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怪奇!衛兵騎士団調査報告  作者: 菊介
四、王都西地区にて目撃された不審者について
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毛の話


 衛兵の情報によると、まだ殺人は確認されていない。行方不明か、遺体が発見されていない可能性もあるが、現時点では被害者がいない。


 では、あの生首は何だったのか。

 生首が王都の人間でないとするなら、奴……“隧道の影”と呼ぼう。隧道の影が持っていた生首は、王都外の人間か、そもそも人間ではなかったということになる。

 そうなるとやはり、境界が別の場所へ繋がった、と考えるのが妥当だろう。この世界のどこか、あるいは別世界へと繋がった。夕方に不審者の連絡があることから、一時的に繋がる時刻があるはずだ。


 隧道の影は人間だと考えない方がいいな。逆さになって宙に浮く能力が人間にあるなら別だが、俺の知っている限り、そんなことができる人間は一人もいない。


 俺ができる対処は、境界が別の場所へ繋がらないように穴を塞ぐことだ。

 境界がどこかへ繋がるには条件がある。不審者が目撃されるようになったのは数日前だから、つい最近、あの隧道付近に条件を満たす何かしらの変化があったはずだ。

 となると、次にやるべきは周辺住民への聞き込みだな。


 水音に気が付き顔を上げると、公園にいた職人達が続々と入ってきた。そろそろ風呂を出るか。


「そっちの水草はどうだい」

「もうそろそろ咲くんじゃねえかな」


 隣のおっさん達は掘割職人か。いつもご苦労様です。


「聞いたかい? 隧道通りの堀の話」

「聞いた聞いた。迷惑な奴もいたもんだ」


 おや、何の話だ。早速聞き込みといきますか。


「あの、すみません、隧道通りで何かあったんですか?」

「おお、堀のふちに髪の毛の束が捨ててあってよ。気味悪いってんで、そこの担当がその場ですぐに燃したんだと。そうしたら堀の水が濁っちまってな。念のため水草を別の堀に移さなきゃなんねえ。せっかく花が咲きそうなのに、もったいねえよな」

「それは大変でしたね」

「まあなあ。徐々に水が綺麗になってっから、すぐ戻ると思うけどな」


 毛髪といえば呪術などに使用される、神秘関連ではありふれた道具の一つである。だが普通に燃やしただけでは何の効果もない。水を濁らせる効果もないはずだ。隧道の変化はそれが原因か?


 風呂から上がり、公園で装備を整えながら待っていると、ユーカが葉に包まれた菓子を抱えてきた。湿った髪を下している姿が新鮮だな。頬が赤らんで、いつもよりも幼く見える。


「リートさん、おいしいですこれ」


 もう食ったんかい。

 一口で食べられるほどの小さな菓子を受け取り、噛み締めると柔らかい生地の中から蜂蜜が滲み出してきた。蜂蜜入りの菓子パンだ。かなり甘いが、後味がさっぱりして食べやすい。


「茶が欲しくなる味だな」

「そうですね」

「お茶ならあるよ」


 聞き覚えのある声に目を向ければ、先ほどの女衛兵が立っていた。


「コーニさん! お疲れ様です」

「うん、お疲れ様です」


 二人はお互いの手を合わせ、笑顔を交わしている。従士時代の知り合いかな?


「あー、二人はお知り合いで?」

「毎朝お会いしています、リートさん」


 コーニと呼ばれた女衛兵がそう言って兜を脱ぐと、後頭部で丁寧にまとめられた赤毛が出てきた。少し吊り目で鼻筋の通った顔立ち。これだけ美人なら衛兵隊でも人気者だろう。

 そういえば見たことがあるな。毎朝食堂でユーカの向かいに座っている女だ。


「ユーカさんと同室で衛兵隊所属のコーニといいます。もちろんリートさんのことも存じておりますよ」

「ああ、こりゃどうも申し訳ない」


 ユーカの視線が痛い。調査対象の顔ならすぐに覚えられるんだけどなあ。

 茶と菓子を交換して三人で味わっていると、コーニが口を開く。


「お二人とも、調査で西区へ来たんですか?」

「隧道通りで不審者の連絡があってな」

「ああ、その件で。調査隊が来たってことは神秘絡み?」

「はい。コーニさんも気をつけてくださいね」


 コーニは菓子を二つたいらげた後、「私の方でも隧道通りを見ておくね」と言い残し、巡回へ戻っていった。俺とユーカは大通りを王城方面へと歩き出す。涼しい風が髪の隙間を通り抜け、頭が冷えていくと同時に気分も冴えていく。


「リートさん、先ほどお風呂で隧道通りの話を聞きました」

「俺も聞いたぞ。隧道通りの堀に毛束が捨てられていたそうだな」

「ええ」


 俺とユーカが同時に口を開く。


「気味悪いよな」

「かわいそうです」


 ん? 思わず顔を見合わせてしまった。おそらく話が食い違っている。


「捨てられていた髪を燃やしたら、水が濁った話じゃないのか?」

「違います。馬が尻尾の毛をくわえて逃げた、という話です」

「なんだそりゃ」

「病気の治療で尻尾の毛を切られた馬が、悲しみのあまり逃げてしまったそうです。結局、馬は戻ってきたそうなんですが、憔悴して餌を食べられないと」

「くわえて持っていった毛はどうなったんだ?」

「さあ、そこまでは……」


 本件とは関係がない情報だったのかもしれん。

 それならどうして水が濁ったんだろう。馬の尻尾の毛を燃やすと水が濁るのか?



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