潮騒に吠える その5
「すっげぇー! あの頑丈な甲羅を破壊したぞ!」
「行けるぞ!」
「押し切れーーーっ!!」
絶対防御の甲羅を砕いたことにより、浜辺に残されたプレイヤーたちの士気は最高潮まで跳ね上がっていた。
しかし、間近でその光景を見ていたライカたちは、違和感に気づく。
「なぁ……確かに甲羅を破壊したよな?」
「私たちの持てる攻撃のフルコースで、木っ端微塵に破壊したはずだね……」
「……言いたいことは分かっているよ」
彼らの視線の先に映っていたのは――砕け散った甲羅の下から現れた、先ほどよりも網目が大きく重厚な内層の甲羅だった。
しかも次の瞬間、その甲羅がパージされるように剥がれ落ち、ふわまりと宙へ舞い上がったのだ!
「おいおい……冗談だろ……!?」
「こんなの、ロボットアニメとかで見るオールレンジ兵器ビットじゃない……!」
「確かにバスタ、そういうの好きで見てるわよね……ってことは……!」
オニオンが嫌な予感を言葉にするより早く、展開が完了した。
なんと12基の甲羅ビットが宙を縦横無尽に旋回し始め、本体を守りつつ、周囲のプレイヤーへ狙いを定めるかのように不気味な光を放つ!
さらに本体は大口を開け、今まで以上の高濃度な水流ブレスを激しくチャージし始めていた!
「ここからが本番ってことかよ……! 外側の甲羅は、この装甲\を守るためのプロテクターだったってことかよ!」
「それよりも、あの溜めブレスを止めないとヤバいよ!」
オニオンが叫んで駆け出すが、近づいた瞬間に宙を舞う甲羅ビットから容赦ないレーザーが照射され、弾き返されてしまう!
「こんなの近づくの無理でしょ……! でも魔法なら!」
「それもダメみたいね……!」
バスタが指さす先では、宙を飛ぶビットが展開したバリアによって、遠距離からの魔法攻撃がことごとく無効化されていた。
そうしている間にも、ボスの口元でチャージされるブレスの光は強烈さを増し、いつ解き放たれてもおかしくない状態になっていた。
「これは数で押すしかないわ! みんな、突っ込んで!!」
いつの間にか肉薄していたレイが、赤い残光をなびかせながら叫ぶ!
その指示に応え、わずかに生き残っていた前衛職たちが一斉に捨て身の突撃を開始した!
だが、12基のビットによる迎撃網は鉄壁で、果敢に挑んだアタッカーたちが次々と撃ち落とされていく。
そんな猛攻の中でも、レイは人間離れした機敏さでビームを回避し、何とかボスの頭部へあと僅かというところまで肉薄する!
(みんながターゲットを散らしてくれたおかげで、飛んでくるビームが少ない……! これなら行ける!)
だが、あと一歩というところで接近を察知され、すべてのビットが一斉にレイへ照準を向けた!
ドババババッ!!!
「くっ! あとちょっとだったのに……!」
撃ち落とされながらも、レイは最大の目的を果たしていた。
「みんな! 急いで離れてーーーっ!!」
レイの切羽詰まった声に、全員が一斉に後方へ跳び退く。
何人かは「攻撃を止められなかった」と諦めかけたが、レイには上空に完成しつつある「希望」が見えていた。
いつの間にか潮砕きガメラドンの真上には、太陽と見紛うばかりの巨大な火球が形成されていたのだ。
「皆さんが注意を逸らしてくれたおかげで、邪魔されずに済みました……! 行きますよ……【モーリー・バースト】―――ッ!!!!」
それはクレタの放つ、現状のプレイヤーが扱い得る最大級の極大爆発魔法だった!
ドドドグァァァァァァァンッ!!!!
天地を揺るがす圧倒的な爆発と熱風が、レイドボスを丸ごと呑み込んでいく!
熱気が晴れた後に姿を現したボスは、溜めブレスこそ相殺されて阻止されたものの、依然としてHPを残しており、12基のビットも健在だった。
「あれを直撃させて、まだ倒せないんですか……!?」
「だが……あの極大ブレスを防ぐことには成功した! 制限時間まで、あと5分! 全力で足止めするぞ!!」
ブライトの決死の檄に、残されたわずかなプレイヤーたちが再び気合を絞り出す!
しかし、潮砕きガメラドンはプレイヤーたちを完全に無視し、悠々と巨足を踏み出して港町【シーサウス】の方向へ歩き始めた。
残り5分、体力を大きく削れていないせいか「拠点破壊」の行動モードへと移行したのだ。
「まずいっす! 誰か攻撃を当てて足を止めないとっす!!」
アレックスが焦燥の声を上げるが、攻撃を行おうにも12基の甲羅ビットの防衛網に阻まれ、近づくことすら叶わない。
「止めろ! 止めろぉッ! とにかく街との間に体を叩き込め!!」
残り少ないプレイヤーたちはタンクも後衛も関係なく、正門の前に「人の壁」を作り、その歩みを阻もうと立ちはだかる!
ズズズズズ……!
しかし、そんな決死の壁すら圧倒的な質量とビットの照射によって、わずかに歩みを遅くさせるのが精一杯であり、長く持たないことは明白だった。
(このままじゃ、残り5分持たない……! 【理の再記述】で書き換えようとしても、ボスが私を完全に無視してる……! なんとかあいつのヘイトをこっちに向けないと……!)
レイはどうすれば意識を奪えるか必死に思考を巡らせる。
だが、レイ一人では接近してもビットに弾かれるだけであり、他のプレイヤーたちも装備は砕け散り、満身創痍で動ける状態ではなかった。
(……万事休す、か……!)
万策尽きかけた、その時――。
「あきらめるのは、まだ早んじゃない!? 二人なら、行けるかもよ!!」
頭上から、聞き馴染んだ頼もしい声が響き渡った!
驚いて見上げると――そこには、漆黒の翼を背に広げ、全身に紫電の雷を纏って飛翔する親友の姿があった。
「今の私なら、レイ並み……ううん、それ以上の機動力で動けるわ! あと5分くらいならこの形態も保つ! あいつも頭へ強力な一撃を喰らえば、少しくらいこっちを向くはずよ!」
その言葉に、レイの視界が一気に開けた。
「ふふっ、確かにね! さぁ……勝っても負けても、これが最後よ!!」
赤い残光と紫色の雷撃が交差し、二人は一点を目指して爆発的な加速で突撃を開始した!
2人を殺気立って迎撃すべく、12基の甲羅ビットが全砲門を向けてレーザーを乱射する!
迫り来る光線の雨を、2人は紙一重のドッグファイトでかわしながら距離を詰めていく。
迫るにつれて攻撃は激しさと正確さを増していくが、レイとカイゼはまるで互いの呼吸を知り尽くしているかのように交差し、ビットの照準を狂わせていく。
そして――超高速の乱撃の中、一瞬だけ生まれた「射線の隙間」をレイは見逃さなかった!
「そこッ!!」
隙間を滑空するように突き抜け、ついにボスの頭部直上へと到達する!
「少しは……こっちを向きなさいよーーーっ!!!」
レイは全体重と運動エネルギーを乗せ、ボスの頭頂部へ深々と剣を突き刺した!
「グガァァァァァッ!?」
思惑通り、潮砕きガメラドンは進撃を止め、頭上のレイを振り払おうと巨体を強引に回転させた!
その足止めは、ほんの数秒のことだった。
だが――その数秒こそが、この防衛戦の勝敗を決定づけたのだった。
ボスが巨体を揺らした瞬間、正門の直前でボスの足がピタリと止まり、やがて潮砕きガメラドンは歩みを止めると、ゆっくりと海の方角へと向き直ったのだ。
『――制限時間が経過しました。次回レイドボス再出現まで:14日』
頭上に響き渡るシステムアナウンス!
それを見た生き残りのプレイヤーたちから、地鳴りのような割れんばかりの歓喜の叫びが上がった!
「「「「うおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーっ!!! 守り切ったぞーーーーっ!!!」」」」
……だが、勝利の余韻も束の間。
潮砕きガメラドンが海へ消える直前、天を突くような凄まじい雄たけびを上げた。
それに呼応するかのように、沖合から津波のような超巨大な大波が押し寄せてくる!
ザザザバァァァァァァァンッ!!!!
「「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!?」」」
激しい大波は浜辺に残っていた潮砕きガメラドンと満身創痍のプレイヤーたちを容赦なく呑み込み、一瞬にして全員を光のポリゴンへと変えて送還していった……。
「……はは、これは時間切れのペナルティかな……。まぁ何はともあれ、街に被害を出さずに守れたんだから、良かった……のかな?」
静まり返った浜辺の上空。
ただ一人、魔法の翼で空中に留まっていたカイゼは、苦笑いを浮かべながらポツリと呟くのだった。
こうして、突如始まったレイド戦は凄絶な激闘の末、町を守ることに成功し幕を閉じたのだった。
ビット攻撃なんてロマンですよね!




