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科学の爆炎

レイはブライトたちのパーティーに参加し、始まりの大陸の最南端にある街【シーサウス】を目指して街道を進んでいた。


「そういやレイさん、知ってるっすか? 2週間後くらいの休みにギルド対抗の大型イベントをやるみたいっすよ」

アレックスから話しかけられた内容に、レイは目を丸くする。


「ギルド対抗のイベント!?」

「おや、その様子だと知らなかったようだね。詳しい内容はまだ明かされていないが、運営から予告が出ているんだ」

「プレイヤーとしてはイベントが多くて嬉しいですね!」

「そうね。運営にイベント好きのスタッフでもいるのかしら」


そう言われ、レイの脳裏に一人のAIの顔が浮かぶ。

(イベント好きね……絶対ドヴァーの仕業だろうな……)


そんなことを考えていると、ふと先頭を歩いていたブライトの足が止まった。


「あれ? ブライトさん、どうしたの? 地図を見てるみたいだけど、次の街へ行くなら道なりに進めばいいんじゃないの?」

「あぁ、さっきの【センタリア】の情報屋でね、この近くに未攻略のダンジョンがあるって話を聞いて地図をもらったんだ。せっかくだし、少し寄り道してみないかい?」

「ダンジョン!? いいですね! ぜひ行きましょう!」


クレタはブライトの提案に即座に乗り、テンションを上げた。

レイも異論はなかった。


「それじゃあ、探検開始っすよー!」


一行は街道を外れ、密林の奥にひっそりと開いた不気味な洞窟へと辿り着いた。


「ここがそのダンジョンのようだね。聞いた情報だと、発見されたばかりでまだ誰も攻略していないらしい」

「レアな装備とか素材があるといいですね!」

「油断せずに行きましょう」


ブライトを先頭に、パーティは薄暗い洞窟の中へと足を踏み入れる。

洞窟内は松明の光が届く程度には明るかったが、奥に進むにつれて独特の違和感が強まっていった。


「うわ……蜘蛛の巣がびっしり張ってるっす」

「こう言っちゃなんですけど、私、リアルでもゲームでも蟲系だけは本当に苦手なんですよ……!」

「そうね、あまり良い気分はしないわね」

「だが、向こうはこちらを歓迎してくれる気はないようだね。……来るぞ!」


ブライトの視線の先――洞窟の天井や壁の隙間から、大人の腰ほどもある巨大な黒蜘蛛のモンスターがワラワラと群れをなして出現した。


「リアルでこんなの目の前に出たら、絶対気絶するね……」

レイの呟きに、全員が深く頷いた。


「でも、これだけ数が密接して集まってくれるなら――私の出番ですね!」


クレタが自慢げに杖をくるりと回し、詠唱を開始する。


「行きますよ! ――【フレイムボール】!」


放たれた火の玉は蜘蛛の群れの中央に着弾し、激しい爆炎を巻き起こした。

クレタが矢継ぎ早に魔法を放つたび、蜘蛛の群れは確実に数を減らしていき、最後の一匹までクレタ一人で叩き潰してしまった。


「どうだい、レイ。うちの魔法使いは頼もしいだろう?」

ブライトが誇らしげに胸を張る。


「本当にすごいですね! うちのギルドの魔法使いも、これくらい素直ならいいんですけど……」

そう言ってレイは、無茶難題ばかり押し付けてくる親友の顔を思い浮かべた。


「ありがとうございます! でも、私なんてまだまだですよ。大会の決勝戦で見た魔法には遠く及びませんから!」

「まぁ、あの魔法は色々規格外だったからね……」

「おや、レイはあの優勝者のカイゼとも知り合いなのかい?」

「ええ、リアルの友人でギルドにもいますよ」

「うへぇ、それはすごい……。ギルド対抗イベント、ライバルが強すぎるっすね……」


そんな雑談を交わしながら、一行はダンジョンの奥へと順調に進んでいった。

道中出現する蜘蛛の群れも、クレタの巧みな火属性魔法で危なげなく撃破していく。


「かなり深いところまで来たっすね」

「そうねー。どこを見ても蜘蛛の巣だらけで嫌になっちゃうわ」


歩きにくさに苦戦していると、クレタの明るい声が響いた。


「ブライトさーん! こっちに広い部屋があって、中央に宝箱がありました!」


その声に、全員の表情がパッと明るくなる。

部屋に入ってみると、広々とした石造りの空洞の中央に、ポツンと豪華な宝箱が置かれていた。


「……流石にこの広さの部屋で、中央に宝箱が一つだけ置いてあるのは怪しいね」

レイの指摘に、ブライトたちも同意するように頷く。


「そうだね。だが、みすみす宝箱を諦める手はない。罠だとしても、タンクである私が開けるべきだろう。みんなは距離を取っていてくれ」


ブライトが宝箱に手をかけ、ゆっくりとフタを持ち上げた。

中にはアイテムが入っているのが見えたが――それを確認する余裕は与えられなかった。


カサカサ、と嫌な音が響く。


「やっぱり罠だったっすね!」

「天井からも壁からも、蜘蛛が溢れ出てきてるわ!」

「よーし!私がまとめて吹き飛ばします!」

「頼もしいが、今回は部屋全体から包囲されている! 私が全ヘイトを引き受けるから、クレタは詠唱に集中してくれ! ……【挑発】」


ブライトが全身から眩い光を放つと、部屋を埋め尽くす蜘蛛が一斉にブライトへとターゲットを向けた。


ブライトに群がる蜘蛛の群れに対し、レイ、アレックス、そして回復役のリナが必死に援護に入る。

レイはヴィントシリーズの機動力を活かして蜘蛛の足を切り裂き、アレックスが大剣で薙ぎ払い、リナが的確なヒールでブライトのHPを維持する。


しかし、天井から次々と湧き出す圧倒的な物量を前に、前線は徐々に押し込まれ始めていた。


クレタも的確に蜘蛛の数を魔法で減らしていた。

「くっ……この数、【フレイムボール】じゃ手数が足りない! ジリ貧ですね!」

「クレタ! 構わん、あの大規模魔法を使え!」

ブライトが叫ぶ。


「えっ!? でも、それを使ったらブライトさんたちまで巻き込んじゃいます!」

「構うものか! リナ、私に全バフを集中させろ!」

「了解! 【プロテクション】【マジックバリア】!レイさん、アレックス、こっちに下がって! 巻き込まれるよ!」


レイとアレックスが緊急回避で後方へ下がる。

クレタは意を決して杖を突きだし、膨大な魔力を練り上げ始めた。


(待って……クレタちゃんの練り上げてる魔力、ただの火炎魔法じゃない。超高音の熱エネルギーが圧縮されてる……!)


レイはクレタに向かって叫んだ。

「クレタちゃん! もしかして現実で『物理』か『化学』を嗜んでたりする!?」


「よくわかりましたね!物理学を多少やってます!」


「やっぱり! クレタちゃんがやろうとしてること、ただの火炎魔法じゃないでしょ! 超高熱の熱電離を引き起こそうとしてる!?」


クレタは目を丸くした。

「詳しいですね!、完全なプラズマ相転移を起こすためのが足りなくてまだ完璧ではないのでただの大爆発になっちゃうんですがそれでも十分です!」


――ズドォォォォォォン!!!!


瞬間、爆音と共に世界から「赤」が消え去った。


圧倒的な熱量と衝撃波が部屋全体を駆け抜け、爆発を引き起こす。


「ギニャァァァァァーーー!?」


群がっていた数百匹の蜘蛛たちは、叫びを上げる隙すら与えられず、甲殻の一片すら残さずに完全蒸発して消滅した。


爆炎が収まり、静寂が訪れる。


部屋の中央には、バフでぎりぎり生き残ったブライトが、立っていた。

そして後方では、クレタ自慢げに杖を回す。。


「すごかったよクレタちゃん!オリジナルスキル!?」

レイは思わず興奮して聞いている。

「ありがとうございます!【モーリー・バースト】っていうオリジナルスキルです!失敗から生まれたスキルなので過去の偉大な失敗から名前を借りました!ていうかレイさんも詳しいですね!」

「まぁ仕事柄いろいろ知ってるってのはあるね……てかあんまリアルのこと聞くのはあれだけどみんな大学生?」

「そうですね!よくみんなで遊んでます!」

「ふぅなんとか耐えれてよかった」

「ブライトもお疲れっす」

「バフが足りてよかったわ」


「さて、お楽しみの報酬タイムだ」

そういってブライトは再度宝箱の中身を確認する。

そこには1枚のスクロールが入っていた。

「どれどれ、スキルスクロールで新しいスキルを覚えられるのか

 どうやら蜘蛛の巣を自在に出すスキルを使えるようだ、私には必要ないし欲しい人が受け取ってくれ」

相談を行いクレタが受け取ることとなった。

「ありがとうございます!では早速使ってみます!【スパイダーウェブ】」

クレタがスキルを使うと蜘蛛の巣が指定した位置に生成された。

「なるほど!よくわからないですね!」

そんな率直なコメントにみんなが笑顔に包まれる。

(この様子を見てると物理学に詳しいなんて全然思えないな……元気な子だと思ってたけど……人は見かけによらないってことかな……)

ちょっと失礼なことを考えつつ部屋を後にする。


「よくあんなオリジナルスキル作れたね……」

「スクロールのお店で面白そうなスクロール売ってたので試してみたらできたんですよね!

 でも、温度もエネルギーも足りなくて、貯めたエネルギーが暴走した結果できたんですよ!」

「おかげで3位の賞金をかなり使ってしまったね」

そんな話をしながら一同は進んでいく。


「しっかしあの難易度でスキルスクロール1枚だけはしょっぱいっすね」

「まぁそんなこともあるだろう、それよりもこの扉は最深部みたいだね」

「そのようね、ライカは多分戦力にならないだろうから私たちで頑張らないとね」

「ごめんなさい!【モーリー・バースト】使うと攻撃魔法使えなくなるんです!」

「気にすることはないさ。あれがなかったらどのみち全滅していただろうしね。さぁ、最後まで気を抜かずに行こう!」


ブライトの威勢の良い掛け声とともに、全員で重々しい扉を押し開けた。


広大なドーム状の部屋の中央には巨大な蜘蛛の巣が張り巡らされており、そこには道中の蜘蛛とは比較にならないほど巨大な蜘蛛が待ち構えていた。


「私がヘイトを稼ぐ! レイ、アレックス、火力は任せた!」

「了解っす!」

「ブライトさん、私にちょっと考えがあるんだ。勝手に動いちゃうけど大丈夫?」

「……わかった! 巨大蜘蛛がこちらに気づいた、作戦を聞いている暇はないようだが任せたぞ! ――【挑発】!!」


それぞれが即座に戦闘態勢に入る。


巨大蜘蛛は口から粘着糸を飛ばし、天井に張られた蜘蛛の巣を利用した立体的な機動で縦横無尽に襲いかかってきた。

ブライトは大盾を完璧な角度で構え、すべての攻撃を正面から受け止めてダメージを最小限に抑える。

しかし、攻撃を防ぐのが手一杯で、パーティ全体として反撃の糸口が掴めずにいた。


「クレタの魔法攻撃が使えないのが痛いっすね……。あの立体的な動きのせいで、近接攻撃が届かない高所にすぐ移動されちゃうっす!」

アレックスが歯痒そうに呟いた瞬間、その視界にレイの姿が映り込んだ。


「なっ……なんすか、あの動き……!?」


アレックスは驚愕の声を上げた。

レイはヴィントスカーフの赤い残光を引かせながら、まるで重力を無視するかのように垂直な壁を駆け上がり、縦横無尽に走り回っていたのだ。

そして壁や天井を疾走しながら、巨大蜘蛛の体を支えている「蜘蛛の巣の根元」を二刀流で的確に切断していく。


「なるほど……! 支えてる糸を全部切り落とせば、地面に引きずり降ろせるっすね! それなら自分もやるっす! ――【トリニティ・ブレイド】!!」


アレックスが叫ぶと、彼の周囲に33本の光る剣が飛翔した。

その光景を目撃したレイは、壁を走りながら目を見開く。


(えっ、昨日私が闘技大会で使ったスキル!? もう習得してるプレイヤーがいるなんて……! まぁ、条件さえ分かれば再現は難しくないけど……!)


アレックスも操剣術を駆使し、飛翔する剣で高所の糸を切断していく。

(レイさんほどマルチタスクで縦横無尽には操れないっすけど、これくらいなら負けないっす!)


レイとアレックスの連携により、蜘蛛の巣の支柱が次々と切断されていく。

ブライトとリナが地上で的確にボスのヘイトを管理してくれているからこそ成り立つ、見事な攻略手順だった。


そして――レイが最後の太い糸を切断した瞬間!


ミリミリと音を立てて蜘蛛の巣全体が破綻し、巨大蜘蛛の巨体が重量に耐えきれず地表へと滑落した。

ガシャーン!!と激しい音を立てて地面に叩きつけられ、巨大蜘蛛は無防備に仰向けへひっくり返る。


「チャンスだ! 一気に畳みかけろ!!」


ブライトの号令とともに、レイ、アレックス、ブライトの3人が一斉に肉薄!

機動力を削がれ、無防備に転がる巨大蜘蛛に対し、容赦ない連続攻撃を叩き込む。

抵抗する間もなくHPバーを削り切られた巨大蜘蛛は、眩いポリゴンの光となって消滅した。


「ふぅ……みんなお疲れ様!」


ブライトのもとへ全員が集合する。その足元には、光り輝く宝箱が鎮座していた。


「今度はいいものが入ってるといいっすね!」


アレックスが期待を込めて宝箱を開けると、中から眩いばかりの金銀財宝が溢れ出してきた。

その価値に、全員が目を輝かせる。


「うわぁ! すごいお宝! これだけあれば、例の『一等地』も買えるんじゃないですか!?」

クレタが目を輝かせるが、リナが苦笑いを浮かべて首を振った。

「あ、その一等地なんだけどね……今日確認してみたら、残念ながら売り切れちゃってたのよね」

それを聞いて、クレタは悲しそうにガックリと肩を落とした。


「……ねぇ、その『一等地』って何のこと?」

レイは素朴な疑問を抱いて尋ねてみた。


「コンコルディアの街にある、1億Gのギルドホームのことっすよ!」

アレックスの回答に、レイは苦虫を噛み潰したような顔になって答えた。


「あー……それね。……ごめん、私のギルドが買っちゃった」


「「「えええええええぇぇぇぇぇ!?!?」」」


アレックス、リナ、クレタの3人が口を揃えて叫び、絶句した。


しかし、ブライトだけは一人納得したように深々と頷いた。

「やはりレイさんだったか。売り切れたと聞いた時は驚いたが、あの金額を出せるプレイヤーがいるとすればレイさんくらいだと思っていたよ。本当に買っていたとはね」


「あはは……メンバーがどうしても買いたいって言うからね……。あ、てかアレックスくんさ、さっき【トリニティ・ブレイド】使ってたよね?」

「あ、それっすか! 昨日の闘技大会の後から掲示板がひっきりなしに大盛り上がりしてて、検証スレを見ながら必死に習得したんすよ!」

「なるほどねぇ……それならスキルの露店に登録して売れば儲かったかなぁ」

「あはは、今はもう遅いかもっすね。みんな習得条件を解析しちゃいましたから」

今度はレイが残念そうに肩を落とした。


「ふふ、それじゃあこのお宝をみんなで分けようか。5等分でいいかね?」

ブライトの提案に、レイは首を横に振った。


「あ、ブライトさん、私は配分なしで大丈夫です!」

「レイ、遠慮はいらないよ? 君の圧倒的な活躍がなければ、ボス戦だってどうなっていたか分からないんだから」

「ありがたいですけど、これからギルド対抗戦があるって時に、みなさんの戦術やスキルを色々見せてもらっちゃいましたから! そのお詫び……と言ってはなんですけど、戦利品は辞退させてください」


レイの真っ直ぐで筋の通った言葉に、ブライトは快く頷いた。

「……分かった。そういうことなら、ありがたく私たちのギルドで使わせてもらうよ。ありがとう、レイ」


お宝を回収し、清々しい達成感と共にダンジョンを後にする。


外に出ると、空は綺麗に茜色へと染まり始めていた。


「みんな、お疲れ様! このまま本来の目的地である【シーサウス】へ向かおうと思うが、大丈夫かな?」

ブライトの問いかけに、全員が笑顔で頷いた。


夕寄りの心地よい風を受けながら、一行は新たな港町【シーサウス】を目指し、再び歩みを進めるのだった。

熱のプラズマ化に関して間違ってることを書いてたら申し訳ない...

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