一期一会と少年たちとの冒険
昼頃、レイはVNOの世界にログインしていた。
世間は平日で大人は仕事をしている時間だったが、レイには関係のない話だ。
開発やリリースも一人でやっている仕事である。
面倒な仕事も今回はアジーンたちAIに任せているため、心置きなく遊ぶことができたのだった。
東に向かうという漫然とした目標はできたが、ただ闇雲に向かうだけでは効率が悪いとレイは考える。
(オニオンたちはカーニバリアより先の街に進んだって言ってたよね)
そんなことを思い出し、レイもとりあえず情報を集めながら街を巡ってみようと考えた。
テレポートスクロールを使用し、まずはカーニバリアへ移動して次なる街を目指すことにする。
本日の装備は、エクイップメントキューブから呼び出したスタイリッシュな【ヴィントシリーズ】だ。
大会で目立ってしまったことにより、サイクロプス装備のままではものすごい数のプレイヤーに話しかけられるのを経験していたためである。
羨望の視線も悪くはないが、今回はのんびりと街を巡る予定なので、あまり騒がしくされたくないという思惑もあった。
カーニバリアに転送され、周りを見渡してみたレイは、想定以上のプレイヤー数に少し驚く。
世間は夏休みに入っているため、学生らしき若いプレイヤーが大量にいたのだ。
大人のプレイヤーも学生ほどではないがチラホラ見かけ、(仕事してないのかな……)とも思ったが、それは自分にも言えることなのでそっと心にしまっておくのであった。
そんなプレイヤーたちを横目で見ながら、カーニバリアの外へと続く門に向かって歩いていく。
すれ違うプレイヤーたちから視線を感じはするものの、サイクロプス装備でなかったのが功を奏したのか、話しかけてくる者がいないのは助かった。
実際、今のレイのヴィント装備もかなり洗練されて目立ってはいたが、周りも初期装備を脱却して豪華な装備を着ているプレイヤーが増えていたため、変に浮くこともなかったのだ。
そうしてカーニバリアの外に出る門へとたどり着き、街を出ようとしたその瞬間、控えめな声で話しかけられた。
「あの……そこの、装備が強そうなお姉さん……」
声のした方を振り向いてみると、小学生くらいの、全員が同じような直剣を背負った3人パーティーが立っていた。
「ん……? 私に? どうしたの?」
レイは若干困惑しつつも、優しく問いかけてみる。
「えっと……この先の街に行きたいんですけど、そこを守るモンスターが強くて……手伝ってくれませんか?」
「そうなんだ、僕たちのパーティーじゃ勝てないから手伝ってほしくて」
「よろしくお願いします!」
レイはそのお願いを聞きながら考える。
(なるほど、この先の街の門番モンスターに勝てないから手伝ってほしいのか。私も同じ目的地だし、断る理由もないよね。こういう一期一会もMMOの醍醐味だし!)
「いいよ! 私もこの先の街に行きたいところだったから、一緒に行こうか」
その回答に、3人の顔が一気に明るい笑顔になった。
「ありがとうございます……! 僕は【カイト】です」
「【ハヤト】だ!」
「【トシ】です。よろしくお願いします!」
元気よく自己紹介され、送られてきたパーティー申請を承認する。
「私は【レイ】。よろしくね!」
こうして、臨時のパーティーが結成されたのだった。
道中を歩き始めてすぐ、カイトが遠慮がちに尋ねてきた。
「レイさんってお姉さん……もしかして、昨日の大会で2位だったレイさん?」
「そうだよ。でもそんなに気負わなくていいからね」
特に隠す必要もないと思い素直に答えると、3人は目を見開いて驚愕した。
「まじで!? 超有名人じゃん!」
「カイトすごいじゃん! これなら絶対勝てるよ!」
「ありがとう……でも、僕たちなんかの手伝いしてもらっていいんですか?」
「大丈夫だよ! 私も次の街に行きたかったし、困ったときはお互い様だしね」
その言葉に3人は大喜びし、こちらに話しかけながら道を進み始めた。
「あの……決勝戦、すごくかっこよかったです」
「なぁなぁ、剣を飛ばすやつってどうやってやるんだ?」
「オリジナルスキルですか!?」
子供たちからの無邪気でストレートな質問に、レイも嫌な顔ひとつせず答えていく。
「決勝戦見てくれたの? ありがとう! あの剣を飛ばすのはオリジナルスキルだね。みんなは鍛冶師のJOBって持ってる?」
3人ともまだ鍛冶師のJOBは取っていないようだったため、レイはオリジナルスキルの取得には鍛冶師の知識が必要なことや、その取得方法を分かりやすく教えてあげた。
「ありがとう! これで友達に自慢できるぜ!」
「ふふ、この先の街に行きたいのも、友達に自慢するためなの?」
「そうです! 今クラスのみんなでこのゲームやってて、クラスのSNSで自慢したりされたりなんです。だから僕たちも先に進みたくて……」
「オリジナルスキルも、できたら自分たちで作ってみたいです」
なるほど、とレイは思わずほっこりとした笑みを浮かべる。
(小学生くらいの子にも大人気のゲームになってて嬉しいな。それにしてもオリジナルスキルか……どうせなら、作れるように手伝ってあげようかな)
「どんなオリジナルスキルが作りたいの?」
レイが聞くと、ハヤトが身乗り出して答えた。
「今、すごく流行ってる人気のアニメがあるんです!」
「その中の必殺技を使いたいんだ!」
「でも、なかなかうまくいかなくて……」
どんな技か詳しく聞いてみると、「高く飛び上がってかっこよく攻撃、最後に爆発!」という、いかにも男の子が好きそうな王道の必殺技だった。
(高く飛び上がるのと、爆発の現象がネックだね……でも、あのアイテムを使えば……)
「もしかしたら、できるかもしれないよ。挑戦してみる?」
そう伝えると、3人の目が輝いた。
「マジで!? やるやる!」
ハヤトの言葉に、カイトとトシもぶんぶんと大きく頷いている。
レイはインベントリから、以前ガーゴイル戦に向けて念のため買って使わずに残っていたスクロールを取り出した。
【跳躍のスクロール】(一定時間ジャンプ力が大幅に向上する)
【爆発のスクロール】(指定した位置に爆発を起こす。威力は低い)
(当時の私なんでこんなの買ったんだ?空中戦でもしようと考えてたのか……まさかここで役に立つとはね……)
「このスクロールを使って、技を試してみて」
「えっ、いいんですか? このスクロールって結構高そうですけど……」
「大丈夫、大丈夫! どうせ使わずに余らせてたやつだから、遠慮しないで!」
「ありがとうございます!」
「早速試そうぜ! 僕からやってもいい?」
ハヤトが提案すると、満場一致で彼が最初の挑戦者となった。
街道を少し外れた原っぱで、モンスター『アルミラージ』を見つけ、ハヤトが構える。
「いくぜーーーっ!!」
ハヤトが叫ぶと同時に『跳躍のスクロール』を発動し、空高くジャンプ!
空中でアルミラージに向かって急降下し、すれ違いざまに鮮やかに剣で斬りつける!
着地と同時にかっこいいポーズを決め、即座に『爆発のスクロール』を発動して背後にド派手な爆破を起こした!
「よっしゃー! 見た!?」
「「かっこいいーーーっ!!」」
3人は大盛り上がりだ。
「どう? システムからオリジナルスキル獲得の通知、来てる?」
「来てる! やったー! 名前を決められるみたい!」
そうして3人は頭をつき合わせ、あーでもないこーでもないと楽しそうに名前決めの会議を始めた。
やがて名前が決まったのか、ハヤトたちは満面の笑みを浮かべてレイのもとへ走ってきた。
「レイさん、ありがとうございます……!」
「めちゃくちゃかっこいい名前考えたぜ!」
「【アルティメットボンバースラッシュ】です!」
「ふふ、すっごくかっこよくて素敵だと思う! これならボスにも勝てるんじゃない?」
いかにも小学生らしいストレートなネーミングだったが、レイは心からの笑顔で褒めてあげる。
その後、カイトとトシも無事に【アルティメットボンバースラッシュ】を習得し、勢いそのままにボス戦へと道を進んでいった。
「いた! あいつだ!」
ハヤトの指さす先には、街道の先を塞ぐ巨大なモンスターが鎮座していた。
「【ジャイアントベア】……ってところかな? あの大きな熊が街の門番?」
「そうです……見た目通りのパワーがあって、しかもかなり素早いんです……」
話を聞く限り、初心者パーティーにとってはかなりの難敵であることが伺えた。
「大丈夫、みんななら勝てるよ! 新しい必殺技のお披露目、頑張ってきて!」
3人はテンションが上がってるのもあるだろう。自分たちで倒したいと伝えてきたのだ。そのためなるべくレイは見守ることにした。
レイの励ましに、3人は「おー!」と闘志をたぎらせる。
こうして、ボス戦が始まった。
ジャイアントベアの巨体から繰り出される猛攻や素早い動きは、一度呑まれると一気に全滅しかねない勢いがあった。しかし、オリジナルスキルを獲得して自信をつけた3人の動きは、想像以上にキレていた。
観察してみると、相手の攻撃には明確な隙があり、勢いに負けなければ勝機は十分にある。
レイは後方で見守りながら戦況を把握していたが、危ない場面がありつつも、3人はしっかりと攻撃を回避し、着実にジャイアントベアのHPを削っていく。
激しい攻防の末、ジャイアントベアの体は傷だらけになり、いよいよ残りわずかといったところだった。
「勝てる……あと少しだ!」
「ハヤト、僕たちがスキを作るから決めて!」
カイトとトシが果敢に前に出て足止めをかけると、ジャイアントベアが一瞬ぐらりと膝をついた。
「どりゃぁぁぁーーーっ!!」
その決定的な隙に合わせ、ハヤトが完璧な【アルティメットボンバースラッシュ】をジャイアントベアに叩き込んだ!
ドカーン!と派手な爆破が巻き起こる。
「「ハヤト、危ないっ!!」」
しかし直後、カイトとトシの悲鳴のような叫びが響き渡った。
ジャイアントベアのHPは僅かにミリ単位で残っていたのだ。
技を繰り出し、着地でキメポーズをとってスキだらけになっているハヤトの背後に、狂暴化したジャイアントベアが鋭い爪を振りかざす。
動けるようになった瞬間、ハヤトは自分の背後に迫る死の影を悟った。
ジャイアントベアの巨大な爪が、目と鼻の先まで迫っている。
まるで視界がスローモーションになったかのような絶望感の中――ハヤトの視界に、鮮烈な「赤い残光」が飛び込んできた。
ガキィィィィンッ――!!
「――かっこよかったよ、ハヤト!」
重厚な金属音が響き渡る。
そこには、赤く長いスカーフを風になびかせ、ジャイアントベアの巨爪を華麗にパリィで弾き飛ばし、紅い刀身の剣で一閃して引導を渡すレイの美しくも圧倒的な姿があった。
「みんなお疲れ様! 美味しいところだけ持っていっちゃってごめんね?」
レイが振り向きざまに微笑むと、少年たちは一気に安堵の表情を浮かべた。
「いいえ……! 助けてくれてありがとうございます!」
「助かりました! ここまで来たなら、全員で次の街に行きたかったので!」
「えっと……その……あ、ありがとうございます……っ」
ハヤトはなぜか顔を真っ赤にし、急に俯いて元気がなくなってしまった。
(あれ……? 最後に攻撃されそうになって、ビックリしちゃったのかな?)
レイはそんな風に脳内で補正する。
こうして一期一会で組まれた臨時パーティーは、無事に目的の新たな街【ズーマル】へと到着したのだった。
「「レイさん、本当にありがとうございました!」」
街の広場で、カイトとトシが元気よくお礼を言う。
「こっちこそ楽しかったよ、ありがとう! それじゃあまたね。お互いVNOを楽しもうね!」
「レイさん……あの……ありがと、ございました……」
ハヤトはいまだに顔を真っ赤にしたまま、蚊の鳴くような声でお礼を言ってきた。
「ハヤトもまたね!」
レイは笑顔で手を振りながら、パーティーを解散した。
去っていくレイの背中を、ハヤトはずっと胸を押さえながら見つめていた。
「ハヤト……お前、もしかして……」
何かを察したカイトがニヤニヤしながら言いかけると、ハヤトは慌ててその口を両手で塞いだ。
「べ、別に何でもねーし! それよりっ、早くこの街の冒険しようぜ!!」
ハヤトはドックンドックンと激しく打ち鳴らす胸の鼓動を必死に抑えながら、叫ぶように言った。
少年たちの新たな冒険と、気ままな創世主の旅は、これからも続いていくのだった。
ハヤトは脳を焼かれました……




