ギルド対抗戦 その1
【シーカーズ】の面々が転送されたのは、周囲に障害物すら見当たらない広大な草原だった。
「すげー開けた草原だな! 悪くない場所に出たんじゃねーか?」
「うむ、これならば不意打ちも易々と受けまい」
周囲を警戒しながら呟く。今のところモンスターの気配もなく、しばらくは安全そうであった。
「そういえば、細かいルールはどうなってたんだっけ?」
「相変わらず確認してないんだねバスタ。とりあえず覚えておいた方がいいのは、デスするごとにペナルティが追加されること。まぁこれはギルドの規模が大きいほど重くなるみたいだけどね。それと装備は破壊されても終了後に修復されて戻ってくる。制限時間はゲーム内で5時間の短期決戦みたい。相変わらず凄い技術だね、レイ」
「それは私だけが作った技術じゃないけどね、アイ。VRが今の形式になった頃からある技術だよ。……あ、そうだ! これを渡しておくね」
そう言ってレイが取り出したのは、全員分のシンプルな隠密用ローブだった。
「他のプレイヤーを狙うとなると、私たちは有名すぎて警戒されちゃうからね。こうして装備を隠しておけば、油断した相手を誘い込めるでしょ?」
レイの提案に納得し、全員が装備の上からローブを羽織っていく。
「さて、準備完了! それじゃあどうやって動こうか?」
「そんなの、宝箱をガッツリ稼ぐために自分から戦いに行くに決まってるじゃない!」
カイゼのやる気満々な宣言に全員が大きく頷き、まずはモンスターを探して進むことにした。
◆
開けた草原ということもあり、すぐにモンスターを発見することができた。
しかし、そこに立ち塞がっていたのは、平原には似つかわしくないほど禍々しい異形であった。
「なんだあいつ……クトゥルフ神話とかに出てきそうな見た目だな」
「うむ、そうだな。SAN値チェックでもしておくか?」
「ファンブルしそうだから遠慮しておこうかな……でも、あの触手を切って料理できないかな?」
恐ろしい化け物を前にしているとは思えない呑気な会話が繰り広げられる。
「そんなゲテモノ食べたくないよ! ……って、どう見てもヤバいやつだし油断しないでいくよ!」
「だね! レイも見てるし、作ってもらった装備で格好悪いところは見せられないからね!」
「他のギルドの乱入にも気を付けて戦っていかないとね! 【ライトニング】!」
カイゼの雷魔法とアイの射撃を合図に、戦闘が始まった。
そこからは完璧な連携であった。無数に蠢く触手を1本、また1本と切り落とし、あっという間に巨大な異形を鎮圧してしまう。
「あれ? 見た目の割にそんなに強くなかったね」
「だな。触手の数は多かったが、耐久値は大したことなかったぜ」
「私たちが強くなりすぎただけだろうな。本来なら多数の触手による怒濤の連続攻撃で手強い相手だったはずだ」
オニオンの推測は正しかった。レイが新調した装備の威力が規格外だったため、敵の攻撃を許す前に触手をすべて切断し、完封してしまったのだ。
「それより、これがドロップした宝箱だね」
アイが拾い上げた宝箱は、倒したモンスターを反映したような禍々しい装飾が施されていた。
「どれどれ……『所持中は周囲のプレイヤーに位置が探知される』か。特殊効果付きの宝箱ってことね」
「だったら私が持つよ!」
カイゼが迷わず手を出した。レイとカイゼは初期配置として位置バレ効果付きの宝箱を所持してスタートしているため、1つ増えたところで大差ないと判断したのだ。
そんな頼もしいやり取りの横で、香ばしい(?)匂いが漂ってくる。
「みんなー! あいつの触手を焼いてみたよ!」
バスタがさっそくフライパンを使い、触手を調理して持ってきたのだ。
「黒い煙が上がってるんだけど!? っていうか焼いただけでしょそれ!?」
「食べてみたら意外と美味しいかもしれないじゃん! どれどれ……うっ!?」
バスタは一口かじった瞬間、顔を歪めて悶絶し始めた。
「ど、どうした!? 毒か!?」
「ま……まずい……っ!」
毒ではなく単純に絶望的な味だったようだ。一同の緊張は解け、温かい爆笑に包まれる。
「あはは! 美味しいわけないでしょ! さぁ、どんどん次のターゲットを探そう!」
◆
こうして【シーカーズ】は草原を駆け抜けていった。
道中で何度かモンスターと遭遇したものの、最初ほどの強敵はおらず、宝箱もドロップしなかった。
そうして1時間ほどが経過した頃、周囲の景観がガラリと変わり始めた。
そこは、先ほどの平原とは打って変わって、巨大な岩石が無数に突起する見通しの悪い岩山エリアであった。
「しっかし、全然宝箱を落とさねぇな。最初のやつはレアだったのかもな」
「うむ。岩場が増えてきた、不意打ちには警戒せねばな」
そんな【シーカーズ】の動きを、離れた岩陰からじっと見つめる視線があった。
「おい……! あいつら最低でも宝箱を2つ持ってるぞ!」
「マジか!? 見たところ人数は6人……少人数ギルドだ! チャンスだぞ!」
岩場の影に潜んでいたのは、なんと40人規模のギルドであった。
「魔法部隊、あそこまで届くか!?」
「えぇ、射程圏内よ!」
「よし……全員一撃で仕留めるぞ! 撃てぇぇっ!」
号令と共に、一糸乱れぬ魔法陣から大量の火の玉が展開され、一斉に【シーカーズ】の頭上へ降り注いだ!
◆
「みんな! こっちの岩陰に隠れて!」
いち早く異変に気づいたアイの叫びを受け、全員が素早く巨大な岩の裏へ飛び込む。
直後、彼らがいた場所へ凄まじい密度の火の玉が着弾し、激しい爆炎と地響きが巻き起こった。
「すげー威力と数だな! こりゃかなりの人数が隠れてやがるぞ!」
「助かったぞアイ。やはり隠れて機を狙うを狙う集団がいたか」
「たまたま視線を向けたタイミングが良かっただけだよ。……それにしても、あんな挨拶をされて黙ってるのは性に合わないね」
アイが不敵な笑みを浮かべる。レイもその言葉に賛同する。
「だね! 敵プレイヤーを倒すほど報酬も増えるんだし……そろそろ本気で狩りに行こうか! それじゃあみんな、暴れるよ!」
◆
「当たったか!? 慎重に距離を詰めて囲め!」
魔法を放ったギルドのメンバーが警戒しながら前進を開始した、その瞬間――。
岩陰から、黒いローブを翻した一筋の影が凄まじい速度で飛び出してきた。
「なっ……速い!? タンクをスルーされたぞ!?」
レイは足場の悪い岩場を軽々と跳び越え、一瞬で敵の後衛の懐へと潜り込む。
「遅すぎるよ! まずは後衛から崩させてもらうね!」
レイの目的は単独撃破ではなく、詠唱の阻害と混乱を起こすこと。鮮やかな連撃で魔法職たちを切り伏せ、敵陣のラインを破綻させていく。
「くそっ! タンク陣の半数は後衛の救援へ回れ! 残りはあっちの岩陰から出てくる本隊を叩け!」
混乱する敵陣に対し、アイの声が響き渡る。
「レイが良い感じに掻き乱してくれたね! 前衛チーム、行っちゃって!」
「任せろ! 別に全員叩き潰してしまったもいいんだろ!?」
「不安になるセリフだねぇ……カバーは任せてよ、全員まとめて調理してあげる!」
「うむ! あとライカ、レイから『まだ先は長い、【鋼鉄の肉体】は使わないでね』と伝言だ」
「分かってるさ! テンション上がって使いそうになったがな! さぁ、行くぜぇぇっ!」
先頭を切って突撃するライカ!
「いたぞ!」「相手は少数だ、恐れるな!」「囲んで叩け!」
息を吹き返した敵のタンク陣が群がってくるが、ライカは大剣を豪快に振り抜き、正面からぶつかり合った。
ドゴォォンッ!!
「なっ……!? グランさんを吹き飛ばしたのか!?」
筋力極振りの力と重圧な大剣の一撃が、相手のメインタンクを軽々と吹っ飛ばす。その圧倒的な威圧感に敵の動きが一瞬止まった。
「連携が乱れてるよ!」
「隙だらけだ!」
その隙を逃さず、バスタと、オニオンの無駄のない剣技が敵の前衛を次々と切り伏せていく。
「怯むな! あの大剣持ちを狙え! 振り下ろした後の隙を突くんだ!」
体勢を立て直したタンク陣のリーダーらしきグランの指示で、数人のアタッカーがライカの死角から襲いかかる。
「良い判断だ! だが、私だけに集中してると痛い目を見るぜ!」
ライカが一切の防御を捨てて大剣を振るうと同時に、死角から迫っていた敵の脳天へ正確無比な矢が突き刺さった。
「流石だな、アイ!」
「信頼してくれるのは嬉しいけど、少しは避ける素振りをしなさいよ……!」
揺るぎない信頼が生み出す完璧なカバーリング。
完全に浮足立った敵集団の上空から、凛とした声が響き渡った。
「レイ! そこから離れて!」
「了解っ!」
レイが即座に離脱する。敵プレイヤーたちが追いかけようとするが、すでに遅かった。
「【インフェルノ】!!」
先ほど敵が放った火の玉の雨とは比べものにならない、巨大な業火が戦場を呑み込んでいく。
「くっそ……あれはレイか、そしてこの大魔法はカイゼか……! 貧乏くじを引いちまったか……」
絶望的な叫びを残し、敵の後衛部隊は一瞬で光のポリゴンとなって消滅した。
残ったプレイヤーももはや敵ではなく、シーカーズの圧倒的な火力を前にあっという間に全滅したのだった。
◆
「お疲れ様ー! 上手くいったね!」
「だね! レイの作戦通りローブで油断を誘えたよ。……さて、このまま本格的に他のプレイヤーも狩りに行っちゃう?」
「そんなの決まってるでしょ! 目に入る敵は全員なぎ倒して宝箱を回収するよ!」
カイゼの宣言に、全員が力強く頷く。
こうして、たった6人でありながら戦場全体を震撼させる最凶のギルドが本格的に動き出すのだった。




