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新たな旅立ちと装備のテスト

レイはログインしてきた春と、始まりの街の広場ですぐに合流することができた。

事前に「私の装備を見れば一発でわかる」とメッセージを送っておいたのだが、あちらもすぐに気づいたらしい。夜の広場の人混みをかき分けて、初歩の魔法使いの格好をしたプレイヤーがこちらに近づいてくる。


頭上に表示されているプレイヤーネームは――カイゼ。

彼女がVRゲームでいつも使っている、馴染み深い名前だった。


「な、なにその装備……一応聞くけど、それ店売りのやつ?」

「ふふーん、カッコいいでしょ! ちなみに店売りじゃないし、現時点のプレイヤーの中なら、間違いなくトップクラスにいい装備だよ」


レイはドヤ顔を浮かべ、くるりとその場で回って漆黒の装備を自慢げに見せつける。

その楽しげな様子に、カイゼだけでなく、広場にいた周囲のプレイヤーたちの視線も一気に集まった。集合場所に来るまでも薄々感じていたが、すれ違う者たちが一様に足を止めてこちらを見ているのだ。


(まあ、これだけ目立てばそうなるよね……)


キャラメイク時や初期装備のカラーリングである程度見た目を変更できるとはいえ、この装備が放つ独特の「強者のオーラ」は、明らかに周囲の初心者装備とは一線を画している。

そんな中、ついに好奇心を抑えきれなくなった一人のプレイヤーが、意を決したように話しかけてきた。


「えーと、レイさん? いきなりすいません! その装備について聞きたいんですけど、どこで手に入れたんですか?」


隣にカイゼという連れがいるにもかかわらず、ぐいぐい聞きに来るとは勇気がある。レイはこの装備の出どころをどこまで教えるべきか一瞬悩んだ。

だが、そもそも始まりの森のサイクロプスをまともに倒せるプレイヤーなど、現状ではそうそういないはずだ。仮に倒せたとしても、あの素材を極上の防具に加工するには、鍛冶師の上位JOB(あるいはドワンのような凄腕のNPC)の協力が必要になる。教えてもゲームバランスが崩れる心配はないだろう。


「あぁ、これね。始まりの森の奥深くにいる奴を倒して、その素材で作ってもらったんだよ」

「始まりの森? じゃあ、もしかしてゴブリンの素材ですか……!?」

「ううん、ゴブリンじゃないよ。もっと森の奥に進むと、とんでもなく強力な隠れボスみたいなモンスターがいてね。そいつの素材」


「なるほど、奥地ですか……! 貴重な情報、ありがとうございます!」

そのプレイヤーは興奮した様子で深々とお辞儀をすると、仲間のもとへ知らせるためか、足早に去っていく。


それを見送ったカイゼが、目を輝かせながらレイにじり寄る。


「ねぇレイ、私もその装備興味あるんだけど。その強力なモンスターって、どれくらい強いの?」

「うーん。数に物を言わせて囲んで殴れば勝てる、みたいなタイプじゃないかな。ぶっちゃけ、現時点で倒せるのは私くらいだと思うよ」

「いやいや、だとしたらあんたどうやって倒したのよ!?」

「ふふ、それは内緒。カイゼもこの装備が欲しかったら頑張ってレベル上げな。まあ、気が向いたら手伝ってあげてもいいけど?」


少し調子に乗ったような声でからかうと、カイゼは頬を膨らませた。


「うわー、なんかムカつく! いいもん、私もすぐにレアな魔法や装備を見つけて自慢してやるんだから!」

「はいはい、頑張って」


レイは苦笑しながら彼女を応援した。口では軽口を叩いたが、あのサイクロプスの破壊力と岩のような頑強さは、まともな攻略法ではまず勝てないレベルなのだ。


「それはそうとカイゼ、この後どうする?」

「次の街に行ってみようよ! 私、早く魔法使いに転職したいし、レイもまだ次の街には行ってないんでしょ?」

「OK、行こう。……そういえば、他のみんなは?」

「あぁ、連絡取れなかった。多分、みんなもう遊んでるんじゃないかなぁ」


そんな他愛のない会話を交わしながら、二人はじまりの街の門をくぐり、街道へと踏み出した。


---


「それにしても、全然モンスターがいないね」


しばらく街道を歩きながら、カイゼが退屈そうに杖をいじる。


「ここは舗装された主要な道路だしね。他のプレイヤーの往来も多いから、湧いた先から狩られてるんだと思う。新装備のテストをしてみたかったんだけどな」


そうして進んでいくと、やがて「始まりの森」と「次の街」への分岐点に差し掛かった。

そのとき、レイの目に異様な光景が飛び込んできた。分岐点の近くに、かなり大規模な即席パーティーが集まっているのだ。


「すっごい人数……。あ、みんな森の方に入っていくね。あれって、さっきレイが言ってた『強力なモンスター』を倒しにいくのかな?」

「おそらくね。さっき情報を聞いた人が、掲示板か何かで人を集めたんだろう。……まあ、あの人数でも勝てないとは思うけど」

「マジで!? 軽く20〜30人はいるよ? あれでも無理なの……? やばい、俄然興味が湧いてきた! ちょっと見に行ってみない?」


カイゼの好奇心に満ちた提案に、レイも少し心が動いた。

新装備の防御性能やアビリティを試してみたいし、何より、アジーンたちが調整したというオリジナルスキル〈理の再記述リライト〉がどう変更されたのか、実際にこの目で確かめておきたかったのだ。


「オッケー。でも、あのパーティーと余計なトラブルになるのは嫌だし、少し隠れながら様子を見よう」


森に入ると、大規模パーティーの追跡は容易だった。すでに情報が回っているのか、なぎ倒された木々の跡を辿るようにして、迷うことなく奥地へと進んでいく。

そしてついに、彼らは件のサイクロプスを発見したようだった。


木々の隙間から遠目に覗き見る。サイクロプスは相変わらず地響きのようないびきをかいて眠っていた。ただ、前回レイが戦ったときのような、巨大な棍棒は手元に見当たらない。


「リポップするたびに、持っている武器や個体に若干のランダム変化があるのかな……?」


元開発者としての考察をボソリと呟いた瞬間、パーティー側の「戦闘開始」の号令が響いた。


「わ、始まった! 先制攻撃が綺麗に決まったよ、あれ! このまま押し切って勝てるんじゃない?」


前衛の戦士たちが一斉に突撃し、後衛の魔法使いや弓手が放った一撃が、サイクロプスの唯一の弱点である「単眼」へと正確に命中する。

興奮するカイゼだったが、レイは冷静に首を横に振った。


「あれで勝てれば苦労はしないよ。確かに目への先制は完璧な連携だけど、サイクロプスの体力(HP)は、そんなに減ってないはず」


実数値を確認しようと、レイは懐から〈理の再記述リライト〉を起動しようとした。

しかし、目の前に現れたのは想定外のシステムウィンドウだった。


『【エラー】戦闘中の対象が存在しないため、スキルを起動できません』


(なるほど……。自分が戦闘状態に入っている相手じゃないと、そもそも干渉ができないように仕様変更されたのか)


安全な高みの見物から他人のステータスを書き換える、といった不正行為を防ぐためなのだろう。


「それくらいなら想定内だけど……。それよりカイゼ、あっちを見て。あのパーティー、目をつぶして余裕ぶってるけど、サイクロプスはここからが本番だよ」


レイの言葉が現実となるのに、時間はかからなかった。

先制攻撃で片目を潰されたはずの巨獣は、激昂の咆哮を上げると、まるで見えているかのように正確にプレイヤーたちへと襲いかかった。


「う、嘘……タンクの盾役が、盾ごと叩き潰された!?」


巨人の拳の前には、初期装備の盾など紙切れ同然だった。

武器を持たないサイクロプスは、その辺に生えている巨木を素手でへし折ると、それを棍棒代わりに狂ったように振り回し始める。広範囲をネジ伏せる圧倒的な暴力の前に、後衛の魔法使いや回復役も一瞬で塵へと化していく。


数分と経たないうちに、森の開けた場所には、静寂と、破壊された無数のポリゴンの残滓だけが残された。


「マジか……。レイ、あんたよく一人でこれに勝てたね。……って、あれ? 私たち、今、思いっきり次の標的にされてない?」

「……バッチリ目が合ってるね。走るよ、逃げて!」


二人は背を向け、脱兎のごとく森の中を駆け抜けた。

しかし、サイクロプスの巨体から放たれる地響きのような足音は、容赦なく背後から迫ってくる。


「はぁ、はぁ!もうスタミナないんだけど… ここまで逃げれば、もう大丈夫……!?」


限界を迎えたカイゼが、木々の影で足を止めてしまう。


「ダメ、立ち止まっちゃダメ――!」


レイが叫ぼうとした瞬間、凄まじい風切り音と共に、背後から巨大な「倒木」が投げつけられた。

回転しながら飛来した大木は、逃げ遅れたカイゼの身体を容赦なく直撃し、彼女の身体を一瞬で光のポリゴンへと変えて弾けさせた。


「あぁ……! やっぱり、初見であれは避けられないよね……!」


そして、サイクロプスの赤い単眼は、生き残った唯一の獲物であるレイをピシャリと捉えていた。


「ハァ……ハァ……。どうする? このまま逃げ切る?」


いや、とレイの口元に好戦的な笑みが浮かぶ。

せっかく手に入れた最上位スミスの特製装備だ。ここで使わずしていつ使う。真正面から戦って、この装備の真の性能を試してやる。


ただし、周囲に他のプレイヤーの目はないとはいえ、時間をかけるのは得策ではない。素早く片付けるために、戦闘状態に入った今こそ、あの「切り札」を切る。


「――〈理の再記述リライト〉起動!」


今度は戦闘中だ。確実に通るはず。

そう確信したレイの視界にポップしたのは、しかし、真っ赤な警告アラートウィンドウだった。


『【警告】スキルを使用するには、セキュリティを突破してください』


「……はぁ!? 戦闘の真っ最中に、セキュリティを解けってこと!?」


唖然とするレイの目の前まで、すでに怒り狂ったサイクロプスが迫り、その巨拳を振り上げていた。


「ちょっと待って、タイム! タイムってば……!」


当然、そんな懇願がモンスターに通じるはずもない。

サイクロプスのへし折った丸太が、レイの細い身体を真っ正面から捉え、凄まじい衝撃と共に彼女を遥か後方へと吹き飛ばした。


ズドォォン! と、何本もの木々をなぎ倒して地面を転がる。

(……あ、死んだかも)

そう覚悟しながら視界の隅のHPバーを見ると――。


「えっ……耐えてる!? 嘘、半分近くも残ってる!」


初期装備なら一撃でポリゴンにされていたはずの破壊力を、ドワンの作った防具が極限まで減衰してくれたのだ。


「凄すぎる……! 装備のテストとしては100点満点! でも、これ以上は無理! 逃げる!」


九死に一生を得たレイは、今度こそ文字通り全力疾走で逃げ出した。


さすがにしつこく追いかけていたサイクロプスも、森の境界線付近で追跡を諦めたらしく、ようやく安全な場所で息を整える時間ができた。


「はぁ……はぁ……。しっかしまさか、戦闘中にリアルタイムでセキュリティ突破を要求されるようになるなんてね。……まぁ、よくよく見たらそんなに難易度は高くないし、慣れれば片手間で解きながら戦闘できそうだけど。リスクが跳ね上がったのは間違いないな」


だが、レイは苦笑しながらも、どこか楽しそうだった。

相手のステータスや世界の法則を書き換えるなんて、チートといっても差支えないのだ。これくらいのハードルがある方が、攻略としての歯ごたえがあって面白い。


「さて……。カイゼ、めちゃくちゃ怒ってるだろうな」


レイは頭を悩ませつつ、始まりの街のリスポーン地点で待っているであろう不機嫌な親友を迎えに行くため、夜の道を急ぐのだった。

仲のいい二人っていいですよね。

戦闘中にセキュリティ突破するのは大変そうですね…


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