勝利の帰還と思わぬ邂逅
「ふぅー……! 疲れたぁ! でも、これはなかなかの大収穫じゃない!?」
ガーゴイルが消滅した静寂の中、カイゼは目の前に並ぶ大量のドロップアイテムの通知と、視界を埋め尽くす獲得経験値のログを見つめて歓声を上げた。
(ドロップアイテムは、後で街に戻ってから山分けにすればいいや。……問題は、経験値だよね。レイには悪いことをしちゃったかも)
この手の本格的なVRMMOでは、戦闘終了の瞬間に生存していないと討伐経験値が入ってこないのが定番の仕様なのだ。レイはカイゼを生き残らせるために身代わりとなって消滅したため、ガーゴイル本体の莫大な討伐経験値はすべてカイゼ一人に注ぎ込まれる形になった。
(これはリアルに戻ったら、本当にしっかり美味しいご飯をご馳走しないとね……)
親友への感謝と、どうやって約束を果たそうかを考えながら、カイゼはにコンコルディアの街へと戻った。レイはすでにテレポートスクロールを使用し到着していた。聞くと、このスクロールは基本どこの街の魔法商店でも売っている便利アイテムらしい。
「いやー、お疲れ様!」
「お疲れレイ! はい、これさっきのお礼。本当に助かったよ」
合流するなり、カイゼは預かっていた【魔眼の小盾】をレイへと手渡した。
「どう? 素材はちゃんと手に入った?」
「うん、インベントリがパンパンになるくらい大量だよ! どうやって分け合おうか?」
「いや、分配は今はいいよ。まずはその素材をカイゼの武器と防具に加工してもらって、余った分を貰えればそれで十分だから」
「マジで!? ありがとう、レイ!」
お互いの顔には長時間の激戦による濃厚な疲労が滲んでいたが、それ以上に、喜びに満ち溢れていた。
「で、この最高級の素材を加工できる凄腕の鍛冶師さんって、どこにいるの?」
「アテはあるんだけど、時間的にもう深夜だし、寝ちゃってるかも……。ただ、鍛冶師ギルドなら常に誰かしらが深夜作業してるはずだし、まずはそっちに行ってみよう」
街の時計塔を見上げれば、そろそろ日付が変わりそうな時間帯だった。
二人は足早にコンコルディアの鍛冶師ギルドへと向かい、その重い扉を押し開けた。中に入ると、無数の炉の熱気と金属を叩く音が響く中、レイのよく知る人物がせわしなく指示を飛ばして動いていた。
「あれ? ドワンさん、こんな時間に何してるんですか?」
「おぉ、レイじゃないか! ――いや、実はな、コンコルディアの外れにある古い教会に『ガーゴイル』が出没したらしいんだ。並みのプレイヤーや衛兵じゃ対処できない強敵だからと、急遽呼び出されてな」
話を聞けば、ドワンを含む凄腕のNPC職人や上位NPC戦士たちが集まり、まさに今から大規模な討伐隊を編成して出撃する準備を進めているところだという。
「だから済まない、今はあまりゆっくり話している時間がないんだ。……何なら、あのサイクロプスをソロで討伐したお前さんにも、助っ人として討伐隊に参加してほしいくらいなのだが、どうだ?」
普段の冒険なら、レイも喜んでその誘いに乗っていただろう。だが、今は状況が違った。
「ドワンさん、実は……その件なんですけど」
レイはニヤリと悪戯っぽく笑うと、カイゼのカバンから取り出させた「それ」を受け取り、ドワンの目の前へと差し出した。
「こ、これは……ガーゴイルの素材……!?」
ドワンは驚愕のあまり、その頑固そうな目を限界まで丸くした。
「ま、まさかレイ、お前さん……あの化け物をもう倒してきたというのか!?」
「はい。後ろにいる私の親友と協力して、さっき片付けてきました」
レイが自慢げに紹介すると、カイゼも「どうも」と少し緊張しながら一歩前に出る。
「そうか、二人だけであの格上を……! 凄まじいな! よし、ワシはすぐにこのことを討伐隊の仲間に伝えてくる。ここで少し待っていてくれ!」
興奮冷めやらぬ様子で、ドワンは鍛冶師ギルドの外へと走っていった。
「ねぇレイ、なんとなく雰囲気で察したけど……さっきの凄い職人さんって?」
「あの方はドワンさん。多分、現時点でこのエリアで一番鍛冶スキルが高いNPCだよ。私のこの漆黒の装備一式も、全部ドワンさんに作ってもらったの」
「マジか! そんなトップクラスの職人さんと格上討伐の流れでいきなり繋がりができるなんて、私相当ついてるじゃん!」
「そうだよー。だから私にしっかり感謝してよね?」
「ははーっ、もう感謝を通り越して崇めます、レイ様!」
「いや、そこまでは言ってないから! 恥ずかしいってば……!」
そんな風にふざけ合っていると、息を切らせたドワンがギルドへ戻ってきた。
「待たせてすまないね。討伐隊は解散だ。……さて、鍛冶師ギルドへ来たということは、そのガーゴイルの素材で彼女の装備を作ってほしい、ということで間違いないな?」
「いいんですか!?」と、カイゼが興奮した口調で身を乗り出す。
「あぁ、もちろんだとも。街の危機を救ってくれた君たちへのお礼としては、これでも足りないくらいさ」
「ありがとうございます! ……あの、大変厚かましいんですけど、明日の昼くらいまでに完成させて貰うことって可能ですか……?」
「ガハハ、お安い御用さ! ワシの腕を見くびるなよ。よし、素材をすべて引き受けよう。どうだカイゼ、一緒に来る気はないか?」
「申し訳ありません、ドワンさん。私もレイとともにこの始まりの大陸をまだまだ冒険したいもので。」
「いやいや、気にする必要はないさ! 装備は明日の昼にまたここに来てくれ。レイ共々、またどこかで共闘することになったら、その時はよろしく頼むよ」
「「こちらこそ、よろしくお願いします!」」
ドワンの頼もしい言葉に見送られ、二人は明日の昼に再びギルドを訪れて装備を受け取る約束を交わした。
「とりあえず、もう深夜だし、そろそろログアウトする?」
「その前に、コンコルディアの街のギルドでクエスト完了の報告だけ終わらせちゃおうよ!」
「そうだね。じゃあ行こっか」
街の冒険者ギルドへ足を運び、ガーゴイル討伐クエストの完了報告を行う。
カチリ、とシステム音が響き、クエスト報酬の経験値が二人に払い戻された。
「おぉー! クエスト完了の報酬経験値、めちゃくちゃ美味しいね!」
「そういえばカイゼ、最終的にどれくらいレベル上がった? 私は結局経験値が貰えなかったからさ」
「えーとね……あ、ステータス画面……って、ええええっ!? レベル30になってる!?」
「30!?」
レイは思わず声を裏返した。自分の現在のレベルの倍近くまで、一気に跳ね上がっている。
「……ふふん! これは明日の闘技大会、私がいただいたも同然だね!」
いたずらっぽい笑みを浮かべ、カイゼが杖を軽く振ってみせる。
「うわー、これなら身代わりになって手伝わなきゃ良かったなー」
「あはは、冗談だってば! ありがとねレイ。リアルに戻ったら、本当に美味しいお店紹介するからさ!」
「うん、期待して待ってるよ」
明日の昼の約束を交わし、二人はそれぞれのメニュー画面からログアウトボタンを押した。
光の粒子となって消えていく二人のアバターの残滓を見つめるように、コンコルディアの夜風が静かに吹き抜けていった。
カイゼのLvが上がりすぎな気もしますがまぁ強敵をほぼ初期レベルで倒せば多分こうなるはず…




