潮騒に吠える その3
ブライトを筆頭にタンクを集めるため走り回っているプレイヤーたちを横目に、カイゼは一人で強烈に葛藤していた。
「秘密兵器がある」と豪語した以上、ついにそのタイミングが来てしまったのだ。
「……はぁ、本当にこれを使うことになるとはね」
呟きながら装備インベントリを確認する。
キューブの中に納められた『魔法少女セット』は、着用者に光や聖属性の魔法を解放する効果があった。その中には強力な補助や攻撃魔法だけでなく、今回のような敵の動きを拘束する「拘束魔法」も含まれている。
カイゼがここまで葛藤している理由はただ一つ、純粋に「あまりにも恥ずかしすぎて着たくないから」であった。
「……それでも、やるしかないわよね。やることやったら、一瞬で元に戻すわよ……!」
その頃、最前線ではレイが縦横無尽に走り回っていた。
「すっごい迫力ね……! あんまり離れすぎて、他のプレイヤーの集団へ流れていっても困るし……つかず離れずで引きつけないとね! あとは……ブライトさんたちを信じるしかないわ!」
回転しながら暴れる【潮砕きガメラドン】は、近くにいるプレイヤーを無差別に襲う習性があると判明したため、圧倒的な機動力を誇るレイが単身でオトリを引き受けていたのだ。
距離が離れすぎるとヘイトが切れて別の場所へ行ってしまうため、距離を調整しながら回避をする精神をすり減らす作業。長時間の持続は厳しいが、長くはかからないとレイは信じていた。
「素晴らしい機動力だな……。それに反則みたいなオリジナルスキルもある。今は味方だから良いが、敵に回したら恐ろしいな」
壁の構築を進めるブライトは、縦横無尽に旋回するレイの姿を見ながら感心したように呟く。
ブライトのもとへタンクを集める計画は極めて順調だった。
ブライト自身が闘技大会3位という実績と知名度を持っていたため、呼びかけに応じて周囲の防衛職たちが次々と集まってくれたのだ。
さらに、ギルド【シーカーズ】の面々やアレックス、クレタが浜辺中を駆け巡って誘導してくれたことも大きかった。
そうして手練れのタンクたちが集結し、ブライトを中心とした巨大な大盾の壁が完成した。
「レイ! カイゼ! こっちの準備は整ったぞ!!」
激しい回転音が響く浜辺に、ブライトの凛とした声が響き渡る!
「了解! そっちに向かうわ! カイゼ、任せたよ!!」
レイの声も響いた。
「あぁーもうっ! 分かったわよ!! ここまでお膳立てされたらやるしかないじゃない!! ――【変身】!!!」
意を決したカイゼが叫ぶと、眩い聖なる光が彼女を包み込んだ。
光が収まったそこには、完璧な「魔法少女」の姿となったカイゼが立っていた。
その衝撃的な姿に、周囲のプレイヤーたちから一斉に歓声とどよめきが上がる!
「うおあぁぁ!? なんだあの衣装! 魔法少女じゃん!?」
「てかあれ、大会優勝者のカイゼじゃねぇか!?」
「神コスプレだ! スクショ! スクショ撮れーーっ!!」
「〜〜〜っっっ!!!」
飛び交う無数の視線と撮影音に顔を真っ赤に染め上げながらも、カイゼは愛用の杖を天高く掲げた。
「……あとは頼みましたよ、タンクの皆さん! ――【聖なる鎖】!!!」
虚空から無数の光の鎖が召喚され、爆走する【潮砕きガメラドン】の甲羅へとしがみつき、強引に締め上げていく!
バキバキバキッ……!
流石に完全停止までは至らず、回転の強大な勢いによって鎖が一本、また一本と引きちぎられていく。だが、カイゼも魔法を上書きし続けた!
「一本でダメなら何本でも繋ぎ止めるわよ! こっちのMPが尽きるか、そっちの回転が止まるか……我慢比べよ!!」
怒濤の拘束魔法の連打。ブライトたちの待つ「盾の壁」へと到達する頃には、ボスの回転勢いは劇的に削ぎ落とされていた!
「ここで止められなきゃ街が終わるぞ! 全員、気合を入れろーーっ!!」
「「「「おぉぉぉぉぉぉぉーーーーっ!!!」」」」
衝突の瞬間が訪れた。
勢いを削がれたとはいえ、巨体による回転攻撃の破壊力が消えたわけではない。
凄まじい衝撃を、ブライト率いる大盾陣形が真っ正面から受け止める!
ドガァァァァァァァンッ!!!!
一瞬の爆音とともに浜辺が揺れ、土煙が晴れた後に残されていたのは――限界まで疲弊しながらも踏みとどまったタンク陣と、完全に回転を止められて沈黙した【潮砕きガメラドン】の姿だった!
「よし! 動きを止めたぞ! 全員掛かれ!! ただし、再びあの回転攻撃が来そうな場合はすぐ陣形を組み直すぞ!」
ブライトの合図とともに、待機していたアタッカーたちが一斉に飛び出していく!
他のプレイヤーたちが突撃する中、ギルド【シーカーズ】の面々とブライト、そしてアレックスたちが一度集結した。
「ブライトさん、助かりました! でも……この疲弊の仕方だと、何度も耐えるのは厳しいですかね……?」
「あぁ、レイか。そうだな……防具や大盾の耐久値的にも、次の回転を受け止めるのは厳しいプレイヤーが多そうだ。もっと勢いが弱いタイミングで止めるか、そもそもあの回転を発動させない方法があれば良いのだが……」
レイは目の前の赤いウィンドウを確認しながら答える。
「そうですね……一回、あいつの『機動力』をもとに戻してみます。……多分ですが、機動力にデバフをかけて動けなくなったことで、攻略を容易にさせないためのカウンターとして回転突進フェーズへ移行した気がするんです」
その分析に、ブライトも深く頷いた。
「なるほど、辻褄が合うな。他に打つ手もない以上、試してみる価値は大いにある」
方針が決まると、レイは素早く仲間たちへ指示を出していった。
「アイ! とりあえず私は前線へ出るから、後方からの全体の指揮と指示出しは頼んだわ!」
「分かったよ。なるべく被害を抑えて時間を稼ぐねぇ」
「ライカ! この装備をあげるから、何とか時間を稼いで!」
レイはインベントリから、先日の釣りで手に入れたものの使っていなかった高レアリティの防具を取り出してライカに渡す。
「おっ、かなり良い装備じゃねぇか! ぶっ壊しても構わないってことだな!?」
レイはニッコリと頷き返した。
「バスタとオニオンは、とりあえずアイの指示に合わせて動いて!」
「「分かったわ」」
「カイゼ! なんで装備を元に戻してるのよ!? 今は時間を稼ぎたいんだから、また変身してよね!」
言われたカイゼは、耳まで真っ赤にしながら叫んだ。
「あの衣装、恥ずかしすぎるのよ……!!」
「そんな文句を言ってる状況じゃないでしょ!? それに、あの姿になると他のプレイヤーの士気も爆上がりするんだから、頼んだわよ!」
「〜〜っ、はいはい、分かりましたよ! はぁ……」
カイゼも状況の深刻さは理解しているため、渋々ながら再度魔法少女へと変身した。
「ブライトさん! クレタちゃんとアレックス君をお借りしますね!」
「構わないさ! 私はすぐには動けないから、タンクの陣形を再編成しておく。リナにもバフと回復を全体に行き渡らせるよう指示を出しておこう」
「クレタちゃんも、基本は時間稼ぎに特化してほしいの。ダメージはほとんど通ってなかったからね……。あの大魔法は状況を見て、本当にヤバくなったら使っちゃって! 出し惜しみする余裕はないから!」
「分かりました!」
「アレックス君はクレタちゃんのカバーに動いて!」
「了解っす!」
「残り30分、かなり厳しい戦いになると思うけど……みんな、頼んだわよ!!」
「「「「おぉぉぉぉぉぉぉーーーーっ!!!」」」」
制限時間、残り30分――。
シーサウス防衛戦は、ついに最終盤のクライマックスへと突入するのであった。
魔法少女っていいですよね……




