9-5 滅びの遺伝子(2)
双子はルイの返答を待たず、問いかけを続ける。
「「ルイ閣下は他の王をどれだけ知っているか?」」
「……まず、剣の符号が機械の王。人類統合局の局長」
「「イエス。御堂局長は、閣下と同郷である聞く」」
「――! ああ」
ルイは驚きの声を抑え、冷静に返答した自分を褒めたいと思うほどだった。
あまりにあっさりと御堂の名前が出て、エーテルリングの王の一人と確定した。これまで確信に近かったが推測であった。
「もうひとりは、ほとんど、いや何も知らない」
「「勾玉の符号を持つ王は、《弱き者たちの王》と呼ばれている。だが、詳しいことは分かっていない。どのような姿であるかも」」
どうやって会えと? そんなルイの疑問を察した双子は語った。
「「二度目の大破壊からしばらく時が経った頃、人とカストディアンの代表者が協議した。そこで、カストディアンは人を保護すると誓い、人はカストディアンの管理を受け入れた。続けてカストディアンは提案した。高度な技術を持つことは危険である。人が真に成長するまで封印すべきと」」
「……さっき、合意したと言っていたな」
「「そうだ。保護を受け入れると約束していたし、カストディアンの支援が無ければ生きていけない状態だった。選択の余地はなかった。実のところ、迷っていたのはカストディアンの側であった。技術を低水準に保つのは良いとして、それで十分か。カストディアンは心より人を愛していたが、同時にいかなる生物より信用していなかった。人はお互いに憎みあい、いつも予想もつかない方法で争いの種を生む。人とカストディアンだけでは、いつの日か人がカストディアンを憎む日がやってくる。そう確信していた」」
双子の話をすべて信じて良いのか分からない。ただ、いまのところ信憑性はある。
事実、人類保護局は憎まれ、神聖法廷に打倒された。
「「だから、もうひとつ、別の存在が必要だという結論になった。だが、カストディアンは人しか愛さない。人ではないが、人である。そういう存在を作り出した」」
「……次世代計画か?」
後ろから、僅かに布のこすれる音が聞こえる。サクヤかもしれない。
人類保護局は、エルフを原案として耳長族が生み出した。これが第二世代。
第三世代は、ゴーレムが原案の岩肌族ゴラム。ヤグラの一族。
ジャミールやアイシャのような有翼人も、おそらくは多様な世代のうちのひとつなのであろう。
「「イエス。だが、誤解があるかもしれない。耳長族も、岩肌族も、翼があろうと鱗があろうと、すべて人である。同じ言語を使い、同じように考え、同じように行動する。本質は同じ。肌や瞳の色が違う、身長や体格が違う、程度の違いでしかない」」
「じゃあ、死虫人か?」
「「ノー」」
「だったら……まさか――」
ルイの心の中で埋もれていた、無意識のうちに考えないようしてきた存在が浮かび上がる。
あの秘密農場の地下研究所で、ヴィクターと名乗っていた祝福騎士ヴィラール、そして局長の娘マキナと共にそれを見ている。
水槽に入った血蜘蛛の標本を。血蜘蛛になりそこなったような虫人間の標本と一緒に。
黒雷が鳴り響く大陸中央にて幽閉されていた決戦兵器メタトロンは言っていた。
血蜘蛛は、次世代計画の一部であると。カストディアンはその成功を誇ったと。
永遠都市エリュシオンにて少年は言っていた。
死虫人のような人類は他にもいる。海に適応した種族もいると。
それを裏付けるように高天原の魚は、尾ヒレが水平なのだ。哺乳類のイルカや鯨のように。
次世代計画が生み出したのは、新しい人だけではない。人の特性を持つ生物も生み出していた。
「血蜘蛛、いや、もっとなのか」
「「そうだ。多くの生命が人の遺伝子を持っている。あの時、カストディアンは人を拡大解釈したのだ。人は生命。遺伝子を次世代に引き継ぐのが種としての役割。すなわち、人の核は遺伝子。であるならば、人の遺伝子を持つ生物もまた、未来へと残すべき存在であると。もうひとつの人であると」」
「――無茶苦茶だ」
自然と口から感想がこぼれる。
この砂漠の地下に住まうのはすべてカストディアン、目の前の姉妹もそう。しかも初対面で敵か味方かも分からない状態。それでも、言わずにはいられなかった。
「「同意する」」
「……するのか。だったら――。いや、なんでもない」
「「そうだ。言っても何にもならない。納得する必要もない。ただ、事実として《弱き者》とは、この世界に住まう様々な生命のことだ。鉄器を身に帯びず、自らの身体のみで生きる者たちのことだ」」
「生命って……。もしかして、動物だけじゃないのか」
「「イエス。植物や菌類にも及ぶ」」
訳が分からない。犬や猫のような動物であれば、まだ分かる。だが人の遺伝子を持った昆虫、魚、草、それにキノコ? そんなものに会う?
混乱するルイを見たタマがフォローに入る。
『その王がどのような存在か、教えてください。特に交渉可能な存在であるのかについて、詳しく』
「「今以上の情報は持ち合わせていない」」
『……いったいどうやって会えと? そもそも会って意味があるのですか?』
「「会うのは容易だ。閣下が持っているであろう、その魔力の結晶を使えばよい。合意したい事案のみ通信することが出来る」」
『……確かに、これだけは通信妨害の対象外のようですね』
「「合意できるし、既に合意したことがある存在であるのだから、交渉も可能なはずだ。故に残る唯一の問題は、場所をどう指定するかだ。そこについても、私達にはアイデアがある」」
『ちょっと待ってください。その合意の事案ってことは、すべての王に届くのですよね?』
ルイは、はっとして顔を上げる。合意とは三者の合意である、つまり御堂にも伝わる。
人の王から弱き者の王への私信ではなく、三人でここに集まろう、という形式にならざるを得ない。
「「そうだ。心配するのであれば、出来るだけ近いところで発信し、素早く会うのが良いだろうな」」
『……不明といいつつ、居場所に心当たりはあるのですね。しかし、まずは会う意味から聞きましょうか』
「「内容はシンプルだ。だが……ふーむ」」
ここで突如として、双子が少し間の抜けたような、リラックスしたほうが声を出す。
「「私達が説明しても良いのだが、どうだろうか。そろそろ、君から説明するというのは?」」
「――うん? お、なんだ、私のことか?」
双子の視線の先、反応したのはレネーであった。
「「ショア、そうだよ」」
双子は表情を変えず、ただ告げた。だが、明らかに口調が柔らかい。
「あ? なんで私なんだよ? ってか、話させるなら、周りを黙らせてくれねーかな」
どういう訳か、レネーは少し不機嫌だ。さらに、周囲は静寂そのもの。
「「やれやれ、重症のようだね」」
「さっきから何なんだよ。ここの住民ども、どいつもこいつも訳わからねえ信号を一斉に送ってきやがって」
「「みんなはね、こう言っているんだ。ウェルカム ホームと。おかえり、という意味だ。本当は君が一番詳しいはずなんだがね、最古の友よ」
[リンのメモリーノート] ここのカストディアンは、大陸中央の集団よりずっと孤立しているっていう予想は、どうやら当たったみたい。雷と酸性雨ばっかりの大陸中央に住むカストディアンたちと比べて、こっちはとても連絡が遅かった。それに、考えがかなり内向きな感じ。





