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友のための一振り

カン……カン……カーン……。


ここはプレイヤー街にある鍛冶師ギルド。空間全体に鉄を打つ硬質な音が響き渡っていた。

レイは今、一心不乱に金づちを振るっていた。


事の発端は、先日手に入れた【凶牙の王(カルカロレックス)】をはじめとする高レベル恐竜たちの素材で、ギルドメンバーの装備を作ることになった点にある。

素材の品質があまりにも上質すぎるため、今のレイの鍛冶師レベルでは加工成功率が低く、到底太刀打ちできないと感じたのだ。

そのため、地道に鍛冶師の熟練度を上げにここへやってきたのだった。


とにかく熟練度を稼ぐため、片っ端から鉱石を叩き続けていく。

退屈で地味な作業になるかと思いきや、案外そうでもなかった。


「あの……もしかして、レイさんですか?」

「ん? そうだけど……私のこと知ってるの?」

「やっぱり! レイさんといえば、このVNOでもかなりの有名人なんですよ!」


どうやら自分の考えている以上に名前が広がっているらしく、レイは内心ちょっと誇らしくなる。


「ちなみに、今一番有名で話題のプレイヤーって誰なの?」

「そんなのKaizeさんに決まってるじゃないですか! 数々の大魔法に、あの衝撃的な魔法少女衣装! 彼女の話題は掲示板でも連日ひっきりなしですよ!」


そんなプレイヤー同士の雑談を楽しみながら作業していたため、思いのほか楽しく時間を過ごすことができていた。

現実の仕事場なら「喋ってないで手を動かせ」とお説教されそうな光景だが、ここはゲームなので何の問題もない。


そんな風に談笑しながら作業を続けていると、何事かと周囲に人が集まってきて、いつの間にかそこそこの人が集まってきていた。


「そういえば、なんでレイさんほどの人がこんな大衆用の工房で鉄を打ってるんですか?」


誰かがポツリと漏らした疑問に、周りの鍛冶師たちも興味津々に耳を傾ける。


「いやー、ギルドメンバーの装備を作りたいんだけどね。素材が上質すぎて、今の私の鍛冶レベルだと加工できそうになくて……熟練度を上げや情報を集めに来たんだよ」

「その素材って、どんなのですか……? よければ見せていただいても……」


倒すのは大変だが極秘にするようなレア物でもないし、他人の意見も聞いてみたかったレイは、【凶牙の王(カルカロレックス)】以外の小型・中型恐竜から採れた素材をいくつかストレージから取り出して見せてみた。


しかし、その素材を目にした瞬間、周囲の人たちの目の色が一変する。


「な、なにこれ……!? 見たことない素材だぞ!?」

「サイクロプスの素材と同等……いや、それ以上か!?」

「これ、一体どこで手に入れたんですか!?」


一般プレイヤーの間では、いまだにサイクロプスすら強敵であり、討伐できるプレイヤーはごく一部だった。それと同等かそれ以上の素材に、工房全体が軽いパニックに包まれる。


「これは東側にある前線拠点の、さらに先にある森で手に入れた素材だよ」

「東側の森!? あそこ前線拠点に行くのすら命がけだし、その先の森なんてほとんど情報がない未開の地じゃ……!」

「噂だと凶暴な恐竜の巣窟なんだろ? そこら辺の小型モンスターですら倒せるレベルじゃないし、モタモタしてると乱入されまくって即死する魔境だって……」

「凄すぎる……やっぱりトップ層は次元が違うな……」


周囲からの尊敬の視線がどんどん強くなっていく中、レイは言葉を続ける。


「それで、このレベルの素材を加工したいんだけど……今この中で加工できそうな人っていたりする?」


加工できるレベルのプレイヤーがいれば、必要な熟練度の目安が分かると踏んで質問してみた。

すると、意外にも自信ありげに頷くプレイヤーが何人かいた。話を聞いてみると、全員が【上級鍛冶師】という、鍛冶師の上位ジョブに転職済みだということが判明する。


「上級鍛冶師になるのって、どれくらい大変なの?」

「時間さえかければそこまで難しくはないですよ! それに、レイさんが持ってるみたいな高品質な素材を使って生産すると、獲得経験値にものすごい補正がかかるので一気にレベルが上がります!」

「ってことは……失敗を怖がらずに、良い素材を使ってガンガン叩けってこと?」

「「「まさにその通りです!」」」


周りで聞いていた鍛冶師たちが一斉に首を縦に振る。

それだけの情報が得られただけでも、鍛冶師ギルドに来た甲斐があったというものだ。


(やっぱり情報は大事よね! こうやってみんなで楽しくお喋りしながら知識も増えて……ゲームで交流するのって本当に楽しいわ!)


親切に教えてくれた鍛冶師たちへのお礼として、レイは「みんなで分け合ってね」と恐竜の素材を1つずつ手渡した。


「「「ええええええええっ!? 本当に貰っちゃって良いんですか!!??」」」


鍛冶師ギルド内は、一瞬にして狂喜乱舞の渦に包まれた。

レイにとっては1個じゃ大したもの作れないだろうし、また狩りに行けばすぐ取れるし程度にしか考えていなかったのだが、後に知った話によると、それ1つで現段階におけるかなり質のいい武具が作成できるほどの価値があったらしい。


こうして明確な目標が定まったレイは、ひたすら作業へと没頭していった。

とはいえ、周りのプレイヤーたちと楽しく談笑しながらの作業だ。飛んでくる質問の中には答えられない極秘事項もあったが、話せる範囲の攻略情報は惜しみなく教えていった。


そこには、先日苦汁を飲まされたあのレイドモンスターを撃破するために、プレイヤー全体の底上げをしたいという考えもあった。


それからのレイは、文字通り寝る間も惜しんでひたすら恐竜の素材を叩き続ける日々を送った。

時折、気晴らしに釣りをしたり恐竜を狩りに行ったりもしたが、ログインしている時間の大半を金づちの音と共に過ごした。


元々の素材が高品質だったことも手伝い、熟練度は爆発的な勢いで上昇。【上級鍛冶師】へと昇格し、さらにはその領域すら突き抜けて、その上の【名匠】の領域にまで到達したのだった。



そして現在、レイはギルドホームに設置された鍛冶場にいた。

最高峰の装備を仕上げるため、集中できる環境を求めてのことだ。


しかし、作業を始める直前になって、レイは根本的な大問題に気づいて絶句する。


「……【凶牙の王(カルカロレックス)】の素材、全員分の武器と防具を作るほど足りないじゃん……!」


冷静に考えれば当然だった。過去にサイクロプスやガーゴイルを倒した時も、一頭分の素材を全て使い切って、ようやく一人分の武器と防具一式が完成するバランスだったのだ。


だからといって、今から【凶牙の王(カルカロレックス)】級の大型恐竜を何頭も狩りに行く時間はない。


「Kaizeに【魔導輪廻(エーテルギア)】を貸してなければサクッと狩れたかな……いや、どうせ途中で他の恐竜に乱入されてカオスになるし無理だね……。かくなる上は……!」


レイが出した結論はシンプルだった。

武器には最高級の【凶牙の王(カルカロレックス)】の素材を使い、防具は大量にある小型・中型恐竜の素材で作成する、という配分だ。


誰もが強い武器を渡されればテンションが上がるものだし、小型恐竜の素材と言っても現在のVNOの中では間違いなくトップクラスの性能を誇る。これなら全員が満足する超強力なセット装備が作れるはずだ。


「よし……やるぞー!」


連日の作業で不眠不休のはずだったが、レイの集中力はここ数日で間違いなくゾーンに入っていた。

現実世界で開発作業のゾーンに入ったり、突発的な重大バグの緊急修正で何夜も徹夜作業をこなしてきた経験があるレイにとって、この程度の不眠不休作業は慣れたものだった。


打撃音のテンポが速くなり、素早く正確に作業が進んでいく。

仲間たちの喜ぶ顔を思い浮かべながら、それぞれに完璧にフィットする装備を組み上げていく。


友人たちと全力で楽しむため。

みんなの弾けるような笑顔を見るため。

この大好きなメンバーと共に、ギルド対抗戦を勝ち抜くため――。


全ての想いを一振りの槌に込め、鉄を打ち続ける。


そうして、どれほどの時間が流れただろうか。

作業を開始したのが日付が変わる前だった記憶はあるが、ふと作業場の窓に目をやると、外の景色がうっすらと白み始め、眩しい朝日が差し込んでいた。


完成した輝く武具を前に、レイは両手を突き上げて叫んだ。


「かんせいいぃぃぃーーーっ!!!!」


最高の出来栄えとなった装備一式を共有ストレージへ入れ、リビングにメモを残し、その場に崩れ込むようにしてログアウト。


現実に戻るやいなや、ベッドへダイブして泥のような深い眠りにつくのだった。

いい素材を使うほど早く熟練度が上がりやすいのであっという間に名匠になれました。

ここからさらに上のジョブになるのは大変ですが……

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