聞かれたら答えるお人よし!かわいそうな人もいる……
ダンジョンを攻略した一行は、本来の目的地である最南端の街【シーサウス】を目指して街道を進んでいた。
「レイさんズルいですよー! 私もあの1億Gのギルドホーム欲しかったです!」
「そうね、コンコルディアの一等地なんて、なかなかお目にかかれない良い物件だものね」
クレタとリナに詰め寄られ、レイは気まずそうに苦笑いを浮かべる。
「あはは……きっと他の街にも素敵な物件はたくさんありますよ!……そうだ、【シーサウス】に着いたら、試しにうちのギルドホームに来てみます?」
「えっ、いいんですか!?」
クレタが目を輝かせた。
「大丈夫ですよ、私がギルドリーダーですから! ウェルカムです!」
「わーい、ありがとうございます! ……そういえば、大会の景品の【エクイップメントキューブ】に入ってたカイゼさんの装備って、どんなのだったんですか?」
「それ、自分もめっちゃ気になってたっす!」
「確かに気になるわね」
「ふむ。レイの装備は今着ている装備だろうし、私も自分の装備は把握している。となれば、残る優勝者の装備が気になるのは当然だな」
ブライトまで興味津々な様子に、レイは「あー……」と困り顔で頭を掻いた。
「カイゼの装備ね……教えるのは全然いいんだけど、カイゼが実際にその装備を着るまで、みんな絶対に黙っててくれる?」
「それは構わないが……ギルド対抗イベントに向けて隠しておきたい、とかかい?」
「あっ、全然そんなカッコいい理由じゃないです! 何なら私の装備の性能はバラしてもらっても構わないんですけど……カイゼの装備の情報をこの段階で漏らしたのがバレたら、私、後で本気で怒られるので……」
そう言うと、レイはカイゼが【エクイップメントキューブ】を開けた瞬間にこっそりスクショしておいた画像を、ブライトたちに見せた。
そこに映っていたのは――顔を真っ赤にしてフリーズしている、白と基調とした「魔法少女衣装」を纏ったカイゼの姿だった。
「………………」
画像を見た瞬間、ブライトたちは一瞬固まったが、すぐに察したような深い表情になった。
「なるほど……確かにこれは、本人が一番知られたくないやつかもね……」
「自分だったら……恥ずかしくて着る自信ないっすね……」
「えー! 私はちょっと憧れますけどね、こういう可愛い装備!」
「これは確かに知られたくないだろうな。仮に私が優勝していても、こういう装備が届いたのだろうか……?」
「多分、システムがプレイヤーのプレイスタイル合わせて生成したんだと思います。なので……ここで私が見せたことも内緒にしてくださいね?」
「あぁ、重々わきまえているさ」
そんな微笑ましい雑談を交わしながら、街道を進んでいく。
「あ、海が見えてきたっすね!」
「潮の匂いも強くなってきましたね!」
「あれが目的の街じゃないかしら?」
リナが指さす先には、青い海と港が見え、目指していた【シーサウス】の街並みが広がり始めていた。
だが、街道と街を隔てる海岸線に、異質な存在が立ちはだかる。
「だが……やはりタダでは通してくれないようだね。気張っていくぞ!」
ブライトの視線の先――砂浜から地響きと共に巨大なボスモンスターが姿を現した。
「巨大なヤドカリですね! 私も反動が明けて攻撃魔法が使えるようになったので、全力で行きますよ!」
「確かに巨大なヤドカリだね……【コロッサス・ハーミット】か」
一行は武器を構え、気合を入れて戦闘に飛び込んだ!
「【挑発】!!」
「ブライトさんはやっぱり頼もしいっすね!」
「行きますよ! ――【フレイムボール】!」
「さっきの蜘蛛より威力が高いわね……でも、これくらいなら崩れないわ! ――【ヒール】!」
(蜘蛛の時も思ったけど、本当に見事な連携……。ていうかブライトさんが頼もしすぎる。やっぱり優秀なタンクがいると前線が安定して楽だなぁ)
レイもその完璧な連携を邪魔しないよう、サイドから機動力を活かして攻撃を加えていく。
しかし、しばらく戦いを続けていたものの、お互いに決定打を欠いていた。
「くっ……あのヤドカリ、殻が硬すぎるっす……!」
「私の魔法も、あの分厚い甲殻にはあんまり効いてる感じがしないです!」
ブライトとリナの防衛線は完璧でパーティが崩れる気配はないが、ボスの圧倒的な防御力の前に、有効なダメージを与えられずに長期戦へと持ち込まれていた。
「ブライトさん! もう一回【モーリー・バースト】使ってもいいですか!?」
「クレタちゃん待って! ここは私が何とかする!」
ブライトが返答するよりも早く、レイが声を張り上げた。
「レイ! 何か手があるのか!?」
ブライトが器用に大盾で攻撃を凌ぎながら問いかける。
「確実にHPを減らす手段があります! ちょっとだけ時間を稼いでもらえれば大丈夫です!」
「それくらいならお安い御用さ! 任せたよ!」
「ありがとう! ――【理の再記述】!!」
レイの宣言とともに、目の前に真紅のシステムウィンドウが展開される。
「あっ、あれは決勝戦で見たやつっす!」
レイは流れるような素早い手つきで赤いウィンドウを操作し、ものの2、3分でセキュリティを突破する。
(なるほど……防御力パラメータが極端に高い代わりに、素の最大HPは低めに設定されているタイプのボスか。これなら、MP消費を抑えて一瞬で書き換えられる……!)
レイは瞬時に【コロッサス・ハーミット】の現在HPパラメータを『1』へと上書きした。
「クレタちゃん! もう一回【フレイムボール】を使ってみて!」
「えっ!? は、はい! ――【フレイムボール】!」
クレタの放った小さな火の玉が【コロッサス・ハーミット】の巨大な殻に着弾した瞬間――ドォン!とあっけなく爆発し、ボスはそのまま光の粒子となって崩れ去った。
「みんなお疲れ様!」
レイは明るく声をかけたが、ブライトたちは狐につままれたような信じられない表情で突立っていた。
さっきまでピンピンしていた巨大ボスが、魔法一発で消滅したのだから無理もない。
「な、何をしたんすかレイさん……!? あの赤いウィンドウっすか?」
「オリジナルスキルかしら……?」
「私もすっごく気になります!」
「決勝戦でも使っているのを見たが……もしかして相手のステータスそのものに干渉しているのかい?」
ブライトたちの鋭い分析に、レイは苦笑いを浮かべた。
「ブライトさん、鋭いね。その通りで、対象のステータスパラメータに直接干渉するオリジナルスキルなんだ」
その発言を聞いた瞬間、全員の顔が「それ反動も何もない反則では……?」という表情に変わる。
「なんすかそれ……ズルすぎじゃないっすかね……!」
「これは……ギルド対抗イベントの時、対策を練らないと本気でまずいね……」
「あはは、でもこれ、燃費がすごく悪くて準備に時間がかかるから、対人戦でバレてると発動前に潰されちゃって使うの難しいんだよ?」
「よく言うわよ……決勝戦で普通に使いこなしてたじゃない……」
「それって、私たちでも習得できたりしないんですか!?」
クレタが身を乗り出して尋ねると、レイは「うーん……」と腕を組んだ。
「プログラミング……というか、コードの構造を理解して書き換える知識ってある?」
その一言に、ブライトたちは何かを察したように肩を落とした。
「なるほど……そういうアプローチで取得したのか。なら私たちには逆立ちしても無理だな」
「ですね! でも私は、カイゼさんが使ってた背中に羽を生やすスキルのほうが使ってみたいです! やっぱり空を飛ぶのは楽しそうですし!」
クレタは相変わらずの元気さですぐに気持ちを切り替えた。
「あれもかなり特殊な取得方法だと思うけど……ヒントだけでも教えようか?」
「いえ、大丈夫です! 自分で攻略法を探すのもゲームの醍醐味ですから!」
クレタの言葉に、ブライトたちも満足そうに頷く。全員、生粋のゲーマーゆえのこだわりだった。
「さて、ついに【シーサウス】へ到着だ。みんな、お疲れ様!」
「お疲れっす!」「お疲れ様でした!」「ええ、お疲れ様」
「ブライトさん、パーティに混ぜてくれてありがとう。おかげで楽しくここまで来られたよ」
「それはお互い様さ。レイはこれから次の大陸へ向かうのかい?」
「いえ、まだこの大陸も探索されていない場所が多いみたいだし、当分は移動する予定はないですね」
「そうか。まぁ私たちも同じ考えだし、また機会があったらよろしく頼むよ」
「それより! レイさんのギルドホームに行ってみたいです!」
クレタの発言で、レイは「あ、そうだった」と思い出す。
「そうだね、じゃあ早速行こうか! ギルドホーム用の無限テレポートスクロールを使えば、パーティ全員でそのまま移動できるから!」
レイがスクロールを掲げると、光の陣が全員を包み込んだ。
一瞬の浮遊感の後、視界が開ける。
目の前に広がっていたのは、王都コンコルディアの一等地にそびえ立つ、最高級のギルドホームの豪邸だった。
「うわぁぁ! 外から見た時もすごかったっすけど、中に入るとさらにヤバいっすね!」
「羨ましいです! 私たちも別の街でこれくらいのギルドホームが欲しくなっちゃいます!」
「設備も最高級のものが揃っているわね……ここを拠点にできたら最高だわ」
「これを見ると確かに欲しくなるな。早めに探せば、他の街にも似たような優良物件が残っているかもしれない」
豪華な内装や設備に、ブライトたちは目を丸くして感嘆の声を上げた。
「ブライトさんたちなら、いつでも遊びに来てくれて大丈夫ですよ! ギルドの設定で、ブライトさんたちなら私がいるときは自由に入れるように許可を出しておきますね」
その言葉に、全員がパーッと明るい笑みを浮かべた。
「ありがとうレイ。また何かあったら、こちらも積極的に手伝わせてもらうよ。今後ともよろしく頼む」
「こちらこそ! 今日は本当にありがとうございました!」
「さて、もう良い時間だし、一旦ログアウトしようかな」
窓の外を見ると、すっかり日が落ちて群青色の夜空が広がっていた。夕食と休憩に丁度良い時間だ。
レイはブライトたち全員とフレンド交換を交わし、大満足の笑顔でログアウトボタンを押すのだった。
レイは楽しく遊べればいい考えなので意外となんでもしゃべります




