新たな街へいざ行かん
【ズーマル】に到着したレイは、さっそくその独特な街並みを観光していた。
これまでの石造りの建物が連なる街とは異なり、広大な牧場のようなエリアが広がり、そこでは様々なモンスターたちが野生のままに伸び伸びと過ごしている。
人間が暮らす建物もあるにはあるが、基本的にはモンスターと「共生」するための街といった風情だ。
「アイはここでパートナーのズーマルをテイムしたのかぁ。こんなに可愛いモンスターを見ていると、確かに自分も一匹仲間にしてみたくなるね……」
レイは思い思いに動き回る小動物系モンスターたちをぼんやりと観察する。
時折、彼らをテイムしようと奮闘するプレイヤーたちの姿も見かけたが、見事成功して喜ぶ者もいれば、失敗してモンスターに返り討ちに遭い逃げ出す者もいて、見ていて飽きなかった。
「……あ、やば。ぼーっと眺めてるだけで結構時間が溶けてた」
重い腰を上げたレイは、そろそろ次の街へ向けて移動を開始することにした。
次の街へ続く街道は相変わらず綺麗に整備されており、移動自体に苦労はなかった。
ここまで旅をして分かったことだが、舗装された街道の上には基本的に雑魚モンスターがポップしない仕様になっているようだった。
そのため、次の街へ進むだけなら、エリアの境目に鎮座する「門番モンスター」さえ倒せればサクサク進めるのだ。
「道中が安全なのはサクサク進めて助かるね。モンスターと戦いたいなら、街道から一歩外れればいくらでもいるし」
独り言を呟きながら街道を進んでいくと、やがて前方にあらたな街のシンボルが見えてきた。
「確か【センタリア】って名前だったかな。……そして、あそこに立ちはだかってるのが門番の【キラーウルフ】か」
レイの視線の先――街道の中央に、黒い体毛を逆立てた巨大な狼のモンスターが立ち塞がっていた。
レイとキラーウルフが対峙する。
静寂を破り、先に動いたのはレイだった。
機動力を生かし、赤い残光の軌跡を描きながら一瞬で距離を詰める。
キラーウルフも即座に迎撃行動へ移った。鋭い爪による引き裂き、巨大な牙の噛みつき、さらには尻尾によるフェイントを交えたトリッキーな連続攻撃が襲いかかる。
推奨レベルの上昇を感じつつも、レイは洗練された最小限のステップですべての攻撃を紙一重で回避。すれ違いざまにで首筋を一閃する!
ガキィン!と鮮やかなクリティカルエフェクトが弾けたが、流石は門番、一撃で倒し切るには至らない。
「チッ、タフだね……!」
キラーウルフは大きく距離を取ると、天を仰いで咆哮を上げた。
「ルォォォォォン!!」
その遠吠えに応えるように、街道脇の草むらから手下と思われる狼が1匹、また1匹と姿を現す。
瞬く間に合計4匹の手下が召喚され、レイはあっという間に包囲されてしまった。
「この数をソロで裁くのは流石に厳しいね……。でも、負ける気はないよ!」
レイはニヤリと笑うと、躊躇なくキラーウルフの親玉へ向かって全速力で突進した。
手下たちが連携して壁を作ろうとするが、レイは僅かな隙間を見抜き、鮮やかに包囲網をすり抜けていく。
狙うは親玉の首一つ!
キラーウルフは正面から迎え撃とうとカウンターの噛みつきを繰り出すが、レイは空中でそれを回避。すれ違いざまに、紅い刀身が閃いた。
すでに手傷を負っていたキラーウルフは悲鳴と共に美しいポリゴンの光となって砕け散った。
親玉を失った手下の狼たちは、恐怖に怯えるように草むらへと逃げ出していく。
「ふぅ……なかなか手強かったね。門番モンスターも一筋縄じゃいかなくなってきたか。久々にレベルも上がったけど……ステータスポイントはまだ温存でいいや。まずは目の前の街に入ってみよう」
そうしてレイは、【センタリア】へと足を踏み入れた。
さっそく街並みを確認するために散策してみたが、これまでの街のように「テイム」や「娯楽」といった特別な施設があるわけではなく、冒険者たちが中継拠点として利用する大きめの街といった印象だった。
そんな中、レイの目に気になる看板が飛び込んできた。
『~情報屋・冒険者の酒場~』
「情報屋ね……。ちょうどいいや、何か面白そうな情報がないか入ってみよう」
カウベルの音を鳴らして扉をくぐると、店内は木造の温かみのある酒場風で、大勢のプレイヤーやNPCでにぎわっていた。
「いらっしゃい! ここは情報屋……といっても、プレイヤー同士で情報を交換する場を提供する酒場だよ。欲しい情報が見つかるといいね!」
カウンターの店員NPCが笑顔で迎えてくれる。
「案内ありがとう。ちなみに、この『始まりの大陸』の全体構造について教えてほしいんだけど」
「もちろんOKだよ!」
店員NPCの話によると、この【センタリア】は始まりの大陸のほぼ中央に位置しており、ここから道が分岐しているらしい。
西側エリアは大半の探索が完了しており、すでに「次の大陸」へ渡るための港町へ到達しているプレイヤーも多いという。
対して東側エリアはまだ探索が進んでおらず、現在は探索拠点用の小さな街が最前線になっているとのことだった。
(東側……やっぱり『鮮血の花園』があるのは東側ね)
レイはふと思いついて尋ねてみた。
「ちなみに、ドワンさんとか団長さんたちは、東側の探索には行ってないの?」
「ああ、 団長さんたちのパーティは『オベリスク』を最優先で目指すって宣言して、一足先に次の大陸へ向かったのでまだ探索されてない箇所がある感じですね!」
「なるほどね、ありがとう!」
「いえいえー! うちの名物料理もおいしいから、ぜひ食べていってね!」
店員の明るい声に見送られ、カウンターへ向かったレイだったが――メニュー表の価格を見た瞬間、重大な事実を思い出して硬直した。
(あ……私、ギルドホーム買うのに所持金全部使ったから、今お金持ってないじゃん……!!)
一瞬でテンションが下がるレイ。
注文すらできず、悲しく店内を後にしようとしたその時――背後から聞き覚えのある声が掛かった。
「……ちょっと失礼、そこのプレイヤーさん。少し良いかい?」
振り返ると、そこには全身を重厚で洗練された鎧で包んだ、背の高い男が立っていた。
「あれ? ブライトさん!? お久しぶり……ってほどでもないですけど、もうこんな街まで進んでたんですね!」
「やっぱりレイか! 雰囲気が似ていたから声を掛けさせてもらったんだ。私も仲間とここで休憩していてね。よければ奥で少し話さないかい?」
「いいですよ! ただし……1杯おごってくれるなら、ですけど!」
「ははは! それくらいお安い御用さ」
太っ腹なブライトに連れられ、レイは店の奥にあるボックス席へと案内された。
そこには、すでに3人のプレイヤーが座っていた。
「あっ、ブライト! どこ行ってたのさ? 急に血相変えて走っていくから驚いたよ」
「すまないね。ちょっと気になるプレイヤーを見かけたものでね。……紹介するよ、彼女がレイさんだ」
「どうも、レイです。よろしくお願いします!」
レイが頭を下げると、ブライトが自身のギルドメンバーを紹介してくれた。
大剣を担いだ気さくそうな重戦士【アレックス】。
とんがり帽子をかぶった元気な魔法使い【クレタ】。
そして、優しげな神官服を着たヒーラー【リナ】。
まさに王道を往く、超・バランス型のパーティ構成だった。
「よろしくっす、レイさん!」「よろしくお願いします!」「ふふ、よろしくね」
三人が温かく迎えてくれる中、ブライトが真剣な表情で本題を切り出してきた。
「単刀直入に言おう、レイさん。……私たちのギルドに入ってくれないかい?」
それは、真っ直ぐなスカウトだった。
「ブライトさん、誘ってくれてありがとうございます。……でもごめんなさい、私、実はもう仲間とギルドを作っちゃったんです」
「そうか……! いや、いきなり不躾な勧誘をしてすまなかったね。だがレイほどの腕前なら、すでに引っ張りだこでも当然だな」
ブライトは一瞬残念そうに肩を落としたものの、すぐに爽やかな笑顔を取り戻した。
「そりゃそうっすよ! 昨日の大会の決勝戦、マジでバケモノじみてましたもん!」とアレックス。
「ブライトが手も足も出ずにやられてたもんねー」とリナが突っ込む。
「それに、今着てるそのキューブの衣装もすごくスタイリッシュでカッコいいです!」とクレタが目を輝かせる。
「あはは……みんなありがとう」
レイは苦笑いしつつ、おごってもらった料理に手を付ける。
雑談に花が咲く中、話題はこの後の予定についての話になった。
「私たちはこの後、この始まりの大陸の最南端にある港町【シーサウス】に向かおうと思っているんだが……レイさん、よければそこへ着くまでの間だけでも、一緒に行かないかい?」
「【シーサウス】って、確か次の大陸へ行くための船が出てる港町でしたっけ。……一回行ってみたいと思ってたので、ぜひご一緒させてください!」
「やった! レイさんが来てくれるなら百人力っすよ!」
こうしてレイは、ブライトたちのパーティに一時加入し、『始まりの大陸』最南端の港町【シーサウス】を目指すことになったのだった。




