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第33話 水の都シエロ(3)犯人の正体

「ちょっと! どういうことなのか教えて!」


 フランが俺に詰め寄る。

 まあ、なんの説明もなく「犯人と再会できる」とだけ言ったのだから、ムリもないだろう。


「言葉通りの意味だよ」


 実際その通りなのだ。

 犯人とすぐに再開できる――それだけであり、そこになにも深い意味はない。

 ……これ以上しゃべると感づかれかねない、というのもあるが。


「なにかあったようですが……」


 部屋の入口からヘルメスがやってくる。

 話したときと同じフードを身にまとっており、悠然とした態度だ。

 ローブも向こうからでもわかるほど俺たちを心配しているらしく、気遣うように声をかけてくる。

 俺はヘルメスに――


「……!」


 ――ナイフで攻撃をしかけた。


「な、なにをしているの!」


 フランが信じられないといった様子で叫ぶ。

 なるほど、確かにとんでもない状況である。

 この光景だけを見れば、であるが。


 ヘルメスはとっさ回避をしたが、どうやら判断が遅れたようで、ローブの一部が切れてしまったらしい。

 そこから七色の光が漏れ出し、集まっていた魔力が拡散する。

 奴は俺たちに催眠魔法をかけようとしていたようだ。

 おそらくこの様子では、詠唱どころか魔法を唱えることさえなかっただろう。

 つくづくとんでもない相手である。

 ……どうやらフランも察したらしい、息をはっと飲む音が聞こえた。


「こ、これって……」


 フランが俺にたずねる。

 目の前の光景を信じたくないのだろう。


「ああ、犯人のお出ましだ」


 フランが戦闘態勢へ入るのに合わせて、俺もナイフを前に突き出す。

 もちろん普通のナイフだ。黒曜石のナイフでは相手を殺しかねない。

 ヘルメス・トトメス・トリスメギストスの製作者であり、同時に盗み出した張本人――ヘルメスは、俺たちが戦う気なのを察して、仕方なさそうに手を前へと出した。


                  ◇


「『ファイア』!」

「『ファイア』」


 俺の発した火球が、ヘルメスによるより大きな火球によってかき消される。

 魔力量に関しては大きく引き離されているわけではない。むしろ逆に俺のほうが多いというのに、相手は技術のみでそれを補った。


(……さすがは大魔術師。力押しじゃ負けるな)


 今回の目的は殺すことでなく、捕まえて事情を聞くことだ。

 【鑑定】の力は絶大だが、相手を説得することに関して言えばそうではない。

 その一歩を踏み出すために必要なのは、まず自ら語ってもらうことだ。


「しかし、ここまで厄介だとはな……」


 ヘルメスのローブがひらひらとはためき始める。

 風のためではない。魔力によるものだ――!


「『大地の抱擁(ガイア・スフィア)』」


 床が隆起し、俺たちを包み込もうとする。

 とっさの判断でそれを避けて、俺はフランの元へと近づいた。


「さて、どうしようか」

「どうしようかじゃないわよ。私のほうが聞きたいくらいだわ」


 フランはたいそうご立腹のようだ。

 まあ、彼女からすれば突然巻き込まれたようなものなので、怒るのも仕方のないことだが。

 しかし、俺は彼女を怒らせるために近づいた訳ではない。


「フラン。確か神聖魔法には、相手の魔力を封印するものがあったよな」

「ええ。だけどあれは相手より多くの魔力を持っていないと……アンタ、まさか!」

「ああ。そのまさかさ」


 神聖魔法の中には、相手の魔力を封印するものがある。

 しかしそれはフランの言う通り、相手以上の魔力がなければ効果を持たないため、普段はまるで使い物にならない。

 だがそれは普通であればの話だ。

 今のように、魔力量はこちらが上でも技術が劣っている場合は、確実に効果をもたらすだろう。

 俺が彼女に提案したのは、そういうものだった。

 さて、この芸当を行うためには、神聖魔法を使えるフランに魔力を渡す必要があるのだが、そこは問題ない。

 この手の中に、魔力を吸う黒曜石のナイフがあるからだ。


「これに魔力を溜める、時間がかかるから、危ないと思ったら叫んでくれ」

「守らなくていいの?」

「守る暇なんてくれないだろ」


 そういうと、フランは諦めたように俺の傍から離れる。

 それと同時に、彼女の側に無数の雷でできた矢が襲い掛かった。


(『触れ難(グラヴィティ)き磁場(・フィールド)』か)


 魔法でできた電気の矢を飛ばす魔法だ。

 それだけでなく、その矢が着弾した一定の場所を、強い磁力を持つ『磁場』に変えてしまう。

 威力はそれほどでもないが、無力化が目的なのであれば、これ以上ないほどに優れた魔法である。

 とくに、フランのような鎧を着た人間相手には。

 おそらくそれと同時に『雷の埋火(ライトニング・マイン)』を混ぜたのだろう。

 こちらは特定の場所に、切っても再生する雷の蛇を生み出す魔法である。

 グラヴィティ・フィールドと同じく威力は低いが、一度当たってしまうとしびれでしばらく動けなくなってしまう。

 ……だが、一番の問題はふたつの魔法を同時に唱えた(・・・・・・)点だ。

 一度呪文を唱えてすぐにかける・・・という方法なら俺もできるが、同時に詠唱など聞いたこともない。

 一応論文で可能と発表されたことはあるようなのだが、結局は理論上の話であり、実際の人間ができる芸当ではないという結論だったはずだ。

 おそらくこれを可能にしているのは、ヘルメスの能力の高さと……あの宝玉。


(早めに対応しないとまずいな……)


 俺はナイフを目の前に掲げ、早口で呪文を唱える。

 少しでも、このナイフに魔力が行き渡るように。


『……(Em)汝に(Vest)宣言する(Cotza)我が(Emi)身体(Veig)(Io)――』

「――危ない!」


 フランが叫ぶのと同時に、目の前に鋭い魔法の矢が飛んできた……!

 俺は顔をそらしてそれを避けようとする、が。

 それは目の前で拡散し、真っ白な光となった。

 

(……!)


 まばゆい光の奔流に、周りがなにも見えなくなる。


(してやられた……!)


 見た目だけで、攻撃魔法の『マジック・アロー』と錯覚していた。

 本当は、まぶしい光を生成して相手をかく乱する『フラッシュ』だったのだ。


 しばらくして、なんとか視界が戻ってくる。

 すぐに周囲を確認すると、目の前にはヘルメスがいた。

 頑丈そうな小手を付けた拳を、思い切り俺に振り上げようとしている……!


「……クッ!」


 手元にあるナイフでなんとか攻撃をいなす。

 その手に走る衝撃の重さに、俺は眉をしかめた。


(なんて力だ……!)


 ヘルメスはすぐに後ろへと跳ぶと、片手を前に突き出す。


「『波動砲(アルス・マグナ)』」


 それと同時に、手元に持っていた虹色の宝玉が今まででもっともはげしく光るのが見えた。

 ヘルメスの手にどんどん魔力が集約していく。

 ――そして、集約が終わると同時に、俺目掛けて巨大な光線が飛んできた!


(全力を尽くさないとどうしようもないって判断だろうが、これは……!)

「……聞いたことがない!」


 はじめて見る光景に動揺を隠せない。

 しかしその光線は、無情にも俺の方向へと飛んでくる。


(どうする……避けるか……!?)


 しかしこのような魔法を使う相手だ。他にも手があるはず。

 俺は手元のナイフを、ぎゅっと握りしめた。


(これしかない!)


 俺は目の前――アルス・マグナが飛んでくる方向――にナイフを突き付ける。

 ――それとほぼ同時に、そのナイフに真っ白な光線がぶつかった!


「ググゥ……ッ!」


 先ほどまでとはくらべものにならないほどの衝撃だ。

 足元の地面が崩れ、中の土があらわとなる。

 ナイフのほうを見てみると、どんどんと魔力を吸収している。

 この調子なら、アルス・マグナを耐えきることも可能だろう。


「持ちこたえろ……ッ!」


 ナイフのほうは問題なくとも、俺のほうは話が別だ。

 あの光線をナイフが吸収してくれているためダメージこそ受けていないが、あまりの衝撃に体勢が崩れそうになる。

 だがもし、ここで体勢を崩しなどしたら一巻の終わりだ。

 なんとか持ちこたえなければ……!




 身体に走る衝撃がなくなるのを感じる。

 どうやら、なんとか耐えきることができたらしい。

 俺はまだしびれる身体で、なんとかフランの下へと辿り着いた。


「……大丈夫なの?」

「ああ、問題ないさ」


 そう答えたのが良かったらしい。

 すこし緊張した面持ちだったフランが破顔すると、すぐに普段通りの勝気な表情に戻った。

 今回の戦闘で緊張していたというわけではなさそうだが、やはり理解のできない展開というのは冷静さを損なわせるのだろう。

 俺も気を引き締めなければ。


 さて、ヘルメスのほうを見てみると、かなりの魔力を消耗したがまだ戦えそうだ。

 この状態でもまだ戦えるというのがおそろしいものの、さすがにこたえたらしい。


「ここから短期決戦だ。一気に叩くぞ!」

「ええ!」


 俺とフランは一斉にヘルメスへと向かって走り出す。

 あちらもわかっていたようで、部屋を覆いつくさんばかりの無数のマジック・アローを放ってくる。

 だが……!


「……なっ!」


 沈黙を守っていたヘルメスが声を上げる。

 あれだけの量を避けられるとはさすがに思っていなかったようだ。

 俺はヘルメスの懐に入り込んだフランへナイフを投げ渡し、フランはそのナイフをヘルメスの眼前に突き付けた。


「『マジック――』」

「させないわ!『マジック・シール』」


 ヘルメスの目の前に巨大な魔法陣が展開される。

 顔を覆うフードが、はらりと落ちるのが見えた。

当初は三部作の予定でしたが、予定がずれたため、今までのタイトルを変更しております。

大変申し訳ございません。

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