第50話 現在侵攻中
砦の中はあまり整備されていないようで、ところどころに穴が開いたまま使われていた。
崩落を防ぐためか、ところどころに木でできた枠組みが組まれており、それで補強を行っているようだ。
入り口となっていた床をどけると、それにしたがってガチャガチャと硬いもの同士のぶつかる音がする。
敵に気づかれたかと辺りを見回したが、どうやら気づいたものはいなかったようだ。
表での戦いはこう着状態に陥っており、中まで見る余裕がないということなのだろう。
「……大丈夫そうだ」
声ではなく、ジェスチャーでそう伝える。
こういった場所で意思疎通を相手に悟らせないため、あらかじめジェスチャーを用意しておいたのだ。
たとえば手を3回振れば「問題ない」、拳を振り上げていたら「こちらは危険だ」などなど……。
何度か練習を行った甲斐あってか、フランたちや兵士たちはすんなりと理解してくれた。
静かについてくる彼らを横目で確認しながら、砦を引き続き確認する。
この部屋はかつて武器庫として利用されていたのか、あちらこちらに槍や剣が置かれていた。
とはいえほとんどボロボロになったものばかりで、綺麗なものは帝国が利用しているものと思われた。
部屋の中には警備に当たっている兵士はおらず、現在では放棄されているのがありありとわかる。
もっとも、潜入中の俺たちからすればありがたいことこの上ないが。
裸眼で視認できる範囲は確認したので、残りの部分と砦の全体像を【鑑定】を利用して確認することとする。
(……【鑑定】)
……なるほど。
どうやら部屋の内部は本当に誰もいないようだ。
しかし扉の外側には人の気配があり、おそらく内部からの潜入を警戒しているものと思われる。
数のほうも多く、正面突破はあまり現実的でないだろう。
砦の全体像の方はというと、どうやら3階建ての構造となっているらしく、さらにその上に屋上があった。
それ以外にも四方に物見やぐらも存在しており、それらを利用して防衛を行っていたのだろう。
今は物見やぐらもひとつのみとなっており、屋上も倒壊したがれきが放置された状態となっていた。
あまり整備されていない、と判断したが、この様子を見ると近日中に行う予定だったのだろうか。
あるいは、別個に砦を配置する予定であり、ここはあくまで暫定といて利用しているに過ぎなかったのか。
(……まあ、そのあたりは追々考えていけばいいか)
大将と思わしき、他と比べて服装の豪華な男が3階に立っている。
とりあえずは、彼の撃破を目標とすれば良いはずだ。
不要な方向へと飛んでいく思考を諫めながら、ゆっくりと手前にある扉へと近づいていく。
人がふたりほど一斉に入れるような広い扉で、両開きの形になっている。
扉自体は立派なものだが、占領された時に痛んでしまったのか、蝶番や木材がボロボロだ。
おそらく、なんの警戒もなく開けてしまっては音で簡単にバレてしまうだろう。
(さて、どうしたものか)
もう一度、周囲を見渡してみる。
一部の壁は崩れ落ちてしまっているようで、木枠のみがさびしげに組み立てられていた――。
(……いや、待てよ)
【鑑定】を利用して、もう少し細かく確認してみる。
あちらの壁は別の部屋に繋がっているらしく、そちらには2階へとつながるはしごがあった。
少人数での潜入を警戒していたのだろう、警備の兵士は置かれているものの、表と比べるとかなり少ない。
こちらからなら、かなり簡単に入り込むことができそうだ。
「みんな、あちらの壁から潜入するぞ」
俺は手信号を使って、兵士たちやフランたちにそう伝えた。
彼女たちは最初驚いた様子だったが、俺のことを信用してくれているらしく、すぐさま自信ありげにうなずいてくれた。
◇
俺たちは足音が目立たないよう細心の注意を払いながら、崩落した壁の間を超えていった。
警備の兵士は弓矢やボウガンを使って、可能な限り音がでないようにして遠距離から倒していく。
倒すために接近して見つかってしまっては元も子もないからだ。
これが少人数であれば近距離での暗殺も視野に入れただろうが、大人数で行動している現状、その方法を選択肢に入れることはできなかった。
(……この辺りで大丈夫だな)
おおよその敵が無力化、あるいは倒せた状態になって、俺は左手を大きく右から左へ動かした。「この辺りでとりやめ」の意である。
兵士たちはそれに従い、一斉に攻撃を止めた。
そして近くのはしごへと音がならないように注意しつつしのびより、ひとりずつ、慎重にはしごを昇っていく。
そして2階まで昇りきると、問題なければその旨を表す手信号を振る、といった形で、ゆっくりと、しかし確実に、俺たちは上の階へと昇っていった。
◇
2階はあまり警備が敷かれておらず、どこか静かであった。
潜入した人間は1階に来ると判断しているからか、はたまた人員が表に割かれてしまったのか。
理由は不明であるものの、俺たちとして好都合な事態である。
兵士たちを連れながら、するすると移動していく。
ところどころに設置された窓からは、外の光景がはっきりとわかる。
帝国側は幻影の兵士に苦戦しているらしく、段々と統率が取れなくなっているようだ。
どう切ってもうまくかわされる兵士を相手に、攻めあぐねているらしい。
これだけ絶妙な強さを幻影で作り出せるタカマガヒメにも、その発想元となった兵士たちにもただただ畏敬の意を感じるばかりである。
いくらかいる兵士たちの死角をついて撃退しつつ、2階を侵攻していく。
そうやってどこかのんきに進んでいると、あっという間に3階への階段へと辿り着いた。
階段の頂上には大きな扉があり、そこが敵将のいる場所らしい。
「ここからは気を引き締めていくぞ」
みんな、頑張ってくれ。
小さなこえで彼らにそうつぶやくと、兵士たちはどこか感動すら覚えた様子で、力強くうなずくのだった……。




