新たな装備と動き出す目的
ギルド対抗戦を翌日に控えた昼頃、【シーカーズ】のギルドホームにはレイ以外の全員が集まっていた。
テーブルの上に残されていたのは、レイの手書きメモ。
『最高の装備完成した! 共有ストレージに入れたから、私は多分爆睡してるけど使ってみてね!』
そのメモを目にした全員の顔に、自然と笑みがこぼれる。
(レイ、また無理させちゃったかな……今度何か最高のお礼をしないとね!)
カイゼがどこか申し訳なさそうに思いを馳せている間に、全員がストレージから自分の名前が書かれた装備を取り出し、着替えを済ませたようだ。
そこには――
俊敏さを活かせるレンジャー風のマントをなびかせ、巨大な恐竜の顎が開いたような禍々しくも美しい弓を構えるアイ。
コック帽とエプロンなどの料理人を思わせる独特なデザインの鎧に身を包み、包丁とフライパンを両手に握るバスタ。
そして、そのマッチョな体格に相応しい胸元に角の装飾が施された重厚な鎧を纏い、凶暴な牙のついた大剣を背負うライカの姿があった。
「うむ、皆実によく似合っているな」
「ありがとう! この弓すごいよ、放った矢に出血属性がそのまま乗るみたい!」
「この包丁とフライパンにも特殊効果があるみたいだね……料理しながら戦えってことかな?」
「防具の防御力も今までとは比べものにならねぇくらいカチカチだな。こりゃあ起きたらレイにたっぷり感謝しねーとな!」
各々、手渡された武具のステータスを見ただけで、その恐ろしいほどの強さを実感していた。今すぐにでもフィールドへ飛び出して試してみたいという衝動が抑えきれない。
「よし! さっそく性能を試しに行って、起き次第レイに感想を伝えてあげないとね! 恐竜を狩りに行こう!」
「「「「よし! 行こう!」」」」
カイゼの呼びかけに全員が威勢よく頷き、やる気満々で東の森へと向かって飛び出していった。
◆
「すごいねこの弓! 今まで全然矢が通らなかったのに気持ちいいくらい倒せる! しかも当たれば当てるほど出血状態が強化されるから火力が凄まじいよ!」
「こっちの包丁とフライパンも面白いぞ! まるで料理してるみたいにテンポよく戦える! 面白いくらいに刃が通る!」
「この大剣も凄まじいな! 小型恐竜レベルなら一撃で粉砕だぜ!」
各々、レイが作ってくれた新しい装備の次元違いの性能に酔いしれていた。
そうして手当たり次第に目についた恐竜を倒していれば、当然周囲への騒ぎも大きくなる。ドシン……ドシン……と遠くから地面を揺らす激しい地響きが轟き始めた。
「やはりこれだけ派手に倒して騒ぎを大きくすれば、デカいのが寄ってくるか……」
「だな。だが今の俺たちの装備を試すには、おあつらえ向きの相手じゃねぇか!」
ライカが指さす先、鬱蒼とした木々を押し倒して顔を覗かせたのは――かつてレイが遭遇し大暴れしたらしい【暴君の王】であった。
「いいねぇ! 助っ人も呼んであるし、せっかくならここで全開の力試しだ!」
「助っ人……? まさか!?」
カイゼの言葉に、アイが反応した次の瞬間――そいつはやってきた。
「お呼びいただきありがとうございます、カイゼ! さぁ、参りましょう!」
凄まじい声と共に、フードを深くかぶった謎のプレイヤーが空から現れ、【暴君の王】の脳天へ容赦なく剣を突き刺した。
「カイゼ! あのプレイヤーって、前に変な地図を渡してきたやつだよな!? 誰か知ってんのか!?」
「知ってるよ! でも話は後! まずはあの【暴君の王】を倒そう!」
「だね! 前回の戦いは不甲斐なかったからね、ここで汚名返上といこう! さぁ調理開始だ!」
「おう! あの立派な尾っぽと言わず、首ごとぶった切ってやるぜ!」
バスタとライカが同時に肉薄し、武器を振るう。
アイは手際よくヘイトを奪っていく謎のフードプレイヤーを見つめ、ポツリと呟いた。
「見れば見るほど、レイそっくりな立ち回りだね……。さて、私も負けてられないな!」
鋭い目付きに切り替わったアイが弓を引き絞り、解き放たれた矢が寸分の狂いもなく【暴君の王】を穿つ。
「そこのフードのプレイヤー! ヘイト管理は任せていいのだな!?」
「オニオン! お任せください、水も漏らさぬ完璧なタゲ維持をお見せしますよ!」
「任せたぞ! 私はあの立派な尻尾を裁ち切ってみせる!」
それぞれの役割を完璧に理解した【シーカーズ】の連携が爆発する。
オニオン、バスタ、ライカの3人が激しく暴れる【暴君の王】の足元へ張り付き、着実に傷口を広げていく。
アイは正確無比な射撃で出血の状態異常をスタックさせていく。その圧倒的な手数は、まるで恐竜の体から赤いポリゴンが滝のように流れ出るほどだ。
カイゼも負けじと【魔導輪廻】のMP無限を活用し、強力な属性魔法を正確に叩き込んでいく。
その見事な連携は、途中で乱入してきた雑魚モンスターすら即座に処理し、一切乱れることがない。
「しかし……あのヘイトを買っているプレイヤーは何者だ? まるでレイと一緒にプレイしているような錯覚を覚えるな」
「さぁな! だが、めちゃくちゃ戦いやすいのは確かだぜ!」
「だね! 尻尾の耐久値もあと少しだ、他の大型が乱入してくる前に切断して調理しちゃおう!」
その時、ヘイトを買っていたフードのプレイヤーから警告が飛ぶ。
「皆さん! 【暴君の王】のHPが残り50%を切ります! 行動パターンが変化するので気を付けてください!」
直後、森全体を震わせるほどの壮絶な咆哮が上がり、全員の身体が一瞬硬直する。
「くっそ! こっからが本番ってことかよ……!」
「また暴走状態に入るのだな。しかし……なぜ残りHPが分かったのだ?」
全員の硬直が解けた瞬間、【暴君の王】は目の前のフードのプレイヤーを激しい怒りの目でロックオンし、凄まじい速度で暴走を開始した。
「私がこのまま引きつけます! 皆さんは攻撃を継続してください!」
さらにキレを増した動きで敵の猛攻を受け止めるフードのプレイヤー。噛みつき、尻尾の薙ぎ払い、前脚での踏みつけをギリギリの紙一重で回避していく。
【暴君の王】の速度はどんどん上がっていくが、それでも完璧に攻撃を裁き切っていた。
その間にもダメージをほかのプレイヤーが与えている。
その極限状態の中、フードの奥にある彼女の表情は喜々として輝いていた。
(楽しい……! 目的さえ達成できれば、もっと……!)
ほんの一瞬、思考が別のところへ持っていかれた。
――だが、バトルにおいてその一瞬の隙は命取りとなる。変化を見落としてしまったのだ。
【暴君の王】が突如として足を止め、大地を踏みしめて力を溜めるような特殊モーションに入る。
次の瞬間、その巨大な顎から、まるで壊滅的な熱線ビームのようなエネルギー攻撃が一直線に放たれた!
「あっ……!」
凄まじい弾速。もはや回避は間に合わないと悟ったフードのプレイヤーは、思わず目を閉じて衝撃に備えようとした。
――しかし、どれだけ待っても衝撃は訪れない。
「そんなところまでレイに似なくていいんだよ、ね! アジーン!」
そこには、漆黒の翼を背に広げ、アジーンをお姫様抱っこした状態で空中に退避しているカイゼの姿があった。
「なんで……!?」
「前に別の大型と戦った時も、暴走状態からの初見殺しがヤバかったからね! 警戒して飛ぶ準備をしてたの! ……しっかしティラノサウルスがビームってさぁ、サメといい変な映画でも見たわけ!?」
「あ、ありがとうございますカイゼ! 私たち開発陣は、常にプレイヤーの想像を超えなければいけませんからね! ふふ、驚いていただけました?」
どこか小悪魔的にクスリと微笑むアジーン。だが、すぐに現実に引き戻されたように慌てて声を張り上げた。
「あわわ! それよりも私が早くヘイトを回収し直さないと……!」
「大丈夫だよ、アジーン。私たちはあんたたちが作ったこのゲームに散々付き合ってきたんだから! どれだけ難しかろうがね! 今度は私たちの活躍を見てな! ライカ!」
「よっしゃあ! 行くぜぇぇっ!」
ライカが【暴君の王】の真正面へ立ちはだかり、突き進んでくる巨体を正面から迎え撃つ。
そして完璧なタイミングで大剣を構え、力任せに敵の突進を受け止めた!
「レイの作った装備で強くなったんだ! そして私のパワーがあればぁぁっ!」
ステータスを極振りしたライカの規格外の腕力が発動。【暴君の王】の巨体を大剣ごと持ち上げ、強引に後方へと吹き飛ばした!
「おりゃぁぁぁーっ! 任せたぞーっ!」
「うむ、流石だライカ! 行くぞバスタ! 【抜刀・一閃】!」
「さぁその尻尾よこしな! 【三枚切り】!」
前衛2人の寸分狂わぬ同時攻撃が閃光となり、巨大な尻尾が見事に切断されて地面へ転がった。
「さすがだね! さぁ、私も行くよ! 【貫穿ち】!」
集中を研ぎ澄ませたアイの弓から放たれた巨矢が、【暴君の王】の胴体を真一文字に貫通し、絶大なダメージを刻み込む。
一連の怒濤のラッシュを受け、【暴君の王】は全身ポリゴンを撒き散らしながら満身創痍となっていた。
それでも倒れることなく踏みとどまり、宙に浮く異様なプレイヤー――カイゼを睨みつける。
漆黒の翼を羽ばたかせ、全身に激しい紫電を纏ったカイゼが、上空から見下ろしていた。
「さぁ……これで止めだ!! 【紫電一閃】!!」
落雷のような一撃が閃光となって解き放たれ、【暴君の王】の巨体を完全に爆砕。巨獣はポリゴンの光となって消滅したのだった。
「ふぅ……かっこよかったでしょ、アジーン!」
「えぇ、本当にかっこよかったです……! 私もきっといつか……」
「ふふ、おいしいところ持ってかれちゃったね。アジーン、いつかじゃないよ。明日、絶対に成功させようね!」
「……! ありがとうございます、アイさん! さぁ、早く素材を回収しましょう! いつ他の恐竜に襲われるかわかりませんからね!」
手早く素材を回収した一同は、安全なギルドホームへと帰還した。
◆
「で……あのプレイヤーは誰なんだ、カイゼ? まぁ、なんとなく予想はついているがな」
「そうだね。本人の口から言ってもらおうかな」
ライカの問いかけに、フードの人物は意を決したように深呼吸をし、フードを外した。
「私は……マスター、レイによってつくられたAIのアジーンです!」
その言葉にバスタ、ライカ、オニオンの3人は一瞬驚きつつも、これまでの不自然な挙動から察していたようで、冷静に頷いた。
「そして……皆さんにお願いがあるのです!」
そう言ってアジーンは、目的を熱っぽく語った。
真剣な眼差しで、全員がその言葉に耳を傾ける。
「なるほどな……。それで、明日のギルド対抗戦の混乱に乗じて行動を起こすってわけか」
「それなら、私たちも全面的に協力しないとね!」
「うむ! であれば、レイに悟られないよう作戦を詰めておこう」
こうして、レイに内緒でアジーンの目的を達成させるための極秘作戦が立案され、一同は翌日に迫るギルド対抗戦本番へ向けて、強く思いを馳せるのだった。
アジーンの目的が徐々に見えてきたような……




