第22話 驚愕の会議
「――そうですか。やはり陛下が裏で手を引いていたのですね」
ありがとうございました、とアンが俺たちに頭を下げる。
あらかた予想がついていたとはいえ、確かな証拠が手に入るとまた違うものだ。
アンも同じ気持ちだったのだろう。
「いい、俺にもメリットはあるからな。それで、次はどうするんだ?」
ライヒュース領への圧力にフランや俺たち庶民に対する横暴な政治、さらに第3王子の暗殺を計画したとなれば民衆も黙ってはいない。
そうなれば、俺に対する制限や監視もなくなるに違いない。
そして、俺の生活もこれまでとはずいぶんと変わったものになるだろう。
共犯者だとはいえ、フランは俺を監視するためここにいるのだから。
「はい。これを基に反乱を起こそうと思っています」
「中々過激なことを思いつくな。勝機はあるのか?」
「ええ。冒険者ギルドの者にも話は通しておりますから。あちらも陛下からのムリな提案にはうんざりしていたようですし」
エルンストは民衆からの評判が良い。
確かに勝機はあるだろうが、それにしても血の気が多いやり方だ。
だが、だからこそ踏み込む余地があるというものだ。
「なあ。それなら1つ提案があるんだが……」
俺はフランとアンに、今まで考えていた計画を話す。
それを聞いた2人が驚いたかと思うと、すぐ自信に満ちた不敵な笑みへと変わった。
……俺が言えたことではないが、ずいぶん悪役じみた笑い方だな……。
◇
屋敷の応接間には、どこか重々しい空気が満ちていた。
俺の右側にはフラン、左側にはライヒュース領から来たフルーが座っている。
そして向かい側には、威圧的な長身の男が、まるでこの空間の主であるかのように鎮座していた。
男の名はアルフレッド・ジョンソン。
王国内の冒険者ギルドを統括する地区長だ。
彼が苛立たしげに、
「それで、最後の1人とやらはいつ来るのだ」
と言うと、
「待たせたね。仕事が思ったよりも長引いちまって」
と、エリザベスが不敵な笑みを浮かべて扉を開いた。
俺の提案はこうだ。
反乱に俺たちも参加させてもらい、代わりにエリザベスを紹介する。
そこらの冒険者には腕っぷしで負けない自信があるが、それは魔物退治での話だ。
今回のように対人戦となるとそうはいかないだろう。
慣れもあってか、人に向けて魔法を放っても問題なくなったとはいえ、戦場の狂気にあてられても正常でいられるとは限らないのだから。
それはさておきとして、あちら側からすれば、俺たちは戦力として不安が残る相手だ。
そこで対価を用意する。
俺の恩人であり、師でもあるエリザベス・メーシャは、同時に商人ギルドの終身名誉顧問でもある。
俺たちを勘定に入れてもお釣りがくるほどの相手に違いない。
一方、エリザベスの側にとってもこれは損のない取引だ。
当代の国王の悪評は国内だけではなく、国外にまで広まっている。
このような時期に、当代ではなく、反乱に成功する可能性が高いエルンストに恩を売っておけば、後々の外交においても有利に働けるというものだ。
そして俺の知るエリザベスという女は、こういった絶好の機会を逃すような人間ではない。
だから、彼女に向かって手紙をしたためておいていたのだ。
もちろん、最大限にメリットを強調した上で。
突然のエリザベスの来訪に、アルフレッドは驚いて目をしばたたかせる。
アンには連絡をよこしていたが、アルフレッドまでは間に合っていなかったようだ。
あるいは、届いてはいたものの信じられなかったか。
(まあ、どちらでも変わらないか)
「全員揃ったようですね。それでは、会議を始めたいと思います」
アンのその一言によって、応接間の空気がより引き締まったものへと変わったのを感じた。
◇
「……なるほど。確かに、こちらにも利のある提案だな」
アルフレッドが納得した様子で首を振る。
どうなることかと緊張した空気で始まった会議は、意外なほどにスラスラと進んでいった。
それもこれも、アンが会話の配分を適切にしてくれたためであり、そしてフランがうまく相槌を打ってくれたためでもある。
俺自身、時折忘れがちになっていたが、やはり彼女はれっきとした男爵令嬢で、勇者なのだ。
それにエリザベスもうまく平等に利益を得るよう(と言いつつも、ちゃっかり自分が一番利益を得るようにしているのが抜け目ない彼女らしいのだが)意見を通してくれたのもありがたかった。
俺も一応策を考えていたが、この調子なら使わずに済むだろう。
「そうだろう? だが、もう1つ念を押すのもありじゃないかい?」
「ほう、どのようなものだ?」
「そこのセーレがいるだろう。アイツを勇者にするのさ」
空気が変わった。
爆弾発言をかました張本人であるエリザベスは、平然とした様子で優雅に紅茶を飲んでいる。
「し、しかし、冒険者登録すらしたことがない、それどころ王国から危険視されている者を勇者になどと……」
アルフレッドがうろたえたように言う。俺も同意見だ。
勇者とは国を超えた存在であり、任命権と管理は冒険者ギルドに一任されている。
しかし、それぞれの国家元首からの任命をそのまま通しているというのが実際のところだ。
理由としては勇者という役職そのものが一定の権力を持っているなど、さまざまな理由が絡んだものなのだが……。
そういった視点から考えると、アルフレッドが戸惑うのも何らおかしくない反応なのだ。
「なんでだい。任命権はアンタ達の方にあるんだろ? やっちまえばいいじゃないか」
「だが、王室との関係というものが……」
「かまいません」
エリザベスを除いた、応接間にいる全員が扉の方へと振り向いた。
そこにはエルンストがいた。
全身を震わせながらも、決意に満ちた強い瞳を輝かせている。
王の風格を漂わせるその姿に、誰もが飲み込まれていた。
「彼は僕の恩人です。勇者に任命していただいたとしても、感謝こそすれど恨むようなことはありません」
エルンストの言葉にアルフレッドが頭を抱える。
俺はといえば、エルンストの急激な成長に驚きを隠せなかった。
会った時の彼は甘えたがりのお坊ちゃまといった様子だったが、今は文句ひとつない、立派な王の姿だ。
「……わかりました。私アルフレッド・ジョンソンは、セーレ・アンデルセンを勇者に推薦する。そう本部へ伝えておきます」
「それだったらアタシも推薦状を書いておくよ。こっちにも一枚噛ませてくれ」
それからあれよあれよという間に、推薦状の文面が用意される。
俺はあっけに取られたまま、気が付けば推薦状の最後に署名を書かされていた。
勇者の任命には本人の署名が必要らしい。今知りたい情報ではなかったが。
そうして会議は、俺が勇者になるというとんでもない置き土産を残して閉幕したのだった。




