一仕事したら宴会!
シーサウスの教会で復活し外へ出たレイは、慌ただしく人が行き交う活気ある光景を目にした。
装備がズタズタに破れていたり、インナー姿のまま歩き回るプレイヤーも多く、さきほどの防衛戦がどれほどの激戦だったかが如実に見て取れた。
(そりゃそうだよね……あんなレイドモンスター、ちゃんと装備を整えてもっと強くなってから挑むような相手だもんね……)
それでも、無事に街を守り抜くことができた達成感からか、行き交うプレイヤーたちの顔には晴れやかな笑顔が溢れていた。
「おっ、レイはこっちで復活したんだね」
声をかけられて振り向くと、門の方角からカイゼが歩いてきていた。
「なんで門の方から来てるの?」
「あぁ、私は空を飛んでたから、最後の津波を回避できたんだよね。浜辺の方はだいぶボコボコにされて復旧作業中みたいだけど……ちなみに街の方はほぼ無傷だから安心して」
「それは良かった! まだまだここで釣りを楽しみたいからね。それより、みんなは?」
周囲を見渡してみるが、シーカーズの他のメンバーの姿は見当たらなかった。
「ふふ、懲りないねぇ。まぁ次の再出現まで2週間はあるみたいだし大丈夫じゃない? それとみんなは多分、ギルドホームにいると思うよ。急いでシーサウスに来てくれたしね」
とりあえず一度ギルドホームへ戻ろうということで話がまとまり、途中で見かけたブライトたちにも声をかけ、揃って移動することにした。
◆
「おっ、レイたちも来たな!」
「ブライトさんたちもいらっしゃい! 一仕事したら打ち上げしないとね! 大丈夫、料理はたくさん作ってあるから!」
ギルドホームの扉を開けると、そこはまるで壮大な打ち上げ会場のような大賑わいとなっていた。
全員が席に着いたところで、レイ飲み物を掲げて音頭をとる。
「それじゃ、みんな! 急に始まったレイド戦だったけど、力を貸してくれて本当にありがとう! おかげでシーサウスの街を守り切れた! 乾杯!!」
「「「「乾杯ーーーーっ!!!」」」」
レイの合図とともに、賑やかな打ち上げが始まった。
「ブライトさん、今回はわざわざ駆けつけてくださって本当にありがとうございました」
「構わないさ。それにあの街が滅ぼされては私も困るからね。しかし……MMOで街そのものを消滅させようとするモンスターを出してくるとは、なかなか面白い試みをする運営だ」
「……あはは、そうですね……」
ブライトの言葉に、レイは脳裏にアジーンたちの顔を浮かべ、苦笑いを浮かべる。
「それにしても、あのレイドモンスターって本当に倒せるんスかね?」
「どうだろうね。少なくとも、私たち数人だけが強くなったところでどうしようもないだろう。どうせ大してHPも削れていなかったんだろう、レイ?」
「そうですね……最後にステータスでHPを確認した感じだと、削れたのは全体の1〜2割程度でした。私たちと同等以上の装備を持ったプレイヤーを何十人も集めて、万全の準備をしてようやくスタートラインだと思います」
「マジッスか……。それに絶対、まだ隠された形態がありそうッスし、あいつを撃破するのは相当先になりそうッスね……」
「そうだな。あの甲羅ビットの対策も練らなければならないが……いつか絶対にリベンジを果たそう」
その後も戦いの反省や攻略法の議論、他愛もない雑談で大いに盛り上がり、時間はあっという間に過ぎていった。
「さて、私たちはそろそろお暇しようかな」
「ブライトさん、今日は本当にありがとうございました! ブライトさんたちがいてくださらなかったら、絶対に耐え切れていませんでした」
「構わないさ、困ったときはお互い様だろ?」
「そうですよ!」「そうッスね!」「ええ、本当に!」
ブライトの呼びかけに、彼のギルドメンバーたちも笑顔で頷く。
「そういえば、まだギルド名をお伺いしていませんでしたね」
「確かに伝えていなかったね。私たちのギルド名は【クォーク・レギオン】だ。良い名前だろう?」
「すごく格好良い名前ですね! 理知的なギルドって雰囲気がします」
「ありがとう。招いてくれて感謝するよ。――次のギルド対抗戦ではいい勝負にしよう」
そう言い残し、ブライト率いる【クォーク・レギオン】の面々は爽やかに去っていった。
「さて……私もそろそろログアウトしようかな」
レイがシステムウィンドウを操作しようとした、その時――。
「「「「待ったーーーーーっ!!!!」」」」
「おいおいおい、そりゃあねぇだろレイ! 私たちは装備を破壊してまで戦ったんだぜ!?」
「そうだよ! 私だってこうしてみんなのためにご馳走を作ったんだから!」
なぜかメンバー全員から恐ろしい圧で詰め寄られる。
「いや、ライカのは装備破壊技前提だし、あの防具は私が譲ったやつじゃん! それにバスタの料理はすっごく美味しいけど、趣味で作ったやつでしょ!?」
レイは完璧な正論で反論するが、誰一人として取り合ってくれない。
「そうよ! 私だってあの魔法少女衣装で戦うの、本当はすっごく恥ずかしかったんだから! 今頃掲示板にスクショを載せられて話題になってたらどうするのよ!?」
「私も愛用の弓が無くなっちゃったからな〜」
「いいじゃんカイゼ、MMOで有名になれたらチヤホヤされるよ? それに闘技大会で1位になった時点で今更でしょ……。ていうかアイ、さっき使ってたスキルって、昔私が作ったゲームに出てくるやつだよね?」
真っ赤になって怒るカイゼをそっとスルーしつつレイが尋ねると、アイは嬉しそうに胸を張った。
「よく分かったねレイ! 昔やり込んだ大好きなゲームだったし、思い入れのある大技だったから頑張って再現してみたの!」
自分が過去に作ったゲームを今でも大切に遊んでくれていたことを知り、レイの心にじんわりと温かい感動が広がる。
「……で? 私に何をさせたいわけ……?」
それはそれとして、全員からの視線が痛い。
「今回の戦いで、みんな多かれ少なかれ装備やアイテムがおじゃんになったんだ! この埋め合わせはしてもらわないとな!」
「そうは言われても、みんなの分の装備なんて用意できないわよ!」
釣りで釣り上げたレアそうな装備はすでにライカに渡してしまっており、手元にはろくなストックが残っていないのだ。
「いや、レイは鍛冶師のジョブを持ってるだろ? 何か作れないのか?」
「それなんだけどねオニオン……確かに鍛冶師は取ったけど、それはスキル枠のためで、簡単なメンテナンスくらいしかできないの! 大した装備は作れないし、そもそもまともな素材すらないよ!」
「じゃあ、とりあえず急ぎで何か買ってくるか! 釣りで相当儲かってるだろうし、良い装備が買えるでしょ!」
「ちょっとバスタ!? なんで私が払う前提なのよ!?」
必死に弁明したレイだったが、最終的には全員の勢いに押し切られ、資金を提出させられることになってしまった。
「……もぅ、今度はちゃんと私にも還元してよね……」
「まぁ、いつか必ず返すさ! それよりレイ、もうすぐギルド対抗戦があるみたいだが、戦力強化のために何か耳寄りな情報はないのか?」
ライカからの質問に、レイは一つだけ頭に浮かんだ不確定な情報について思い返した。
「……東。この大陸の東の果てに、特殊なロケーションがあるらしいの。そこへ行けば、何か強力な装備やスキルに繋がる手掛かりがあるかもしれない」
その言葉に、シーカーズの面々は驚愕の表情を浮かべる。
レイはドワンから聞いた話も含め、【鮮血の花園】について説明した。
「そんな重要そうな場所なら、確かに何かがありそうね」
「だな! とりあえずこの後、装備を新調して向かってみるか!」
「ふふ、私は流石に疲れたから今日はログアウトするね」
「お疲れ様レイ! お金ありがとうね! 今度必ず埋め合わせはするから!」
「いいよ。みんながいてくれなかったら実際街を守れてなかったし、お礼としては安いくらいだからね」
そう言って微笑むと、レイはログアウト操作を完了させた。
――こうしてギルド【シーカーズ】の面々は、次なる目標【鮮血の花園】を目指し、新たな一歩を踏み出すのだった。
やることやったら宴会!




