↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/56

第41話 龍の隠れ里(4)シガナヒメ

「……ど、どういうことですか!?」

「文字通りだ。この墓はなにも入ってない、空っぽなんだよ」


 そう答える俺自身、まさかの展開に驚いていた。

 魔力の残滓がない。それはこの墓がまったく使われていないか、荒らされてから長い時間が経っていたということを意味するからだ。

 このように秘匿された墓だ、あるいは秘匿のつもりはなかったのかもしれないが、それでもただの偽装工作ということはありえないだろう。

 となると、犯人はこの墓を誰にも感づかれないように掘り起こし、中の死体を持ち運んでいったことになる。


(それだけの事ができるんだ。そうとうな手練れか――はたまたタカマガヒメの身内か)


 ……どちらにせよ、厄介なことに首を突っ込んでしまったようだ。


「……ないものは仕方ない。おい、タカマガ――」


 俺はタカマガヒメに話しかけようとして、固まった。

 彼女の顔が、とても青ざめていたからだ。


「……ど、どうした……? 具合が悪いのか……?」

「い、いえ、違うのです……ただ、なにかが恐ろしくて……知ってはいけない、知ってはいけないと、頭の中から……!」


 話終わらないうちに、タカマガヒメが虚ろな瞳で俺を見つめだす。

 あまりに異様な光景に、俺は固まったままなにもできずにいた。


「……ああ、鋭い剣が……なぜ、なぜこのようなことをするのですか……やめて! いやぁっ!」


 タカマガヒメはなにやら要領を得ない言葉をつぶやくと、急に悲鳴を上げて走り去ってしまった。


「……おいっ! 待てっ!」


 俺はとっさに追いかけようとしたが、霧ヶ岳の道は細く、とてもじゃないが走れる道ではない。

 彼女が落ちてしまうのも心配だが、だからといって走って追いかけてしまえば、共倒れになること必至だろう。


「チッ……死ぬなよ……『ホバー』!」


 思い切り助走をつけて、そのまま宙へと駆け出す。

 普通であればそのまま死んでしまうだろうが、ホバーの力で空中に浮くことができる。

 そして俺は空を飛んだまま、タカマガヒメを探し出すことにしたのだった。


                  ◇


 【鑑定】スキルで周囲をくまなく探しながら、俺は空を飛び続けた。

 どうやら、すでに山のふもとまで降りてしまっているらしい。

 とりあえず怪我をしたわけではなさそうで一安心だ。


「……ん?」


 ふと、タカマガヒメが奇妙な動きをする。

 山に向かって、右手を差し出したのだ。

 一瞬疲れてしまったのかと思ったが、足腰は予想以上にしっかりとしているようで、まったく震えていない。

 だからこそ、この動きは奇妙だった。


(……なんだ……!?)


 いぶかしげに彼女の奇行を眺めていると、山が急に揺れ始める。

 地震かと身構えたが、どうやら揺れているのは目の前の山のみであるようだ。

 すると、その灰色の岩壁がゆっくりと動き始め――。


「な……!」


 ――ぽっかりと、巨大な大穴が開いた。


(俺の【鑑定】でも確認できなかったぞ……!?)


 俺の【鑑定】スキルはかなり有能で、発動してしまえばほとんどのものを見抜いてくれる優れものだ。

 しかし、神話の時代から存在する武具など【鑑定】できないものも存在する……とは聞いていた。

 そうはいっても今までは【鑑定】できなかった経験は一度もなく、こうやってかなり使いこなせるようになった今、その必要もないだろうと思っていたのだ。


(それがまさか、こんなところで出くわすとはな……)


 そんなことを考えていると、タカマガヒメがゆっくりと歩き出した。

 彼女はまるで吸い込まれるように、先ほど開いた大穴へと入っていく。

 ……どうやら悠長に考えている暇はないようだ。

 俺は『ホバー』を解いて地面に降り立ったあと、彼女を追って大穴へと入っていった。


                  ◇


 俺は歩きながら、タカマガヒメを探して周囲を見回す。

 その穴は大きく、人どころか龍を一匹入れても十分なほどだ。

 この大きさから察するに、龍は土葬でここに葬られたのだろう。

 埋めてそれで終わり……というわけではなかったのか、壁や床はきれいに舗装されており、まるで霊廟のような雰囲気をかもし出している。


(……元々は祭事にでも使われていたのか?)


 そう疑問を巡らせながらも、のそのそと前へ進んで行く。

 そして数分ほどすると、突き当りと、そこでうつむいているタカマガヒメが見つかった。

 どうやら思っていたよりも浅い穴だったようだ。


(……とはいえ、今気にするべきはそこじゃないな)


「タカマガヒメ!」


 返事はない。

 一瞬気絶しているのかと肝が冷えたが、息はしっかりとしているあたり、そうではないらしい。

 耳が聞こえていないのか、あるいはあれだけ錯乱していたのだから、まだショックから立ち直れていないのか……。

 どちらにせよ、命を落としてはいないようでなによりである。


(……とはいえ、なにかあるかもしれない。彼女を救出したあとはとっととずらかるか)


「おい、タカマガ――」

「……思い出しました」

「……は?」


 タカマガヒメが顔を上げた。

 そのまなざしは今までの自身なさげながらも優しいものとは違い、芯のあるものへと変化している。

 ……おそらく、その「思い出した」記憶が彼女をここまで変えたのだろう。

 しかし、この墓場で彼女はなにを思い出したのだろうか。


「……ここは私の墓場です」


 突然、タカマガヒメがそう言った。


「……だがお前は生きているだろう?」

「ええ、確かに私は生きています。幽霊などでは誓ってありません。……しかし、かつて私は一度死んだのです」


 タカマガヒメが遠くを見つめる。

 それは墓碑銘を見た時と同じ、だがあの時とは違い、しっかりと目に光をたたえたものだった。


「かつて、私はばば様……いえ、ルリヒメの妹でした。その名をシガナヒメと言います」

「シガナヒメ……」

「ええ。その時の私は今とは違い、早いうちに成龍となっておりました。……当時は戦乱の世で、あちらこちらで戦が起きていましたから」


 皆を守りたかったのです。

 そう語るタカマガヒメの表情は暗い。


「……今まで言ってはおりませんでしたが、龍の隠れ里には『人に必要以上干渉するべからず』という掟があるのです」

「そうか……だから龍の目撃情報が少なく……」

「ええ、お察しの通りです。……しかし、かつてそのような掟はございませんでした。時に助け合い、時に殺し合う……人と龍とは、そのようなものだったのです」

「人間と龍は争っていなかったのか?」

「いいえ。しかし、当時は種族間の戦争のみではなかったのです。内乱も、種族を超えた戦争も、当たり前のようにありました」


 タカマガヒメの声が震えた。

 彼女にとって、余り思い出したくない記憶なのだろう。


「……なあ、言いたくないなら――」

「――いいえ、私は大丈夫です」

「……そうか」


 彼女のまなざしは、決意に満ちたものだった。

 ならば、止める権利など俺にはないだろう。


「……そんな折、私はひとりの人間と出会いました。『人も龍も、すべてが平和に生きていられる世界を作る』彼はそう宣言しておりました」

「それは……」

「……アッシュ・ベルンソン。あなたと同じ目を持っている男でした」


 ……それはつまり。


「【鑑定】スキルを……!?」

「その通りです。彼は今のあなたよりその目を使いこなしているようでしたが。……私は彼の協力をすることにしました。私も、果ての見えない戦乱には嫌気がさしていたので」

「……それで」

「彼は宣言通り、世界を平和にしました。類まれなる魔術の才と、その特異な目を使って次々と敵対するものを薙ぎ払ったのです」


 ですが……とタカマガヒメはうつむく。


「……すべてが終わったあと、人間と龍の間で和平条約を結ぶ、その会合の時でした。……彼は、私を刺し殺したのです」

「……!」

「龍は絶大な力を持っていますが、不死ではありません。……長い間仲間として旅をしてきたという経緯と、彼の目をもってすれば造作もないことだったのです」


 タカマガヒメは悲しみを押し殺すように、手を強く握った。


「しかし、どういう訳か私は生き返ったようです。……力のほとんどと、記憶のすべてを失って」

「……理由は見当がついているのか?」

「断言はしかねますが、ある程度は」


 そう言ってタカマガヒメは立ち上がり、出口の方向をじっと見据えた。


「セーレ様、お願いがあります」

「……なんだ?」

「ルリヒメの下へと同行してほしいのです」

「なぜだ?」

「……もう心配する必要は、恐れる必要はないのだと、優しくも厳しい姉に教えてあげなければなりませんから」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。