ギルド対抗戦 その2
突如襲ってきたギルドを返り討ちにした【シーカーズ】の面々は、ゴツゴツとした岩山を登っていた。
「しっかし、さっきのギルドの奴ら、宝箱は1つだけだったな」
「そうだな。40人もいたらしいが、それでも1つということは、それだけドロップ率が低いのだろう」
イベント開始から1時間程度ということもあり、宝箱を確保できているプレイヤーはまだ少ないようだ。
「それよりこの山、登りにくいね……ピクニックには向いてないかな。……ところでカイゼは?」
「あぁ、さっきの戦闘で飛んでもらったついでに、頂上までの安全確認をお願いしてるよ」
レイが答えていると、上空からカイゼが滑空して降りてきた。
「とりあえず上まで見てきたけど、近くに敵もモンスターもいなさそうだったよ。ただ……かなり遠くだけど、大規模な戦闘が起きてるみたい!」
その報告を受け、全員で山頂へと急ぐ。
頂上から遠方を眺めると、確かに眩しい魔法の閃光や爆発がはっきりと確認できた。
「マップで見てみた感じ、宝箱を持ってるプレイヤーがかなり集中してるね」
アイが開いたマップウィンドウには、宝箱の所在地を示す光点が密集していた。
「ハイエナがハイエナを呼んで大混戦になった感じかな? ふっふっふ、私に見つかったのが運の尽きだね!」
「だな! 全部まとめていただきといくか!」
一同は不敵な笑みを浮かべ、大戦闘が繰り広げられているエリアへと駆け出した。
◆
到着した頃には戦闘がさらに激化しており、もはやカオスな乱闘騒ぎと化していた。
戦場を見下ろせる高い崖の上に着くと、先客のプレイヤーたちがいたが、一瞬で蹴散らされる。
「山の上から見下ろした時より、さらに激しくなってるな……」
「これだけ騒いでれば次々と集まってきても不思議じゃないよね。どう調理したものかな」
どう突入すれば一番おいしい思いができるか思案していると、カイゼがニヤリと笑って口を開いた。
「とりあえず、レイ1人で切り込んできたら? 私たちはこの位置をキープして、いいタイミングで参戦するからさ!」
「……確かにその方がいいかも。全員で行って何かの拍子で全滅するリスクも減るし、この高所を守るだけなら簡単だしね」
「ちょっと待って!? カイゼもアイも、私のこと何だと思ってるの!? 全員で殴り込んだ方が早いでしょ!」
レイの抗議もごもっともであったが――
「文句は聞いてませーん! それじゃあ、いってらっしゃい!」
「きゃぁぁっ!?」
カイゼは背後からレイの背中を全力で蹴っ飛ばした!
まさか蹴られるとは思っていなかったレイは、凄まじい勢いで崖を走り落ちるように戦場の中央へ突撃していく羽目になる。
「ばかやろぉーーー! なにしてんじゃーーーっ!?」
遠ざかっていく怒号をスルーし、カイゼが何食わぬ顔で会話を切り替えた。
「さて、強引だけどこれで作戦を動かせそうかな」
「……あとでレイに怒られても知らないよ? さて、アジーンを探しますか」
実はカイゼたちは、レイに内緒でアジーンの作戦を始動させるため、強引にレイを単独行動させたのだ。
「呼びましたか! アイ!」
その時、背後からひょっこりと声が響く。
「アジーン!? いつ間に!?」
「ふっふん! 皆さん隙だらけですよ? 私がその気なら今頃全滅していましたよ!」
アジーンは楽しそうに小悪魔的な笑みを浮かべる。
「……とりあえず合流できて良かったよ。どうするアジーン? すぐに参戦する?」
「そうですね……どうせなら、こう……もっと劇的なタイミングで登場したいですよね! さてさて、マスターは今どうしてるかな?」
全員で崖下を覗き込む。
◆
「うぅ……いてて、何とか生きてる……」
一方その頃、レイは崖を強引に走り降りて無事(?)に戦場へと到達していた。
とはいえ減速できずに木へ思いっきり激突したため、大ダメージを受けていたのだが。
ポーションでHPを回復しながら、周囲の様子を伺う。
「さて、こっちの戦況はどうなってるかな……?」
ふと見回すと、さっきまで殴り合っていた周囲のプレイヤーたちが一斉に手を止め、ジッとレイを見つめていた。
猛スピードで木を砕きながら突っ込んできた謎の影に、全員が注目してしまったのだ。
いつの間にかローブもなくなっていたため正体もばれてしまう。
「おい、あれってレイじゃね!?」
「あいつ、宝箱持ってるぞ!!」
「殺せーっ! 宝箱を奪えーーっ!」
「おいーっ!? あんたたちさっきまで殺し合ってたじゃん! そのまま戦ってなよ!」
悪態をつきながらも、群がるプレイヤーたちを瞬く間に斬り伏せ、レイは木々を飛び移って逃走する。その圧倒的な機動力についてこれる者はおらず、木の上で一息ついた。
「ふぅ……カイゼめ、面倒なことしてくれやがって……」
合流したらどう仕返ししてやろうか考えていた、その時――。
レイと同じように、木々の枝を驚異的な速度で跳び渡ってくる黒い影があった。
「くっ、飛来物!?」
放たれた手裏剣を身を捻って回避し、武器を構える。
しかし謎のプレイヤーは追撃を行わず、レイの目の前の枝へ軽やかに着地した。
「ドーモ。レイ=サン。ハンゾウです」
ハンゾウと名乗ったその男は、いかにもニンジャめいた頭巾と黒装束に身を包んでいた!
「ドーモ。ハンゾウ=サン。レイです」
アイサツ完了。これより始まるのは殺し合いである。
しかし、アイサツは大事だ。ゲームのルールにもそう書いてある。
「その宝箱はもらっていくぞ……死ねーッ!」
ハンゾウが動いた! 速い! あまりにも速い!
それはまさにニンジャの先制攻撃! 獲物の隙を突き、間合いを一瞬で詰める電光石火の一撃!
しかし! レイは動じない!
「イヤーッ!」
回避! ハンゾウの刀は空を切った!
「な、何ィーッ!?」
すかさずレイの反撃!
「イヤーッ!」
斬撃!
「グワーッ!」
さらに重なる高速の連撃!
「グワーッ!」
ハンゾウは成すすべなく斬り伏せられていく!
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
アワレ! ハンゾウは木から真っ逆さま!
落下! 落下! そして落下!
ズドン!
……とはならなかった。
地面に激突するより先に、ハンゾウの肉体は光の粒子へと変換されたのだ!
ポリゴンである!
ハンゾウは爆破四散した。
宝箱は、レイの手中に留まった。
「……なんだったんだ今のプレイヤー……見方もいないみたいだし……こっちも乗っちゃったけど……」
呆気にとられるレイだったが、今のドタバタで木の上にいることが露呈し、下から大量の遠距離攻撃が飛んでき始めた。
(ここに居続けるのは危険か……それなら、大暴れしてやりますか!)
レイは剣を構え、樹上から敵陣のど真ん中へダイブ!
赤い残光を引く疾風と化し、手当たり次第に敵を斬り倒していく。そのあまりの猛威は、後に【赤きカマイタチ】として語り継がれることになる。
◆
一方その頃、カイゼたちも戦場へと降り立っていた。
レイが森の奥へ入ってしまい見失ったことと、高所で待つのが退屈になったからである。
「さて、私たちも暴れますか!」
「だな! レイの後を追いながら、目の前の奴らは全員叩き潰していくぞ!」
「だね! アジーンはどうする?」
「私はマスターを追います! アイ、また後で合流しましょう!」
言うや否や、アジーンは風のような身軽さで姿を消した。
「相変わらず凄まじい機動力だな……。さぁ、我々も行くとするか!」
こうして【シーカーズ】の本隊が参戦。その蹂躙とも言える圧倒的な強さは、「ヤバいのはレイとカイゼだけではない」という絶望を戦場全体に知らしめていくのだった。
◆
それからどれほどの時間が経っただろうか。
レイもカイゼたちも思い思いに暴れ回り、戦場は死屍累々となっていた。それでもプレイヤーの波は引かず、まさにイベント最大の天王山であった。
「ふぅ……かなり倒したし、宝箱もいくつか手に入ったな。そろそろ合流したいところだけど……」
物陰で息を整えていたレイの耳に、突如として空を切る嫌な音が響いた。
正確無比に狙われた魔法が飛んでくる。
間一髪で回避したレイだったが、その着地際を狙うように、物陰から1人の男が鋭い一撃を繰り出してきた!
ガキンッ!!
レイはドレッジの武器で間一髪受け止める。
「おいおい、相変わらず鋭い反応だねぇ、レイ……いや、本条零!」
まさかVNOの中で本名を呼ばれるとは思っておらず驚くレイだったが、そのキザな喋り方と声には聞き覚えがあった。
「ヴェクサシオン……! 相変わらず嫌みな名前だね。プロゲーマー様が私に何の用?」
「その反応はビンゴだね!この業界で長く目立っていくには、これくらいが丁度いいのさ! それに、トッププレイヤーを見つけたら突っ込んでいくのが配信者の矜持だろ?」
鍔迫り合いの最中、軽口を交わして互いに距離を取る。
「さぁみんな! なんとVNO屈指の有名人、あのレイちゃんと遭遇したぞ! 配信を見てるみんな、応援よろしくな!」
「相変わらずキザったらしいね! っていうか、さっきの本名入ってないでしょうね!?」
「問題ない、その瞬間はマイクをミュートにしてたからね!」
刃を交えながらも、軽快なトークを繰り広げるヴェクサシオン。
「それよりプロの大会期間中でしょ! こんなところで遊んでていいわけ!?」
「おかげでVNOを始めるのが遅れたからね! お詫びに、俺が勝ったら次のキャラクター調整に口を挟ませてもらうよ!」
「そんな条件呑めるわけないでしょ! 負けるつもりも毛頭ないけどね!」
会話とは裏腹に、互いの動きは研ぎ澄まされていく。
そこへ、物陰から正確無比な追撃の魔法が飛んでくる!
最小限の動きで回避したレイだったが、プロゲーマーはそのわずかな隙を見逃さず、鋭い斬撃でレイのHPを削ってきた。
それ以上の追撃を避けるため木々を伝い上へと逃げる。
「プロゲーマーが2対1なんて、恥ずかしくないの!?」
「ここはMMOなワケ、なら卑怯とかないヨネ。それよりエスケープなんてつまらないマネはしないヨネ?」
奥から現れたのは、ヴェクサシオンと同じチームで活動しているセレニティだった。
「やっぱりセレニティか。厄介なコンビだね……。安心しなよ! ここで逃げるなんて、しけた真似はしないからさ!」
不利な状況であるにもかかわらず、レイは不敵に微笑んで武器を構え直す。このヒリつくような真剣勝負を、心から楽しんでいた。
「そう来なくっちゃな! さぁ、ここからが魅せ場だ! みんな応援してくれよ!」
「死んだら感謝してヨネ、私たちのムービーの見せ場になれたんだカラ!」
◆
レイが強敵2人を相手に死闘を繰り広げている頃、カイゼたちもまた、大集団の包囲網と向き合っていた。
「おらおら! 私たちを倒さない限り、この魔法の雨は止まないぜ!」
ライカたちが前衛として立ち塞がり、押し寄せる大群を食い止める。
「突破しろ!」「くっそ、こいつら装備が固すぎる!」「おい、あいつ何発魔法を撃ってんだ!? ポーションも飲んでないのにMPが尽きないぞ!」「こっちの射程外から魔法打たれてどうしろってんだ!」
暴れすぎた結果、周囲のプレイヤーたちが一時的に同盟を組み、シーカーズ本隊へ襲いかかっていたのだ。だがシーカーズ側も、正面からしか攻撃できない狭い地形へ誘導し、完璧に完封していた。
「おっしゃぁぁ! テンション上がってきたぜ! 【鋼鉄の肉体】!」
ライカが力強くポージングを決めた瞬間、凄まじい筋圧によって着用していた防具が一弾けて跳び散った!
「あいつの防具が壊れたぞ!」「今だ、狙え!」「宝箱を奪えええっ!」
恐ろしさを知らない哀れなプレイヤーたちが一斉に群がる。
しかし、何本もの剣や槍がライカの素肌に突き刺さるが――ガキンッ! と甲高い金属音を立てて弾かれた。
「ハハハ! そんな生ぬるい攻撃、効くわけねぇだろ!」
筋力モンスターと化して暴れるライカの背後で、カイゼがあきれ顔で魔導書を開く。
「な〜にやってんだか、ライカは……。それにしても、しつこい奴らだね。そんなに宝箱が欲しいのかな?」
「そりゃ欲しいでしょ。まぁ流石に多すぎるけどね。私の弓じゃ範囲攻撃は限界があるし、このまま焼き払い続ける?」
「それでも良いんだけど……向こうの後衛が耐性バフを配り始めて効きが悪くなってきたんだよね。だから……新しい魔法を試してみる! バスタ! オニオン! こっちに来て!」
「そんなのいつの間に覚えてたの!?」
「この魔導書、読めないページがあったんだけどレベルとステータスが上がったら読めるようになったんだよ!」
バスタとオニオンが下がったのを確認し、カイゼが巨大な魔法陣を展開する。
「ライカなら多分耐えるでしょ! 【アースインパクト】!!」
ドゴォォォォンッ!!
それは、まさに地形そのものを変貌させる天地鳴動の大魔法であった。
大地が大地震のように激しく揺れ動き、突如として隆起した岩の尖塔が敵陣を貫く。
「おい、なんか足元が……!?」「隆起して――うわあああぁぁっ!?」「逃げろ、全滅するぞ!!」
地割れに呑み込まれ、岩石に突き上げられ、群がっていたプレイヤーの大半が一瞬で光の粒子となって消滅していく。
攻撃が収まった頃、隆起した地形は何事もなかったかのように元に戻っていたが、あんなにいた敵群は跡形もなく消え去っていた。
「さぁ……まだ続ける? 今すぐ逃げるなら見逃してあげるけど?」
生き残ったわずかなプレイヤーたちは、カイゼの笑顔に恐怖し、悲鳴を上げて一瞬で逃げ出していった。
「馬鹿野郎!この肉体がなかったら死んでたじゃねぇか!」
「生きてたんだからいいでしょ」
「あのような大魔法が使えたとはな……なぜもっと早く使わなかったのだ?」
「さすがにクールタイムが長くて連発はできないからね〜」
オニオンの疑問に答えつつ、レイと合流するために移動を開始しようとした、その時――。
ヒュンッ!
上空から正確無比な魔法が降り注ぐ!
「危ねぇっ!」
ライカが咄嗟に割り込み、鋼鉄の肉体で魔法を受け止める。
「ふん! この程度の魔法じゃ、今の俺は傷つけられんぜ! 出てきやがれ!」
煽りに応えるように、木々の奥から洗練された集団姿を現した。
「うーん……今の一撃で何人かは倒せると思ったんですけどね!」
「やはり油断ならない相手だね。だが、あの大魔法は連発できないはずだ。今こそが叩き時だよ」
姿を現したのは、ブライト率いる最強ギルド【クォーク・レギオン】であった。
こうして、【シーカーズ】本隊との決戦の火蓋が落とされるのだった――。
パロディをやってみたかったのです……




