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怪奇!衛兵騎士団調査報告  作者: 菊介
十一、怪光
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後輩力む


 その日の仕事を終えて奥の部屋の窓から月を見ていたら、川向こうに赤い光が見えました。始めは誰か散歩でもしているのかと思ったんですが、全然光が動かないので気になって外へ出たんです。でも、外へ出たら光が見当たらない。あれ、変だなと思って部屋に戻りました。そうしたら、窓から見える川の向こうに赤い光がたくさん浮かんでいて――



「どのくらいの数があったか覚えていますか? 光の大きさは?」

「わかりません。なんだか怖くなって、すぐに毛布をかぶって寝てしまったので」


 まだ拙い部分があるものの、話の引き出し方は問題ない。

 レソンもなかなか親切な人物のようだ。こちらの意図を汲み取り、短い言葉の中に必要な情報を揃えている。


「奥の部屋を見せていただいてもよろしいですか?」

「どうぞ」


 部屋へ入ると奥にタンス、左手に窓、右手に寝台がある。寝台の横には小さな棚、棚の上にろうそくが立てられた燭台があり、寝台の手前には長い草が干されていた。

 草の半分が編まれているな。この草は縄の材料だ。


「レソンさんは何のお仕事をされているんですか?」

「大麦を作っています」

「農具はどちらに?」

「外の小屋にあります。……あの、何か関係があるんですか?」


 ユーカめ、必要以上に情報を集めているな。

 気持ちは理解できる。しかし見れば分かること、後で確かめられることは情報の優先順位が低い。

 ちなみにこの地域で大麦といえば春蒔きの品種だ。エールの原料や家畜の飼料として使われる。


「いえ、ありません。失礼いたしました。光が見えたのはこちらの窓ですね」


 内倒しの大きなガラス窓である。

 下部に軸があり、上部の取っ手を引いて内側に開く。

 換気をしにくい構造で外から開けることはできない。


 質の良いガラスが使われているようで、表面は傷も少なくぴかぴかだ。

 外の風景、川面や川向こうの林までよく見通せる。下流に渡し舟が小さく見えた。

 南向きだから夕方から夜半まで月がよく見えるだろう。


「では今から現場へ向かいます。レソンさん、またお邪魔すると思いますのでその節はよろしくお願いします」

「はあ……、こちらこそよろしくお願いします」


 依頼人に俺達の予定を報告してどうするんだ。


「すみません、一つ聞き忘れていました。レソンさんのご家族はどちらに?」

「身重の妻がいまして、今は北区の実家に戻っています」

「おめでとうございます!」

「あの……、ありがとうございます……」


 なんだか気が抜けてしまうな。俺も新人の頃はきっとこんな感じだったに違いない。

 なるほど、暖かい目で見守るとはこのことか。


 ユーカは後ろ手にレソン宅の扉を閉めると、ふう、と息をついた。

 いつも俺の仕事を見ているから緊張するはずない、と思っていたが早合点だったか。


「少し力が入りすぎたな」

「すみません」

「謝ることはない。よくできていた。……さて、復習だ」

「はい」


 サーラ先輩が先生形態になる姿を心に浮かべ、人差し指を立てた。

 口調はランジャック隊長の真似である。


「レソンが赤い光を目撃したのはいつ頃だ?」

「一週間前の夜、仕事を終えた後だから、日暮れの直後です」

「違うな。部屋の様子をよく思い出して考えるんだ」


 農業をやっている人間は作物を育てることだけが仕事ではない。

 たとえば農具や出荷用の道具を作ることだって仕事の内だ。


「そういえば途中まで編まれた縄がありました。ということは、日暮れからしばらく経った後です」

「そうだ。おそらくレソンは日中の作業を終えてから帰宅、その後、燭台に火を灯してしばらく作業をしていた。光を見たのはその日の作業を終えた後だ」


 冬越え前の畑にも手入れは必要だ。雑草などをすきこんで土の状態を維持しなければならない。

 そうなると道具を作る時間は夜に限られる。


「じゃあ次、現場はどこだ?」

「川向こうの林……待ってください、少し考えます」


 情報の根拠を見つけることも大事だろう。

 何故、レソンは光が川向こうにあると思ったのか。


「……川向こうの林です」

「根拠は何だ?」

「“誰か散歩しているのかと思った”とレソンさんは言いました。つまり人が歩いていてもおかしくない場所です。もしも川の上に現れたのなら、水面に光が反射するからすぐにわかります」

「よし。次はどうする?」

「現場へ向かいましょう」


 東の下流へ向かうと、すぐに橋と渡し舟の乗り場が見えてきた。

 王都南の街道上に建設された木橋は、屋根付きの立派な橋だ。

 流れの影響を受けにくくするため土台が小さく、柱も細い。

 人間の移動だけなら問題はない。しかし馬車や重量のある荷物を渡す場合は船を使う。


「リートさん、あちらを見てください」


 ユーカの真剣な表情に何事かと街道沿いを見れば小さな菓子店だ。結構人が入っている。

 店舗の外には長椅子が置かれ、旅の商人達が茶を飲んでいた。

 ……なんだこの既視感は。以前にも同じことがあったような……。


「栗菓子のお店です」

「うん、旬は……いや、ちょうど旬の時季だな。買っていくか」

「はい」


 どうして俺は旬の話をした?




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