潮騒に吠える その1
突如浜辺に打ち上げられた巨大モンスターのせいで、浜辺は騒然としていた。
「おいおい! なんだよあれ!?」
「どうすんだよあんなの!?」
「いや、案外見かけ倒しかもしれない……」
誰もが恐怖で動けない中、一人の勇敢(無謀)なプレイヤーが行動を起こした。
「どうせでけーだけの見かけ倒しだろ! おっしゃー! ぶっ倒してやるぜ!」
勢いよく飛び出し攻撃を加えたが、その攻撃はあまりに分厚く硬い甲羅にあっけなく弾き返されてしまう。
その一撃が皮切りになったかは分からないが、どこからかシステムのアナウンスが響き渡った。
『レイドモンスター【潮砕きガメラドン】との戦闘を開始します』
対象:潮砕きガメラドン
人数:制限なし
時間:60分
特殊敗北:シーサウスの崩壊
全員の視界にウィンドウが表示され、浜辺はさらに混沌を極める。
「レイドモンスター!?」
「それよりシーサウスの崩壊ってなんだよ!?」
皆が混乱する中、【潮砕きガメラドン】がゆっくりと歩みを進め始めた。その先にあるのは、活気あふれる【シーサウス】の街並みだ。
(アジーンたち、とんでもないの用意してるわね……。なんで釣りでレイドモンスターが釣れるのよ! しっかし、このままじゃ街が危ないわ……!)
見渡してみると、この街まで来られただけあってみんな手練れのプレイヤーばかりのようだ。混乱しつつも、次第にそれぞれの役割を理解して動き出し始めていた。
「さて、私も出し惜しみなしで動かないとヤバいかな! ――【理の再記述】!」
しかし、目の前に現れた赤いウィンドウに表示されたのは、想定外のエラー文言だった。
『対象と戦闘中でないため使用できません』
「えっ!? これ戦闘判定じゃないの……!? 参加しているだけじゃダメなの!? それとも、あのモンスターにとって私たちの攻撃なんて『戦闘』とすら認識されてないってこと!?」
実際、【潮砕きガメラドン】は何人かのプレイヤーから遠距離攻撃を受けていたが、痛がりもせず悠々と街へ進んでいる。
「だとすると、私の攻撃力じゃ無理ね……。こんな時、カイゼかクレタちゃんがいてくれたらな……」
「呼んだ?」
「呼びました!?」
聞き覚えのある声に反応して振り返ったレイは、目を見開いた。
「カイゼ!? クレタちゃん!? てかみんな! なんでここにいるの!?」
「おまえを探しに来てくれたんだってよ! 大変だったんだぜ? カイゼがこの街に来たことなかったからな、道中の敵を速攻で攻略しながらここまで来たんだからな!」
ライカが胸を張って答える。
「それはお疲れ様! じゃあ今ちょうどヤバい状況だから手伝って!」
「いや、いきなり言われても状況が分からないんだけど……。なんか浜辺が不穏だからついてきただけで……」
オニオンの発言に、みんなが頷く。
「まぁなんだ……ヤバいのを釣り上げちゃったらしくてね。このままだとシーサウスが壊滅するらしいのよ」
「それってすっごくヤバくないっすか!? 急いで戦わないとっす!」
「そうしたいんだけどねアレックス君、あいつ硬すぎてこっちの攻撃に振り向きもしないのよ……。ってことでカイゼ、最大火力ぶち込んでくれない?」
「はいはい、やりますよ。……その代わり、こっちにヘイトが向いたらちゃんと守りなさいよね?」
カイゼは若干あきれながらも、愛用の杖と魔導書を構えてやる気になってくれたようだ。
「私にも手伝わせてください!」
「クレタちゃんは待機してて! あれは本当に最終手段だから!」
クレタの秘密兵器は威力こそ規格外だが、反動でしばらく攻撃魔法が使えなくなるため、気軽に撃てるものではなかった。
「それじゃ、準備できたから行くわよ? ちなみにこれで無理だったら、私でも削れないからね!」
「ほんと? 変身すればもっと火力出るんじゃない?」
「………………それ、もう一回言ったらレイに向かって叩き込むわよ?」
本気のトーンで睨まれたため、レイは慌ててからかうのをやめた。
「行くわよ! ――【ライトニング】!!」
闘技大会の時よりさらに威力を増した極太の雷光が、【潮砕きガメラドン】の脳天へと直撃した!
ドガァァァァンッ!!!!
あまりの衝撃に、巨体が初めてぴたりと足を止める。
そして、ゆっくりとこちらへ巨体を向け、バリバリと大気を震わせる咆哮を上げた!
「グォォォォォォオオオン!!!!」
「カイゼさん、すごいです!」
「ふん、まぁね! クレタちゃん、ここからが本番よ!」
ヘイトを向けられたことで、ついにボスがレイたちを『敵』と認識して動き出した!
一瞬静寂に包まれた戦場に、レイの声が響き渡る。
「みんな聞いて! あのモンスターを街から引き離したい! 協力して!」
その一声に、周りで戸惑っていたプレイヤーたちが一斉に反応する。
「よっしゃ! 任せろ!」
「攻撃は俺たちが受けてやる!」
「ダメージが通るなら倒せるだろ!」
頼もしい声や威勢の良い叫びが浜辺のあちこちから上がった。
「さて……私たちはどうします?」とアイが尋ねる。
「そうだね、アイ……。他のプレイヤーを焚き付けておいてあれだけど、私とカイゼとクレタちゃん以外は一度待機かな」
「えっ、それはどうしてっすか!?」アレックスが不思議そうに身を乗り出す。
「私は【理の再記述】の展開タイミングを狙うし、カイゼとクレタちゃんは遠距離から確実に削れる手段がある。でも、みんなはボスの攻撃パターンが判明するまで、切り札として温存しておきたいの」
「確かにな。あいつがどんな大技を使ってくるか分からない以上、数でたたくのは危ないしな」
ライカの冷静な分析に、全員が深く賛同した。
「よし! それじゃあ街を救うために、みんなで頑張ろう!」
一丸となった声とともに、シーサウスの街を守るための壮絶なレイド戦が、本格的に開幕するのだった。




