イベント前の仕込み
カーテンの隙間から差し込む眩しい光で、本条零はゆっくりと目を覚ました。
「ん、ん〜……あれ、もう朝? ってことは丸一日寝てたのか……」
手元のスマホで時間を確認し、思わず呟く。
連日の作業による疲労で、どうやら丸一日泥のように眠り続けていたようだ。
サッとシャワーを浴びて朝食を済ませたレイは、そのまま仮想空間へとログインした。
――そこは、無数の光り輝くシステムウィンドウが浮遊する神秘的な開発用空間。
「おや、マスター。こんな朝早くからとは珍しいですね」
「ちょっと目が覚っちゃってね。みんながちゃんと仕事してるか見に来たのよ」
「大丈夫だよ〜マスター! ちゃんとやってるよ〜」
「そうだし、もう私たちが何もしなくても勝手に動くくらい完璧だし」
AIたちが口々に完璧な業務報告を返してくる。
「それなら良いんだけど……これからイベントで忙しくなるんだから頼んだわよ」
「えぇ。イベントは完璧にこなしてみせますよ」
アジーンの頼もしい言葉に満足したレイは、そのままVNOへと入っていった。
レイの姿が消えた直後、AIたちが何やら慌ただしくしていたが、それを知る由もなかった。
◆
ギルド対抗戦の開始は今夜。それまでにレイにはやっておきたいことがあった。
まず骨董品屋へと向かい、頼んでおいた歯車を回収。その足でドレッジの工房へと向かう。
「ドレッジさん! 新しい歯車を持ってきました!」
「おぉ! これだけ集まれば、お前さんが言っていた物が作れるぞ!」
革袋を受け取ったドレッジが、不敵な笑みを浮かべる。
「ありがとうございます! ちなみに……今夜までに完成したりします?」
「ハッ、誰にものを言っとる! 任せとけ、最高の代物を仕上げてやるよ!」
頼もしい言葉に見送られ、レイは笑顔で工房をあとにした。
その後は気長に釣りをしながらゆったりとした時間を過ごした。
そうしてみんながログインしてきたころを見計らってギルドホームへと移動する。
「おっ、みんな集まってるね! 装備使ってみてどうだった?」
「ありがとな! しっかしすげーなこの装備、恐竜なんて目じゃなかったぜ!」
「だね、料理にも使えるし完璧だよ」
「【暴君の王】も倒せたしね!」
アイの言葉に、レイは目を丸くする。
「【暴君の王】も倒せたの!? すごいね! でもほんとは、もっと強い装備を作りたかったんだけどね……」
「そうか? これでも十分すぎるくらい強ぇだろ!」
ライカの言葉に全員が頷いていたが、レイは申し訳なさそうに言葉を続ける。
「多分私がもっと鍛冶師としてレベルが高ければ、防具にもっとステータス補正やスキルを乗せられたと思うんだよね。Kaizeの装備とか、私が前に着てたサイクロプスの装備みたいに機動力を上げたりさ」
確かにレイの作った武具は強力だったが、防具は防御力が跳ね上がるだけで、武器も素材由来の出血属性以外は特殊な効果がほとんど付与できていなかったのだ。
「確かにね! ドワンさんに作ってもらったのはなんかもう効果盛り盛りですごかったからね……でもレイが作ってくれたこの装備でもみんな大満足だし、十分強力だよ!」
「そうそう!」「感謝しても足りないくらいだよ」「そうだぜ、胸を張りな!」
仲間たちの温かい言葉をもらい、レイの顔にも自然と笑顔が戻る。
その後はのんびり雑談しながら過ごし、いつの間にか日も沈んできた。
各自、対抗戦本番に向けて夕食と最終準備を済ませるため、一度解散となった。
◆
そして夜――対抗戦開始の少し前。
レイは約束通り、再びドレッジの工房を訪れていた。
「おっ、レイか! 待ってたぞ、とんでもねぇのが出来上がったぜ!」
ドレッジが作業台から持ち上げたのは、レイが依頼していた特殊な武器だった。
「すごい……! ありがとうございます、ドレッジさん!」
「おう! ガッツリ使ってきてくれ! 今や魔法の台頭ですっかり廃れちまった機械仕掛けだが……こいつなら魔法にだって絶対に勝てるはずだ!」
「はいっ! 行ってきます!」
ドレッジから武器を受け取ったレイは、高鳴る胸を押さえながら、仲間たちが待つギルドホームへと駆け戻った。
ギルドホームのリビングには、決戦装備に身を包んだシーカーズの全員が揃っていた。
「さぁみんな、そろそろ時間だね!」
「あぁ! 押し寄せる敵を返り討ちにして、宝箱もガッツリ稼ごうぜ!」
「それじゃあ……行こう!」
カウントダウンの終了と共に、一同の体をまばゆい光が包み込む。
【シーカーズ】のメンバーたちは、ついにギルド対抗戦の特設フィールドへとテレポートしていくのだった。
イベント前のひと時です




