共闘と第2の町
「カイゼ、大丈夫?」
「まったくもう……! あんな初見殺しの攻撃まで持ってるなんて反則じゃない!? 絶対、次はリベンジしてやるんだから!」
始まりの街のリスポーン地点(復活場所)へ迎えにいくと、案の定、カイゼは悔しそうに復讐の炎をメラメラと燃え上がらせていた。
「でも、今の段階じゃどう頑張っても勝てないってことはよーく分かったわ。……そうなると、なおのこと疑問なんだけど。レイ、あんた一体どうやってあの化け物倒したのよ?」
カイゼはジリジリと距離を詰め、興奮した声色で問い詰めてくる。
「ちょっ、近い近い……。うーん、そうだね、ヒントだけあげる。実は、オリジナルスキルを作ったんだよね」
「マジで!? こんな正式リリース直後のタイミングで、そんな強いスキル作れるの? やり方聞いたら、私でもすぐ真似できるやつ?」
「いや、カイゼには100%無理だね」
「なによー、その勿体ぶった言い方! もういいもん、自分で探すし!」
ぷいっと顔を背ける親友を見て、レイは苦笑した。
嘘を言ったつもりはない。何しろ〈理の再記述〉は、カイゼどころか、この世界の全プレイヤーを探しても取得できる人間など他にいない、取得には本条零が作成したプログラムを100%理解しないといけないといけないのだ。
そんな他愛のない会話を交わしながら街道を進んでいると、やがて前方に第二の街「コンコルディア」の頑強な石造りの外壁が見えてきた。
「おぉ、見えてきたね。雰囲気は始まりの街にちょっと似てるかな?」
「そうだね。でも――あそこ、簡単には入らせてくれないみたい」
レイが視線を向けた先、街の正門へと続く一本道を塞ぐようにして、巨大な牙を持つイノシシ――《グラットンボア》が、獰猛な鼻息を荒くして立ちはだかっていた。
次のエリアへ進むための、いわゆる門番モンスターだ。
「いいね。記念すべき、初のまともな共闘だ」
「よーし、燃えてきた! ……けど、レイのその物々しい武器なら、ぶっちゃけ瞬殺できそうじゃない?」
「まあ、新装備の性能チェックもしたいから手加減してみるよ。……それじゃ、先制攻撃よろしく!」
「任せて! ――【ファイアボール】!」
カイゼの突き出した杖の先から放たれた火球が、グラットンボアの分厚い毛皮に命中して炸裂する。
ボアは一瞬怯んだものの、すぐに激昂し、標的をカイゼに定めて猛烈な突進を開始した。
だが、直線的で素直な正面突破の突進など、百戦錬磨の二人の敵ではない。
ひらりと左右に分かれて難なくかわし、カイゼがすれ違いざまにさらに追撃の魔法を叩き込んでいく。
「さすがに最初の関門だし、動きが単調で楽だね。サイクロプス相手に防具のテストはできたから、今度はこいつに武器と盾の実験相手になってもらうよ」
何度も突進をスカされ、グラットンボアの怒りは頂点に達したようだった。
これまでで最も鋭く、速い速度の全力突進がレイ目掛けて襲いかかる。
(――見えた)
フードの能力で動体視力が底上げされているおかげで、迫り来るボアの軌道がスローモーションのように鮮明に把握できた。
レイは一歩も引かず、中央に不気味な瞳が施された小盾【魔眼の小盾】を正面へと構える。
ガギィィィン――!!
金属音と共に、完璧なタイミングでジャストガード(パリィ)が炸裂した。
盾の固有アビリティによる強烈な姿勢崩し(アシスト)が働き、突進の凄まじいエネルギーをそのまま上方に受け流されたグラットンボアは、哀れにも中を舞い、背中から地面へ派手にひっくり返った。
「そこっ――【ダブルスラッシュ】!」
レイはその隙を逃さず、懐から抜いた【一眼の牙刃】で目にも留まらぬ二連撃を繰り出す。
サイクロプスの魔力を秘めた極上の短剣の威前に、初期ボスの耐久力が耐えられるはずもなかった。グラットンボアの巨体は、一瞬で無数の光のポリゴンへと霧散していった。
「お疲れ様ー」
「……ねぇ、その武器、強すぎない? っていうか今の盾もヤバいって! あの突進を正面から受け止めてひっくり返すとか、どんな性能してるのよ!?」
「ふふん、カイゼも頑張ってレア装備を手に入れれば、これくらい簡単にできるようになるよ」
「うぐぐ、もう見てなさいよー! 今度会ったときには、アッと言わせるような超レア装備見つけてやるんだから!」
悔しがる親友を適度にあしらいながら、二人は「コンコルディア」の門をくぐった。
遠目から見た通り、始まりの街と全体の雰囲気は似ているが、こちらは生産職の工房や戦闘職のギルドといった、職業用の機能的な建物が目立つ。
「それじゃ、私はさっそく『魔法使い』に転職してくるから! レイも適当に施設見てまわりなよ。また後でここで集合ね!」
そう言うと、カイゼは一目散に魔法使いギルドの建物へと走っていった。
「さて、どうしようかな……」
レイ自身は、これといって就きたい職業を決めていなかった。何しろオリジナルスキルが万能すぎるのだ。
それでも何個かはなりたい職業のあて自体はあるのでとりあえず街の情報収集でもしようと歩き始めたのだが――ソロになった瞬間、周囲のプレイヤーから凄まじい勢いで話しかけられ始めた。
「あの、すいません! その装備ってどこで……!」
「それ、隠しクエストの報酬ですか!?」
やはり、夜の街でも禍々しいオーラを放つ漆黒の装備一式は目立ちすぎる。一人に対応すると、また一人と物珍しそうに人が群がってきた。
レイはそんな羨望の視線をどこか心地よく浴びつつも、「始まりの森の奥にいる強力なモンスターの素材だよ」ということだけを周囲に伝えておいた。
そうして人混みを捌きながら街の中央広場へ向かうと、そこには巨大な掲示板が設置されていた。
臨時パーティーの募集用、クエスト用、そしてプレイヤー間の情報共有用に分かれているようだ。何気なく覗き込んでみると――。
『始まりの森・強敵討伐周回!』『サイクロプス討伐即席会、前衛募集!』『求む、サイクロプスの情報!』
「サイクロプス、サイクロプス、サイクロプス……。見事にそればっかりだね」
掲示板の募集のほとんどが、あの単眼の巨獣に関するものだった。
確かに序盤で遭遇できるあからさまなネームドボスだ。倒せれば凄まじいスタートダッシュを決められるだろう。……もっとも、あの理不尽な暴虐性を身を以て知っているレイからすれば、今の段階のプレイヤーたちが束になって挑んだところで、返り討ちに遭う未来しか想像できなかったが。
そんな風にだらだらと掲示板を眺めていると、背後から声をかけられた。
「お待たせレイ! ――って、何それ、サイクロプスの募集すごいことになってるじゃん!」
振り返ると、見習い服からシックな群青色の「魔術師のローブ」へと衣装を変えたカイゼが立っていた。心なしか、手にした杖も少し立派になっている。
「あ、ハル。転職おめでとう、似合ってるよ。……そう、さっき私が教えた情報のせいかわから居ないけど、みんな色めき立っちゃっててさ」
「それよりレイ、こっちの情報掲示板は見た? こっちこっち!」
興奮気味のカイゼに袖を引かれ、隣の情報共有掲示板に目を向ける。そこには、赤く強調された公式のイベント告知が躍っていた。
『娯楽都市カーニバリアにて、大規模闘技大会開幕! 上位入賞者には多額の賞金、およびレアアイテム・装備を授与!』
「これは気になるね。開催日は……って、明日!?」
「でしょ!? 私、どうしてもこの大会で上位を狙いたいの。レイもそうでしょ。だから、そのために手伝ってもらいたいクエストがあるんだけど……いい?」
カイゼが提示してきたクエストのウィンドウを覗き込み、レイは思わず目を見開いた。
【クエスト名:聖域を穢す黒石の翼】
【内容:コンコルディア外れの古びた教会に住み着いた怪異の討伐】
【推奨レベル:50】
「……ちょっと待って。推奨レベル50って、完全に設定ミスでしょ。勝てるわけないじゃん、今の段階で」
「でも、レイにはあの『オリジナルスキル』があるじゃん! サイクロプスにソロで勝てたんだから、あんたのチートスキルがあれば何とかならない!?」
(教会に住み着く黒い翼……。おそらく、高レベル帯の定番モンスター『ガーゴイル』の類だね……)
確かに、仕様変更されたとはいえ〈理の再記述〉をフル活用すれば、勝てる可能性はゼロではない。明らかな格上のモンスターに親友と挑むというのは、最高にワクワクするシチュエーションだった。
「……わかった、行こう。その代わり、見事クリアできたら、リアルで美味しいご飯おごってよね!」
「やったぁ! ありがとうレイ! 勝てたら絶対、前に行きたいって言ってたおすすめのお店連れてってあげるから!」
「約束だからね。それじゃあ、カイゼはクエストの受注をよろしく。私はちょっと準備してくるから」
二人は作戦会議を終え、一度別行動に移る。
ガーゴイル相手となれば、おそらくサイクロプスと同等かそれ以上の激戦になるだろう。
〈理の再記述〉のセキュリティを戦闘中に突破できたとしても、格上のステータスを強制書き換えするとなれば、こちらのMP消費量が跳ね上がるのは確実だった。そのため、あらかじめ大量のMPポーションを買い込んでおく必要がある。
「すみません、MPポーションをあるだけ――って、そういえば」
レイは財布の中身(ステータス画面の所持金)を見て動きを止めた。
現在の所持金、0ゴールド。
サイクロプスをソロ討伐した際、換金用の超レア素材や財宝アイテムは大量にカバンに入っているのだが、始まりの街の貧弱なショップでは「買い取り額が高すぎて引き取れない」と断られていたのだ。
急ぎこのコンコルディアの商店も巡ってみたが、やはりどこも「うちの店の規模じゃ、そんな高級な素材は買い取れないよ」と首を振られる始末だった。
店主の老人曰く、次の目的地である娯楽都市「カーニバリア」の大商人なら、喜んで言い値で買い取ってくれるらしい。
(まずは換金が先、か。どっちにしろ闘技大会の会場だし、一度向かうしかないね)
ポーションの棚を前にして、レイは苦笑しながらハルへメッセージを飛ばした。
合流した二人は、クエストの目的地である教会の前に、まずは物資を整えるため、次の都市「カーニバリア」へ一時的に向かうことで意見が一致する。
「開催は明日だし、あんまり時間はないね。急ごう!」
「了解。目指すは娯楽都市カーニバリアだね、行こう!」
夜の街道を、漆黒の戦装束と、真新しい群青のローブをなびかせた二人の影が、風のように駆け抜けていった。
新しい町ってワクワクしますね。
ご感想などをいただけると励みになります。
お気軽にしていただけると嬉しいです。




