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魚は釣っても釣られるな

「うーん、結構良い時間だけど……まぁ、別に夕食は取らなくてもいいかな! 今はそれより一刻も早く釣りに行きたいしね!」


今のレイは、もはやあの歯車で新しい機巧装備を作ることしか頭になかった。

過去にもゲーム開発で忙しい時に一食抜くことくらい日常茶飯事だったので、本人としては何の苦にもならないのだ。


手持ちの大量の魚を、ギルドホームの厨房にある大きな冷蔵庫のような保管庫へ詰め込む。

本来ならインベントリに入れっぱなしにしておくと鮮度が落ちる仕様なのだが、最高級ギルドホームの設備にはそんな心配は一切無用だった。


そうして身軽になったレイは、再びシーサウスの海辺へ向かい、釣りにいそしむのであった。


――そして、数日後。


レイはひたすら釣りに没頭していた。

連日防波堤に立ち続けていると、同じように毎日のように釣りをしている常連プレイヤーたちともすっかり顔なじみになった。

釣りの最中に軽く会話を交わしたり、時には時折釣れてしまうモンスターとの共闘を行ったりもした。


そうして、あっという間に金曜日の夜を迎えていた。



――場所は変わって、コンコルディアのギルドホーム。


平日の仕事を終え、休日という最高のご褒美を謳歌しにプレイヤーたちが次々とログインしてくる。


「あれ? 私が最後だった? ライカ、お疲れ様〜」

「おう、オニオンか! お疲れ! みんなもうログインしてるぜ。レイはギルドホームにはいなかったがな!」


その時――厨房の方向から、ガシャーン!!という巨大な衝撃音が響き渡った。


「キャッ!? な、なに今の音!? 何かあったのかしら!?」

「何事だ!? 行ってみるぞ!」


オニオンとライカは急いで厨房へと向かった。

到着した時には、すでにカイゼとアイも現場に駆けつけていた。


「カイゼ! 一体何があったんだ!?」

「……とりあえず、中を見てみて……」


カイゼに促され、厨房の中を覗き込んだオニオンとライカは絶句した。

猛烈な魚の匂いとともに、床一面を埋め尽くす大量の魚の群れ――文字通りの『魚の山』が崩れて散乱していたのだ。


「うわっ……なんだありゃ……!?」


唖然としていると、魚の山の下から弱々しい声が聞こえてきた。


「助けてぇ~……」


声のする方へ魚を掻き分けながら近づくと、料理人のバスタが魚の山に完全に埋もれていた。


「うへぇ……全身魚臭いわ……。助かったわ、ありがとう……。週末の料理でも作ろうと思って冷蔵庫を開けたら、一気に崩れ落ちてきたのよ……」

「災難だったなオイ……。このホームには最高級の風呂もあるんだ、さっさと洗ってきな!」

「そうさせてもらうわ……」


ライカの痛切な助言に、くたびれた様子のバスタはフラフラとお風呂場へ去っていった。


「しっかし、こんな大量の魚、一体どこから手に入れたんだ!? 誰か知ってるか?」

「分からないわ……マイ、食べる?」

「アイ、愛でるのは良いけど片付けも手伝いなさいよ。……それと、これ絶対にレイの仕業だと思うわ」

「ハッ、それ以外にあり得ねぇだろ! 多分【シーサウス】まで行って完全に釣りにハマりやがったな。あいつ、ギャンブルみたいな運コンテンツ大好きだしよ!」


ライカの分析に、全員が深く頷いた。

平日の昼間からまともにログインしているのはレイかライカくらいなので、冷静に考えれば犯人はすぐに分かるのだ。


そうして全員で魚の片付けを進めていると、ギルドホームの玄関からチャイムのようなベルの音が響き渡った。


「なにこの音? 誰か来客かしら?」


アイの問いに、みんなが顔を見合わせる。

すると、廊下の奥から聞き覚えのない若い声が聞こえてきた。


「いくら許可されてるからって、勝手に入るのはマズくないっすか!?」

「確かにそうかもですね! でもレイさんは『いつでも来て良いよ』って言ってましたし、大丈夫ですよ! あ、奥で物音が聞こえます! 挨拶しに行きましょう!」


パタパタと足音が近づき、オニオンたちの前に二人組のプレイヤーが現れた。


「あっ! どうもこんばんは! レイさんのギルドメンバーの皆さんですね!」

「おう! クレタとアレックス、だっけか? レイから話は聞いてるぜ! 私がライカだ、よろしくな!」


ライカが他のメンバーに事情を説明し、互いに自己紹介を済ませた。


「今日はブライトさんたちはいないの?」

「ブライトさんたちは今日はリアルで用事があるみたいで遅れるそうです! 私とアレックスだけで遊びに来ました! ……わぁ! そのモコモコしたの、すっごく可愛いですね!」

「あら、お目が高いねぇ。私の相棒の【マイ】よ。撫でてみる?」


あっという間に打ち解けているクレタを見ながら、アレックスは遠い目をしていた。


「あいつ……どこ行っても馴染むのが早すぎるっす……」

「賑やかで良いじゃねぇか! で、何か用があって来てくれたのか?」

「いえ、普通に遊びに来ただけっすね。そういえば、レイさんはいないんっすか?」

「それがいないんだよな。多分【シーサウス】でずっと釣りをしやがってると思うんだが……どうだ? みんなで一緒に行ってみねぇか!」

「いいんすか!? それならぜひよろしくお願いするっす!」


風呂から戻ってきたバスタも合流し、一行はレイを探しに【シーサウス】へ向けて移動することになった。



――その頃、シーサウスの釣り場でも動きがあった。


「どう? そっちは何か釣れた?」

「いやぁ、今日は全然……。魚ばっかりで宝箱とかはサッパリ釣れないねぇ」


釣り場では、周りのプレイヤーたちと和やかに雑談を交わしながら竿を振るレイの姿があった。


「そう? こっちは絶好調だ! ……そういえば、さっきこんなのが釣れたんだけど、何か知らない?」


そのプレイヤーの手元にあったのは――まさにレイが喉から手が出るほど求めている『錆びた歯車』だった!

周りのプレイヤーは首を傾げていたが、レイは顔に出さないようニッコリと微笑んだ。


「なんだろう? 歯車みたいですね……。あ、そういえば【センタリア】の街の端っこに骨董品屋さんがあって、そういう古い珍品を高値で買い取ってくれるみたいですよ?」

「マジで!? よっしゃ、後で行ってみるわ! 教えてくれてありがとね!」


歯車を釣ったプレイヤーは嬉しそうに笑い、再び海へと竿を出した。

(よし……買い取りルートへ誘導完了!)とレイが心の中でガッツポーズを作った、その時――


「うおっ!? 来た来た来たぁぁぁーーー!! 今までの比じゃない手応えだぞ!!」


離れた場所で竿を出していた大柄なプレイヤーが叫び声を上げた!

あまりの衝撃に、頑丈な釣り竿が限界までしなっている。


「よっしゃー! 手応え抜群だぜぇ!!」


周りのプレイヤーたちも手を止めて応援で見つめる。

基本的に他人の釣りには手を出さないのがプレイヤー同士の暗黙の了解だった。


しかし――今回のヒットは、あきらかに常軌を逸していた。


「チョ、ちょっと待って!! こいつ重すぎる……うわぁぁぁぁ!?」


なんと、そのプレイヤーが竿ごとそのまま海へと引きずり込まれ始めたのだ!


「ちょっ、誰か止めろ!!」「こんな引き見たことないぞ!?」「よし、捕まえたぞ!!」


防波堤が一気に騒然となる。

近くにいたプレイヤーたちが慌てて飛びつき、海へ落ちそうになるプレイヤーの腰や脚を必死に抱え込んだ。


「せーのっ!!」「ぐぬぬぬ……!!」「だめ、引っ張られる!!」


それでも海の底からの凄みのある力に押されており、一人、また一人とプレイヤーを支える人数が増えていく。

レイも含め、最終的に15人以上のプレイヤーが数重の輪になって泥臭く綱引き状態となった時、ついに海の底の均衡が崩れた!


「よし! 浮いてきたぞ!! 一気に引き揚げろぉぉぉーーー!!!」


「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!」」」」


全員で息を合わせ、全身の力を込めて竿を跳ね上げる!


ドザァァァァァァァンッ!!!!


爆発のような水柱とともに空中に飛び出し、砂浜へと轟音を立てて落下したのは――これまで釣れてきたどのモンスターとも比較にならない、巨大な山のような怪物だった。


【潮砕きガメラドン】


「グォォォォォォォオオオン!!!!」


あまりの巨体と放たれるプレッシャーに、浜辺にいた全員が息をのむ。

それは、釣り場が一瞬にして「レイドボス級の大乱戦場」へと変貌を遂げた瞬間だった!



---

【潮砕きガメラドン】

シーサウスの海に眠る主。

圧倒的な体躯と甲殻を持ち、波を砕き船を沈める。

一定の条件がそろうと超低確率で釣れる。

とあるアイテムを餌にして釣ると確定で釣れる。


ギルドホームにある冷蔵庫はウィンドウからも操作できますがバスタはリアルの癖で普通に開けたゆえの悲劇です

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