残と合わせて18SPあるが、18SPで取れる魔法なら2発打てば倒せるだろうけど、発動難易度が高くて今のレベルじゃ発動できないAPを使っても1発が限界では話にならない。


 考えがまとまる前に敵の動きが慌しくなる穴が開いたのだろうか、なんとかして足を止めなくては……と考えたところで1つの方法を思いつく、最悪あの敵を引き連れて逃げるしかない、急いでSPを消費して1つの魔法を取る。そしてAPを使って発動難易度を下げて魔法を詠唱する。


 魔導学によって持続範囲化したチェインを発動させる。自分を中心に半径200mの敵性生物に対して拘束、行動不能を強制する。

 持続時間は30秒が限界だが一度拘束に成功すれば5分は行動不能にできる。 1ターン毎に抵抗判定ができるが、持続効果があるので抵抗に成功しても次のターンにはもう一度魔法が発動する。


 範囲化発動と同時にチェインが蟻達に絡みつくが、案の定赤の兵隊蟻は束縛を振り切ってこっちに突っ込んでくる。


「やっぱり厳しいか、押し返して時間を稼ぐしかないか」


 APを消費して精神加速を行いウェイブを連続発動、衝撃波を作り出し鎧を透過する浸透ダメージを与える魔法だが、副効果として対象を後方へ弾き飛ばすことができる。


 1つ、2つ、3つ、4つ目で加速が終わり。圧縮された4つの衝撃波が敵を扉の側から向こう側へ弾き飛ばす、その隙に扉へと走り寄りながら螺旋魔力弾を兵隊蟻に撃つがヂィンと言う甲高い音がして、甲殻に火花が散るが傷も付いていない。


「くっそ、ダメか傷も付いてないってどんだけ硬いんだよっ」


 扉へとたどり着く前にもう一度精神加速を掛けて、4枚の衝撃波を生み出して向こう側へ更に押しやる。


「開けてくれ、助けに来た!」


 扉に向かって叫ぶと、こっちの戦いを聞いていたのかすぐに扉がスライドして開く。


「早くこっちへ!」


 大盾を構えた20前後ぐらいの黒髪の女戦士が手招きする。その横をすり抜けるように中に滑り込むと女戦士は外を見回して、急いで扉を閉める。


「大丈夫だったか? 外の赤いヤツは倒せたのか?」

「いや、倒すには至ってないが扉の前からどかして置いた。あんたの名前はロノアか?」


 部屋の中を見回すと10m四方ぐらいの広さの部屋で、中には何も無くがらんとした部屋だった。そして女戦士の後ろに大きな背嚢の側に血まみれの衣服を着た女の子が横たわっていた。


「ああ、私はロノアだが、それより助けに来たって言ってたが他に誰か居ないのか、どうやってここから出るんだ!」


 助けに来たのが小さい子供と分かり、他に人が居ないのを知って冷静さを無くし強い口調で詰問してくるが、そんな女戦士の声も聞こえないとばかりに倒れている少女の側に駆け寄る。


 少女は血まみれで青白い顔色だがシルビアだった。右腕と左足が半ばから無くなっていて布できつく縛られて居るが、それでも布から滴るほどの血が出ている。

 胸がかすかに上下しているので辛うじて生きているようだが、出血が酷すぎてこのままではすぐに死に至るだろう。


「あ、あああ、し、シルビア、死ぬな!」


 傷口に手を当ててハイ・エードを全力で発動させる。MPの温存も考えず発動した魔法は即座に傷口を塞ぎ出血を止めるが、すでに失った血を戻す効果はエードには無く、急いで地上に戻りヒールかそれ以上の魔法を使わないと出血多量でショック死してしまう。


 さっきのSPでヒールかリザレクションを取っていれば即座に治療が出来たのだが、まさか怪我をしていることまでは想定していなかったので、違う魔法を取ってしまっている。

 だが、ある意味先の段階でその魔法を取っていて正解だったかもしれない、この状況でヒールかそれ相応の魔法を取っていたら治療ができても脱出が出来なくなっていただろう。


「お前、シルビアの知り合いか? しかし神官だったのか、よかったシルビアが私をかばって怪我をしてしまって、もう助からないかと思った。本当に良かった……」


 そう言ってロノアは膝を着き涙を流している。


「いえ、まだです、早く地上に戻って治療をしなくては、このままでは死んでしまいます。急いで荷物を持ってシルビアを抱きかかえてください」

「あ、ああ分かった。脱出するんだな、今度は私が命に変えて2人を地上に戻してやる!」


 そう言ってシルビアを背負いマントで体を巻きつけて縛り、荷物を諦めて盾を持って扉へ行こうとする。


「いえ、このまま脱出するんで、こっちへ来てください」


 ロノアはきょとんとした顔をしてこっちを窺っているが、説明する時間も惜しいのでロノアの手を掴み、ペンダントに残っている魔力を吸い取って詠唱を開始する。

 高位の古代魔法なので難易度が高いが戦闘外だから回りを気にせずに集中できる。 そして……


「テレポート」


 その瞬間周囲が完全なる闇に包まれ、次の瞬間地上の治療テントの前に転移を成功させる。


 突然に現れた3人に回りの冒険者達はざわついているが、構ってる余裕がないのでロノアの手を引いてテントに急いで入って行く。


「助けてください、出血多量で死に掛けてるんです。お願いします、助けてください!」





お読みいただきありがとうございます。


次回は30日に投稿いたします。

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