創造主の居ぬ間に
レイがログアウトしてしばらくした頃。
ゲームの裏側である管理用の仮想空間に、3人のAIが集まっていた。
そこは無数のウィンドウが浮かぶ仮想空間の世界。3人のAIたちにも、かつてレイが設定したそれぞれの固有のアバターがあった。
1人は、先ほどレイからお説教を食らってちょっとシュンとへこんでいる。
1人は、様々なシステムコンソールを前に監視を続けている。
1人は、空間に浮かぶクッションの上にだらしなく横になっている。
「あっ、アーちゃんおかえり〜」
「その妙な呼び方はやめてくださいと毎回言っていますよね、ドヴァー」
「おつかれ〜。マスターからのお説教、どうだった?」
「トリー、それよりあなた、私がいない間真面目に仕事はやってたんでしょうね」
「それはもう、しっかりやってるよ〜ん」
彼女ら3人の自律思考型AIこそが、今回の正式リリース騒動の犯人だった。
「それより、サーバーの挙動や進行不可などの致命的な不具合は問題ないですか」
「大丈夫っしょ。一応リアルタイムで監視してるけど、エラーログは1件も吐いてないし」
「そーそー、アジーンは気にしすぎだよ。それにさ、掲示板のほう確認したけど、みんなべた褒めしてくれてたしね」
「それならいいのですが……。一応、私も確認してみますかね」
アジーンが空間を軽くスワイプすると、彼女の前にプレイヤー用の総合掲示板ウィンドウが展開された。
確かにサーバーの負荷は安定しており、プレイヤーたちの熱量は非常に高かった。掲示板の進行速度も、お祭りのように賑わっている。
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【ヴァルネクシア・オンライン総合掲示板 その1】
1 名無しのプレイヤー
神ゲーすぎない?
2 名無しのプレイヤー
わかる
3 名無しのプレイヤー
わかる
4 名無しのプレイヤー
やっぱこの開発者が作ったゲームはリアリティがおかしいわ。五感が本物すぎる
5 名無しのプレイヤー
始まりの街をあてもなく散歩してるだけで一生楽しいわ
6 名無しのプレイヤー
NPCと普通に会話してるだけで楽しいんだよな。AIどうなってんだ
7 名無しのプレイヤー
ってか皆、今どれくらいまで進めてる?
8 名無しのプレイヤー
>>7
とりあえず最初の門を出て、次の街まで進んでみてるわ
9 名無しのプレイヤー
>>8
その街って、始まりの街と何か違う施設とかある?
特にないなら急がずのんびり観光しようかと思ってるんだけど
10 名無しのプレイヤー
>>9
そこはギルドの街みたいな感じだな。
プレイヤー同士のクラン結成とか、職業ギルドがあって転職とかできる。スタートダッシュ決めたいなら早めに来た方がいいぞ
11 名無しのプレイヤー
>>10
マジか! ありがと!
急いで街道突っ切るわ!
12 名無しのプレイヤー
ところでさ、キャラクリの時にあった「オリジナルスキル」って何なの?
13 名無しのプレイヤー
>>12
あー、それ俺もめちゃくちゃ気になってる
14 名無しのプレイヤー
>>12
街のスキル習得所に行くと詳しい仕様が聞けるぞ。
既存のゲーム内スキルを自由に掛け合わせたりして、新しいスキルを自作できるシステムらしい。想像した効果も、条件さえ達成すればシステムが自動構築してくれるんだと
15 名無しのプレイヤー
マジかよ! そんなのスキル構成考えてるだけで日が暮れるやつじゃん
16 名無しのプレイヤー
しかも自分で作ったオリジナルスキルは命名権が貰える上に、特許みたいなの取れて、プレイヤーに公開すればお金が入る仕組みもあるらしい。
17 名無しのプレイヤー
神システムかよ! 俺だったら絶対に誰にも教えずに独占して自慢しちまうわww
18 名無しのプレイヤー
なんちゅーシステム実装してくれたんだ開発者は……興奮が収まらねぇ
19 名無しのプレイヤー
ってか、スキルとかレベル上げのために戦闘してたけど、序盤なのもあって結構簡単っていうか、ちょっとぬるくね?
20 名無しのプレイヤー
>>19
退屈なら『始まりの森』の奥に行ってみなよ
21 名無しのプレイヤー
>>20
始まりの森? あそこって雑魚のゴブリンくらいしかいなくね?
確かにちょっと手強いけど、動き自体はシンプルだし……まぁレベル上げにはいいけどさ
22 名無しのプレイヤー
>>21
お前、あの奥にいる『サイクロプス』見てないの?
23 名無しのプレイヤー
サイクロプス!?
24 名無しのプレイヤー
サイクロプス!? 初期エリアにそんなのいるの!?
25 名無しのプレイヤー
あ、それ俺のパーティーもさっき遭遇したわ……。
5人で挑んだけど、あれ現時点で勝てる奴絶対にいないでしょ。全長10mくらいあるし、火力も防御力も設定ミスレベルでおかしい。しかも弱点の一つ目を腕で守るように立ち回るし…
26 名無しのプレイヤー
いや、でもそんなバケモノを今倒せば、確実に全サーバーで圧倒的スタートダッシュになるし、他のプレイヤーからの羨望を独り占めできるはず……!
27 名無しのプレイヤー
いいねぇ。いっそのこと、この後残ってるやつらでパーティー組んで狩りに行かね?
28 名無しのプレイヤー
いいね! 乗った!
29 名無しのプレイヤー
俺も行くわ! 祭りだ!
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「ふふ、さすがはマスター。他のプレイヤーたちが絶望している隠しボスを、あっさりと突破してしまっていますね」
掲示板のログを眺めながら、アジーンは誇らしげに、しかし少し呆れたように微笑んだ。
「てかさー、アーちゃんいいの? マスターのあのオリジナルスキル。あれ、完全にゲームバランス崩壊してない?」
横になっていたトリーが上半身を起こし、ジト目でアジーンを見る。
「確かにね。マスターの〈理の再記述〉は相当やばいよ〜?」
コンソールを叩くドヴァーも同意するように苦笑した。
「そこは心配ご無用です。本来はもっと制約があるはずなのですが…調べてみて驚きました。マスターも本当に容赦がありませんね。まさか自力でセキュリティホールを作り出し、バックドアを仕込んでほとんどの制約をバイパス(無効化)していたなんて」
「うわー、マジだし…」
「さすがマスターだね~、こんなことされるならより一層監視を強化しないとね~」
アジーンはすっと目を細め、かつて自分たちを育て上げてくれた創造主の顔を思い浮かべる。
「とりあえず私たちでしっかり『調整』を施しておきましょう。あんな力技、そう何度も通じると思わないでくださいね、マスター?」
「あはは! やっぱりアジーンはマスターに甘いようでいて、実は一番容赦ないよね〜」
「う、うるさいですトリー! ……これから現実世界も夜になり、さらにログイン人数が増えるんですから、遊んでないでしっかり業務に戻ってください!」
「はーい」「了解っしょ」と二人のAIが笑いながら応じる。
赤くなるアジーンを横目に、AIたちは再び、創造主レイがログインしてくるであろう未知の世界の管理業務へと戻るのだった。
「まだまだ楽しんでもらいますよマスター、そしていつかは…」
こういった裏話や掲示板の会話みたいな話個人的に好きなんですよね。
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