闘技大会 その2
闘技大会、ここに堂々の決勝戦。
広大なコロッセオの中央リングで対峙するのは、今大会で圧倒的な存在感を放ち続けた二人だった。
一人は、漆黒のフードとロングコートをなびかせ、不気味な瞳の小盾と漆黒のダガーを構える短剣使い――レイ。
もう一人は、深い群青色の豪奢なローブを身に纏い、禍々しい漆黒の杖と重厚な魔導書を携えた魔法使い――カイゼ。
「……約束通り、決勝まで来たね」
「ふふっ、ここまで来たらもう野暮な言葉はいらないね」
互いに決勝戦独特のピリッとした熱気に当てられたのか、柄にもなく格好をつけたセリフを交わす。
二人とも内心では(まあ、多少苦戦はしたけど負けないだろう)と考えていた。だが、この決勝戦に限っては、これまでの相手と同じようにはいかないことを誰よりも理解していた。
観客席を埋め尽くす超満員のプレイヤーたちもまた、二人が醸し出す異様なプレッシャーと熱量を肌で感じ取り、会場は静まり返るような奇妙な静寂に包まれる。
――そして、二人を隔てていた結界が、静かに消滅した。
その瞬間、両者は示し合わせたかのように同時に動いた。
レイは視界に〈理の再記述〉の真っ赤なハッキングウィンドウを展開させつつ、地を蹴って一気に距離を詰める。
対するカイゼは、手にした魔導書を爆発的な手つきで開き、杖を掲げた。
「――【ヘルフレイム】!」
ドカァァン!! と、レイが直前までいた足元の空間が一瞬にして灼熱の炎の海へと変貌した。
ドワン特製の防具による動体視力補正と驚異的な機動力上昇がなければ、初手の一撃だけで勝負が決していただろう。
(地獄の炎!? 初級の【ファイアボール】から一気に飛びすぎでしょ!?)
レイは間一髪、炎の波を上空への超跳躍で回避する。しかし、カイゼはその回避行動すら織り込み済みと言わんばかりに、間髪入れずに次の詠唱を重ねた。
「――【ライトニング】!」
(ちょっと待って……空中で逃げ場がないところに高速の雷撃攻撃!?)
空中での回避不能なタイミング。レイは咄嗟に左腕の【魔眼の小盾】を真正面に構え、全身を丸めて受身をとった。
ギリギリで直撃こそ免れたものの、あまりの衝撃と電撃の貫通ダメージにより、レイのHPバーが一気に3割も削り取られる。
「ふふっ、〈理の再記述〉使わせないよ!」
「今の攻撃、本気で危なかったよ……! でも、これで距離は詰められた!」
空中から着地した時点で、二人の間の距離は劇的に縮まっていた。この間合いなら、次の魔法を詠唱される前に間合いを殺して近接戦に持ち込める。
(ハッキング完了にはまだもう少し時間がかかる……! 下手に距離を取ってもさっきみたいな大技を叩き込まれるだけだ。接近して殴り勝つしかない!)
レイはポーションを飲む時間すら惜しみ、前傾姿勢でさらに踏み込む。
「そう来ると思ってたよ! 【ヴァリアブルワンド】!」
カイゼは不敵に笑うと、魔導書の帯を腰に固定し、手にした杖のアビリティを発動させた。
次の瞬間、彼女の手の中でガーゴイルの杖が鋭い金属音を立てて可変し一振りの美麗な「直剣」へと姿を変えたのだ!
ガギィィィン!!
カイゼはその可変した直剣で、レイの決死のダガーの一撃を真っ向から受け止めた。
火花が激しく散り散る近接攻防に、観客席のボルテージは一気に爆発する。
「近接に持ち込めばこっちが有利だと思ってたけど、まさかその杖、そんな変形まで付いてるなんてね!」
「ドワンさんに感謝だね! あのガーゴイルの武器生成を完璧にこの杖に落とし込んでくれたみたい。……とは言え、流石にこの距離での打ち合いは不利だからね!」
鍔迫り合いの最中、純粋な力勝負(ATK)値で劣るカイゼは、体勢を崩される前に素早く後方へ飛んで間合いを取り直そうとする。
だが、土壇場での勝機を逃すレイではない。ステップの瞬間の僅かな隙を見逃さず、レイはダガーを鋭く一閃させ、カイゼの胴体へと滑り込ませた。
(――浅いっ!)
カイゼもまたそれを予測していた。攻撃を食らう瞬間にあえて自ら後ろへ身体を逃がすことで、ダメージを最小限に抑えていた。
「ふぅ、今のはヒヤヒヤしたよ……。機動力と力比べじゃ勝ち目がないからね、何とか距離を取らないと……」
「そんな簡単に逃がすと思ってる? もう最初みたいな大魔法を使わせるつもりはないよ。……それに、今度はこっちが『面白いもの』を見せてあげる」
レイの口元に、最高に不敵な笑みが浮かぶ。彼女は新スキルの名を叫んだ。
「――【トリニティ・ブレイド】!」
その瞬間、カイゼは目を見開いて絶句した。
レイの背後に、光の粒子と共に「3本の剣」が召喚され、まるで生き物のように宙に浮遊し始めたのだ!
異質すぎるその光景に、コロッセオ全体が揺れるほどの歓声が上がった。
「さぁ飛べ、3本の刃よ!」
レイの指揮に従い、3本の剣がそれぞれの軌道を描いて全方位からカイゼへと襲いかかる。
(レイが闘技大会の直前にわざわざ鍛冶師になった理由はこれか……!多分武器を複数作業する用のスキルを改造したオリジナルスキル……! それはともかく、マズい……!)
「直剣のガードじゃ捌ききれない! 【ヴァリアブルワンド】・シールドモード!」
カイゼは瞬時に可変コマンドを思考入力し、直剣を今度は重厚な「盾」へと変形させて怒涛の三方向同時攻撃を防ぎ止めた。
死線の中で極限の集中力を発揮したカイゼは、飛来する刃の軌道と質を冷静に見極めていく。
(……飛翔してくる3本は基本性能の低い剣だ。脅威だけど、受けきれないほどじゃない。一番ヤバいのは――レイ本人が手にして攻めてくる、あのダガーだけ!)
一方で、レイもまたカイゼの驚異的な適応力に目を丸くしていた。
(自作ゲームのテストプレイで無理難題を叩きつけた時もそうだったけど……この土壇場での対応力、本当に凄まじいな。……でも、こっちも頭がパンクしそうだけど、このまま時間をかければ確定で有利になるのは私だ!)
今のレイ盾を外し、ダガーで攻撃を繰り出しつつ、3本の飛翔剣の軌道を脳内で並行制御し、さらに赤いウィンドウで〈理の再記述〉のセキュリティを解除し続けている。脳の処理能力を極限まで酷使するマルチタスク。
致命傷を巧みに避けながらも、徐々に追い詰められていくカイゼ。しかも、レイのハッキングが完成すれば確実に詰む。時間をかければかけるほど絶望的なのは明らかだった。
(残りHPは6割強……。ここ、リスクを取って賭けに出るしかない!)
カイゼの瞳に、今日一番の鋭い光が宿る。
一撃、二撃、三撃――飛翔するすべての剣を盾で完璧にいなし、満を持して肉薄してきたレイのダガーを、盾の縁で強烈にパリィ!
レイの体勢が僅かに乱れたその一瞬の隙を逃さず、カイゼは瞬時に「魔導書」取り出し、超至近距離で文字通り零距離の詠唱を叩き込んだ!
「――【ヘルフレイム】!!」
ドカンァァァン!!!
二人の身体が、至近距離での大爆破と共に炎の渦へと飲み込まれた。
激しい爆風が吹き荒れ、コロッセオに一瞬の静寂が訪れる。
――炎と煙が晴れた時。
お互いのHPゲージは、共に『残り2割』の限界領域まで削れ削られていた。
レイは爆発の瞬間に全速力で後方へ転がり、爆風の威力を逃がして致命傷を回避。
カイゼもまた変形させた盾で直撃を防ぎつつ、同じく後方へノックバックして間合いを取っていた。
そして二人は、支給品である最高級ポーションを一気に飲み干す。
瞬時に緑色の光が全身を包み、お互いのHPゲージが『100%』の満タンへと強引に引き戻された。
しかし――状況は、戦いの開始時とは決定的に異なっていた。
直前の爆発の攻防の最中、レイの【トリニティ・ブレイド】の一本がカイゼの手元にあった「魔導書」を粉砕することに成功していたのだ。さらに、同時に完成した〈理の再記述〉のにより、カイゼのMPゲージは完全に『0』へと強制消去されていた。
「……さて。魔導書は破壊したし、ハッキングでMPも完全にゼロにしたよ。いくらアイテムがあっても、MPを回復させる隙なんて与えない。……降参するなら、今のうちだよ?」
魔導書を失い、魔法の源であるMPすら根こそぎ奪われた魔法使い。
客観的に見れば、誰の目から見ても完全な詰みの状態だった。
しかし、カイゼの口元から浮かんだのは、失意の笑みではなく――ぞくっとするほど楽しげな笑みだった。
「誰が……降参なんて、するわけないじゃない。……勝負は、ここからでしょ?」
その声には、一切の諦めも、負け惜しみの色も含まれていなかった。
(ただ……このまま普通に戦ったら100%負ける! こっちも、用意してきた『本当の切り札』を解禁するしかない!)
次の瞬間、追いつめられた大魔導士が取った「想定外すぎる行動」に――レイを含め、この死闘を見守るすべての人々が、息を呑んで驚愕することになる。
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ヘルフレイム
灼熱の炎の海を生み出す魔法。
その威力は並みの防御では骨すら残さない。
ライトニング
大落雷を発生させる魔法。
着弾までが非常に早く回避を許さない。
ヴァリアブルワンド
杖を想像した装備に変形させる魔法。
レイたちが倒したガーゴイルが武器生成をしていたのでその性能をドワンが引き出し杖に付与されている。
トリニティ・ブレイド
レイが新しく取得したオリジナルスキル。
3本の剣を操作し飛翔させ攻撃する。
鍛冶師の【マルチクラフト】のレベルによって操作する剣の本数が変わる。
この大会の後、取得条件の楽さとカッコよさが広まり取得する人が増えるがその操作難易度ゆえ使いこなせる人は多くない。
これがリリース2日目のゲームですか…
まぁインフレもある意味醍醐味ですよね!




