暴君の王と角の皇帝
新たな街へと着いたギルド【シーカーズ】の面々は、とりあえず鮮血の花園に関する情報を集めるため、最前線拠点【イーストガルド】の喧騒の中へ各々動き出した。
そうしてしばらくした後、それぞれ情報を持ち寄って合流する。
「……何か良い情報はあったかぁ?(もぐもぐ)」
「ちょっとバスタ、ちゃんと探してたの……? とりあえず、めぼしい情報は無かったね」
アイの報告に、みんな同じような渋い反応だった。
かろうじて分かったのは、この拠点の先にある森の中からは、現れるモンスターの強さがこれまでとは段違いに跳ね上がるということくらいだった。
「現在進行形でみんなが探索してる真っ最中ってこともあるんだろうけど、やっぱり具体的な情報は出回っていないね……」
「だな。しかも、この拠点もその森から現れるモンスターたちに時折襲撃されるみたいで、拠点の維持だけで手一杯な面もあるみたいだぜ」
「それなら、私たちが最前線となって森を探索してしまえば良いだけのこと! 鮮血の花園の件もあるし、早速乗り込もうじゃないか!」
オニオンの意気揚々とした言葉に全員が賛同し、一行は武器を手に、不気味なオーラを放つ森へと足を踏み入れていった。
その森は、静寂という言葉からは程遠かった。
何の獣か、あるいはモンスターのものかは分からないが、常に不気味な鳴き声と木々が擦れる喧騒が絶えない、探索者の精神を削るような場所だった。
「……不気味な森だな。で? 何か効率よく鮮血の花園を探す方法は無いのか?」
ライカの質問に、レイが少し困ったように眉を寄せる。
「茨で守られているらしいんだけど……こんな木々が生い茂った森の中だと、その茨を見つけること自体が大変かもね」
「それなら、またカイゼに空を飛んで探してもらえば良いんじゃない? ついでに、なんか美味しそうなものも見つけてきてよ」
「まぁ、良いけどさ……」
バスタの提案に、カイゼは少し慣れてきた様子でため息をつきながらも、すぐに詠唱を完了させた。漆黒の翼を背に広げ上空へと舞い上がる。
上空へ達したカイゼは、目を凝らして周囲を観察した。
「……うーん、上から見ても木々が生い茂りすぎていて、代わり映えがしないな。ん? 何か……こっちに向かって飛んできてる?」
目を凝らしてみると、何やら凄まじい勢いで上空のカイゼへと向かって飛来してくる巨大なモンスターの姿が見えた。
「ちょちょちょ、すごい勢いでこっち来てるじゃない!! これ、急いで降りないとヤバいわ!」
カイゼは慌てて漆黒の翼を閉じ、急降下して地上へと着地した。
「おっ、カイゼ。そんな慌てて降りてきてどうしたんだ?」
「……目を離すと、すぐ何か食べてるわね、バスタ。そうじゃなくて、なんか空から凄まじい勢いでモンスターが飛んできてたのよ!ヤバいと思って急いで着地したわ」
カイゼの少し青ざめた表情からは、本気の焦りが感じられた。
「どうやら、空だけじゃなく地上の方もお出ましみたいだぞ!」
オニオンが刀の柄に手をかけながら指さした先――森の奥から、パキケファロサウルスをモチーフにしたと思われる、頭部が異常に発達したエネミーがぞろぞろと群れを成して現れたのだ。
「ちょっと……これは数が多すぎるわね! 私だけなら別に逃げ切れるけど……みんなはどうしたものか……」
「私たちを置いて逃げたら怒るからね! レイも料理の材料にするからね!」
「と、とりあえず、一点突破で道を切り開くしかねぇだろ! おりゃぁぁぁ!! 食らえッ!!」
ライカが巨大な大剣を振り下ろし、迫り来るエネミーの脳天を強撃して怯ませることに成功する。
「私の刀でも、あんな見え見えの突進など、簡単にはじき返せるな!」
一行は襲い来るパキケファロサウルスの集団を捌きながら、包囲を抜け出すために一点集中で突破を図っていく。
しかし、アイが放った精密な矢も、相手の頑丈な頭殻に弾かれてしまう。
「……きりが無いよ! 私の弓じゃ、全然ダメージになってないみたいだし……! カイゼ、何とか一度拘束できない!?」
「そうしないとジリ貧みたいだしね! ――変身!! ――【聖なる鎖】!!」
光の鎖がモンスターたちを一気に拘束し、動きを止めた。その隙に、一同は包囲網を脱出することに成功した。
◆
「みんな、走って! ライカ、足が遅すぎ!」
「しょうがねぇだろ、アイ! 機動力にステータス振ってねぇんだからよ!」
「いや、でも撒いたんじゃない?」
バスタの暢気な言葉にカイゼが後ろを確認すると、確かにモンスターの群れは追ってきていなかった。
「そうだな。撒けたようだ……。って、レイはどこに行ったのだ?」
オニオンの問いかけに、アイが答える。
「あぁ、レイなら『一度拠点に戻って立て直して作戦たてた方がよさそう』って言って、先導して拠点の近くまで様子を見に行くって言ってたよ」
アイの発言に、一同はそれなら安心だろうと肩の力を抜いて落ち着いた。
――その瞬間、拠点の方角からレイの切迫した声が聞こえてきた。
『みんな、拠点方面は多分大丈夫だから急いで戻って! 私は、こいつを拠点から遠くに捨ててくるから!!』
その言葉に、オニオンたちは弾かれたように拠点方面へと走り出した。
レイの姿は見えなかったが、直後に背後の森の奥から凄まじい地響きが響き渡ったのだった。
◆
少し前、レイは少し先導して様子の安全を確認していた。
「とりあえず拠点に戻って作戦を練らないとダメだね……。よし、この道は大丈夫そうだし、これならみんなも戻れるかな……」
確認を終え合流しようとみんなの方へ戻ろうとした。その時――遠くから地響きのような、重厚な音が響いてきたのだ。
(気のせい……? じゃないか……。まぁ、ちょっとくらい見に行くだけなら……)
その選択に、後々レイは深く後悔することになるのだった。
音のする方角へ進んでいくと、地響きはどんどん大きくなってくる。
そろそろだとレイは目を凝らして気を引き締め、木々の隙間から音の主の様子を確認する。
――そして、レイの視界に入ってきたのは、巨大な体を持つティラノサウルスのようなモンスターだった。
(嘘……こんなモンスターまでいるの!? この森の主なのかな……? うーん……【理の再記述】を使えば勝てるかな……? でも今戦うのは、この森のこともよく分かってないし怖いわね……)
そう考え、みんなに伝えるためにこの場を後にしようとした。
しかし、先ほど一行を襲ってきたものと同系統のモンスターが突如現れ、レイを目がけて突進してきたのだ!
それ自体は軽くかわすことができたが、突進は思いっきり太い木にぶつかり、すさまじい爆音を立てた。
ティラノサウルスのようなエネミーはその音を見逃さず、ギラリと赤い目を輝かせて、レイの存在が完全にバレてしまったのだ。
「くっそ……! 面倒なことをしてくれたわね! 拠点も近いし、とりあえず拠点から引き離して逃げるしかないわね!」
レイはそう叫ぶと、みんなの方には行かず、拠点の安全を守るために自らオトリとなって森の奥へと走り出した!
ドゴォォォォォォンッ!!!!
背後で迫り来る地響きを背に、木々を飛び移りながら器用に移動していく。
「とりあえずここまで引き離せば、戦っても拠点は安全かな。それじゃ――【理の再記述】!!!」
レイは手慣れた手つきで赤いシステムウィンドウを操作してセキュリティを解除しつつ、攻撃をかわしていく。
時折、他のモンスターが乱入してくるが、どうやらこのモンスターは目に映るものすべてを襲っているようで、むしろレイへのターゲットが散って楽になっているところすらあった。
「なになに……【暴君の王】ね。しっかしステータス高すぎじゃない……!? 合計ステータスは以前に戦ったガーゴイルより高いんじゃない……? ってことは、推奨レベル50以上!? マジで言ってる……!?」
暴れ狂う【暴君の王】の攻撃をかいくぐりながら、レイは試しに剣で一閃を叩き込んでみた。
その一撃は、思ったよりも良い手応えをとらえていた。
「……思ったより、硬くはないのかな? ステータス的には確かにHPはかなり高いけど……これなら、倒せるッ!!」
そう考えたレイは、逃げるのではなく「撃破」するために暴君に向かっていく。
暴君の動きは自分勝手に暴れているため攻撃がどこを狙っているか分かりづらく戦いづらかったが、隙を見つつ、赤いウィンドウを操作してデバフを入れながら徐々に攻撃を当て、傷を増やしていった。
そんな激しい戦闘を繰り広げていたが、レイは徐々に、ある異常な違和感に気づいていく。
「……うーん、なんかさっきから与えた傷が、勝手に回復してない……?」
そんな疑問を持ち、ボスの行動を注意深く観察してみる。
【暴君の王】は、乱入してきたエネミーを蹂躙し、それをそのまま食い散らかしていく。
その瞬間――確かにレイの赤いウィンドウ上でも、ボスのHPが回復しているのを確認できた。
「……ちょっと、待ちなさいよ。これ、【暴君の王】が暴れるとその騒ぎに乗じて他のモンスターが集まってきて、それを捕食して回復して……って、これ、倒すの大変すぎない!? いつまで経ってもHPが減らないじゃない!」
幸いレイには、相手のHPの最大値を減らすことができる【理の再記述】があるため、時間をかければ倒すことはできた。しかし、現状の物量と回復スピードでは、時間がかかりすぎるのは明らかだった。
(うーん……一度拠点に戻ってみんなと相談して――)
レイがこの後の動きを悩んでいた時――目前の【暴君の王】ではない、別の轟音のような地響きが聞こえてきたのだ。
「……もしかして、また何か近づいてきてる!?」
レイが顔を上げたその瞬間、木々をなぎ倒して【暴君の王】と同等のサイズを誇る、別の巨大モンスターが乱入してきた!
「……なにあれ!? トリケラトプス!? えーと【三槍の角帝】!? この森、どうなってるのよぉぉぉーーーッ!!」
レイが思わず叫ぶ中、眼前では【暴君の王】と【三槍の角帝】が、激しく衝突し、咆哮を上げて縄張り争いを始めた!
「こんな中にいるなんて無理無理無理無理!!どうせこの音に釣られてまた他のエネミーが集まって来るんでしょ! もう逃げる!!」
レイは【理の再記述】を解除し、脱兎のごとく前線拠点【イーストガルド】へと逃げ帰ったのだった。
――こうして、ギルド【シーカーズ】の新たな森への最初の探索は、苦い思い出とともに終わったのだった。
恐竜ってやっぱりかっこいいですね




