狩り
戦闘の描写を修正して、戦闘ルールを足しこみました。
主人公はスキル「モンスター学」を持っていないので、
話中にでてくるワイルドボアの名前や、HP/MPは本来見えません。
戦闘の描写を分かりやすくするために今回だけ表示してあります。
目が覚めるとまだ日が昇る前だった。ネトゲなど娯楽が無い為に早寝するようになったせいか明け方前なのにしっかり起きられる。
「さて、日課の体操とランニングしてご飯食べてこよう」
1階に下りるとサマンサさんがすでに掃除を始めていた。挨拶をして裏庭にでて体操をしながら今日一日の予定を考える。
昨日のようなことがあるからしばらくはソロで頑張るしかない。
MRの高い素材が手に入ったし装備を強化して充実させたほうが良さそうだ。
ランニングをしながら考え事をまとめ、今日の予定を実行するために早めに宿にもどり朝食を食べて部屋にこもって、お昼まで掛けて装備を強化した。
指貫手袋に魔方陣を融合させて、武器に魔法発動補助を入れて発動率を50%上げて、MR2結晶7個を作ったところで魔力を使い切ったので、昼食を取ってからギルドに行って、薬草採取の依頼を受けてこよう。
ギルドで薬草採取の依頼を受けて北西の草原を越えて森の手前まで来ている。ソロで戦う為に実験が必要だろうと思い、適当なモンスターを探しているのだが木立ちの向こうに結構なサイズの猪が見える。遠近感が狂ってなければ2mぐらいはあるように見えるのだが、実験には手ごろだと思うことにして観察してみる。
[ワイルドボア HP120 MP12]
魔法系統を持つものには魔力弾という基本攻撃がある。これは魔力をそのまま対象にぶつけるという魔力量頼みの強引な技だが、私の場合は魔導学があるので威力を強化することが出来る。
さて、ゲームだったときの戦闘と現実は、どれだけの差があるのか実験だ。
猪までの距離は目測で200m、木立ちで多少見えづらい、こちらは腰までの高さの草があるので屈めば見つけづらいはず。
魔法発動補助のナイフを左手で抜いておく、そして、意識を戦闘モードに切り替えて魔力活性を行い全身に魔力を循環させる。
視界の端にポップアップが出て自分のHP/MPとAPが表示されている。 ゲーム時には無かった機能だが、キャラクターシートを出したまま戦闘なんてやっていられないから嬉しい誤算だ。
APとは戦闘時に自分の行動を強化・補助する為のボーナス値で、ゲームだった時にはコレを使って戦闘を劇的に優位にせることが出来たのだが、こんな状態でもちゃんと適用されるようだ。
まずは戦闘開始で行動順位が決まるのだが、向こうは気づいていないのでこちらが先行というか、不意打ち扱いだろう。
1ターンは6秒、10ターンで1ラウンドとなっている。 ゲームであればターン制の行動順位で自分のターンが回ってくるのだが、現実になっているので相手の手番を待つなんてことをする必要は無いはずだ。
1ターン中に出来る行動は、補助行動1回と通常行動1回で1ターンになるのだが、補助行動と通常行動で6秒以内には出来ないだろうと思えるものや時間が余るからもうちょっと何か出来るのではと思えることが、ゲーム中にはあったが、現実ではどうなるのだろうか?
例えばだが、補助行動で「武器を抜いて構える」通常行動で「武器攻撃する」が1ターン中に出来る行動だが、最初から武器を抜いておいたら、6秒あるんだから2回攻撃できない? と思ったことがある。
つまりは、魔力弾は魔法使いの通常攻撃なので、1ターンに2発打てないかって実験だ。 もちろんAPを消費すればAPとMPが足りるのならば、同時に何発でも打てはするが……
ポケットから懐中時計を出しておいて時間を見る。
手のひらに魔力を集めてそれを圧縮して球体にしたところで、錬金術が使えるせいかイメージ次第で形状が自由に変わることに気がつく、思い立ったら即実行。
球体を更に圧縮して棒状にして回転を加えてねじり上げる。イメージとしては工業用の穴あけで使うドリル刃だ。形状を作り回転を加えていき高速回転し始めると特有の音が出る。
防御や回避に関してはゲームとルールは変わらないと思う。攻撃に対して
受動側は回避か防御を選択する。
回避なら能力の回避値にスキルとかを追加して、%判定で成功か失敗かを判定する。 (器用+知能)÷2が回避の基礎%
私だと34%の回避率となる、回避のスキルなんてないのでこの数値で回避するしかないのだが、AP1点で「行動成功率を10%上げる」ことができるので、6点使えば94%で回避することもできる。
防御であれば、攻撃の威力を鎧防御で減少して、次に肉体防御で減少してからHPにダメージとなる。 肉体防御力は(体力+強さ)÷4 である。
スキルや能力で防御力を上げたり、ダメージを軽減したりできるが、同じスキルや能力は基本的に重複で効果を出さない。 つまり、2人で1人に対して同じスキルや能力を使用しても、効果に累積するとなっていない限り累積しない。効果の高いほうが優先される。
敵のHPは120だから、MPも120使うそれに自分の魔力追加威力が乗っかって、魔導学で1.5倍に補強する。APを消費して命中精度を上げてから、頭部に狙いを定めて打つ。
時計をチラ見してから、もう一度魔力弾を作って打つ。今度は形状などは気にせずに通常弾、威力もMP10ほどしか込めない。
最初の1発目はギュインという風きり音を出して、目の前から消えるように放たれ、次の瞬間、魔力の光がマッドボアの頭を貫通し頭部を吹き飛ばした。
ついでにその先にあった木を2本ほど、幹の半ばまで風穴を開けてしまい木が音を立てて倒れていく。
マッドボアは体を震わせるとそのまま横倒しに倒れ、首から大量の血が吹き出している。
ちなみに、2発目の魔力弾は込めたMPが少なかったためか、形状を変えなかったせいなのか、目標まで届くことなく途中で消えてしまった。
「お、おー…… 」
なんか思ったより威力が強いけど、MPの大半をつぎ込んだんだし倒せるよね。APが有ってよかった。この距離だと頭を狙えなかっただろうし、というか、当たるかどうか分からなかったし、行動成功率上昇は偉大だ。
残ったAPを消費してMP回復を掛けながらマッドボアに近づくと、みごとに頭部が無くなって首から血が出ている。目測どおり2m越えの体長があり300kgぐらいじゃないかと思う。とりあえず死体に手を当てて練成を発動させ、皮・肉・血や骨内臓、あとは寄生虫等に分離させて、皮と肉以外をエネルギーに変換してMPを充当させる。
そして、一応魔物だったのか小さいながらも魔核があったので回収する。肉は血抜きしても持ち上がるわけも無いので、ストレージに収納して皮は丸めて背負子の籠に入れる。
「とりあえず敵が単体で、遠距離で発見できれば何とかなりそうだ。ソロでも大丈夫だろう……たぶん。実験はこの辺にして今日の分の薬草を採取して帰ろう」
夕暮れ前に採取を終えて町に戻ってギルドで報告を済ませる。昨日のパーティーと顔を合わせたくなかったので報酬を貰うと、さっさとギルドを出て町を散歩している。
ふと気がつくと、昨日の串焼き屋の前まで来ていたようだ。
そして、良い匂いに釣られてまたも10本ほど購入してしまう。
「そういえば昨日の子美味しそうに食べてたな、痩せててちょっと汚かったけど可愛い子だったし……銀、散歩連れて行ってもらえてるかな……」
実家に残してきた犬の銀を思い出してちょっとだけ寂しくなるが、後ろから聞いたことがある音がする。
「ぐきゅ、きゅるきゅるきゅる……」
振り向くとやはり昨日の子が、私の串焼きを見てよだれを垂らしていた。
串焼きを一本取り出して彼女の目の前を行ったり来たりさせてみるが、しっかりロックオンされていて視線が釘付けである。一応の躾はされているのか奪ってくるようなことはなく、次第に悲しそうな顔になって来たので、たまらずに串焼きを渡してしまう。
「ほら、食べな」
嬉しそうに噛り付いて、手についた肉脂までしっかり舐めとると、食べ終わってしまったことに今気づいたとばかりに、肩を落として寂しそうな顔をする。
「おまえ、名前はなんていうんだ?」
「シルビアです。荷物持ち奴隷です。一日2銀貨で旦那様のお荷物をお持ちします」
名前を聞くと突然に姿勢を正して自己紹介をするが、言わされてる感のあるセリフは奴隷商で覚えさせられたのだろう。
「年はいくつだ?」
「とし、は、あ、あの、分かりません。すみません。ぶたないでください」
彼女は頭を下げて震えながら謝ってくる。奴隷商でどのような扱いを受けているかが知れる。見える範囲には怪我など無いがどういう躾を受けているかと思うと胸が痛む、銀に似ているからと感情移入しすぎただろうか。
「怒ってないよ、大丈夫だから、ほら残りも食べて良いよ」
そう言って串焼きの包みを目の前に差し出すと、きょとんとした顔をしたが食べて良いのだと分かると嬉しそうに齧りだす。
嬉しそうに食べてる姿を見るとこっちも嬉しくなる。奴隷なら損得勘定なしでパーティーになれそうだし、奴隷の値段に興味がでてくる。
今の所持金じゃ到底買えないけど、方向性の一つとして値段は知っておいても損はないと思い、奴隷商の店を聞いて行ってみる事にする。
シルビアに連れて行ってもらい商館に入る。シルビアは年配の女性に声を掛けると奥へと入っていった。ついていけば良いのかと思い奥へ行こうとすると先ほどの年配の女性に呼び止められる。
「坊ちゃんはこちらへお越しください」
そして応接室のような部屋へ通された。女性はアルルと言う名でこの商館の支配人をしているそうだ。そして奴隷を買うにはいくらぐらい掛かるかとか、そういった話を聞いておいた。
通常奴隷は金貨30枚ぐらいで小間使いとして使うのが一般的だそうだ。 次に戦闘奴隷は金貨50枚以上で、後は娼奴隷は金貨50以上で戦闘奴隷が娼を兼ねる場合には値段は上がるそうだ。
ちなみにシルビアは戦闘奴隷ではあるが戦闘用のスキルをまだ覚えてないので、基礎能力が高い獣人族ではあるのだが、金貨40枚とお安くなっているのでお買い得だそうだ。
戦闘スキルを覚えた獣人族は金貨60枚を下らないらしい。
「坊ちゃん、あの子を買ってやってはくれないかい? あの子は奴隷の子だから生まれた時から奴隷だったせいでちゃんとした教育はされてないけど頭は悪くないんだよ。優しくて良い子なんだけど館主様に嫌われててね、教育も施されなかったしこのままだと飼い潰されるんだよ。戦闘スキルも無いのに迷宮での荷物持ち(ポーター)をやらされてて、何かあれば真っ先に死んじまうんだ」
奴隷商は奴隷の衣食住を保障しなくてはならない。そして、奴隷が死ねば役人から事情聴取をされ故意に死なせたとなった場合、奴隷商の資格を剥奪されるそうだ。
貸し出した先で死んだ場合には、貸し出し先での死亡なので奴隷商には被害が無いそうで、死んでも良いと迷宮でのポーターとして貸し出ししているそうだ。
「んー、今のところ買うだけの資金がありませんので、すぐにって分けには行きませんしその間に売れてしまうかもしれないでしょう?」
「売れるならそれで良いんだけど、できれば坊ちゃんのような優しい方に買われるのが奴隷には良いんだけどね。できればで良いから考えておいておくれ」
「分かりました。当面はこの町に居る予定ですし考えておきます」
商館を出て暗くなった道を歩きながら40金貨を貯める算段をしているが、ギルドランクが低くては報酬も低いのでとりあえずギルドランクを上げることを考えようと、今日の依頼報告にギルドへ向かう。
「こんばんは、今日の報告分です」
「わぁ、また沢山取ってきましたね、確認してきますね」
そう言って籠を受け取って奥のテーブルに広げて数えていく、今回は風鳴り草だけをポップさせて採取したのでかなりの数になるはずだ。当初予定では毎日20本ずつ納品して5銀貨貰う予定で居たのだが、ランクを上げるためにストレージにしまっておいた分も全部渡してしまった。
ようやく数え終わったのか、引きつった笑顔でカウンターにもどってくる。
「えっと、今回の依頼分の20本と別に148本ありましたので、5+29銀貨と6銅貨になります。あと、今回ので10回分の依頼達成となりますので、Eランクへの昇格試験が受けられます。こちらは何時でも受けられますがどうしますか?」
「それじゃ明日の講習会が終わってからでお願いします」
「分かりました。その様に予定を組んでおきます。お疲れ様でした」
「あ、あと、この猪の毛皮って買取できますか?」
そう言って丸めておいた毛皮を渡すと、査定してきますと言って受け取って事務室へ持っていく。
しばらくして、まだ引きつった笑顔のまま戻ってくる。
「金額は大銀貨3枚ですが買い取りでよろしいですか? あと、ワイルドボアのようでしたが、体というか、肉と魔核はどうされました?」
「あー、肉は重いんで宿に置いてありますが、肉屋にでも持っていくか宿の調理場に渡そうと思ってたんですが、買い取り価格っておいくらぐらいなんですか?」
「えっと、とりあえずまた応接室で話をしましょうか、ここでカウンターを塞いでいると業務に支障がでますので……」
そう言って応接室に行ってしまう。しかたがなく付いて行くが昨日のことを考えるとそのまま帰りたいのだが、毛皮を渡したままなので帰るに帰れない。
応接室に入ると紅茶のような香りのお茶を入れてくれて話を促されるのだが、なぜかお茶が3つ出ている。嫌な予感がさらに高まり毛皮を諦めて扉へ急ぐが目の前で扉が開き、暑苦しい肉に包まれる。
「あぁら、大胆な歓迎ね。会ったとたんに胸に飛び込んでくるだなんて」
抵抗も空しくハグされ、ぐったりとした私を解放して座らせ、話をさせられる。
「そう、草原の奥の林に居たマッドボアを見つけて魔法の練習で倒して、剥ぎ取りをして持ってきたのね?」
「はい、町付近のフィールドモンスターだからそこまで強くなかったですし、近接戦闘に持ち込まれなければ倒せないことも無いだろうと思いましたんで」
そう言ってポケットから3cm程度の楕円形の、黒真珠のような艶をした魔核を出してテーブルに置く。
「そう、剣を下げてるからてっきり剣士志望なんだと思ってたんだけど、魔法も使えるのね。ちなみに何の魔法で倒したの?」
「剣はただの護身用ですよスキルも持ってませんしね。魔法は神聖魔法がメインなんで魔力弾で倒しましたけど?」
「へぇ、魔力弾で倒すなんて結構魔力量が高いのね。そういえばEランクへの昇格申請が出てたけど、Eから討伐系の依頼もあるんで一応戦闘力を見る事になってるんだけど、その魔力弾の威力を見せてもらえないかな。それで昇格とするけどどうかしら?」
「別に構いませんよ」
そんな話をして、別室のスキル訓練用の部屋に連れて行かれる。部屋は教室程度の広さがあり、壁は結界魔方陣を組み込んだ特別製で扉を閉めれば外部と隔離されるそうだ。
「それじゃ、そこの人形に魔力弾を打って見て」
部屋の端に革鎧を着込んだ木偶人形があり、剣を構えた格好をしていた。 人型ってことは人間相手の戦闘も想定されているのだろうか、まぁ、盗賊も居るはずだしそんなものかと構える。
意識を切り替えて魔力を活性化させ魔力弾を作り出す。お昼に使った時と比べてえらくすんなりと使えたが、一度イメージして使えると覚える物なのだろうと納得して魔力を込める。擬似とはいえ戦闘なんだけども、生物相手じゃないせいなのかAPは起動しなかった。
「螺旋魔力弾!(トルネード・マナブリッド)」
十分な魔力が溜まり高速回転になったところで魔力弾を放つ。狙い違わず人形の胴体をくり貫いて後ろの壁に当たって消える。結界の効果なのか青白い火花が散ったが壁には全く傷もつかなかった。 ちょっとだけ結界が壊れることを期待したのだが、まだまだそんな威力がでるわけもないかと納得する。
「なかなかの威力ね。合格よ今から貴方はEランク冒険者よ」
エルディエットは用があると言って部屋に残り1人で応接室に戻ってきた。
「そうですね、お肉は毛皮から大体の大きさを考えて、状態次第ですが1金貨前後と言ったところですね。魔核は重量査定で5大銀貨になります、よろしいですか?」
「それじゃ、魔核だけで肉は買取なしでお願いします」
「そうですか、まぁ肉はどのようにでも構いませんが、昨日の説明ではEランクはまだ先だと思って討伐時のお話をしませんでしたが、魔核は街道の結界維持に必要なので、ギルドは冒険者に対して強制で買取を行う権限を持っていますので気をつけてください」
それら手続きを終えてEランクに書き換えられたギルドカードを持って宿へ帰っていく。
そんなエイジアを執務室から見ている3人の人間が居た。
「本当なのか?、魔力弾でDランクのワイルドボアを倒したっていうのか? 魔力弾は基礎だけど威力が無いのに消費がでかいって言って、全然使ってなかったじゃないか」
「そうなんだけど、彼の魔力弾は普通と違うのよ。私もあんな魔力弾は始めて見たわ。魔力を手のひらに形成してその後に魔力形状を変形させて貫通威力を上げてたのよ。見なさいこの風穴の開いた人形を」
「たしかに、すごい威力じゃな。全盛期のエルディエットなら風魔法を使って似たようなことをしてたんじゃなかったか?」
「ええ、そりゃ風魔法を使えば同じことは出来たけど、魔力弾でこの威力はおかしいのよ。体外に出た魔力の塊を変形させるなんて、どんな魔力量ならできるのかわからないわ。全盛期でも私にはできないと思うわよ」
「なんにしても規格外な子供じゃな。できれば敵対せずに取り込んでおきたいものじゃが、下手につつけば町からもすぐに消えてしまいそうじゃ」
「とりあえず、ヴィスラにも話を通しておこう。何かあれば知恵を借りれるだろうし」
「ええそうね、ヴィスラには悪いけど神殿を騒がせることになるかもしれないしね」
3人は驚異の新人を眺めて、ため息を付くのだった。
お読みいただきありがとうございます。
初戦闘と漸くですがヒロイン登場です。
次回は20日火曜までに投稿します。




