表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/200

第八話「襲撃!伝説の戦士(中編)」・5

今回は過去あり、恋愛あり、バトルあり、グロありでお送りします。

「よしッ! このデカブツに、氷雪の義兄妹の力……見せ付けてやろうぜ!!」


「うん! 雪とお兄ちゃんのコンビネーションを見せつけよう!!」


 氷雨が拳を斜め上に突き上げると、雪羅も一拍遅れて拳を突き上げた。二人がえいえいおーという掛け声をあげると、フォロトゴスがその声に気づいてか、頭のネジを手動で二、三回回して口を開いた。


【やる気、認める。が、お前ら、オラに勝てない。オラ、冥霊族の中、最強の部類。負ける、ありえない!】


「オレ達は有属性者の中でも氷水系属性を持ってる。そして、氷水系属性は自然属性に分類され、自然の力を駆使する事でより強くなれる……。どういう事か分かるか?」


「この地は、雪達の多すぎる魔力が溢れ出すせいで、より極寒になっているの。ただでさえ有属性者の中でも魔力が多い方なのに、その上地の利がある雪達が、負ける訳ない!」


 氷雨が自分の背丈より長い太刀を顕現させ、雪羅が頭にボンボン付きニット帽を被り、両手に手袋をして構えた。


【ウゥ……地の利、オラに、関係ない。オラ、お前ら殺す、それだけ。が、ここ、寒くてオラ、力出しにくい。だから、もっと動く。体、温める!!】


 とても寒そうには見えないが、フォロトゴスは力が出ない事を寒さが原因だと言って片足を踏み込む。直後、二人のマイホームの氷の床に、放射状の亀裂が入った。


「くッ……そういやすっかり忘れてたが、お前……よくも人様の家に土足で踏み込んでくれたな。おまけに器物損壊……弁償しろよ?」


 顔にシワを寄せて怒り心頭の氷雨はそう言うが、フォロトゴス当人は、素知らぬ顔をして頬をポリポリとかくだけだ。


【ウゥ? お前ら、これから死ぬ。弁償する必要、ない】


「……あぁ? お前、ふざけてるのか? 人様の家荒らしといて責任も取らない……だと? ああそうか、お前には少し痛い目を見てもらう必要があるらしい。雪、準備はいいか?」


「うん、いつでもOKだよ?」


 氷雨の言葉に、雪羅が応える。それを聞いて、氷雨は太刀を振り回して片手を前方に突き出す。

 同時、周囲の冷気が氷雨の手元に収縮し、一気に放たれる。直後、フォロトゴスの周囲に氷の足場が形成される。


「行け、雪ッ!!」


 そう叫ぶと同時、雪羅が氷雨の隣を高速で過ぎ去る。氷の地面を疾駆する雪羅の足元を見やれば、銀色に光るブレードが靴底から飛び出ていた。そう、スケート靴だ。彼女はそれを用いて氷の地面を滑っていき、氷雨が形成した氷の足場を使ってフォロトゴスの周囲を滑る。


【ちょこまか、こざかしいッ!!】


 雪羅の素早い動きに目が追いつかなくなったのか、フォロトゴスが怒りに身を任せて豪腕を横に薙ぐ。


「うわっ!?」


 ギリギリ躱せたものの、危うく直撃する所だった。それほどまでに、敵の攻撃は力強く、それでいて(はや)かったのだ。


【お前ら、少し調子、乗りすぎた。後悔、させる!】


 そう言うと、ややしゃくれさせた顎を引き、鼻息を荒くしながら拳に力を込めた。それから、周囲を滑る雪羅に視線を合わせる。

 瞬間、フォロトゴスが唸った。


【フゥンッ!!】


「あぐっ!?」


 今までよりも早い挙動で、フォロトゴスが雪羅の体を鷲掴みにする。両腕を体躯ごと掴まれてしまったため、雪羅は身じろぎするだけで抵抗が出来ない。おまけに、動こうともがけばもがく程、グググッ! と、フォロトゴスの大きな手に力が加えられる。


「ぐはぁ……っ!」


 体内からこみ上げてきたものを吐き出し、雪羅が口の端から血を流す。


「くっ!?」


 このままだと握り潰される。そう思った雪羅は、咄嗟の判断で自分の周囲に分厚い雪の防壁を作り出した。これで幾らか痛みが軽減される。その間に脱出を試みるが、やはりその隙はなさそうだ。

 と、雪羅がようやく余裕が出たために今頃になって気づいた。そう、大事な妹が敵に捕まった瞬間から、兄の氷雨が攻撃を繰り出して救出を試みてくれていたのである。

長い太刀を振り回し攻撃したり、もう片方の手を地面について遠距離から氷の衝撃波を繰り出したり。が、どれもフォロトゴスの致命傷には程遠く、軽く()なされていた。実に歯がゆい。どの攻撃も、敵には蝿や蚊が飛び回っているくらいにしか思わないのだろう。

 どうにかして雪羅を助け出さなければ、下手をすると殺されてしまう。それだけは嫌だった。またしても、自分のミスで失いかけるのは嫌なのだ。おまけに雪羅には一度守ってもらった借りがあった。彼女自身は拾ってくれた恩義からなどと仄めかしていたが、氷雨には関係なかった。あれは助けた……自分の場合は、守ってもらったのだ。ならば、今度は自分も守らなければならない……大切な、かけがえのない雪羅(いもうと)を!


【ウゥ? 雰囲気、変わった。何か、来る……】


 長年の経験からか、フォロトゴスが氷雨から放たれる気か何かを感じ取った。少し警戒心を強め、どこから攻撃されてもいいように身構える。その片手では、未だにここから脱出しようと雪羅が奮闘しているが、フォロトゴスからしてみれば、それは徒労に等しかった。無駄に魔力を使って枯渇するのがオチだ。

しかし、雪羅は先程自分は常人よりも魔力が多いと口にしていた。ならば、少しは長く抵抗を続けるかもしれない。けれど、それでもフォロトゴスの手から逃れる術はない。雪羅が作り出した雪の防壁の冷気が、フォロトゴスの手に(じか)に冷たさを感じさせるものの、痛くも痒くも感じない。人造人間(フランケンシュタイン)である彼にとって、痛みは縁遠い物だった。ふと蘇る創造されたばかりの記憶。殆ど断片的で、この肉体と同じく継ぎ接ぎの記憶。そこに映るのは、幾人もの白衣を纏った人間。

 と、ふと我に返る。目の前には魔力を高めているのか、太刀を抜刀せずに構えたまま動かない氷雨の姿がある。


【来ない? ならば、オラ、攻撃する!!】


 そう言ってフォロトゴスが片足を踏み込み動く。

 一方の氷雨も準備が整ったようで、太刀を斜めに薙ぐように振るい、声を張り上げて駆け出した。両者がそれぞれ気迫を放って攻撃を仕掛ける。

フォロトゴスが大きな拳を、氷雨が太刀とは逆の手を大きく開いて突き出す。

瞬間、衝撃波が粉雪と共に周囲に風を作り出した。


【――ッ!?】


 信じられない光景を目の当たりにしたフォロトゴスは、目を見開き絶句した。逆に氷雨は鼻高々という様に顔を綻ばせる。


「どうだ? ご自慢の拳が止められた気分は?」


【ありえない。ウゥ……オラ、力、最強。受け止める、驚愕! 何した?】


 そう尋ねるフォロトゴスに、氷雨は口元に笑みを浮かべて言った。


「なぁに、力自慢はお前だけじゃないって――ことさッ!!」


 一旦言葉を区切り、残りの言葉を裂帛の気合と共に口にする。同時、氷雨が手に力を込める。すると、受け止めていたフォロトゴスの拳から冷気が発せられて一気に凍りつく。


【ウゥ!? なッ……! オラの、手が……】


 別段激痛が走ったという訳ではないが、手が凍りついた事に驚愕の表情を浮かべるフォロトゴス。


「どうだ? このままその腕氷付けにしてやる!!」


 さらに力を込める氷雨。すると、フォロトゴスの拳から手首を経由して肘付近までが凍り付いていく。


【ウゥ……ぐゥ!? オラの腕……が】


 あまりにもの冷たさに筋肉が萎縮し、フォロトゴスの動きが徐々に鈍りだす。ここが好機とばかりに氷雨は太刀を振り回し、雪羅を鷲掴みにしている方の手首に向かって振り落とす。


ドスッ!


 やや乾いた様な音が響き渡る。痛みは感じなかったが、神経が少し痺れたのか、思わず雪羅を放してしまう。


【ぐッ!!】


 せっかくの獲物を逃してしまい、フォロトゴスが渋面を作った。しかし、すぐに無表情になると、己の凍りついた腕に視線を落として目を見開いた。刹那――、その褐色肌に浮かぶ筋肉がさらに不気味に膨れ上がり、凍り付いていた氷が砕け散った。

やや凍傷で変色した拳を見下ろし、軽く手を握ったり開いたりを繰り返す。そうして問題はないと判断したのか、フォロトゴスはゆっくりと目だけを氷雨と雪羅に向けてきた。


「ちッ、てんで効いてないな……。大丈夫か、雪?」


 ちっとも攻撃が効いていない事に対し舌打ちした氷雨は、それからすぐさま、隣で呼吸を乱す雪羅の容態を確認する。やや疲れてはいるものの、魔力が底を尽きた様子はない。まだ戦えるだろう。しかし、あまり無理はさせたくないのが氷雨の本音だ。


「うん! まだ戦えるよ!!」


 やはり雪羅はやる気満々だ。これ以上辛い目に遭わせたくはない。なんとしてでも、自分だけで敵を返り討ちにするか倒さなければ!

そう意気込んだ氷雨は、太刀を握る手の力を強め、フォロトゴスと鋭い視線を交わした。


【……ウォーミングアップ、まだ足りない。が、時間、ない。そろそろ、ケリ……つけるッ!!】


 首をゴキゴキと鳴らしたフォロトゴスは、両手を組んで腕を振り上げると、鼻息を荒くして一気に振り落とした。

大きな拳が氷の地面に叩きつけられると、一気に衝撃波が扇状に広がって氷を粉砕しながら氷雪の義兄妹を襲った。


「くッ、危ないッ!!」


 氷雨は、ギリと奥歯を噛み締めて隣にいた雪羅を小脇に抱えると、氷の足場を形成して氷の屋内から脱出した。同時、雪羅の名前を叫んだ。


「あの家に雪だるまを落とせッ!!」


「え!? で、でも……雪達の家が……」


 雪羅としては、思い出深いあの場所を壊すのは反対だった。しかし、他に妙案があるかと言えばない訳で、仕方なしに兄の言う事を聞かざるを得なかった。

名残惜しそうな表情を浮かべた雪羅は、氷雨から離れてブレードを凍った地面につけ、見事に着地する。それから雪羅は、先ほどからずっと口に咥えていた棒付きキャンディーを一旦口内から外し、もう片方の手でペットボトルを持ち、ゴクゴクと中の液体を飲み干す。

それから周囲の冷気を一気に吸い込む。そして頬をハムスターの様にパンパンに膨らませると、息の続く限り曇天に向かって冷気を放出した。


「お兄ちゃん、ホントにいいの?」


「いいから早くしろッ!!」


 氷雨の事だ。恐らく、まだ屋内にいるであろうフォロトゴスを、雪だるまと氷の家の下敷きにしてしまおうという算段なのだろう。

しかし、そう上手くいくものだろうか? そんな不安が、雪羅の体にのしかかる。が、四の五の言ってる暇はない。

雪羅は意を決して両手を組み合わせて瞑目すると、片膝を地面につくのに合わせて両手を地面についた。

刹那――。


ゴゴゴォ……!!


 轟音を響かせながら暗雲の中から現れる巨大な物体。それは、雪だるまだった。


「いっけぇー!!」


 片手を突き上げ、声を張り上げてエールを送る雪羅。あの大きさならば、さしものフォロトゴスといえどひとたまりもあるまいと、氷雨も歓喜の表情を浮かべる。


ズゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!


 UTサミット全体が、まるで地震にでも見舞われたかのように震撼する。氷雨と雪羅もその大きな揺れに、バランスを崩しそうになる。

 そして、あの巨大な雪だるまはというと、粉雪と煙を舞い上がらせながら氷雪の義兄妹の家屋を押し潰していた。


「ああぅ……雪達のおうちがぁ~」


 目尻に涙を浮かべた雪羅が、片手を震わせながらおずおずと伸ばす。


「危ないッ!!」


 突然、氷雨が雪羅を後ろに引っ張って抱き締める。そのまま勢いが働き、二人はその場に倒れコロコロと回転する。


「え、お、お兄ちゃん!?」


 いきなり抱きつかれたため、雪羅は不意を突かれて鬼灯のように頬を真っ赤にする。が、別段氷雨が理性を失い、義理とは言え妹である雪羅に手を出した訳ではない。理由はもっと別にあった。

雪羅が目を丸くして抱き締められていたその直後、何かが破裂するような大きな音が木霊した。


「な、何っ!?」


 音がしたのがちょうど雪羅の背中側だったため、そちらに顔が向けられない。恐らく、氷雨にはその現状が映っているのだろう。現に、少し顔を上にあげて兄の顔を見てみる。相変わらず、ムスッとした一匹狼然とした雰囲気漂う顔つきだ。それにも拘らず、顔立ちはそこそこ整っていて、既に子供も持っている。立派にその遺伝子を受け継いだその子供も、もう十六くらいにはなるだろう。それにしても、どうして氷雨はあの人と結婚したのだろう、雪羅は兄の顔に見とれながらふとそんな事を思った。


「嘘……だろ」


 驚愕と戦慄に表情を険しくさせながら、氷雨はぼそりとそう口にする。


「どうしたの、お兄ちゃん?」


 氷雨の畏怖して震えた声に、思わず雪羅も臆する。


「あの男……化物だ」


 いつになく、氷雨がビクビクしている。未だ嘗てこんな兄の情けない顔は見た事がない。それほどまでに、今彼の目の前には驚愕せざるを得ない光景が展開されているのだろうか?

 見てみたい。そんな好奇心にも似た感情が芽生えた雪羅は、怯えつつもそちらに目を向けてみた。

そこには、信じられない光景が広がっていた。雪だるまは半壊し、潰れた家屋の残骸の中心に、ゆらりと立っている巨漢の姿があった。その体表からは凄まじい闘気が溢れており、獰猛な捕食者の出で立ちに見えなくもない。周囲の氷の地面には、家屋に使われていた氷の柱などが突き刺さり、凄惨な現場を物語っていた。恐らく、先ほどの大きな音は、フォロトゴスが下敷きになった際、上に乗っかっていた物を周囲に弾き飛ばした音だったのだろう。


「……あれでも、倒れないの?」


 信じられない。これが人造人間(フランケンシュタイン)の恐ろしさか。十中八九、あの男が人間でない事は間違いないのだが、問題はその倒す術がない事にあった。敵の弱点も何も分からない以上、どうにかして逃げ(おお)せるしかない。けれど、敵のあの様子では難しいだろう。

 どうしたものか……。と、二人が悩んでいると、フォロトゴスが先手を打った。


【ウォーミングアップ、終了ッ!! オラの本気、見せるッ!!】


 そう言って振り上げた片方の拳を、勢い良く地面に叩き付けた。常人ならば、拳の方が悲鳴をあげるだろうが、彼の場合は逆だ。氷の地面が悲鳴をあげてビキビキッ! と亀裂を入れ、巨大なクレバスを形成した。ちょうど二人の間を割くように地面が割れたため、氷雨と雪羅は分断されてしまった。


「雪、大丈夫か?」


「うん!」


「今そっちに向かうからな!!」


 氷の足場を作って向こう岸に渡ろうと試みる氷雨だが、それを良しとしない者が邪魔をしてきた。


【フゥンッ!!】


「ぐぁッ!?」


 背後からの一撃を受け、氷雨は後方5mまで吹っ飛ばされてしまった。硬い氷の地面に強かに腰を打ちつけた氷雨は、苦悶に顔を歪ませながらその場に立ち上がろうとする。

と、その寸前でフォロトゴスが動いた。


【死ねッ!!】


 目を見開き、大きな拳で氷雨の頭を握り潰そうとするフォロトゴス。その動きを予感してか、氷雨は咄嗟に自分の周囲に円形の氷の防御結界を展開する。それがちょうどフォロトゴスの五指から氷雨の体を守った。


「お、お兄ちゃんっ!?」


 迫る兄のピンチ。このままでは遅かれ早かれ氷の防御結界を突破されて氷雨の体がペシャンコになってしまう。それだけは阻止せねばならない。だが、向こうに渡るには足場がいる。残念な事に、雪羅の属性は雪で、足場を作るには雪では難しかった。 

水系統の属性は、大きく分けて氷水系属性。細かく分けると、氷雪系属性と、水霧系属性とに分けられる。二人は氷雪系属性に分けられ、氷雨は水を凍らせたり氷の地面の力を借りて氷の足場を作る事に特化しており、雪羅は水分を補給し、口腔内に冷気を溜めて一気に放出する事で人為的に雪を降らせたり、圧縮した雪によって作られた巨大雪だるまを操作する事に長けていた。混合属性所持性者(ミックス)の場合、氷属性と雪属性の両方を持っている場合があり、その場合の力量は尋常ではない程跳ね上がるそうだ。

ただし、氷雨と雪羅――氷雪の義兄妹もまた、変わらぬ力量を誇っている。それは、二人の成しえる息の合ったコンビネーションだ。互いの不足部分を補い合い、助け合う事で危機を乗りこなしてきたのだ。


「助けなきゃ……でも、どうやって? ……このままじゃ、お兄ちゃんが死んじゃう!!」


 どうにか氷雨を助けられないものかと考えを模索するが、なかなかいい考えが出てこない。と、そこで、自分には飛び道具がある事を思い出した。


「今までの攻撃から見ても、とても効果は期待出来ないけど……やるだけの意味はある!」


 小さくガッツポーズした雪羅は、こくり頷き片手を真っ直ぐ突き出して構えた。腕の部分についた照準を覗き、大きな標的の拳部分に合わせる。


「よし、これで大丈夫! くらえっ!!」


 片目を瞑り照準の最終調整を行うと、掛け声と共に雪羅が腕に取り付けた武器から雪玉を銃弾のように発射した。それらは勢い良く飛んで行き、クレバスの上を通ってフォロトゴスの拳に直撃した。


【ウゥ?】


 まるで雪合戦で雪球をぶつけられた感覚を感じているだろう。そもそも彼がそれを知っているかは別として、フォロトゴスはギロリと雪羅の方に視線を向ける。


「ひっ!?」


 無論注意をこちらに引き付ければ、最悪の場合自分が標的になる。雪羅自身、それを覚悟しているつもりだったが、改めてその恐怖に臆してしまう。


【小娘……調子、乗りすぎ。一度、痛い目見るべきッ!!】


 そう言うと、氷雨の氷の防御結界から手を放し、ゴリラのドラミングの様に胸をリズミカルに叩いた。それから両手をパーにして、バンバンッ! と氷の地面を叩く。直後、猪が猪突猛進する直前に行う動作をしてから、四足動物の様な走りでクレバスの方へ――正確には、雪羅のいる向こう岸に向かってダッシュする。

 そして――。


 ダッ!!


 片足で勢い良くクレバスの縁を蹴り、フォロトゴスが跳躍した。スピード、ジャンプ力、どれも抜きん出ていて、確実に向こう岸に渡れる事必至だった。このままでは、雪羅の命が危ない。無論、それを許すはずがない。

彼――氷雨は、氷の防御結界を解くと同時、太刀の鞘となっている氷を融解させ、切っ先を氷の地面に触れさせた。それから左から右にかけて体を捻る。そしてダンッ! と切れ込みを入れた氷の端部分を強く踏むと、反動で氷の反対側が浮き上がった。それをご自慢の氷魔法によって作った氷柱で宙に飛ばし、美しい太刀捌きで、切り刻む。完成したのは、四、五本の氷剣だった。


「く・ら・えぇーーーーーーッ!!!!」


 跳躍するフォロトゴス目掛けて氷剣を一蹴する。結界を解いてからここまでの行動を、一度も休むことなく軽やかに成し遂げた氷雨。まさに熟練の動きといえる。

一蹴された氷剣は、各々一直線に飛んで行き、フォロトゴスの両肩、背中、両腕に突き刺さった。


【ウグゥ!?】


これにより勢いが衰えたか、はたまた体勢を崩してしまったか、彼はそのまま背中側からクレバスの谷間へと真っ逆さまに落下していった。

 まだ倒せたとは思えない。だが、ある程度時間稼ぎは出来るはずだ。先ほどの一連の動きで体力を殆ど使い果たしたらしく、氷雨はすっかり息があがって呼吸を乱していた。

それでも、妹の雪羅の元へ戻らなければならないという、使命感にも似た何かが彼を動かしているようで、氷雨はその場に氷の足場を作り、クレバスにキラキラ光る氷の橋を完成させた。


「雪ぃッ!!」


 枯れんばかりに妹の名前を叫び、氷雨が向こう岸に着地する。同時、限界が近づいたか、氷雨は片膝をついて太刀を杖代わりに体をなんとか支えた。


「お兄ちゃん!」


 雪羅が目に涙を浮かべてひしっと抱きついてくる。氷雨は辛そうにしながらも妹の頭を優しく撫でてやった。


「……早く逃げよ!!」


 面を上げ、瞳を潤ませながら氷雨にそう催促する。が、氷雨は悔しそうに歯噛みして言った。


「くッ……悪い、雪。どうやら、体が限界みたいでな。さっきから足が言う事を聞かない。あいつはすぐに上ってくるはずだ。あのしつこさだからな……」


「じゃあ、尚の事急がなきゃ! あっ、あそこに隠れよ?」


 そう言って雪羅が指を指す。そこは、自分達の家の残骸で出来た、身を隠すにはもってこいの場所だった。


「歩ける、お兄ちゃん?」


「ハァ……ハァ、ああ、なんとか……な」


 片足を引きずりつつ、氷雨は太刀と雪羅の助けを借りながら目的地にたどり着く。壁に背を預け、ずるずると滑るようにして地面に腰を落とす氷雨。その様子を、雪羅は悲しそうに見つめていた。


「助け、呼ばなくちゃ!」


「ムリだ……この周囲に人はいない。呼ぶにしても、山を降りなきゃならない。今ここを動けばあいつに見つかる可能性がある」


「そんな……」


 氷雨の言葉に、雪羅は絶望にも似た表情を浮かべ、その場に座り込んで顔を俯かせた。


「……こんな時に、こんな質問するのもおかしい気がするけど」


「?」


 突然雪羅が顔を伏せたまま何かを口にする。氷雨は疑問符を浮かべて妹の言葉を待った。


「……どうして、あの人と結婚したの?」


「雪……」


 どうやら質問の意図が理解出来たのだろう。氷雨は辛い顔を浮かべた上に困惑し、口ごもった。


「答えて……お兄ちゃん。お兄ちゃんは知ってるんでしょ? 雪の気持ち……」


「……ああ、知ってるさ。だからこそ、この手段を選ばざるを得なかった」


「何で!? 雪は、お兄ちゃんの事が……本当に、本当に――」


「雪ッ!! それ以上は口にしたらダメだ。その一線は、越えちゃならない」


「そんな……でも、雪とお兄ちゃんは血が繋がってないんだよ? 同じ血を持つ者同士の間に産まれた子は、血が濃くなり、万一有属性者として産まれた場合、とんでもない(わざわい)をもたらすからって、禁忌(タブー)とされていた。それなら、血の繋がってない義理の兄妹なら許されるよね?」


 必死に、必死に自身の思いを吐露する雪羅。その目からは涙が伝って凍っていた。


「雪……」


「お兄ちゃん……何で? 雪、おかしいの。どれだけ力を使って魔力を使う度に冷たくても、ここだけはずっと熱くて苦しいの」


 己の胸に手を添え、ギュッと服を掴む雪羅。


「すまない」


「――っ!」


 氷雨が目を伏せて謝った刹那――雪羅はたまらなくなって兄の体に抱きついた。胸元に顔を埋め、いやいやと首を左右に振って服を握る。


「……お前の、雪のためだったんだ」


 そう言う氷雨の言葉に、雪羅は驚愕の表情を浮かべてバッと顔を上げた。


「今から十六年前のある日、俺は一人の男に呼び出された。そいつは同じ有属性者でな、雨属性を持ってたんだ」


ドォンッ!!


 遠くから、爆発音が轟く。


「どうやら、あんまり時間は残されてないみたいだな。あの日、俺はその雨属性の男に告白されたんだ」


「え!?」


 信じられない一言に、雪羅は顔を赤らめて口元を手で覆った。


「言っておくが、そういう意味じゃないぞ? 告白ってのは、雪へだ」


「どういう……事?」


 不思議そうに片眉をあげて首を傾げる雪羅に、氷雨は空を見上げて言った。


「……お前の事が好きだったんだそうだ。以前、ここにレイニー・ヴィレッジのやつらが来ただろ? あの時、雪とすれ違って一目ぼれしたらしい」


「あの時の来訪目的って、確か……」


「ああ、混合属性所持性者(ミックス)の研究だ。希少(レア)属性である雪と雨は、特に価値が高いそうでな……。レイニー・ヴィレッジの何人かがクロノスと繋がってて、調査を依頼されたそうだ。で、そこに白羽の矢が立った。そう……雪、お前だ」


「――っ!?」


 信じられない話の連続で、雪羅は絶句するしかなかった。要は、希少(レア)属性を持つ者同士の遺伝子を掛け合わせることで、希少(レア)属性を二つも持った有属性者を生み出したかったのだろう。冗談じゃない、自分達は実験動物(モルモット)ではないのだから。

氷雨は続ける。


「その雨の男も候補者に選ばれてたらしく、大喜びだったさ。雪と結婚出来るってな……」


「そんな! 雪、そんな話聞いてないっ!!」


「そりゃそうだろ。あいつらは雪の了承なしに実験を行おうとしてたんだからな。そして、事件は起こった……いや、起こりかけたと言ったところか。あのクソ野郎が、雪を襲おうとした」


「え――」


 驚愕、その一言に尽きた。ゾッと背筋が凍りつき、雪羅は我が身を抱き締めるように肩を抱き、数歩下がった。


「信じられないだろ? ああ、無論ブチぎれたさ……」


「その人、どうなったの?」


「そうだな……四肢を氷付けにして粉砕した後、身動きできない所を細い氷の槍で串刺しって所だな」


 まるで殺人鬼の形相で氷雨が笑む。その表情に思わず体が竦んでしまう雪羅だったが、不思議とそこまで恐怖はなかった。どちらかといえば、その正体不明の男に貞操を奪われそうになった事の方が恐怖だった。本当に、氷雨がいなかったらどうなっていたかと、心底安堵のため息をつく。


「でも、それがお兄ちゃんの結婚とどう繋がるの?」


「……やつらは超絶怒っていたさ。実験対象者を殺すなんて信じられないってな。オレとしてはお前らの頭の方が信じられないって感じでさ。荒れ狂うその場を収めたのが、あいつ――靄花だった」


 ようやく出たその名前に、思わず雪羅は片眉をひくつかせる。兄――氷雨の結婚相手、即ち妻となった人物。それがレイニー・ヴィレッジを治める潤木靄花だった。


「あいつの言葉には、オレも驚きを禁じえなかった。何せ、長自ら実験対象者になるって進み出たんだからな。で、その相手がオレだったって訳だ」


「お兄ちゃん、何で引き受けたの? 利用されるだけだったのに……」


「当たり前じゃないか。あいつら、なんて言ったと思う? 氷属性なんて希少価値でもない属性と雨属性を持つ子供なんて、不要だとよ。その上、極めつけはこれだ――」


 そう言って一旦言葉を区切り、息を吸い込む氷雨。外では、未だ崩壊音が轟いていた。恐らく、時期ここも見つかるだろう。


「――自分達が雪ちゃんの相手をしてあげましょうか? ……だとよ。ハハ、笑っちまうよな? いーや、笑えるかよ……ふざけるなよ? 候補者にすら選ばれてない雑魚が、オレの妹に、オレの雪に手を触れる? おまけに、オレだけが呼ぶ事を許された愛称を口にするなんて。……(はらわた)が煮えくり返る思いだったさ。けど、靄花がそれを制止した。結局、オレ達は雪を守るために結婚する事になった。まぁ、結婚なんてただの上辺だけの作り物さ。ありゃただの結婚(じっけん)……だからな。そして、靄花に子供が出来た……で、産まれたのが――」


ドォンッ!!


 一際大きな破壊音。凄く近い。もう既に、目前まで迫っているようだ。


「くッ……かいつまんで説明するつもりが、ムキになって長話しちまっ――」


ちゅっ。


 あまりにも不意打ちすぎた。


「~~ッ!?」


 驚愕と興奮に、氷雨は顔を真っ赤にして手の甲を口に当てた。


「ば――雪、何して……!?」


「ありがと、お兄ちゃん。雪を……悪い大人から守ってくれてたんだね。それなのに、……ずっと恨んでた。靄花さんを憎んで、嫉妬してた。守ってくれてたのに……雪、悪い子だよ」


「そんな事ないさ。オレが今まで黙ってたのが悪かったんだ。雪を悲しませたくなかった。そんな危ない目に遭いかけてたなんて知らせたくなかったんだ。雪には楽しい思い出、嬉しい思い出だけで……辛い思い出なんて」


「ううん、雪にはね……辛い思い出もあっていいんだよ。それに、そっちの記憶の方が雪は嬉しい」


「何でだ?」


 普通ならば、こんなマイナスの記憶を覚えていたいとは思わないだろう。それなのに、どこか雪羅は嬉しげで、目に浮かぶ涙を人差し指で拭っている。


「……雪が置いていかれた時も、襲われそうになった時も、お兄ちゃんは必ず雪を助けてくれた。それが、雪には嬉しい記憶として残るんだよ」


 その言葉が、どれだけ氷雨に響いたことだろう。思わずその瞳から、熱い物が伝う。


「お、お兄ちゃんどうして泣いてるの!?」


「いや……なんでも、ないさ」


「ふふっ、……お兄ちゃん、確かめても、いい?」


 アヒル座りして太腿の間に両手を突いた雪羅が、上目遣いでそう尋ねる。


「ああ、……今も昔も、オレの気持ちは揺るがない、氷の様に硬いんだ!」


「でも……熱いアプローチを受け続ければ、その硬い氷も、じゅわぁって溶けちゃうかもよ?」


 そう言いながら、雪羅が四つんばいの体勢で氷雨ににじり寄る。


「な――」


「うふふ、その時は雪の冷たい息吹でもう一回冷やしてあげる♪」


 そう言うと、ずっと舐めて小さくなった棒つきキャンディーを

口に咥え、歯と指を上手く使って棒だけを引き抜いた。


「ん? 何してるんだ?」


「ふふっ、あ・ぷ・ろ・ぉ・ち♪」


 こんな艶かしい大人びた妖しい目つきなど、見たことがなかった氷雨は、雪羅の雰囲気に()てられたのか、少しドキッとしながら後頭部を氷壁にくっつけた。


「逃げられないよ、お兄ちゃん」


 不敵に笑んだ雪羅は、飴玉を舌先に乗っけたまま、氷雨の口元へ運んでいく。


「雪……何をして――むぐッ!?」


 喋る事を許さぬというように、雪羅が氷雨の口内を飴玉と共に蹂躙する。そして、舌を抜き取ると氷雨の舌の上に違和感が残った。


「こ、これって……」


「そ、雪の飴玉だよ? 覚えてる? お兄ちゃんが雪を拾ってくれたあの日、雪にお菓子をくれたよね? 雪はお菓子より大事だから、大事なもののためにお菓子をあげるって。だから、お返し……雪の大事な飴玉、あげる。だから……絶対、生き残ろう!!」


 にっこり小首を傾げながら笑みを浮かべた雪羅は、氷雨を奮い立たせるようにそう言った。


「そうだよな……雪からもらった大事な飴玉だ、死んでも落とさないッ!!」


 そう言って氷雨は口を小さく窄めて周囲の冷気を吸い込んだ。

刹那――氷雨が背中を預けていた氷壁から離れると同時、深い亀裂が入って氷壁が崩壊した。舞い上がる煙の中に映る黒いシルエット。それは、人造人間(フォロトゴス)の物だった。


【ウゥ……やってくれたな、伝説の、戦士ッ!!】


 怒気を含んだ低い声音。響き渡るその重低音に、氷雨と雪羅は身構えた。


「お前こそ、しつこいにも程がある。いい加減諦めて帰れ!!」


「そうだよ、帰って!!」


 氷雨と雪羅がキッとフォロトゴスを睨めつけ叫ぶ。が、フォロトゴスは依然としてその場から動く気配すら見せない。

 しかし、戦おうにも既に体力が限界を迎えている。先ほど立てたのは、恐らく雪羅の激励が働いたのだろう。だが、氷雨は一つだけ成し遂げなければならない事があった。例え、刺し違えたとしても、やらなければならない。


「……くッ、雪。一つ、頼みたい事があるんだが、いいか?」


「うん! お兄ちゃんの頼みなら、何でも聞くよ!」


 顔の近くでガッツポーズし、何でも来いとばかりに気合を込める雪羅。この様子からして、雪羅には十分な体力が残っていると見て取れる。これならば任せても大丈夫だろうと、氷雨は踏んだ。


「これを、あいつに渡してくれ……」


「え――。でも、これがなかったら、お兄ちゃんどうやって戦うの?」


 氷雨から受け取ったのは、先ほどまで彼が使っていた長い太刀だった。


「オレには氷形成の力があるから心配するな。あいつも十分成長したはずだ。月牙の所で幾らか鍛えてもらったはずだしな。これを使いこなせるのはあいつくらいしかいない。まだ、あいつには秘められた力がある。これがそれを目覚めさせるいい引き金(トリガー)になってくれれば幸いだ」


 まるで遺言の様な言い草に、雪羅は嫌な予感がした。


「な、何言ってるのお兄ちゃん? 一緒に逃げるんだよね?」


「悪いな、雪。どうやら、限界みたいでな。さっきも言ったが、ここから殆ど動けないんだ。だが、お前は行ける。それを持って月牙の所まで逃げろ……そして、それをオレ達の娘に渡すんだ」


【何をゴチャゴチャと――】


「うっせぇ、少し黙ってろッ!! はぁ、はぁ……」


 フォロトゴスが割り込んできたので、氷雨はこれでもかというほど大きな声を張り上げて相手を黙らせた。


「やれるな……雪?」


「ムリ……ムリだよ、そんなの。雪一人じゃ、こんな大役……引き受けるなんて――」


「雪ッ!! 言ったよな? 何でも聞くって……これはオレからの一生の頼みだ。聞いてくれないと化けて出るぞ?」


 既に死んだ後の話をする氷雨に、やはりそうなんだと嫌でも分からされた雪羅は、ツゥーと涙を流して口を噤んだ。


「ホント、カッコ悪いところばっかりだな……ゴメンな、雪? カッコいい兄ちゃんを見せれなくて」


「そんな事……! そんな事ないよ!! お兄ちゃんはすっごくカッコいいよ! 惚れちゃう! 惚れ過ぎて、大好き過ぎて、心が苦しいよっ!! お願いだから、一緒に逃げて!! お兄ちゃんっ!!」


 両手を胸に添え、必死に氷雨を説得しようとする雪羅。そんな妹の姿に、酷く氷雨の心が痛んだ。


「……くッ、頼むから……これ以上苦しめないでくれ。もう嫌なんだよッ!!!!」


 ギリと奥歯を噛み締め、目から涙を流して氷雨が叫んだ。


「……あんな思い、嫌なんだ。雪が擬似太陽で死にかけた時、神力の暴走を起こした妖燕の業火に()かれた時、どっちも死ぬ程痛かった。心が……頭がどうにかなりそうだった。もう二度と体感したくない……こんな、こんなダメ兄貴のワガママ……最期でいいから、聞いてくれないか? 頼む……雪羅」


「――っ!?」


 その最期の一言に、雪羅は衝撃を受けた。拾ってくれたあの日、あの時名前をつける時に呼ばれて以来、名前で呼ばれたのは初めてだった。とどのつまり、今まで愛称で呼ばれ続けていたのだ。それがここに来ての名前。それが何を意味するのか分からない。けれど、少し……いや、氷雨との距離が物凄く離れたように感じられた。


「……必ず、助けを呼んでくるからっ!!」


 耐え切れなくなった雪羅は、下唇を噛み締め踵を返して駆けた。

助けなんて間に合わない。そんな事は、氷雨はもちろん言った当人の雪羅も分かっていただろう。しかし、言わずにはいられなかった。死んでほしくない、その気持ちがあんな事を言わせたのだろう。

 氷雨は顔をどうにか後ろに回し、視界の端に雪羅の後姿を捉えた。その背中は、とても哀しげで氷雨の心は押し潰されそうだった。

 ふと口元に手を添える。まだ少し、冷たい。が、心と口内にはまだその存在が確かに残っている。固まった飴玉から溶けた甘い味が舌全体に伝わる。


「ああ、そうだな……雪。お前の無事が見届けられなかったのが少し残念だが、その成長っぷりはきちんと確認したから安心しろ。それに、置き土産も残してきた……上手く行けば、雪も喜ぶだろう」


 そう言って、氷雨は全てを諦めたような顔をしつつ、フォロトゴスを見上げた。とても大きな男だ。凄まじい闘気を纏うその姿は、どこか武道家然としている。


【終わり、だッ!!】


 短く言葉を切り、フォロトゴスが振り上げていた拳を組んで振り下ろす。


「子供の顔が……見たかったな」


 ボソリ意味深な言葉を残し、氷雨は瞑目した。瞬間――。


ドグシャッ!!


 グロテスクな効果音が周囲に響き渡り、血しぶきがあちらこちらに飛散する。その一部がフォロトゴスの拳と顔面を汚すが、彼は大して気にも留めてない様子で拳をあげた。そこには、真っ赤な血の海と骨の破片、ばらばらになった臓物が散らばっていた。原型を留めぬその姿はまさに凄惨で、とても雪羅に見せられる場面ではない。本当にこの場に彼女がいなくて幸いだ、生きていたら氷雨はそんな事を思っているだろう。


【仕事、終了。帰還、する】


 一人標的を逃しはしたものの、既に場所は特定している。ならば、まとめて潰した方が効率がいい。おまけに、体力も少し温存したいところだ。

フォロトゴスは、今頃になって体に刺さっていた氷剣を抜き取り地面に落とすと、大きな足音を立てながらこの場を後にした。

こうして、ウォータルト帝国のウィロプフロストで一人と二人、フォッグ・フォレストで一人、UTサミットで一人、ウォータルト帝国の城内で一人、街道で大勢がその命を落としたのだった……。

というわけで、Ⅳより何やら深い関係になっちゃってる氷雨と雪羅とフォロトゴスのバトルでお送りしました。そして、ここで氷雨が靄花と結婚したことが判明。子供もいます。Ⅳでわかるように、この二人の間にフラグっぽい物はまっ――――たくありません。ではなぜそうなったのか、理由は過去にありました。全ては雪ちゃんを守るためだったんですね。ホント、どんだけこの二人愛し合ってるのやら。で、そんな二人を裂くようにフォロトゴスが妨害。クレバスまで二人の間を裂くという。で、結局氷雨が力尽きたせいで雪羅を逃し、自分が犠牲に。ええ、兄ちゃんや。ちなみに、意味深発言してましたね。置き土産、子供の顔。氷雨には既に子供がいるのに何故? まぁ、お察しの通りです、ええ。

てなわけで、五部はやけに大胆な行動が目立つ雪ちゃんがアレでしたが、今後も彼女にはスポットライト当たります。

と、長い後書きはここまで。次回予告、次はエレゴグルドボト帝国を襲撃します!

鋼鉄、雷落、光蘭、砂唯、慧、聖龍、俊龍が出ます。果たして、彼らは冥霊族を退けるのか!? 更新予定は、夏休みくらい? だと思います。もう一つの作品をやるので。それではまた次回。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ