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転職と闘技大会前準備

ここは、無数の光り輝くシステムウィンドウが浮遊する、隔離された仮想空間。

このゲーム世界の裏側で、三人のAIたちが静かに言葉を交わしていた。


「マスターたち、本当にすごいね。まさかあの段階で、ガーゴイルまで倒しちゃうなんてさ」

「ええ、全くです。こちらの想定を遥かに超える戦いでしたね。」

「それよりどうする~? 今日の闘技大会、正直あの二人に正面から勝てるプレイヤーなんて、今の段階だと誰もいないよ~?」


トリーと呼ばれたAIが困ったように首を傾げると、隣にいたドヴァーが静かに首を振った。


「別にいいんじゃない。マスターたちは真っ向から倒したわけだし、それに、こうしたお祭りイベントは大いに盛り上がった方が良いしね」

「そうですね。私もドヴァーと同意見です。圧倒的に強いプレイヤーの存在は、他のプレイヤーにとっても大きなモチベーションや目標になるでしょうから」


納得したように頷くアジーンの姿を見て、トリーはクスリと笑う。

「アジーンは相変わらずマスターに甘いね~。……って、あれ? アジーン、もう行っちゃうの?」

「ええ、そろそろ。マスターもご友人と、この世界を心から楽しんでおられるようですし。私も特等席で見届けたいですから」


生みの親である本条零の楽しげな笑顔を思い浮かべ、アジーンの声音が少しだけ柔らかくなる。そんな彼女の様子を見て、他の二人のAIはどこか微笑ましそうに苦笑いを浮かべるのだった。


---


――同日、昼前。

コンコルディアの街の熱気溢れる鍛冶師ギルドの一角で、レイは黙々と鉄を打ち続けていた。

生産職である「鍛冶師」のジョブレベルを上げるためだ。

なぜ、闘技大会の直前というこのタイミングで、彼女がわざわざ鍛冶師のハンマーを握るに至ったのか。時間は少しだけ遡る。


ドワンとの約束の時間よりもかなり早くログインしたレイは、一人で鍛冶師ギルドへと足を運んでいた。

ここに展示されている装備や、他の生産プレイヤーたちの作成品を確認すれば、今日開催される闘技大会の全体的なレベル水準が何となく透けて見えるだろうと考えたからだ。


周囲のプレイヤーから「あの一色黒の装備、昨日噂になってたやつじゃ……」という視線を受けながらギルド内を眺めていると、ちょうど一仕事を終えて汗を拭っていたドワンの姿が目に入った。


「ドワンさん、お疲れ様です。作業、ちょうど一段落したところですか?」

「おぉ? レイじゃないか! ちょうど今、終わったところだ。約束の時間にはまだ少し早いが、どうしたんだ?」

「ええ、ここでどんな装備が流通しているのか、少し見学させて貰おうと思いまして」

「ガハハ! 殊勝な心掛けだてぇことだが、ハッキリ言って今のお前さんが身につけているものより上等な装備は、この街には一品とも無いぜ?」

「やっぱり、そうですか……。あ、それとドワンさん、一つ専門的なことをお聞きしたいのですが、いいですか?」

「おう、ワシに答えられることなら何でも聞いてくれ!」

「鍛冶師のスキルの中に、例えば『同時に複数の武器を出現させて作業する』ようなスキルって、存在したりしますか?」

「あん? ああ、あるぜ! 腕のいい職人なら、複数の武器の仕上げを同時にこなすなんて珍しくもないからな。習得自体はすぐにできるぞ」


ドワンからそのスキルの詳細――スキルレベルが上がるごとに、同時に呼び出せる武器の数が増えていくという仕様を聞き、レイの口元にフッと深い笑みが浮かんだ。

(――やっぱり、想定通りのスキルが存在した)


自身の脳内にある妄想ができるかもしれない。


「ドワンさん。私、今から鍛冶師になります」

「おう!? ガハハ、大歓迎だ! おい誰か、こいつに一通りの鍛冶道具を持ってきてやれ!」


そうして、今に至る。

レイはひたすらに炉の前に立ち、鉄を叩いては簡易的な鉄の短剣を作成し続けていた。

キン、キン、と金属音が響く中、また一本の武器が完成したその瞬間、視界にシステム通知が舞い降りる。


『条件を達成しました。【マルチクラフトLv1】を獲得しました』


「よし……!」

レイはそこからさらに一心不乱にハンマーを振り続け、スキルレベルを『Lv2』へと引き上げた。

本来、この短時間でスキル熟練度を上げるのは至難の業なのだが、ドワンが「ガーゴイル討伐の追加の礼だ」と言ってこっそり回してくれた良質なな練習用素材の隠し補正のおかげであることに、今のレイはまだ気づいていなかった。


スキルレベルの上昇とほぼ同時に、ギルドの扉が開いてカイゼがやってきた。ちょうど約束の昼時だ。


「おう、カイゼ! 約束通り、お前さんの装備は完璧に仕上がってるぜ!」


ドワンが豪快に笑いながら、美しく包装された一式をハルへと手渡す。

「わぁ、ありがとうございますドワンさん! 早速、装備してみますね!」


ハルがメニュー画面から装備を変更すると、彼女の身体が淡い光に包まれ、次の瞬間には全く新しい姿へと変貌していた。


「ふふーん! どうよレイ、似合ってる?」


そこにいたのは、ガーゴイルの深層の魔力を想起させる、吸い込まれそうなほど深い群青色を基調とした豪奢な魔術ローブを纏ったハルだった。

頭には端正な魔法使いの尖り帽子、足元は頑丈な革の質感を持たせつつも機動力を一切損なわない漆黒のブーツ。手袋の甲には禍々しくも美しい未知の魔法陣の紋章が刻まれている。

配置や、ガーゴイルの岩の翼を縮小して削り出したかのような、圧倒的な存在感を放つ漆黒の杖と、重厚な魔導書が携えられていた。


「ガーゴイルの装備はな、討伐された個体が最も得意としていた魔力の性質によって、杖と魔導書の固有アビリティが変化したりする特異な性質がある。君たちの話を聞く限り、よくある石化や麻痺の類ではなさそうだったからな。……何より、ガーゴイルの根源は『大地』と『魔力』の融合体だ。使ってみれば、そのヤバさが嫌でも分かるだろうよ」


ドワンは含みのある笑みを浮かべ、その性能の高さにお墨付きを与えた。

ハルは「今すぐにでも魔法をぶっ放してみたい」と言わんばかりの、興奮を隠せない表情で目を輝かせる。

「ドワンさん、こんなに短時間で最高の装備を作っていただき、本当にありがとうございました! いつか必ず恩返しします!」

「ガハハ、気負う必要はねえさ! また何か珍しい素材が手に入ったら、ワシのところに持ってきてくれな!」


職人との心地よい別れを告げ、二人は鍛冶師ギルドを後にした。


「それにしてもさ、レイ。私より先にログインして、鍛冶師ギルドで一体何をしてたの?」

「うーん、ちょっとね。どんな装備があるかきになってただけだよ」

「ふーん……? 本当にそれだけかなぁ?」


ハルはジト目を向け、鋭い観察眼で親友の横顔を覗き込んできた。流石、昔からの付き合いだけあって、レイが何かを企んでいる時の空気を敏感に察知している。

「そ、それよりほら! 早く行かないと闘技大会のエントリー受付が閉まっちゃうよ!」

「……あ、そうだ! 喋ってる場合じゃなかった、テレポートスクロールで一気にカーニバリアまで跳ぶよ!」


二人は光の渦に包まれ、一瞬にして観光都市カーニバリアの巨大なコロッセオの前へと移動した。

「受付はあっちみたいだね。……うわ、もの凄い行列」


広場を埋め尽くすプレイヤーの長蛇の列に並ぼうとした、その時だった。


「失礼、そちらの方……レイ様と、カイゼ様ですね? 少々、こちらへ来ていただけますでしょうか」


大会の運営係員らしき上級NPCに声をかけられ、二人は怪訝に思いながらも、コロッセオの重厚な裏口から、VIP用の豪華な応接室へと通された。

部屋の奥の長机に座っていたのは、この観光都市の最高責任者であるギルド長だった。


「急に呼び出してすまないね。今回の大規模闘技大会のエントリーについて、少し特別な話をさせてもらいたくてね」

ギルド長は温和な笑みを浮かべ、二人の装備を見つめる。

「ドワン殿から緊急の連絡が入ってね。コンコルディアの外れに現れた、ガーゴイルを、君たち二人が見事に討伐してくれたそうじゃないか」

「「あ……」」


二人は同時に声を漏らした。どうやらドワンが、討伐隊の解散手続きのついでに、運営側へ事の顛末を報告してくれたらしい。


「街の危機を救ってくれた英雄たちを、一般の予選の長蛇の列に並ばせるわけにはいかないからね。どうだい? その偉大な功績へのお礼も兼ねて、今回の闘技大会、予選免除の『シード権』枠として本戦から参加しないか?」

「「いいんですか!?」」


二人の声が綺麗にハモった。

「もちろんだとも。ガーゴイルを破る実力があるならば、本戦から出場しても誰も文句は言わないさ。むしろ、大会の目玉になってくれると嬉しい」

「ありがとうございます。謹んでお受けします」


手渡された金色の『本戦出場チケット』を手に、二人は興奮冷めやらぬままコロッセオの裏口から外へと出た。


「すご……、まさかこんな特権が貰えるなんてね」

「ラッキーだったね! これも私が街の掲示板からあの高難度クエストを見つけてきたおかげかな?」

「いやいや、私がいなきゃ勝負にすらなってないでしょ」

「はい、その節は本当にありがとうございました、レイ様!」

「だから、その呼び方は恥ずかしいってば……! まぁ、シード権のおかげで本戦開始までまだ少し時間が出来たけど、これからどうする?」

「私は早速、このドワンさんの作ったガーゴイル装備の性能を試してみたいから、街の外で少しモンスターを狩ってくる!」

「了解。実は私も、試したいことがあるんだ。それじゃ、本戦の直前にまたここで合流しようか」


二人は笑顔で手を振って別れ、それぞれ真逆の方向へと力強く走り出していった。


それからしばらくしてお互いに、周囲のプレイヤーの視線も気にせず、全く同じタイミングで、最高に不敵な笑みを浮かべていた。


カイゼとレイは、ウィンドウの文字を見つめていた。


『――オリジナルスキルの構築に成功しました』


お互いに新たな切り札を手に入れた二人が、いよいよ、世界が注目する闘技大会の舞台へと殴り込みをかける。

強敵を倒したならこれくらいのご褒美はあってもいいはず…

実際リリース翌日にイベントはやるんでしょうかね?

しかもガチガチのPVPっていうね…

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