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怪奇!衛兵騎士団調査報告  作者: 菊介
十、しでかした盗賊
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侵入


 箱に積まれた調書の、上から三枚が三枚とも手形の盗難事件だ。

 そんなに王都の通行手形は人気があるのか? 

 ええと、どれどれ。


「犯人はヒゲの長い老人の男……こっちは若い娼婦風の女だ」

「手形を売るのでしょうか?」

「売れないだろう。無料で手に入る、ただの木札だぞ」


 使い道のない手形の盗難が三件も連続しているのは何故だ?

 というか、そもそも盗難事件としては少しおかしい。


「どうして三件とも犯人が目撃されているんだろうな?」

「それは、……何故でしょう?」


 普通、泥棒が姿を見せるのはひったくりか強盗を行う場合だ。どちらも暴力的手段である。

 しかし暴力を伴った形跡は調書から読み取れない。

 つまり持ち主の目の前で、“姿が見られるのを承知で”手形を盗んで逃げた、ということになる。


「いたずらか、それとも窃盗のゲームでもやっているのか……」

「あっ」

「ユーカ?」

「読本で似たような事件の話を読んだことがあります。怪盗が小さな事件をたくさん起こして衛兵の目を引きつけている間に、本命の場所で大きな事件を起こすという」

「怪盗ねえ……」


 確かに目撃証言があれば衛兵は動かざるを得ない。衛兵全員出動となると一部の場所は警備が手薄になる。

 しかし突飛な発想のような気がするな。大真面目に怪盗の真似事をする馬鹿がいるとは思えんが。


「腹が減った。とにかくメシだ」

「はい」


 息を切らせて戻ってきた衛兵に引継ぎをして、ユーカと二人、大通りへ出る。

 食堂の前を見ればすでに行列ができていた。道端の露店も満員だ。


「正午までにお腹を満たせるでしょうか……」

「この辺りでは無理そうだな……。仕方ない、王城へ戻ろう」


 王城へ向かう途中、露店のリンゴを買ってかじりつくも腹は満たされそうにない。

 まいったな。こんなことなら自前で食事を用意するべきだった。


 白熱している団員達の試合を尻目に大階段を上ると、なにやら王城内部の様子がおかしい。

 まず受付に人がいない。侍女長と新人の執事がいたはずだが。

 そして一階広間もどことなく閑散としている。

 受付の端に立っていた衛兵が慌てた様子を見せてこちらへ来る。


「緊急事態です! 調査隊の方は地下倉庫へ向かってください」

「了解」


 一階広間の階段右を抜け、突き当りまで行くとサーラ先輩の書斎の扉が開け放たれている。書斎に人の姿は見えない。

 地下倉庫の鉄柵も開かれ、階下へ向かう階段には明かりが灯されていた。

 階段を下りて倉庫の中を見渡すと、普段は隠蔽されているはずの棚が出現している。

 倉庫の奥にサーラ先輩とランジャック隊長の姿が見えた。


「隊長! 何があったんですか!?」

「倉庫に侵入者だ。やられた。独楽こまを盗まれた」


 ユーカがこちらを見て口を開く。


「まさか、獣爪じゅうそうの独楽……」


 獣爪の独楽。

 十八年前、万象調査隊結成のきっかけとなり、俺が関わった最初の遺物。

 回転させると魔法陣が現れ、独楽を回した人物に致死的な現象をもたらす遺物だ。


「でも、どうやって……」


 サーラ先輩がするどい眼差しで俺を見る。


「書斎に置いていた鍵を盗られた。私がいる目の前で倉庫の鍵を盗まれたんだ」

「気付かなかったんですか?」

「全然気付かなかった。だって物音一つなかったんだよ」

「倉庫の棚は隠蔽されていたはずです」

「でも探し当てた。犯人は調査隊と同じ、神秘の専門家だね。そしておそらく私達の知らない遺物を利用している」


 地下倉庫と鍵の位置を知っていた。

 棚の隠蔽を見破った。

 山ほどある遺物の中から独楽だけを狙って盗んだ。

 俺達の知らない遺物を利用する、神秘の専門家。

 つまり……


「外国の諜報員ですか」

「その可能性が高いね。ただの盗賊だったら隠蔽を見破れない」


 騎士団にとって一番厄介な相手だ。

 間違いなく手だれだから捕縛自体が難しい。もしも裁判前に殺してしまえば国際問題だ。

 捕縛に成功しても、外国政府からの身柄引き渡し要求に対応しなければならない。

 無傷で捕縛して速やかに有罪まで持っていく必要がある。

 いっそ、盗品を置いて逃げてくれた方がずっとマシだな。


「隊長、他の隊員は?」

「緊急配備に向かっている。すでに大通りは固めたから、リートとユーカは犯人の足取りを追え。見つけても絶対に殺すな。可能な限り無傷で捕縛しろ」

「了解」


 俺とユーカが倉庫入口の階段へ向かおうとすると、サーラ先輩が声を上げた。


「リート! 鍵はもう見つけたよ! 盗られたのは()()だけだからね!」

「わかりました。絶対に捕えますよ」





 王城から出ると広場にいる人々の数が少なくなっていた。舞台上の試合は一段落つき、昼の休憩中である。

 皆、思い思いに露店へ並び食事を済ませているようだ。ああ、腹減ったな。


「リートさん、どうやって犯人を見つけましょう?」

「さっき読本の話をしてくれたろ? 手形の盗難が本件に関係あるなら協力者がいるはずだ」


 手形の盗難事件を起こすことで衛兵達の目を王城からそらし、本命の王城地下倉庫を狙う。

 突飛な発想だが効果的な手だ。犯人が諜報員だとしたら現実的な手段といってもいい。

 そして一人が同時多発的に事件を起こすことはできない。必ず協力者がいる。


「私達は、手形盗難事件を追う、ということですか?」

「無関係かもしれないが他に手掛かりがない。地道にやるしかないだろう」


 手形の盗難程度なら騎士団本部への報告は後回しにされる。

 西区以外の衛兵詰所を回って、他に手形盗難が発生していないか調べる所からだな。

 それにしても、いつになったら俺とユーカの腹は満たされるのか。




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