第25話 反撃開始
俺たちは王城の前で、突撃の時を今か今かと待っていた。
内訳は冒険者ギルド、商人ギルド、エルンストの数少ない私兵団に、ライヒュース領をはじめとした多くの王族から搾取されてきた貴族たちの私兵団、それに加えて騎士団まで含まれている。
他はともかく、騎士団の面々がいるのは他でもない、フランのおかげだ。
実は、騎士団は以前から王室に対する不満を溜めていたようで、しかしその権力の差から何もできない状況だったらしい。
父が騎士団に所属していた過去を持ち、自身も勇者として騎士団と関わる機会の多い身分だったフランは、その不満をよく知っていたのだ。
そこで彼女は俺たちに許可を得たうえで、王室へ情報が漏れないよう、秘密裏に情報を渡していた。
その甲斐あって、今騎士団が俺たちの味方としてこちらについてくれているという訳だ。
「さて、こっからどうすんのかねえ」
体格の良い冒険者ギルドの男が、楽しみを抑えきれないといった様子で言う。
「そりゃあ正面突破さ。エルンスト殿下なんていう後ろ盾もあるんだし、何よりウチには頼れる仲間がいるからね」
男勝りな商人ギルドの女がこちらを見たかと思うと、ウィンクをしてきた。
まったく、戦う前だというのに調子が良い奴らだと、苦笑しながら手を振ってそれに返す。
「……時間よ」
フランがそういうのに合わせて、俺は門の正反対、エルンストがいる方向を向いた。
「皆の者! ここに集まってくれて感謝する」
今までの幼いものとは違い、威厳に満ちた口調でエルンストが宣言する。
周囲もその空気に飲まれたのか、背筋が伸びているのが見えた。
「わが父アウグストは、今まで暴虐の限りを尽くしてきた」
ライヒュース領の者たちだろうか、右手に大きくうなずく者たちが見える。
「それだけでなく、わが母や兄弟たちもまた、貴殿らにあまりにむごい所業を行ってきたのだ。王室の代表として謝罪する。誠に申し訳ない」
頭を下げるエルンストを、周囲が必死に止めようとする。
他の王族は許せなくとも、エルンストは例外と考える人々は思いのほか多いらしい。
再び頭を上げた彼の姿は、非常に晴れ晴れとしていた。
「ゆえに、これは命令ではなく、我からの願いだ。アウグストを拘束し、この呪われた治世に終止符を!」
エルンストが叫ぶようにそう宣言すると、周囲が熱に浮かされたように叫びだす。
熱烈な歓声の中エルンストが退場するのとほぼ同時に、エリザベスが姿をあらわした。
「さて、今回アンタらの後援をさせてもらうエリザベスだ」
エリザベスの口調はひょうひょうとしていて、とても反乱の直前だとは思えない。
「この街の人間にはあらかじめ連絡して、王城近くの人間には避難してもらうようになっている。思う存分暴れな!」
エリザベスの言葉によって、先ほどのものとは違う、好戦的な雄たけびが上がった。
◇
混乱状態で襲い掛かってくる兵士を軽くいなして、俺は周囲を見渡した。
何百人もの人数が入れそうなほどに広い城内に、ぎゅうぎゅう詰めの状態で多くの人間が暴れまわっている。
一見乱戦状態のように見えるが、実はある程度策略の内であるというのだからまったく恐ろしい。
――反乱を決行する数日前、アルフレッドが語っていたのだ。
「正当性を保つためにも、あまり裏で動かないほうが良い。しかし3つ、守るべきことがある。味方の位置を把握していること、略奪を行わないこと、そして殺さないことだ」と。
とはいえ、比較的狭い空間で多くの人間が動くのだ、事故を起こさないという方が難しい。
当然その点において無策だったというわけではなく、全員に魔石がついた腕輪を付けることで対策するということで決着がついたのだ。
魔石は4方向にそれぞれ違う色がついており、味方が近くなるにつれ強く輝くようになっている。
その甲斐あって、相手は足を引っ張って自滅してくれる一方で、こちらはほとんど事故なく反乱を起こすことができた。
初対面がああだったので不安があったのだが、まったく恐ろしい男である。
「この辺りの兵士は殲滅できたようね」
「ああ、練度も技能もこちら側には遠く及んでいない。うまくいったみたいだな」
あまり裏で動かないほうが良いとは言われたが、まったく動く必要がないという訳ではない。
いくら騎士団が抜けたとはいえ、相手の財力と権力は桁違いだ。
こちらの動きが読まれると対策を取られて一気に詰む可能性があった。
だから俺たちは、できる限り王室に気づかれないように動いたのだ。
もちろん騎士団の勧誘もその一環である。
「……さて、あまりここに長居しても良くない。行くぞ」
フランが俺の言葉に頷く。
……のは問題ないのだが、なぜか周りの人間も雄たけびを上げていた。
その異様な光景を見て、少々引いてしまい、思わず近くにいたアルフレッドへと訳を聞いたのだが、
「貴殿がいるというだけで我々は勇気づけられるのだ。貴殿を気遣って役職を与えていなかったが、我々は貴殿が事実上の司令塔だと判断していると」
と肩を叩かれてしまった。
どうもギルドや騎士団中に俺のクラーケン退治が伝わっていたらしく、「とてつもない才能を持つ少年」として英雄のように見られているのだとか。
「……俺は戦術とか、そういうものを学んだ経験はないぞ」
「だからこそ私のような戦術に詳しい人間がいるというものだ」
「ハァ……わかったよ」
そして俺は広間の階段を昇り、周囲を見れる場所へ陣取った。
何かを察したのか、騎士団も含めた周りの面々は言葉を聞き漏らすまいと俺の方を向いている。
(ここまで信頼されているのは嬉しいが、少し怖くもあるな……)
「さて、ここまで来ればあともう一息だ。突っ切るぞ!」
オオオオオオオオ……と、部屋中を轟かせる大音響が、辺りに響き渡った。
◇
「陛下をお守りしろ!」
「い、嫌だ! こんな馬鹿らしいことしてられるか! 俺は降りるぞ!」
「な、何をいって……敵襲だ!」
「ヒ、ヒィィィィィ!」
俺たちの姿を見て、兵士たちがほうぼうの体で逃げ出していく。
数少ない戦意を残した者たちも、ギルドや騎士団といったエリート相手は荷が重かったのか、なすすべもなくやられてしまっていた。
「……本当に、手ごたえがない」
フランが苛立たし気につぶやく。
今は敵とはいえ、かつては同僚だった者たちの現状に思うところがあるようだ。
「彼らは悪くないさ。ただ仕事をしているだけなんだからな」
「そうだとしても、余りにも弱すぎるわ……今まで何をやっていたのかしら」
「ほとんど騎士団任せだったんだろう? 使える人間ばかり優遇して他をないがしろにした奴らが結局悪いのさ」
「……それもそうね」
フランは落ち着いてくれたようだ。
良かった。あまりにも怒っていたものだから、アウグストを目にした時、万が一を起こしてしまうのではないかと、内心ひやひやしていたのだ。
「……ここが玉座の間だ。みんな、用意はいいか?」
周囲に、そして己に言いかけるように、俺は問いかける。
それぞれがバラバラに、しかし迷いのない様子でうなづくのを見て、俺は扉を開くため、周りを呼んだ。
一斉に力を合わせて、巨大な扉が重々しく開いていく。
そこでは、アウグストが待っていた。
顔を真っ青にして、全身を震わせている。
今目にしているこの光景が、まるで信じられないといった様子だった。
「……わ、儂を誰だと思っておる! この国の王、アウグスト・フォン・シュヴェルトヴェヒターであるぞ!」
「ああ、知っているよ。だからここまで来たんだ」
「ヒッ……! だ、誰か、助けを……!」
まるで転がり落ちるように、アウグストが玉座の裏に隠れる。
(この期におよんで逃げ回るつもりか……?)
ここまで来て逃げられないように、俺は【鑑定】を使い、アウグストの居場所とどこかに隠し通路がないかを確認する。
彼は玉座に隠れたままのようで、何か丸いものを持っている。
とりあえず逃がしたわけではないらしいと、俺は胸をなでおろした。
宝石か? いや、それなら宝物庫に保管してあるだろうから、魔石の類だろうか……。
(……!? これは……!)
「みんな! 逃げろ、これは……!」
俺が叫ぶのとほぼ同時に、その丸い石から黒い何かが吹き出して、玉座の間を覆いつくす。
そして、すべてが闇に包まれた。




