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第九話「襲撃!伝説の戦士(後編)」・1

今回は一段とグロいかもです。大急ぎであげたので、誤字脱字あるかもです。

五部構成です。

 ここはエレゴグルドボト帝国の領域内に存在する小国の一つ、サルパストナム王国。サンドラー一族の第三代目国王――サフィスト=サンドラーが治めていたが、現在彼の消息は不明。頭を失い、後継者の存在しない王国は慌てふためいたが、急遽王の器として相応しい人物を見つけ、その人物を王にあてがう事となった。他の王国の歴史を振り返っても、このような国王の取り決めは異例中の異例で、国民はしばしの間困惑した。が、それも一時の事に過ぎず、今ではすっかり国民に慕われる王となっている。

そんな四代目国王の治めるこの場所の上空に、一つの人影があった。つばの広い大きな三角帽子を被り、漆黒のマントを風で靡かせるその人物は、少々凝った装飾を施されたホウキに乗って宙に浮かんでいる。まさにそれは、魔女であった。


【ケホっ、ゴホっ、んもぅっ!! 何なのよここ!! まともな建造物何にも無いじゃない!! あるのは壊れた廃墟やピラミッド、そして砂丘くらい……こんな埃っぽいところに本当に伝説の戦士がいるわけ? これでもしいなかったりしたら、あたし完全に無駄足じゃない! そもそもどうしてあたしがここに来る事に……全部レイラのせいだわ!】


 魔女の衣装に身を包む女性は、何度か咳をすると、横髪を指でクルクルと弄りながら愚痴を零した。

 そして、忌々しそうにレイラの事を頭の中に浮かべ、彼女の悪口を独りごちる。


【はぁ……何でじゃんけんなんかで決めちゃったのかしら?】


 こうなったそもそもの原因、それは自分にもあった。




――△▼△――




【はあ!? 何であたしがサルパストナムに!?】


 ディートヘイゴス一家の一人である魔女(ウィッチ)のアンジェラは、不機嫌そうに目の前の少女に言った。

すると、ほぼ全裸に近い格好をした小悪魔風の少女が、どうしてもその場所に行きたくないかのように、猫なで声をあげた。


【ねぇ、いいじゃ~ん。わたしぃ~、ああいうホコリっぽい所嫌いなんだよねぇ~。そ・れ・に、髪の毛だって砂ボコリで汚れちゃうしぃ~。お姉ちゃんだったら、その邪魔くさい帽子で防げるでしょ? そーゆーこと!】


【ふざけないで!! 最初に決められたでしょ! 砂属性戦士の担当はあんたじゃない!】


 交代してほしい理由があまりにも自己中心的だったのと、自分の被っている帽子を少し小馬鹿にされた事に腹が立ったアンジェラは、声を荒げて夢魔(サキュバス)のレイラを指差した。


【ぶぅ~、あんなクソあっついトコ行ったら、あっという間にガングロになっちゃうってゆ~か……】


 頬を膨らませいきなりギャルっぽい口調で肩を竦めるレイラ。そんな彼女の態度に、さらにムカッときたアンジェラは、更に声を張り上げる。


【何言ってるの、既に死んでるんだから日になんて焼けないでしょ!?】


【気分の問題よ!! お姉ちゃんだって、寒いの嫌いとか言ってフォロトゴスお兄ちゃんと担当代わったクセにっ!!】


【うっ!】


 そこでイタい所を突かれてしまい、アンジェラは矢継ぎ早に口にしていた言葉を途切れさせた。まさに図星なのである。レイラが何故その事を知っているのかは別として、アンジェラは同じくディートヘイゴス一家の一人である人造人間(フランケンシュタイン)のフォロトゴスに、手を合わせて担当を代わってもらった。


【……な、ならこうしましょう! 正々堂々、ジャンケンで勝負よ!!】


【ふんっ、望むトコよ!!】


 人差し指を立てて提案するアンジェラに、レイラは鼻で笑い応戦する。

こうして、二人のじゃんけんによる戦いが始まるのだが――。


【……な、なな……何でこのあたしが負けるのよーっ!!】


 アンジェラはあっさりとレイラに負けてしまった。


【きゃはははは、正々堂々だなんて言葉ほどお姉ちゃんに似つかわしくない言葉はないね! 何が正々堂々よ、明らかに不正行為じゃないっ!!】


【あ、あんたこそ、後出ししたじゃないっ!!】


 焦りの色を見せながらアンジェラが言う。そんな彼女に対し、レイラはやれやれと頭を振りながら口を開いた。


【お姉ちゃんの魔法をくらわないように配慮した結果だもん。普通に勝負したら、わたしが負けるように細工でもしてたんだろーけど、残念ながらそうはいかないよ】

 

【くっ……】


 完全に作戦がバレてしまっていて、アンジェラは悔しくて歯噛みする。

 

【さ、負けたんだから代わってもらうよ! そーゆー事で、後はヨロ~♪】




――△▼△――




【きぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!!!】


 空中で、アンジェラは突然発狂した。息を荒げ、目を血走らせていた彼女は、再び眼下を見渡す。


【ちっ、もしも砂属性戦士がいなかったら、絶対にレイラに八つ当たりしてやるんだから!! ……にしてもあっついわね、どこかに水ないのかしら?】


 アンジェラの身に着けている衣服は、そこそこの露出があるものの、生地が少々厚いのか風通しが悪いようだった。指でパタパタと衣服を動かして風を内部へと送り込むと、ホウキで移動を開始した。

それから数十分して、彼女はホウキを急ブレーキさせた。


【あれは……】


 彼女が見つけたのは、小さなオアシスだった。だが、例え小さかろうと今のアンジェラにとってはじゅうぶんだった。


【水っ!!】


 魔法の力は自然界に存在するエネルギーを使用する。が、こう砂が多くて乾燥した地域では、水の力を借りる事が出来ない。そのため、アンジェラは物凄く喉が渇いていた。


【……それにしても不思議だわ。既に死んでるのに、喉は渇くなんて……】


 端がギザギザで手首より少々長めの黒いグローブを外したアンジェラは、両手で水を掬い口元に運んだ。そうやってどうにか水分補給を終えたアンジェラは、ふぅと一息ついて周囲を改めて見渡した。

先ほどから人は一人も見かけていない。ここは随分緑も多く、葉の大きな木が生えているおかげで木陰も存在する。


【出来ればここにいたいけど……そうも言ってられないわね。それより、早く伝説の戦士を殺して戻った方がよさそう】


 木陰で休んでいたアンジェラは、つば広の三角帽子を脱ぐと、熱で蒸れた髪の毛を指で梳き、風を頭皮へ送った。それから軽く首を左右に振ると、再度帽子を被ってその場に立ち上がった。

先ほどとは違い、ちゃんとホウキに跨ると、やや真剣な面持ちでオアシスを離れた。

そうしてさらに三十分くらいしてだろうか? 一見人の気がなさそうな廃墟の街へと辿り着いた。


【……一体、どこにいるの? 砂属性戦士……】


 探しても探してもどこにも見当たらない。もしかすると、既に死んでいるのではないだろうか、そう考えてしまう。

と、廃墟の街を通過している時だった。建物の一つの角を曲がった所で、彼女の眼下に生命体を発見した。厳密的には、動いている何かを捉えたと言ったほうが正しい。


【見つけた!!】


 まだ伝説の戦士であると確定した訳でもないのに、アンジェラは判断を誤り、そう決め付けてしまった。そして、果敢に猛スピードで相手へ向かって突っ込んだ。


ドォオォォォオォオンッ!!!!


 物凄い衝撃音と共に、砂埃が舞い上がる。


「ゲホッ、ゴホッ、ケッホッ! や~ん、突然なんなの~!?」


 いきなり視界を大量の砂に邪魔される。砂塵が舞い上がり、ターバンを頭に巻いているその少女は、激しく咳き込んで目に涙を浮かべた。


【ついに見つけたわよ、伝説の戦士……】


「――っ!?」


 何度も咳き込んでいた少女は、目の前に突如として現れた怪しい人物の一言に驚愕し、目を見開いて咳を止めた。


「……久しぶりにその言葉を聞いたよ。はは……おかしいなぁ、どうして知ってるの? 私が伝説の戦士だって」


 前髪をかきあげたまま少し目を泳がせる少女。その口元はやや引き攣ったような状態で震えている。


【どうして……ですって? そんなの決まってるじゃない。あなたが、伝説の戦士だからよ】


「う、う~ん……それは少し理由になっていないような」


 頬をかきながら失笑する砂唯に、アンジェラは苛立たしそうに眉を吊り上げる。


【あたしがあんたの事を知ってようとそうでなかろうと関係ないのよ! 必要なのは唯一つ、あんたの死よ!!】


 そうきっぱり言い切ったアンジェラは、杖を構えて勢いよく横に振るった。空を切る音が響き、彼女の杖から風の衝撃波が走る。


「うわわ!?」


 砂の防御壁を作った砂唯。なんとかギリギリでアンジェラの攻撃を防ぐ事に成功した。が、油断は出来ない。アンジェラはさらにたくさんの衝撃波を放ってきた。


「くっ!」


 さすがに防御ばかりに徹してはいられないし、何よりも防御壁が限界を迎える。砂唯は、下唇を噛んでふと足元を見た。辺り一面は砂漠……つまり砂だ。砂属性戦士である彼女にとって、地の利はこちらにあるのは間違いない。だが、不思議と砂唯は余裕を持てなかった。もしかすると、目の前から今も尚攻撃し続けてくる魔女の姿をした少女が原因かもしれない、そう考えた。

と、その時、相手の攻撃の一つが砂唯の肩を掠った。


「うっく……!? 考えてたって始まんないっ! それに、考えるなんてわたしらしくないもん!!」


 なにやら自分に言い聞かせた砂唯は、意を決したように口を一文字に結ぶと、足元の砂に触れた。


【何をしようとしたって無駄よ!】


 杖を持っている方とは反対の手に火球を作り出したアンジェラは、妖しく双眸を輝かせてそれを放った。火球は徐々に速度を増しながら巨大化していき、砂唯との距離がほぼ数センチになった頃には直径10Mをゆうに超えていた。


――勝った!



 アンジェラは口元に笑みを浮かべてそう確信した。火球は煌々と眩い光を放ち、爆炎と凄まじい轟音を響かせて爆発……そうして数秒後、その場に巨大なクレーターが完成した。しかも、そのクレーターは真っ黒に焦げ、プスプスと黒煙を立ち上らせている。

が、問題はそれよりも別にあった。


【なっ――!? ど、どういうこと!? あ、あいつ……どこに消えたの!?】


 そう、砂属性戦士の砂唯が姿を消したのである。あの火球からそう簡単に逃れられるとは思えない。炎と砂で相性は少々微妙ではあるが、それはあくまで属性間の問題で、人間である以上炎で焼かれれば燃えてしまう。それなのに、焼死体の一つも無い。さすがにあの火力でも、灰燼とまでは化すまい。

と、アンジェラが周囲に警戒しつつ標的を探していた刹那――


ズボォッ!!


 アンジェラの足元の砂が盛り上がり、そこから何かが飛び出してきた。


【んなっ!?】


 大量の砂に紛れて姿を現したのは、先ほどから死体と化したと思われていた砂唯だった。


【な、何で死んでないのよ!!】


「あの火球はさすがにマズイと思ってね、直撃をくらう前に砂中に逃げさせてもらったよ。わたしはガローくんと会う約束をしてるの、だからここで死ぬわけにはいかないんだよ!!」


【そんなの知らないわよ! とにかく、あんたには何が何でも死んでもらうわ! くらえっ!!】


 そう言ってアンジェラは両手を前方に突き出した。そこから大量の火球が連弾となって発射される。


「わわわっ!?」


 砂唯は慌てて横に跳び前転をしてそれを躱した。彼女が先ほどまでいた場所に火球が集中攻撃し、衝撃で砂が舞い上がる。


「あ、危ないじゃない!」


【ふんっ! 今から死ぬあんたが、そんな事気にする必要ないわ! どんどん行くわよっ!!】


 ぺたんと座り込み両手を突いてアンジェラを睨む砂唯に、彼女は更に追い討ちをかけるように攻撃を繰り出した。

 風の渦が砂を舞い上がらせ、その砂が風に乗って砂唯を襲う。


「そうはいかないんだから!!」


 キッと眉を吊り上げた砂唯は、自分の周囲に砂の防御壁を作り出す。


【さっきから防御ばっかね! まともに攻撃も出来ないのかしら!!】


 挑発染みたセリフを吐き捨てるアンジェラ。だが、砂唯はそんな言葉には動じず、ひたすら防御に徹した。

そうして数分が過ぎ、ようやく攻撃が止んだ。

そこが逆転のチャンスだと思った砂唯は、すかさず片足で地面を蹴ってアンジェラに肉薄する。


「くらえぇええ!!」


 声を張り上げ、片手剣を横に薙ぐ砂唯。


【くっ!?】


 深手を負う事は防げたものの、アンジェラは腹部に少々切り傷を作る結果になった。

 ドクドクと傷口から鮮血が流れる。


【よ、よくも……このあたしが、あんたみたいなやつに……!】


「そ、そんな事言われたって、攻撃しないとわたしがやられちゃうんだから、仕方ないじゃん!!」


 砂唯の言い分は最もである。だが、どうにもアンジェラは気に入らなかった。


【こうなったら、何が何でも――】


 このままでは引き下がれないとばかりに、アンジェラは手元に火球を二、三個出現させる。

それを目にした砂唯は、そうはさせないと即座に砂の衝撃波を彼女の腹部に向かって放った。


【ぐっふ!?】


 攻撃は見事に命中し、アンジェラは目を見開いてその場に蹲った。


【あっ……んっく!!】


 鈍い痛みが腹部に走り、立ち上がれない。すると、近くで足音が聞こえた。砂唯がこちらに歩み寄ってきているらしい。


【……あんた、なんかに……負ける、だなんて……そんなの、そんなの絶対、認めないんだからっ!!】


 痛みで片目を瞑っているアンジェラは、顔中に汗をかき、よろめきながら立ち上がった。呼吸を乱し、辛そうにしているその様子に、敵とはいえ砂唯も罪悪感が多少なりとも芽生える。

と、相手の出方を窺っていると。


【覚えてなさい、砂属性戦士っ!! 次会う時は容赦しないわよ!!】


 あまりにも激痛にこれ以上の戦闘は難しいと考えたのだろう、アンジェラはホウキに跨ってはるか上空へと飛び立った。それをどうにか目で追っていた砂唯も、さすがに凄まじい速度でこの場から消失したアンジェラの行方は分からなかった。


「な、何だったんだろう……あの人。でも、間違いなく狙いはわたし……いや、伝説の戦士だった。でも、どうしてわたし達を?」


 狙われる理由がさっぱり分からない砂唯は、頭上にいくつもの疑問符を浮かべ、腕組をしてう~んと唸った。だが、考えても始まらない。これは、急いで皆に報告したほうがよさそうだと、砂唯は急いでこの場を後にした……。




――▽▲▽――




 ここは、エレゴグルドボト帝国の中でもフェイルーメニア王国に近い場所に存在する、トゥインクル・ギャラクシー天文台。

天文台というだけあって天体観測の装置は多く揃ってはいるが、ここはそれ以外の役目――灯台も担っている。というのも、ここは大陸の先端部……岬に位置する場所なのだ。そのため、天文台と灯台の二つの役目を担っている。まぁ、殆ど船など通らないため、天文台の役目の方が殆どだが。

そんなこの場所には、三人の人物が住み着いていた。伝説の戦士の一人で、希少属性の一つである星属性を持つ赤星慧、ドラゴンの姿に変身可能な龍竜族の双子、鱗堂俊龍、鱗堂聖龍である。

時刻はもう間もなく丑三つ時……。不気味な獣の声がどこからか聞こえてくる。恐らく、天文台の上の方の窓が開いているのだろう。窓の近くには、空を飛ぶ生き物が羽を休められるように、止まれる場所が作られている。元々は、外で作業が出来る様に作られた手すりなのだが。


「あれから鎧一族も大人しいね、兄さん」


「うむ、そうだな。まぁ、あれだけ我々の力を見せ付けてやったのだ。震え上がって、夜は一人で『生物の汚物を廃棄せし渦巻く神殿』にも行けぬのだろう」


 腕組しながらそう言った男性は、自分に良く似た顔の男性の方を向く。


「はは、かもしれないね。そう言えば、慧は?」


すると、もう一人の男性が小さく笑って慧の現在位置を尋ねた。

その問いに、腕組した男性は思い出した様に声をあげる。


「あぁ、赤星慧は奥で休んでいる。子供と一緒にな。全く、呑気なものだ。彼女達は何と言ったか……天使九階級だったか?」


「そうだよ?」


 少し自信なさそうに一つの組織名を口にすると、男性がコクリ頷いて正しい事を伝える。


「しかし、赤星慧も星の父か」


「大げさだなぁ、確かに星属性の持ち主ではあるけどね」


 双子の兄――俊龍の言葉に、弟――聖龍が苦笑する。


「何よりも不思議だったのは、あの『時空視認の占い師フューチャー・アウガー』と赤星慧が結婚した事だな」


「確かに、まさか未來さんが慧と結婚するとは思わなかったよ。それに、子供も産まれて……」


 何度も頷く俊龍に続いて、聖龍も自分の気持ちを口にする。


「確か名前は――」


星流(せる)君だよ」


 俊龍の言葉を遮り、先に聖龍が答えた。


「なかなか変わった名前だ……うむ、少し羨ましい」


 普通の名前とは少し異なっている事に対し、俊龍は口を尖らせて嫉妬した。


「今、何歳だったかな?」


「確か六歳だ。赤星慧が二十歳の時に産み出した子供らしいからな」


 腕組して天文台の天井を見上げながら俊龍が言う。


「産み出したって……それにしても、あの子は凄いよ。希少属性を二つとも持って産まれたんだから」


「そうだな、星属性と夢属性……う~む、羨ましい」


 聖龍の言葉を聴いて、俊龍は再び星流に嫉妬した。

と、その時、外から強めの風が吹き込んだ。その風は、俊龍と聖龍の髪の毛や服をなびかせる。


「……む? この感覚……」


「うん、兄さん。どうやら、客人が来るみたいだね」


「そんな予定は?」


「もちろん、ないね」


 少し嬉しそうに弟へ予定の確認をすると、同じく嬉しそうな表情をした弟が兄に返答した。


「……狙いは赤星慧か、それとも我等――聖俊の雙龍か……」


「どちらにせよ、この殺気は尋常じゃない。手加減は許されないよ」


「無論、手加減するつもりなど毛頭ないッ!! 我は常に全力だッ!!」


 握り拳を作り、俊龍はその片方の拳を手前に突き出した。

同時、ズドォォォォォォォン!! と、鈍い音が木霊し、地面を震わせる揺れが彼らを襲った。


「来たみたいだね……」


「気に入らんな、派手な登場は我にこそ相応しいというのに……」


 爆発音と地面の揺れ、舞い上がる土煙という演出に、またもや俊龍は嫉妬していた。

だが、それが油断だった。


ビュンッ!!


「――ッ!?」


 あまりにも唐突だった。俊龍の反射神経が少しでも悪ければ、今頃彼の命はなかったかもしれない。敵の鋭い剣の一突き。それを、龍竜族の鱗の鎧を自身の腕に纏わせる事でどうにか防いだ俊龍は、敵の剣の勢いに圧されて後方へずり下がった。


「に、兄さんッ!?」


「だ、大丈夫だ! それより、こいつに急いで追撃しろ!!」


「り、了解ッ!」


 俊龍の指示に、慌てて聖龍が追撃を繰り出した。が、その攻撃を、相手は自身の得物でいとも容易く斬り落としてみせた。


「こ、こいつ……一体!?」


 天文台の中は暗く、電気を点けなければ後は月明かりに頼るしかなくなる。さっさと電気を点けていればよかった話なのだが、都合悪く現在電気が届いていないらしいのだ。


「ちィッ! 聖龍、龍の咆哮だ!」


「了解ッ!」


 再び指示を出され、聖龍は急いで周囲に向かって龍の咆哮の連弾を繰り出した。小さな炎が、それぞれ勢いに乗って壁の装飾の燭台に火を灯し、周囲が大分明るくなる。

そして、ようやく敵のシルエットが見とれるようになった。


「お、女!?」


 俊龍は、敵の姿を一目見てそう判断した。その決め手となった大きな理由は、その髪の毛の長さである。腰、いやその下まであるのではないだろうかと思えるほど長い漆黒の髪の毛。

次に体格と格好だ。その服装はどことなく巫女族に似ており、顔には般若とも言えるような角のついた仮面を着けている。片手には長い長刀を握っており、逆手持ちで攻撃を繰り返していた。だが、逆手スタイルなのかと言うとそうでもないようで、状況によって持ち方を変えているようだ。


「誰なんだ貴様は!!」


【……】


 俊龍の問いに対し、敵はずっと無言を貫き通す。

そうして数十分が経過した頃だろうか、敵の動きに大分慣れてきた龍竜族の双子は、反撃を仕掛けようと一気に相手の近くに踏み込んだ。


「そこだッ!!」


 だが、それを見越していたのだろう。敵はスッと軽やかに俊龍の攻撃を躱すと、背後に回って背中を斬り付けた。


「ぐぁッ!?」


 鋭い一撃を貰い受けた俊龍は、苦悶の表情を浮かべながら一定の距離を取った。

と、相手に休む暇を与えないように、次いで聖龍が攻撃を仕掛ける。


「くらえッ!!」


 が、それさえも敵は軽く躱してしまう。敵の反撃の一手が聖龍の腹部へと伸びる。


「くッ!!」


 どうにかギリギリ防御が間に合い、聖龍は怪我する事無く敵との距離を取る事に成功した。だが、これで振り出しである。このままでは、ただただ体力が削られていくだけだ。何とか相手に一太刀を浴びせたい。そう思いはするのだが、いい考えが思い浮かばない。こういう時、仲間がいればまた状況が異なってくるのだろう。しかし、いきなりの奇襲で仲間はこの天文台に三人しかいない。その上、慧は奥の部屋で寝ている。


「こうなったら、二人でやるぞ!!」


「じゃあ、僕はこっちからッ!!」


 二対一で少し不公平ではあるものの、自信の命がかかっているのだ、自分は何が何でも勝たなければならない。

そう考えると、卑怯だなんて言葉はどうでもよくなった。聖龍は敵の前方から再び攻撃を仕掛けた。さらに、敵の背後からは俊龍が攻撃を仕掛けようとしている。

双子という、産まれ持った抜群の相性で同時に攻撃が繰り出され、その矛先は前後から敵へ。

これで逃げ道は左右か上方、最悪下方となる。だが、予想だにしない展開が起きる……。敵はあろうことか、その場から微動だにしなかったのである。無論、攻撃を防ぐ事もせずにただ呆然と立ち尽くしているのみ。攻撃は直撃した――かのように思われた。


「……そんな、馬鹿な」


「どう、なってるんだ……?」


 狼狽える龍竜族の二名。それも無理ない、直撃した攻撃。その威力は、全力と言えずともそれなりのパワーを持っていたはずだ。それなのに、相手は無傷でケロッとした様子で佇んでいるのだ。プライドを傷つけられたどころか、衝撃のあまりしばらく瞬きさえ忘れてしまう始末である。


【まさか……これで終わり?】


 期待外れと言わんばかりの言い方。俊龍は唇を噛み締めて拳を強く握り締めた。それこそ、爪が手のひらに食い込もうと気にしないほどに。


「くそ……まさか、我々の力が及ばんとは」


「どうする? このままじゃ……」


「むぅ……どうあってでも、我々を殺さずにはいられんようだしな。それに、このままでは赤星慧の命も危うい」


「それだけじゃないよ、ここには星流も……」


 俊龍と聖龍は、敵のあまりにもの強さに後退を始めていた。ジリジリと足を後ろに下げ、自分たちが今現在最低限守らなければならない存在を再確認する。

というわけで、みなさん約四ヶ月ぶり? です。学校やバイトで時間がほぼなくなってしまい、こんなにも更新が遅れるハメに(汗)

みなさん、内容覚えていますか? 自分も、執筆しながら前に書いたお話を振り返ってました。今回はエレゴグルドボト帝国の領域内にいる伝説の戦士及び関係者が襲撃を受けます。

果たして、今回は何人死んでしまうのか……キャラが多いと、こんなに死んでしまう人も多いのかと、改めて思ってしまう今日この頃。だったら、殺さなければいいじゃないかと思われるかもしれませんが、それはそれで話が進まないのでご了承下さい、救いの場面は一応用意してはいます。

それでは引き続き二部をお楽しみに。

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