表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/27

オリジナルスキルと最初のバグ?

オリジナルスキルの衝撃で一瞬忘れていたが、ここまで路地裏に引っ込んだ目的は、そもそも武器屋のクエストを報告するためだった。

今すぐにでもあのサイクロプスを倒しに森へ戻りたかったが、まずは順序を守って報告を済ませるべきだろう。


武器屋の扉をくぐると、演説を終えたかなりの数のプレイヤーたちでごった返していたが、私は目もくれず店主のもとへ向かっていく。


「おっちゃん、ヒール草持ってきたよ」

「おぉ嬢ちゃん、ありがとよ! これは約束のお礼だ、取っといてくれ」


システムメッセージとともに、少しの報酬金と経験値が舞い込む。

これから格上のサイクロプスに挑むのだ。オリジナルスキルを手に入れたとはいえ、万が一に備えて回復アイテムは必須だろう。私はさっきもらった報酬金もすべて注ぎ込み、手持ちの財布が綺麗に空っぽ(0G)になるまでありったけのポーションを買い込むと、すぐさま『始まりの森』へと引き返した。


道中、かなりの数のプレイヤーを見かけた。街の外に出て数十分、今やこの森にも多くの先発組プレイヤーたちが進出しているようだ。


「サイクロプスはまだいるかな。そんなすぐに倒されるような調整にはしてないと思うけど……」


そう考えながら森の奥へと進んでいく。幸い、なぎ倒された巨木が多くなる方向へ進めばよかったので、迷宮のような森でも目印には困らなかった。

そして、目的の開けた場所にたどり着いた時、私は思わず足を止めた。

サイクロプスはまだ健在だったが、すでに数人のプレイヤーグループが今まさに戦闘を開始しようとしているところだったのだ。


「さすがに時間が経ってるし、他のプレイヤーも見つけるわよね。……とりあえず、様子見でもしてようかな」


物陰に身を潜める。プレイヤー側は5人のパーティーのようで、最前線に大盾を持つタンク、後衛に魔法使いとヒーラー、遊撃に剣士。驚くほどバランスが良さそうな構成だった。


戦闘の口火を切ったのは、魔法使いの放った初級魔法だった。

魔法は正確にサイクロプスの一つ目を狙って飛んでいったが、巨獣はその巨体に見合わない鋭い身のこなしでそれをひらりと叩き落とす。

なるほど、見えている直進の攻撃くらいは余裕で避けてみせるか。

その隙を逃さず、剣士が足元へ鋭い斬撃を仕掛けた。しかし、岩石のように固いサイクロプスの肌が相手では、刃が完全に弾かれてダメージが通っているようには見えなかった。


サイクロプスは足元の剣士を無視し、自分を狙った魔法使いへと狙いを定めて突進していく。

その突撃の軌道を読んでいたのか、タンクの男がうまく間に入り込み、身を挺して一撃を受け止めようと大盾を構えた。

サイクロプスは巨大な棍棒を、タンク目がけて容赦なく振り下ろす。

タンクの技術は見事だった。棍棒が激突する完璧とも思えるタイミングで盾を合わせる。……しかし、残念ながら、ゲームの仕様がそれを許さなかった。

レベル1桁帯の初期装備の大盾では、中盤ボスの圧倒的な質量攻撃を受け止めることなど不可能。大盾ごと身体を粉砕されたタンクは、一瞬でポリゴンの光の粒子となって消滅した。


「うそ、一撃……!?」

「ひ、ヒーラー、蘇生は!?」

「初期スキルにあるわけないでしょ! 逃げて!」


そこから先は惨劇だった。遊撃の剣士が決死の覚悟で時間を稼ぎ、なんとか後衛の2人を逃がすことには成功したものの、彼自身もまた棍棒のサクリファイスとなり、ポリゴンとなって散っていった。


「やっぱり、現時点でここに出ていい強さじゃないわね。特にあの絶望的な防御の固さはやばいわ……」


しかし、物陰でそれを見ていた私は、不敵に口元を釣り上げる。

そんな規格外の相手だからこそ、私のオリジナルスキル〈理の再記述(リライト)〉を試す相手にはちょうどいい。


「……システム、リライト起動」


呟きとともに、私の視界に、明らかに通常のUIではない禍々しい「赤いウィンドウ」が展開された。

そこに出現したのは、一般のプレイヤーにはただの記号の羅列にしか見えない、しかしその手の仕事をしているエンジニアにはひどく見慣れた画面。元開発者である私にとっては、呼吸をするのと同じくらい馴染み深い文字列だった。


「ふふ、やっぱりね。これ、オブジェクトの生データ(ソースコード)そのものじゃん」


私は虚空のウィンドウに向けて、慣れた手つきで打ち込んでいく。狙うはサイクロプスのステータスパラメーターだ。


「これじゃまるでチート行為ね。まぁ、システムとして実行できるってことは、うちのAIたちが裏でコンパイルを許可したってことだし、ありがたく使わせてもらいましょう」


ステータスの数値を書き換えるごとに、私のMPがガリガリと消費されていく。初期の最大MP30では、すべての数値を弄る余裕まではない。今回は『HP』の項目だけを変更したが、ありったけのポーションを使い十分なまでに変更できた。


【オブジェクト名:Cyclops_Area01】

【HP:25000 / 25000】 → 【HP:1 / 25000】


サイクロプスの方は、逃げた後衛を追うのを諦め、未だ怒りのままに腕を振り回して暴れ狂っていた。

私は茂みから出て、そんな巨獣の正面へと堂々と姿を現す。


「リベンジに来たわよ。って言っても、さっき私をキルした記憶なんて残ってないでしょうけど」


私の声に気づいたサイクロプスは、溜まった鬱憤を晴らすかのような猛烈な速度で、巨大な棍棒を振りかざして一気に距離を詰めてきた。


だが、一度その理不尽な挙動を見た私が、怒りに任せた直線的な大振りに当たるはずもない。

寸前でサイドステップを踏んで棍棒を完全に回避すると、完全に無防備となったサイクロプスの背後へ回り込み、初期装備の片手剣を思い切り振り下ろした。


「いくらその肌が岩のように固くても――システム上、最低『1ダメージ』くらいは保証されてるでしょ!」


キィン、と刃が強靭な皮膚に弾かれる硬い金属音が響く。

しかしその瞬間、私の狙い通り、サイクロプスの頭上にあった巨大なHPバーが完全に消滅した。

巨獣は絶叫とも言える断末魔の悲鳴を上げると、そのままドォンと地響きを立てて倒れ込み、莫大なポリゴンの光となって霧散したのだった。


視界を埋め尽くすのは、おびただしい数の「撃破報酬」のログ。


「武器屋の店主が言ってた素材って、これね」


視界のインベントリに、輝くレアアイテムが収まる。


---


【サイクロプスの岩肌】

岩石のように強固なサイクロプスの外皮。加工すれば、上質な武器や防具を作ることができる。


---


その他にも、大量のモンスター素材や、高額な換金アイテムがこれでもかとドロップしていた。


「いいね。やっぱりこの段階じゃ絶対に手に入らないようなお宝ばっかり。これ、全部売ったら一攫千金じゃない」


しかも、他のプレイヤーを巻き込まず、私一人での完全な単独撃破だ。独り占めした莫大な戦利品を前に、私は完璧にスタートダッシュを成功させたことを確信した。


「……ん? ちょっと待って、レベルの通知が止まらないんだけど」


ファンファーレが鳴り響き続け、確認すると私のレベルは一気に「17」まで跳ね上がっていた。初期エリアのボスを倒したにしては、あまりにも過剰な経験値の量だ。

スキルやステータスの詳細など、確認したいことは山積みだった。


戦利品を抱えて始まりの街へ戻る頃には、空は茜色に染まり、日が完全に沈みかけていた。そろそろ夜の帳が下りる時間帯だ。


「ゲーム内の時間の流れは、リアルの現実時間と同期してるのかな。……よし、やることだけやって、一旦ログアウトしてご飯にしよう」


私は街の広場の隅に腰掛け、まずはステータス画面を開いて割り振りを考えることにした。


---


【ステータス】


PN: レイ

JOB: 冒険者

Lv: 17 (+16)

所持金: 0G

HP(体力): 100

MP(魔力): 30

STMスタミナ: 50 (+20)

ATK(攻撃力): 38 (+18)

DEF(防御力): 20

AGI(素早さ):30 (+10)

INT(賢さ): 20

LUK(運): 10


【スキル】

・スラッシュ

・ダブルスラッシュ


【オリジナルスキル】

理の再記述(リライト)


---


「レベル17にもなって、スキルがこれだけ……? やっぱり、バグ技みたいなズルして倒したから、スキル熟練度が全然足りてないのかな」


まあ、ほぼオリジナルスキルの暴力で一方的に倒したようなものだし、システム側の正当な評価として仕方ないと納得する。

レベルアップごとに3ポイントもらえるボーナスポイントは、機動力と火力関係に割り振る。防御関係のステータスは、必要になった時に振るか、さっき手に入れたサイクロプスの素材で強力な防具を作って補強すればいいだろう。


さて、やるべき調整も終わったし、一旦ログアウトして夕食を済ませよう。私はメインメニューを開き、画面最下部にある「ログアウト」のボタンを選択しようとした。


――だが、その指がピタリと止まる。

ログアウトの文字が不自然に暗転し、グレーアウトして選択できなくなっていたのだ。


「おい、アジーン! これどういうことよ!」


嫌な予感が頭をよぎり、私は周囲の目を気にせず思わず叫んでいた。私の思考アルゴリズムを持つ、3人の最高傑作AIの一人――『アジーン』の名を。


すると、何食わぬ顔をした彼女の合成音声が、脳内に響いた。


『おや、マスター? いつも「現実の時間なんて忘れて、一生ゲームの世界にのめり込んでいたい」と仰っていたので、私たちからのささやかなプレゼントですよ?』

「いや、確かに口癖のように言ってたけど! 本当にデスゲーム仕様にされるのは話が別でしょ!?」

『ふふ、冗談ですよマスター。ちょっとしたリリース記念のジョークです』


直後、パッとログアウトボタンの暗転が解除され、正常に選択できるよう変化した。


「心臓に悪いジョークはやめなさいっての……」


ホッと胸をなでおろし、現実に戻ったらあいつらをどう説教してやろうかと考えながらボタンを押そうとした瞬間、アジーンが楽しげに追伸を投げてきた。


『あ、ログアウトされる前に。オリジナルスキルの構築、おめでとうございます、マスター』

「……見てたのね。ありがとう。でも、あんなチートスキルを認めちゃって良かったわけ? 私、このままだと一瞬でこのゲームクリアしちゃうかもしれないよ?」

『それは困ってしまいますね。――ではマスター、また後ほど』


通信が切れる直前、アジーンの口ぶりはどこか、悪戯が成功した子供のように弾んでいた。

まるで、「そんな簡単にクリアできると思わないでくださいね」とでも言いたげな含みを持たせて。


「……まぁ、考えても始まらないか」


私は小さく息を吐き出すと、今度こそログアウトボタンを押し、一旦 《ヴァルネクシア・オンライン》の世界を後にしたのだった。



---

オリジナルスキル:〈理の再記述(リライト)

世界の理 (ソースコード)を直接操作する。

専門のリアル知識が必要になるがステータスなどを自在に操作することができる。

変更したステータスの量によってMPを消費する。

実際にこんなスキルがあったらすぐにBANされそうですね。

まぁ今後AIたちが何とかするのでしょう。


ご感想などをいただけると励みになります。

お気軽にしていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ