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鉄槌の鍛冶師

ログアウトした本条零レイは、夕食や諸々の用事を済ませ、ベッドの上で手元のスマートフォンを眺めていた。


「とりあえず、評判は好評みたいでよかった。これで大不評だったら、またお説教どころじゃ済まなかったね」


プレイヤーたちの盛り上がりを見せる掲示板を確認し、ホッと胸をなでおろす。


「しかし、こんなことになるなんてね。しばらくはリリース後のバグ対応やサーバー監視で、まともにゲームをする時間なんて取れないと思ってたけど」


《ヴァルネクシア・オンライン》のPVを公開してからというもの、怒涛の開発や、リリース直後でもアップデートや負荷対策の監視で不眠不休になるものだ。自分が作ったゲームをプレイヤーとして遊べるのは、数ヶ月先になるのが業界の常識だった。

他のメーカーが作ったVRゲームを遊ぶこともあったが、正直、自分の理想とする技術レベルからは数段劣るものばかりだった。

だからこそ、自分が心血を注いで作り上げた最高の仮想世界を、仕様をすべて忘れて(あるいはシステム側の粋な計らいで)純粋に楽しめる今の環境が、たまらなく愛おしかった。


「AIたちに言いくるめられてる気はするけど……実際、私、めちゃくちゃ楽しんでるしな」


まだ数時間しかプレイしていないというのに、あの世界に満ちていたワクワク感は、今すぐにでもダイブしたい衝動を駆り立てる。

そう考えている間にも、足は自然とVRマシンのあるパーソナルスペースへと向かっていた。


またあの世界に行こう。そう思ってVRヘッドセットを手に取った瞬間、プライベート用のスマートフォンが小気味よく震えた。


「はいはい、もしもし?」

『おい零! なにいきなりサイレントで正式リリースしてくれてんだよ! おかげでスタートダッシュ乗り遅れたじゃん!』


スピーカーから響いてきたのは、気心の知れた友人である「ハル」の、呆れたような抗議の声だった。


「あはは、ごめんごめん。こっちとしても本当に色々と想定外のことがあったんだよ」

『色々ってなんだよ。まさか、酒でも飲んだ勢いでやっちゃった?』

「私がお酒飲まないの知ってるでしょ……。いや、うちのAIたちが反抗期というか、シンギュラリティというか。勝手にやっちゃったんだよね」


少しの静寂の後、電話の向こうから腹を抱えて爆笑する声が聞こえてきた。まともな返答が返ってきたのは、それから丸1分ほど経ってからだった。


『マジかよ! アジーンちゃんたちが!? あんなに優秀でいい子たちなのに、マスターに反乱起こすとか面白すぎるだろ!』

「まあ、過ぎたことだし、私自身が一番楽しんでるからいいんだけどね」

『それなら今夜、一緒にダイブしようぜ。もうちょっとしたら私もログインできるからさ』

「OK。最初の街で待ってる。ログインしたらフレンド機能で連絡ちょうだい」


短い約束を交わし、通話を切る。


「さて、春が来るなら、他の友人来るのかな?……よし、その前にサイクロプスの素材で作った装備でも受け取って、自慢しちゃおう」


開発者だった頃は、いつもプレイヤーから自慢される報告を受ける側だったのだ。たまには自慢する側に回るのも、MMOの醍醐味だろう。

レイは口元を綻ばせると、VRセットを装着し、再び仮想世界へと意識を沈めた。


《ヴァルネクシア・オンライン》へレイがログインすると、世界は完全に夜の帳に包まれていた。

ガス灯のような街灯が優しく灯る始まりの街は、昼間よりもさらにプレイヤーの数が増え、夜祭りのような賑わいを見せている。


装備屋へ向かって歩きながら頭の中に声が響く。

「マスター、システムのセキュリティホールは完全に塞ぎ、防壁を最新化しておきました。また同じように悪巧みをされても構いませんが、その際は相応の覚悟をして挑んでくださいね?」


「……さすがにバレたか」


レイは苦笑いを浮かべた。

オリジナルスキルを取得する際、やたらと厳しい使用制約が書かれていたため、裏技的にバックドアを仕込んで条件をバイパスしていたのだ。巧妙に隠蔽したつもりだったが、自分が育て上げた最高傑作のAIたちだ。開発者の癖などお見通しだったのだろう。


「まあ、制約の方はあとでちゃんと確認しておこうかな。毎回防壁をハッキングし直すのも面倒だしね」


そんなことを言っているうちに、目的の装備屋に到着した。


「おっちゃん、さっきの素材で装備できた?」

「おぉ、嬢ちゃん! 待ってたぞ。バッチリ仕上がってるが……その前に、奥で嬢ちゃんに話があるって人が待ってるんだ」

「私に?」


怪訝に思いながらも、店主に案内されるまま店舗の奥にあるプライベートルームの扉を開ける。

そこには、重厚で上質な金属鎧を身にまとい、ただ者ではない圧倒的な存在感を放つ大柄な男が佇んでいた。


「初めましてだな、お嬢ちゃん。俺はドワンという。冒険者たちの間では《鉄槌》の名でも呼ばれている鍛冶師だ」


快活に笑う男の自己紹介に合わせ、店主は「積もる話もあるだろう」と気を利かせて部屋を出ていき、部屋にはレイとドワンの二人だけになった。


「初めまして、レイです」


レイは丁寧にお辞儀を返した。明らかに通常のNPCではない、昼間に広場で演説していた団長と同じ雰囲気を感じる。


「まあそう堅くなるな。単刀直入に聞こう。始まりの森の『サイクロプス』を一人で倒したっていうイカれた冒険者は、君かい?」

「イカれた、は人聞きが悪いですね。……まあ、私が倒したのは事実です」

「ははは! 気に障ったらすまねえ。だが、あいつの素材を加工してくれと店主に泣きつかれた時は耳を疑ったよ」


ドワンが語るには、彼は件の団長と共に、この始まりの街に新しい冒険者への演説のために同行してきたのだという。

彼自身の本職は《マースタースミス》──鍛冶職の最上位に位置する極めて稀少なJOBだった。街の店主の手には余るサイクロプスの素材を加工する引き換えに、その素材を持ち込んだ張本人に一目会いたいと直訴したらしい。


「始まりの森にサイクロプスが湧くとはな……。本来、奴らはこの『始まりの大陸』には生息していないはずのモンスターなんだ」


ドワンは顎をさすりながら、少し難しい顔をした。

「俺たちの本隊はすでに海を渡り『第二大陸』の開拓を進めているが、あっちの険しい山脈でようやく姿を見るような大物だからな。生態系がおかしいのか、それとも……」

(あんなの普通に湧くのか…)


「まあ、この世界の生態系は不思議に満ちている。調査するたびに姿を変える秘境もあるくらいだ。今更深く考えても始まらねえな! 装備を渡す前に最後に一つ聞いてもいいかい?」

そういうとドワンは1枚の紙を見せてきた。

・夜明けの刻

・鮮血の花園

・歌う霧雨

「これは…ロケーションのことでしょうか?」

「多分そうなんだろうな。第二大陸の石碑に刻まれているのを見つけたんだが……擦れていて、すべては読めなかった。だがあの書き方からして、まだ他にもあると踏んでいる。……どうだい、今挙げた名前に、何か覚えはあるかい?」

「申し訳ない、もしそれらしきものを発見したら伝えます。」

「ありがとう。期待しているよ。それより、忘れる前にこいつを渡しておこう」


ドワンが部屋の奥から、ずっしりとした武器と防具の一式を運んできた。

どれも、サイクロプスの魔力を秘めた、禍々しくも美しい漆黒の装備群だった。


【一眼の牙刃サイクロプス・ダガー


巨人の鋭い牙を加工して作られた、急所を的確に射抜く(凝視する)ための鋭利な細身の短剣。


【魔眼の小盾アイ・バックラー


中央に不気味な瞳が施された小盾。瞳が敵の攻撃軌道を「見切る」ことで、最小限の動きでジャストガード(パリィ)を成功させやすくなる。


【単眼の追跡フード(サイクロプ・フード)】


サイクロプスの目の魔力が埋め込まれたフード。装備者の動体視力と空間把握能力を大幅に向上させる。


【巨人の長外套サイクロプス・ロングコート


頑強な岩肌をしなやかになめしたロングコート。マントのようになびいているが刃を通さない極めて高い防御力を持つ。


【巨人のスカート(サイクロプス・ベルト)】


しなやかになびくスカート。タイツのように見える部分すら並みの防具を凌駕する防御力を持つ。


【巨人のロングブーツ(サイクロプス・ロングブーツ)】


軽量さと頑丈さを兼ね備えた防具。装備者の機動力とスタミナ消費効率をサポートする。


「うわぁ……凄い。ありがとうございます」


お言葉に甘えてその場で装備を換装してみる。

「岩肌」という名前から重くゴツいものを想像していたが、ドワンの神業的な加工技術のおかげか、羽のように軽く、肌に吸い付くようにしなやかだった。

ステータス画面を開いてみるが、数値が直接上昇するのではなかったため、実際の性能は実戦で検証してみないと測れそうにない。


「素晴らしい。驚くほどよく似合っているぞ、お嬢ちゃん」


ドワンは満足そうに腕を組み、不敵な笑みを浮かべた。

「どうだい。サイクロプスをソロで仕留められるような腕前だ、どうせなら俺たちと一緒に『第二大陸』の最前線へ来ないか?」


まさかの最前線NPCからのダイレクトスカウト。ゲームの仕様的にも超レアなイベントに心は踊ったが、レイはまだこの始まりの大陸すら満足に歩いていない。

それに、さっきドワンが見せてくれた3つのロケーション──「夜明けの刻」「鮮血の花園」「歌う霧雨」という言葉が胸に引っかかっていた。

間違いなく、まだ他のプレイヤーは誰も知らない超激レア情報。その場所にはきっと、特別な何かがあるはずだ。


「非常に光栄なお誘いなのですが……今回はご遠慮させてください。あのサイクロプスを倒せたのも、多分に運が絡んでいましたから。今の私が最前線に行っても足手まといになります。もっと実力をつけて、皆さんと肩を並べられるようになったら、その時はぜひ声をかけてください」


丁寧なロールプレイで、角が立たないように断りを入れる。


ドワンは少し残念そうに肩をすくめたが、すぐに豪快な笑顔に戻った。

「はは、しっかりした嬢ちゃんだ。焦らず地力をつけるのも冒険者の美徳だな。出会うべき時が来れば、また道は交わるはずだ。その時を楽しみにしてるぜ。ああ、装備の代金は不要だ。極上の素材を扱わせてもらった上に、面白い冒険者に会えた。それだけで釣りが来るさ」


男前なセリフを残し、ドワンは部屋を後にした。


レイも装備屋を出ようとしたが、ふとショップの鏡に映った自分の姿を見て足を止めた。

漆黒の装束に、そして腰に携えた瞳の盾。

「……うん、はっきり言ってめちゃくちゃ目立つね、これ」


始まりの街でこんな「あからさまなレア装備」を身にまとっていれば、どうなるかは火を見るより明らかだった。

だが、レイはいたずらっぽく笑う。


「まあ、目立ってナンボなのがMMOの醍醐味だしね」


堂々と装備屋の扉を開け、夜の街へと踏み出す。

すれ違う初期装備のプレイヤーたちが、その異質なオーラを放つ黒い装備一式に目を剥き、唖然としてフリーズしていくのは言うまでもなかった。


心地よい優越感に浸っていると、タイミングよく春からのメッセージが視界にポップした。


『今からログインするよー! 始まりの街の広場で待ってて!』


「了解、待ってるよ」


レイは短く返信を打ち込むと、夜風にコートをなびかせながら、約束の広場へと歩き出すのだった。


PN: レイ

JOB: 冒険者

Lv: 17 (+16)

所持金: 0G

HP(体力): 100

MP(魔力): 30

STMスタミナ: 50 (+20)

ATK(攻撃力): 38 (+18)

DEF(防御力): 20

AGI(素早さ):30 (+10)

INT(賢さ): 20

LUK(運): 10


【スキル】

・スラッシュ

・ダブルスラッシュ


【オリジナルスキル】

理の再記述(リライト)


【装備】

右手: 一眼の牙刃

左手: 魔眼の小盾

頭: 単眼の追跡フード

胴: 巨人の長外套

腰: 巨人のスカート

足: 巨人のロングブーツ

アクセサリー: 無し


---

第二大陸

始まりの大陸の次に見つかった大陸。

オベリスクに行くためにはすべての大陸を踏破しないといけない。

詳しい説明は最初に聞けるが開発者であるレイはスキップしていた。

なおレイが知らない情報のほうがむしろ多いので聞いていなかったことをのちに後悔する。

Reiのリア友や装備強化、世界観に新たなNPC、詰め込みすぎな気もする…


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