第51話 首無し騎士デュラハン(1)
ギィ、と大きな音を立てて、扉はゆっくりと開いた。
部屋は元々将軍の居住地として使われていたようで、大きく取り付けられた窓からほどよい光が差し込んできている。
被害はそれほどでもなかったらしく、帝国のものとなった現在でも、その偉容を堂々と俺たちに開陳していた。
目の前には赤い髪をした小柄な男。
上等だとわかる黒い燕尾服に所狭しと無数の勲章を取り付けた姿は、どこか異様である。
――ふと、勲章に書いてある名前が見えた。
サラマンドラ。
それが彼の名前らしい。
「……な! 侵入者か!」
彼は俺たちを見ると、わかりやすいほどに慌てだした。
真っ赤な髪がそれに合わせて舞い上がると、まるで火に巻かれてしまったあわれな人間のようにも思える。
しかし、この砦にいる以上、そのような者でないことはあきらかだ。
「ええい! 役立たず共が! 一体何をしていたのだ!」
サラマンドラは顔を真っ赤にしながら怒鳴り散らしている。
この茶番に付き合っていても仕方がない。
俺たちは、部屋へと足を踏み入れた。
「ま、待ってくれ!」
サラマンドラが情けなく土下座しはじめる。
「な、なにがほしい! なんだってくれてやる!」
「帝国の情報、と言ったら?」
みっともなく土下座するサラマンドラに向かって、フランが冷たく言い放った。
どうやら考えも及んでいなかったらしく、彼は途端に言い淀んだ。
ハァ、とフランが呆れたようにため息をつく。
「言語道断ね」
そう言って刃を突き付けると――。
「……な!」
その剣は、あっさりと弾かれてしまった。
「……それだけは、それだけは許されない」
サラマンドラがゆらゆらと立ち上がる。
手にはまるでサメの歯のように、刃がギザギザになっている曲刀を持っている。
「それだけは渡すわけにはいかんのだ……!」
そしてゆらりと片手を振り上げると――。
『我、汝に宣言する』
――呪文の詠唱を始めた。
(――まずい!)
「みんな! 一斉に――」
「――させん!」
部屋の屋根から、一斉に兵士が入り込んでくる。
最初に確認したときには視認できなかったはずだが――。
「――『ワープ』か」
俺は舌打ちをしたい気持ちを必死に抑えながら、苦々しくつぶやいた。
もともと気づかれていたのか、それともサラマンドラがこちらでも察知できないような方法で呼び寄せたのか。
おそらくは後者だろう。
『彼方よりの使者よ、星を辿りし使者よ』
「させません!」
人の海に飲み込まれて身動きが取れない中で、タカマガヒメが天高く跳びあがる。
その龍種としての恵まれた身体を使って、サラマンドラの首を一思いに折ろうとして――。
「――遅い!」
兵士たちの決死の防衛によって防がれてしまった。
サラマンドラは、そんな中でも動じずに淡々と呪文を紡ぎ続けている。
『汝は我が僕也、我が永遠の僕也――』
俺はなんとか兵士たちを振り払い、サラマンドラの下へと全力で走り抜ける。
間に合わない――!
『――星の傀儡』
サラマンドラの背後に、巨大な魔法陣が生まれた。
人が3人ほど入り込めそうな大きさの魔法陣から、異形の怪物が次々と湧き出てくる。
1体、2体、
――そして3体。
それには頭がなく、代わりに細い管のようなものがいびつに伸びていた。
その管はひょろひょろと続き、最終的に本来であれば左腕があったであろう箇所へとつながっている。
危険度SSSとも言われる超危険な魔物、「首無し騎士」だ。
人の首と左手を細長い管で強引につなげたような姿をしたそれは、嗅覚か聴覚かなにかはわからないが、すぐさま俺たちを見つけると、そのまま一斉に跳びかかった――!
◇
「――くっ!」
怪物の力任せの攻撃を受けて、俺の周りにあった地面が陥没する。
とっさにバリアを貼って防いだものの、振動する空気が痛いくらいだ。
(急ごしらえとはいえ、それなりの強度だとは思うんだがな……)
バリアが消える瞬間、縦に向かってまっすぐ入った大きなひびの存在に気づいてしまい、思わず頬が引きつる。
現状の力くらいならなんとかなるが、もしこれ以上があるとすれば、この程度ではあっさりと破られてしまいそうだ。
「強いな……」
考えるよりも早く、そうつぶやいていた。
俺の言葉を拾ったらしく、遠くで戦っているタカマガヒメとフランが小さくうなずいているのがわかる。
おそらく無意識だろう。
――それにしても、このサラマンドラという男は厄介である。
心根はどこまでも小物なのだろう。しかし、それゆえに油断がない。
また、正々堂々と戦う理由も薄い以上、なにを出してくるかわからない側面がある。
しかも相手しているのはまだ奴が召喚した魔物たちだ。
妨害をしかけてくるのは確実だが、どれくらいの力を持っているのか判別できない。
(さて、ここからどうするか……)
予想以上の強敵を目の前に、俺は襟元をただした。
◇
「『守護者の盾』!」
デュラハンの猛攻をなんとか防ぎながら、俺は【鑑定】を使って相手の弱点を調べていた。
デュラハンは危険な魔物であるものの、出現することがまれなため、情報もあまり集まっていないのだ。
あまりにも情報が少なく生態も不明なため、魔力が凝縮されて生まれた存在ではないかという説も上がっている。
ともかく詳細が不明な魔物なのだ。
(……だが、そういう相手にこそ【鑑定】の出番だ)
俺は【鑑定】を使って、相手の身体をくまなく調べていく。
足から胴体へ、胸から頭へ――。
(――見つけた)
どうやら先ほどの学説通り、デュラハンは魔力を集めることで今の身体を作り上げているようだ。
つまり今見える姿は幻のようなもの。
その奥深くにある魔石こそが、デュラハンの正体だ。
「――ォォォォォオオオオオオオオ!!!!」
なにかを感じ取ったのか、デュラハンが今までよりも速いパンチを繰り出してくる。
それを後ろに跳ぶことで避けながら、俺はにやりと笑いかけた。
彼らを挑発するように。
「……さて」
ここからは反撃の時間だ。




