新たな王と激戦
「おっ、レイが戻ってきたぜ!」
ライカが指さす先には、全身くたくたになりながら森からフラフラと戻ってくるレイの姿があった。
「ふぅ……なんとか生きて戻ってこれた……」
「お疲れさま。で? 一体何がいたのだ?」
レイは逃走中に遭遇した恐竜型モンスターたちや、その生態についてみんなに説明していった。
「なるほど……あの森は恐竜たちの巣窟というわけだな」
「だね。……ねぇ、マイも実は恐竜の生き残りだったりしないのかな?」
レイの言葉に、バスタが反応する。
「どうなんだろうね? レベルもそこそこ上がってるのに、ずっとモコモコの可愛いままだし、そういう種類のかわいいモンスターなんじゃない? ……なんなら、私が料理の材料にしてみようか?」
「それ冗談で言ってるんだよね!? いいもん! マイはモコモコで可愛いだけで、私を癒やしてくれるんだから〜! 私自身が強くなればいいんだよ!」
「それ、もうテイマーじゃなくて良いんじゃない……? って、話が脱線してるから戻すけど! その恐竜たちの中でも、突出して強いやつらが何体もいるみたいなの。私が逃げ帰ってきたのもそういうモンスターだね」
「そのやべーやつらは、どんくらい強いんだ?」
ライカが興味津々に尋ねる。
「ステータスだけなら、前に私とカイゼで倒したガーゴイルより少し強いくらいだったけど……とにかく環境がヤバい。他のエネミーがガンガン乱入してくるし、ボスはそいつらを食い散らかしてHPを回復するから、キリがないのよ……」
「ガーゴイル並みかぁ……。今なら前ほど苦戦はしないだろうけど、乱入と回復を考えると、だいぶ倒すのは大変そうだね……」
みんながどうやって攻略しようか頭を悩ませる中、レイはさらに言葉を続ける。
「それと、多分なんだけど……あいつはこの森のフィールドボスとかじゃなくて、ただの強めのエリアモンスターだと思う。だって、戦ってる最中に同じくらい強そうなやつが乱入してきて、勝手に縄張り争いを始めたし……」
その言葉に、一同「マジかよ……」と引いたような顔を見せた。
「それはなかなか難儀だな……。これでは探索も落ち着いてできまい」
「でもよ! そんなやつら、まだ他のプレイヤーじゃ倒せてねぇだろうし、倒したら相当いい素材を落とすんじゃねーか!?」
「それもそうだね! きっとすごく美味しいお肉もドロップするよ!」
「確かに! 恐竜の骨や素材から弓を作ったら、絶対に強いよね!」
ギルドメンバーたちは頼もしいのか能天気なのか、いつの間にか討伐後のドロップ素材の話で盛り上がり始めていた。
「まぁ、私とレイがいるし、倒すだけならできるんじゃない?」
カイゼが軽く言うと、レイは苦笑いを浮かべた。
「確かに倒すだけなら【理の再記述】を使って時間をかければ行けるけど……そうすると、また別のヤバいモンスターが乱入してくるかもだし……」
「そうだね。まぁ、最悪は私がおとりになって時間を稼ぐこともできるし、一回戦ってみても良いんじゃない? そんな相手なら、きっと強力な装備の素材も手に入るだろうし!」
「……だね! 今ならまだ他のプレイヤーも少ないし、いっちょやりますか!」
こうして一同は、森に潜む強力な恐竜モンスターに挑むため入念に準備を整え、再び危険な森へと突撃したのだった。
◆
相変わらず不気味な鳴き声が響く騒がしい森だったが、そんな中でも一際激しい地響きが轟いている場所を見つけた。
「この先にきっといるはず……みんな、作戦通り頼むよ!」
全員が言葉少なに頷く。
そうして気配を殺して慎重に近づいていくと、木々の開けた場所で巨大な影が暴れまわっているのが見えた。
「あれは……レイが話していた【暴君の王】なのか?」
「いや……少し特徴が違う気がする。多分、カルカロドントサウルスあたりがモチーフっぽいかな。噛みつき攻撃が相当ヤバそうだから気をつけて!」
「まあ、モチーフがティラノサウルスだろうがカルカロ何とかサウルスだろうが、ぶちのめすことに変わりはねぇ!」
「だね! よし、それじゃ行くよ! 他のモンスターが乱入してくるまでは、あいつに集中で!」
「了解! ――【ライトニング】!!」
カイゼの魔法が放たれ、激しい戦闘の火蓋が切って落とされた。
「どうせ騒ぎに乗じてモンスターが集まってくるなら、最初から最大火力で叩かないと損だしね! さて、私も行きますか……【理の再記述】! なになに……【凶牙の王】ね。……この森、王が多すぎじゃない!?」
レイが【理の再記述】のセキュリティを突破しながら目の前で派手に動き回り、ボスのヘイトを集めていく。
そして、隙だらけになった背後からオニオン、バスタ、ライカの近接組が、ぶんぶんと振り回される凶悪な尻尾に注意しながら攻撃を叩き込んでいく。
カイゼは後方から容赦なく雷を降らせ、アイはボスが口を開けた瞬間を狙い、的確に口内へ矢を撃ち込んでいく。
6人は見事な連携で、着実にダメージを重ねていった。
【凶牙の王】は目の前のレイを優先して狙っているようで、ヘイトが不意に移り変わることもなく、戦線を維持するのは想定よりも難しくなかった。
そうして5分ほど経過した頃、レイは【理の再記述】の書き換えを完了させ、ボスのHP最大値をゴリゴリと削り始めていた。
順調に見えた戦闘だったが、ここで一同が最も恐れていた事態が発生する。
凄まじい戦闘の騒ぎを聞きつけた森のモンスターたちが、周囲からぞろぞろと集まってきたのだ!
「大型はまだ来てないね! それじゃ、みんな作戦通りに!」
レイが叫ぶ。とは言ったものの全員の動きに大きな変化はない。
作戦会議でどう対処するか話し合いはしたものの、今のギルド【シーカーズ】には純粋なタンクもヒーラーもおらず、高度なデバフ戦術も使えない。
――結局のところ「回復される以上の超火力でゴリ押しするしかない」という脳筋な結論に至っていたのだった!
「うーん……確かに乱入してきたモンスターを捕食して傷を回復してるね。だいぶ狙いづらいけど、やるしかないわね!」
「だな! こう入り乱れちゃ戦いづらいが、回復された以上のダメージを叩き込めばいいだけだ!」
「そうだね! あーあ、全部【凶牙の王】が平らげちゃうせいで、乱入してきたモンスターのドロップ素材が残らないのが悲しいな……絶対美味しいお肉が手に入るのに!」
ライカやバスタたちが愚痴をこぼしながら戦う中、オニオンは混沌とする前線で一人生き生きと刀を振るっていた。
「むぅ……もう少しで尻尾が切れそうだったのだが、捕食で回復されてしまったか。……ならば、何度でも切り刻むまでのこと!」
「オニオンは相変わらず生き生きしてるね! 私は私でできることをやっていかないと! ――【ライトニング】!」
モンスターの乱入によって戦場はカオスを極めていたが、全員がそれぞれの役割を全うし、【凶牙の王】に着実にダメージを与えていく。
幸いなことに大型のモンスターはまだ乱入しておらず、小型モンスターの数が減るタイミングもあったため、捕食回復を上回るダメージを与えることに成功していた。
(やっぱりHPが多いな……。与えるダメージの方が上回ってはいるけど、このペースだと時間がかかりすぎる。前みたいにヤバいやつが乱入してくる前に倒し切りたいけど……)
ボスのHPは回復されつつも残り7割ほどまで削れていたが、決着にはまだ時間がかかりそうだった。
そして――こういう時の嫌な予感というのは、得てして当たるものである。
ドグォォォォォォォンッ!!!!!
地響きどころではない、猛烈な振動と衝撃音が凄まじい勢いでこちらへ接近してきたのだ!
「なんか……ありえない勢いでこっちに向かって来てない!? やっぱり時間をかけすぎたか……みんな、気をつけて! 何かスゴいのが来る!!」
レイの叫びに全員が武器を構え、身構える。
次の瞬間――咆哮を上げるモンスターも、巨木も、その進路上にいたすべてを巻き込みながら、爆走する『何か』が一直線に戦場を駆け抜けていった!
ズシャァァァァァァンッ!!!!
一瞬で通り過ぎていったその影を、レイの目は確かに捉えていた。
「さ、サメーーーーーー!?!? 陸の上にいるじゃない!! どんなB級映画よーーーッ!! アジーンたちはこの森を一体なんだと思ってるのよーーーっ!?」
あまりのトンデモ展開に一瞬呆然としたレイだったが、ゲームクリエイターとしての血が騒ぎつつも、すぐさま思考を現実へ切り替える。
「み、みんな生きてる!?」
「あぁ、なんとか無事だ!」
「こっちも3人とも無事だぜ!」
「危なかったけど大丈夫! ……ってか、なんで陸上にサメがいるの!? アジーン……アジーン!」
カイゼの脳裏に電撃が走るような衝撃がした。
「カイゼ!? 何か気づいたの?」
「いや……アジーンたち開発中にB級映画でも観て影響受けたのかなって?」
「そんなの私が知るかーーーっ! でも……もし私がこのゲームを作るとしたら思い浮かばないバカバカしさだし、発想としてはなかなか面白いじゃない……!」
「感心してる場合じゃねぇだろ! でも、どうやら【凶牙の王】も巻き込まれて吹っ飛んだみたいだぜ!?」
ライカが指さした先には、謎のサメの突進に直撃し、壁にめり込んで悶絶している【凶牙の王】の姿があった。
「嘘でしょ……!? 今の一撃だけで、残りのHPが2割まで減ってるんだけど!? どんだけ攻撃力高いのよあのサメ……!!」
「それなら大チャンスじゃない!? 邪魔な雑魚モンスターも一掃されたし、一気に畳み掛けよう! ――【ライトニング】!」
全員が「ここで倒し切る!」と言わんばかりの猛攻を仕掛ける。
しかし、【凶牙の王】も体勢を立て直し、怒りの咆哮を上げた。
限界を迎えたボスは狂暴化し、これまでとは比べ物にならないスピードで突進を開始する。
その真っ赤に染まった瞳は、一番近くにいたレイを完全にロックオンしていた。
超高速で繰り出される連続の噛みつきや突進を、レイは紙一重でかわしていく。
しかし、何度目かの噛みつきを回避するためにレイが空中へ跳躍した瞬間を、ボスは見逃さなかった。強引に巨体をねじり、太い尻尾を正確な軌道で振り抜いたのだ!
「くっそ……うぐぁっ!?」
間一髪で身をひるがえし剣を間に挟み直撃こそ避けたものの、強烈な衝撃で吹き飛ばされ、HPが一気に赤ゲージまで削られる。
慌ててポーションを飲んで回復させたレイだったが、すぐに自身のステータス異常に気づく。
「HPが勝手に減ってる……!? 状態異常【出血】!? 噛みつきだけじゃなくて、あの尻尾攻撃にも付与判定があったの!? 全身凶器かよ……!」
幸いHPの減少速度は緩やかだったため、レイはポーションを追加で煽りながら急いでボスの元へ駆け戻る。
今はオニオンが前に出てヘイトを引き受け、相手の攻撃を刀でパリィしながら耐えていた。
だがボスの攻撃は刻一刻と鋭さを増しており、乱入事故でHPが削れていなければ全滅していたかもしれないレベルの苛烈さだった。
「オニオン!スイッチ!」
「了解! 私は尻尾を狙う、少し持ちこたえてくれ!」
レイは強引に噛みつきをパリィし、ヘイトを取り戻す。
暴走状態の【凶牙の王】は、カイゼの降らせる雷撃にも怯むことなく突進してくる暴走機関車と化していた。
(くっ……ここまで攻撃が激しいと、装備を盾に変更したいけど……一瞬の隙すら作れない! 今はそんな余裕ないわね……!)
必死の回避を続けるレイだったが、猛攻により動きがわずかに乱れ始める。
(まずい……!)
直前、空中へ逃げて追撃されたトラウマが脳裏をよぎり、レイは地上で剣を構えてパリィを試みた。
しかし【凶牙の王】もオニオンとの攻防で学習していたのか、構えた剣ごと強引に噛みつき上げ、レイの身体を思いっきり上空へと跳ね飛ばしたのだ!
「うわぁぁぁぁぁーーーっ!? まずい、完全に浮いたーーーっ!!」
空中へ放り投げられたレイの下で、【凶牙の王】が大口を開けて待ち構えている。
あの凶暴な牙の餌食になれば間違いなく耐えられない。レイは空中なんとか体勢を立て直して悪あがきを試みようとする。
――だが、その刹那。【凶牙の王】の動きがピタリと止まった。
巨体を強引にひねって無理な追撃姿勢をとったことで、ボスの硬直時間が一瞬だけ生まれたのだ。
その千載一遇のチャンスを、熟練の侍が見逃すはずがなかった。
「……やっと隙を見せたな!! ――【抜刀・一閃】!!!」
閃光のような一撃がボスの背後に走り、ついに【凶牙の王】の巨大な尻尾が根元から切断された!
「ギャオォォォォォォンッ!?!?」
悲痛な絶叫が森にこだまする。
尻尾を切り落とされたボスは激痛でバランスを崩し、今までの暴走ぶりが嘘のように無防備な隙を晒した。
「大きな隙を見せたな……もらったぁぁぁぁぁーーーっ!!」
上空から落下してくるレイは、その重力加速度のすべてを剣に乗せ、ボスの脳天に向かって真っ直ぐ突き立てた!
ズドォォォォォォンッ!!!!
レイの一撃が頭殻を貫き、【凶牙の王】は最後の絶叫を上げて、その巨体を大地へと横たえ消滅していった。
「ふぅ……華麗に着地! よっしゃぁぁぁ、撃破!!」
「むぅ、お見事。……お疲れ様だな。それより、早くドロップ素材を回収して退散した方が良いだろう。これだけ暴れ回ったのだ、また別の大型モンスターが集まってきてもおかしくない」
「だね! 私も状態異常でHPが削れててヤバいし、急いで拠点に戻ろう!」
こうして一同は急いで貴重なドロップ素材を回収し、勝利の余韻に浸りながら前線拠点へと引き上げていくのだった。
◆
「よし……! 何とか生きて前線拠点まで帰ってこれたな」
「うむ。帰り道もまた例のサメが通り過ぎたり、興奮したモンスターに見つかったりで大変だったが、全員無事で何よりだ」
拠点の安全地帯に入り、全員が安堵の息をつく。疲労が身体ににじみ出ているものの、その表情は大きな達成感に満ち溢れていた。
「……しっかし、悔しいね。後半の私たちは、完全にお荷物状態だったし……」
アイがぽつりとこぼした言葉に、ライカとバスタも申し訳なさそうに視線を落とす。
「そんなの気にしなくていいのに! それにね、これからレイがその素材で強い装備を作ってくれるみたいだから! ね、レイ? みんなの分の新装備、楽しみにしてるからねー!」
「ちょっと、カイゼ!? なんで勝手に私が全員の装備を作ることになってるのよ!?」
「だって、他の鍛冶師プレイヤーに頼むより、信頼できる身内に頼む方が楽でしょ? それにライカなんていくら装備あっても足りないんだし、レイが鍛冶で作れるようになってくれた方が絶対に助かるって!」
「……まぁ、言ってることは正論だけどさ。分かったわよ、次の平日に何とか試してみるよ」
レイの呆れつつも頼もしい言葉に、沈んでいたアイたちの表情にもパッと笑顔が広がった。
「よっし! そうと決まれば、一旦ギルドホームに戻るか! ドロップ素材は共有ストレージに入れておけばいいな」
「うむ。すっかり日も落ちてきたことだし、今日は一回ログアウトするとしよう」
一同はまた夜に集まる約束を交わし、勝利の余韻を胸にログアウトしていくのだった。
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【凶牙の王】
カルカロドントサウルスがモチーフの大型モンスター
攻撃にはすべて出血の状態異常を付与する効果があり、食らえば食らうほど効果が重複しHPの減りが早くなる。
HPが減るほど凶暴になり暴走機関車のようになる。
戦いと強化イベントです!




