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第九話「襲撃!伝説の戦士(後編)」・2

「ならば、命に代えても二人の命は守るッ!!」


「そうだね、でないと未來さんに合わせる顔がないッ!!」


 慧とその息子である星流だけは守ってみせると決意した俊龍と聖龍の二人は、各々左手と右手の拳を強く握った。すると、そこに青緑色の炎が揺らめきだした。


「フッ、やはり肉体が分離していようと、己が躯に流れる血は同じ……考える事も同じのようだな」


「そうだね、アレしかない!」


「では行くぞッ!!」


「うんッ!!」


【何を考えているのかは知らない……が、わたしに逆らうのであれば唯では済まないと知れ】


 般若のようなその仮面の両目が赤く光り輝く。同時、凄まじい覇気が周囲に放出され始める。その威力の凄まじさは、相手の立つ周囲の地面に亀裂が入って凹んだり、窓ガラスが割れた事から理解出来る。

そして、俊龍と聖龍の準備も整った。


「くらえ、我らが全力をッ!!」


「お前にぶつけてやるッ!!」


【……ふっ、面白い――来いっ!!!!】


 両腕をピンと前方に伸ばし、受け止めるような体になる仮面の人物。 その両手には鞘に納められた長い刀を持っている。


「「うぉおおおおおおおおおおおおおお!! 『双蒼碧の拳砲ペイダブルー・フィストガン』」


 聖俊の双龍の右手と左手に込められていた青緑色の炎は、二人の掛け声に呼応するようにパワーを増し、その手を広げて放った瞬間には、周囲の障害物を削り取るほどの威力を誇っていた。現に、二人の放った攻撃は捩れるように交わって一つとなり、一つの砲撃となった。その一直線の攻撃の向かう先は、勿論仮面の人物だ。


【こ、これは――っ!?】


 さすがにこれほどの威力は想像していなかったのだろう、防御の構えは取っていたものの、とても耐えられるものではなかった。結局、攻撃は直撃し、敵のいた場所からはモクモクと煙が舞い上がる。


「はぁ、はぁ……倒したのかな?」


「……うッ、そう思いたいが……」


【く……はは、はははははは! あははははは! 素晴らしい、さすがにここまでの力を持っているとは思わなかったよ……いい、いいねぇ! ますますあなた達を殺さずにはいられなくなった!! あなた達になら、これを抜いてもいいかもね】


 未だ舞い上がる煙の中に浮かび上がる一つの人影。と、次の瞬間人影に二つの紅い光が……その位置からして間違いなく瞳。俊龍と聖龍は、まるで蛇に睨まれたかのようにその場から動けなくなった。

 割れた窓から吹き込んだ夜風で、煙が吹き飛ぶ。同時、敵のシルエットが(あら)わになった。お尻くらいまである長いサラサラの黒髪。顔に着けられた般若に似た角の生えた仮面。その双眸から覗く紅い瞳は、ずっと妖しく光り輝いている。


【……さぁ、どっちから殺してあげようかな?】


 不気味に嗤う仮面の人物。巫女服を身に纏うその出で立ちから、恐らく女性だとは思うが、二人は何故かそう断定出来なかった。それが何故か分からないが、そうしてはいけない気がした。

と、敵が動けない二人の間近まで肉薄した刹那――事故は起こった。


ピキッ……パリパリ、バリンッ!!


 何やら亀裂が入る音、その亀裂が広がり、ついには砕け散るという複数の音が、この場にいる全員に聞こえた。時間にして数十秒の事である。

 そして、それが一体何の音だったのかもその直後に理解出来た。

コトンと、それは地面に落ちた。俊龍と聖龍が視線をそれに注ぐ。それは、角の生えた一枚の仮面。そう、先ほどまで巫女の格好をした仮面の人物が着けていた般若のような面である。


「「な……ッ!?」」


【――っ!!!?】


 突然の事に絶句する両者。恐らく、先程の二人の攻撃が相手の仮面に亀裂を入れさせたのだろう。だが、二人が驚愕した理由は別にあった。それは面の下に隠れていた敵の素顔である。今まで、ずっと鬼の様な形相をし続けている面を着けていた敵のその素顔は、信じられないくらいに可愛らしい少女の貌をしていたのだ。

とどのつまり、敵は女だったのだ。そして、自分達はこの少女に殺されそうになっていたという事なのである。

と、俊龍達よりももっとパニックに陥っていたのは、少女の方だった。あたふたしながら赤面し、まるで先程までの強さが嘘であるかのようだ。何をそこまで慌てふためく必要があるのかは不明だが、何かしらの意味があるようには感じられる。


「兄さん、このチャンスを逃す手は無いよ!」


 そう言って先に前へと進み出る聖龍。


「お、応ともッ!!」


 聖龍のやる気に少しどもりながら、俊龍も後から続く。しかし、それが二人の油断であった。


【……えっち】


 どうにか聞き取れるくらいの声量で呟かれた一言。その言葉の後、俊龍の目の前でほんの一瞬の出来事が巻き起こった。彼がそれを理解するのに数分を要したそれは、あまりにも瞬きを許さぬほどの神速だった。


「な、……せ、聖龍……? じ、冗談であろう……よもや、聖俊の雙龍と謳われた我々が……こんな、容易く……認めぬ、我は認めぬぞ」


 あまりにも信じ難い状況と光景に、俊龍は目を白黒させるばかりだ。目の前に広がる凄惨な光景。そこには、先刻まで人の形を成していた物の、成れの果て――肉片が飛び散っていた。真っ赤な鮮血が広がり、俊龍の足元を血の色に染め上げる。

俊龍は足が汚れるのも構わず、その場に崩折れた。地に両手を突き、ガックリ項垂れる。共にこの世に生を与えられ、修行を重ね、経験値を積んで自身を磨き上げていった二人。その絆は、誰よりも強い……はずだった。二人を引き裂ける物は何も無い……はずだった。だが、想像していたよりも容易く、その関係は断ち切られた。全ては一瞬にして終わったのである。


「……きッ、貴様ァアアアアアアアアッ!! よくも、よくも我が弟を……ッ! 聖龍をッ!! 殺してくれる、凄惨な痛みをその肉体に深淵の如く刻みつけ、死して尚苦しみ続ける激痛をくれてやるッ!!」


 そう言うと、俊龍は体中から凄まじい闇のパワーを溢れ出させた。同時、彼の体を漆黒のオーラが纏い、姿が変化する。

そう、龍竜族であれば誰もが可能な変化だ。


【グルァアアアアアアアアアアアアア!!】


噛み付かれたらひとたまりも無いであろうその口から、大音量の咆哮が放たれる。

黒髪の少女は、別段その姿の変化に驚愕もせず、冷静に事に対処する。


【龍竜族を相手にするのは久しぶり……だけど、負けるつもりはないっ!!】


 手にしていた長刀を構える少女。そんな彼女に対して、俊龍は迷いなく灼熱の炎を吐く。


【我が烈火の炎に灼かれるがいいッ!!】


 とぐろを巻き、赤黒い炎が少女に襲い掛かる。が、彼女は手にしていた得物を目の前に突き出してそれを防ぎきった。炎は、鞘から抜いてもいない長刀に切られるように、少女の左右を通過して地面にぶつかった。


【な、に……ッ!?】


【……なんて単純な攻撃。こんな攻撃で私を倒せると思っているの? 随分と嘗められたものだね……一瞬で死に至らしめてあげるよ。そして死後の世界で知るといい、自分が一体誰に負けたのかを……ね】


 口を動かしながら長刀を腰元で構え、片足を踏み込む。そして、ようやく少女が鞘に収められた刃を解き放つ。


ズシュンッ!


 あまりにも一瞬だった。俊龍の視界から少女の姿が消えたかと思うと、首元を何かに斬られる感覚を感じたのである。

慌ててそちらに目をやれば、長刀を抜刀した少女が、殺気を撒き散らしながら刀を振るっている姿が映った。


【くッ……!?】


【少し浅かったみたい……けど、この第二檄であなたは終わる】


 地面にシュタッと着地した少女は、その双眸を怪しく光らせて再び姿を消した。

さすがに同じ攻撃をそう何度も受ける訳にもいかない俊龍は、奥歯をギリと噛み締め、その両翼を勢いよく羽ばたかせた。

バサッバサッという大きな音と共に、この場に強風が巻き起こる。しかし、ハッキリ言ってその攻撃も無駄に等しい。ただ、少しでも敵への牽制になればと思っての事だろうが、直後に彼はその攻撃が無駄であった事を思い知る。


スバッ、ズブシュッ!!


 鋭い斬戟、周囲に飛び散る赤黒い鮮血。そして、響き渡る呻き声。

俊龍の両腕が切断され、バランスを崩しかける。そこに畳み掛けるように、少女は更なる斬戟をお見舞いした。


【グァアア、こんな……こんな……馬鹿なッ! 龍竜族が……この我が、負けるなどありえんッ!!】


 今、自分の身に起きている事が理解出来ない――いや、理解したくない俊龍は、その激痛に耐えながら喚いた。その声を断ち切るように、少女は彼の喉笛を斬った。


【ガ……ァ、ウゥ………】


喉をやられた俊龍は、必死に自分の喉に出来た傷口から溢れ出る出血を止めようとした。だが、押さえるための腕は既に存在しない。水道管が破損して水が漏れ出るように、彼の喉からプシュッ! と、次々に血が漏れていく。


【終わったな……あなたの命運もここで尽きた。どうする? これ以上苦しみたくないというのであれば、私がトドメを刺してあげるけど】


 まるで同情するかのように、仮面の少女はその長刀の切っ先を俊龍に突きつける。

すると、俊龍の体から魔力が漏れ出て行き、その体が徐々に元の人間の姿に戻っていった。


「……はぁ、はぁ……ぐッ、敵に情けなど受けんッ!! 我が弟の仇を取る……その時まで、死す訳にはいかぬのだッ!!」


【……そう、なら苦しみ死に行くがいい、龍竜族の末裔よ】


「ま、末裔!? ば、馬鹿な……ッ、龍竜族は我ら以外にもいるはず……!!」


 俊龍と聖龍は、産まれた瞬間母親と死に別れ、ずっと二人でこの世界で生き抜いてきた。だが、自分達以外の龍竜族は生きているものと思っていたのだ。

しかし、どうやら実際は違っていたようだ。


【どうやら、あなた達の情報は随分と遅れているようね。龍竜族は全て……闇へと堕ちたわ】


「な……に!?」


 闇堕ち……それが何を意味するかは分かる。即ち、邪の道……邪龍竜となったのだ。古より昔、神同士が争った際、邪神や悪魔などの魔族が集結する中にいたという闇のドラゴン達だ。


「……ぐッ、では……もう龍竜族そのものは居ない……というのか?」


【……】


 口では言わず、ただコクリ頷き少女が答える。


「信じぬ……我は決して信じはせぬぞッ!!」


【信じようが信じまいが、どちらでもいい。ただ、私が求めるのはあなたの死……それだけ】


ビュンッ!


 少女が喋り終えると同時、何かが俊龍のすぐ真横をありえない速度で()ぎった。それが何かは、目の前の少女が忽然と姿を消した事から理解出来る。だが、一体何をされたのだろう?

しかし、理解した時には全てが遅かった。


「ガッハ!?」


 激しい吐血。ふと自身の胸元を見れば、そこには空洞が出来ていた。


【ごめんね、あなたを殺す事は使命だから……仕方の無い事なの】


「い、いつの間に……!?」


 最期の力を振り絞って後ろを見やれば、少女が夜風にその黒髪をなびかせながら長刀を握っている姿があった。問題は、その刀身に何かが突き刺さっているのだ。

すると、月明かりに少女が照らされて突き刺さっていた物の正体が明らかになった。


「――ッ!?」


 それは、自身の肉体の一部だった。その事を理解した途端、俊龍の意識は途切れてしまった。


【龍竜族が完全に滅んだ……そうは言っていないけどね。もしかしたら、どこかにいるのかもしれない。宵闇に紛れ、その漆黒の影の中に……ひっそりと隠れているのかもしれない。まぁ、どちらにせよ私には関係のない事。さて、残るは……一人】


 少女は剣に突き刺さった肉塊を、物怖じもせずに至って冷静に素手で掴み取ると、ポイッと俊龍の死体に投げつけた。

それから自身の血まみれの手を見ると、口元を少しだけ緩ませて舌なめずりした。


【ぺろっ……美味しい。それにしても、仮面を壊されるとは思わなかったよ。危うく、正体が割れる所だった。見たところ、彼らはこの少女の事を知らないようだ。まぁ、少し雰囲気も異なるからね】


 独り言にしては少し違和感がある言い方で、少女は顔を覆うように片手を添える。瞬間、赤黒い血が形を形成し、先刻つけていた仮面と同様の物が完成した。


【むふぅ……やはりこの方が落ち着くな。私の正体は、決して誰にもバレてはいけない。もしバレれば、私の呪術が解けてしまう……それだけは防がねば】


 そう言って再び歩き出す少女。

次にやってきたのは、一つの部屋だった。謂わば、この天文台の管理室といった場所。とても寝泊り出来る場所とは思えないが、確かにこちらから魔力反応を感知した。

と、人気を感じて足を止める。


【見つけた……赤星慧。ふっ、眠っているとは……随分お気楽なやつだ。これから死ぬとも思っていないのだろうな】


 ソファーをまるでベッドのようにして寝ている慧の姿を見下ろしながら、長刀を構える。


【安らかに眠れ……!】


目を見開き、剣を振り下ろす。

刹那――


「くッ!?」


 殺気に気づいたか、慧はハッと目を覚ましてソファーから転げ落ち、死を免れた。彼が使用していたソファーは少女の剣によって斬られ、中身がこぼれ出る大惨事に。


「だ、誰だ君は!」


【目覚めたか、赤星慧……そのまま目覚めなければ、安らかに死ねたというのに】


「僕を殺しに来たのか!?」


【ああ、そうだ。あなた達は私達の主人を殺した大罪人だからな……】


「達? ま、まさか……!?」


【ふふっ、理解が早くて助かるよ。お察しの通り、あなたの仲間である双子のドラゴンは討伐させてもらったよ? いやはや、実に弱かった……私のこの仮面を破壊した所までは良かったが、逆にそれが彼らの過ちだった】


 この仮面の人物は何を言っているのだろう、慧は目をオロオロさせて困惑顔で相手の言葉を耳にしていた。だが、殆どの言葉は聞き流してしまった。どうにも、受け止める準備が整っていないのだ。

しかし、否が応にもその真実を突きつけられてしまう。自分の身辺を護衛する役目を担う――それが俊龍と聖龍の仕事だった。だからこうして、今まで気持ちよく寝ていられたのだ。その睡眠を邪魔された事は、イコール二人の死を意味する事は、さしもの慧も理解するしかない。


「二人を……よくも!」


【憎いか、赤星慧。憎しみを力に変えても構わんよ? あるのだろう、あなた達には……秘めたる力が、禁断の力が】


 その言葉にどれほど慧は動揺しただろうか。ビクッと体を震わせ、思わず俯いてしまう。それも無理は無い。彼らにとって憎しみを力に変える事は、即ち神力の暴走に繋がるのだから。


「僕は憎しみなんか利用しない!!」


【ほぅ……さすがは星属性。その瞳は輝かしいな……キラキラ輝いて、実に不快だ。この世界に光など必要ない……。永遠に輝けぬように、その瞳……抉り取ってくれる!!】


 片手を前方へ伸ばし、指の関節をボキボキと鳴らす。こちらを恐怖させようとしているのかは知らないが、今の慧は全く恐怖を感じなかった。怒りの感情があまりにも大きすぎるのだろう。

だが、ここで暴走する訳にはいかない。もしそうなれば、相手の思う壺となる。


「僕の力は、あまり使いたくはないんだけどね……使わなければ死ぬ事は間違いない。だから、使わせてもらうよ!」


【元よりあなたの力を見せてもらう予定だった。……異論はない!】


片足を踏み込み、構える少女。


「そういえば、君は一方的に僕の名前を呼んでるけど、君はなんて名前なの?」


 突っ込んでいる最中にそう尋ねられ、手前で足を踏み込み留まる少女。それから顎に手をやる。


【……むふぅ、そうだな。私の名前は『ローラ=ブイト=ディートヘイゴス』……ディートヘイゴス一家の三女だ】


「お、女の子だったのか」


 仮面で声が篭っていたため、性別がはっきりと区別出来なかった慧は、少し意表を突かれた顔をした。


【何か問題でもあるか?】


「いや……とにかく、君に殺される訳にはいかない! 僕には守るべき家族があるんだ!」


【……何? まさか、子供が?】


「ま、まさか……息子にも手を出すつもりか!」


【伝説の戦士……及びその関係者は皆殺しだ。そう命令されている。同情を誘っても無駄だ。特にあなたの場合、希少属性に数えられる一つだからな。それを持たれたら厄介だ。……む、待て。あなたの妻は……】


 構えていた剣を一旦降ろし、ふとそんな質問をするローラ。慧は不思議そうに首を傾げながら訝しげに口を開いた。


「未來だけど?」


【――っ!? まさか、紅夢未來か!? よもや、……いや考えすぎか】


 慧の口にした名前に、ローラは酷く反応し何か意味深な言葉を独りごちる。それが何を意味するかようやく理解した慧は、慌てて口を手で塞ぎしまったという顔をする。


「ま、まさか彼女も!?」


【当然……伝説の戦士の一人だからな、標的に挙げられる】


「未來には指一本触れさせはしない!!」


【ならば止めてみせよ、赤星慧。あなたの全力で以って……ね】


 挑発的に人差し指をクイクイと動かすローラ。仮面を着けていて表情こそ窺えないものの、完全に嘗めきっている事は間違いない。

握り拳を作った慧は、片手をパーにしてローラに向けて突き出す。


「くらえッ!!」


 力を込めると同時、彼の双眸にある星がキラリ光り輝く。

刹那――その片手が歪みだす。いや、厳密的には慧の手の手前の空間が歪んでいるのだ。円形に空間が歪むと、そこにホールが出来た。そこには漆黒の何かが広がっている。


【……ふ、宇宙とリンクしたか】


「どうやら、星属性の力は分かってるみたいだね?」


【当然……私は何年もの時を過ごしてきたのだ。多くの世界を渡り歩き、戦い……生き抜いてきた。精魂尽きるまでな……】


「なら、これを躱す事も容易いかもね!!」


 挑戦的な発言。その言葉がローラに何を思わせるか……それは、怒りだろう。


【面白い、あなたの力とあの女の力……どちらが強いか確かめさせてもらおう!】


 そう言うと、長刀を勢いよく地面に突き立てた。瞬間、彼女の周囲に一つの光る球体が姿を現す。


「何をするつもりかは知らないけど、先手はもらうよ!!」


 少し嫌な予感がした慧は、先手必勝とばかりに宇宙空間から隕石を放った。


「小型の隕石だけど、威力としてはじゅうぶんッ!!」


 五、六個の隕石は、大きさにして人間大の大きさ。それが炎を纏ってローラへと突っ込んでくる。


【小さいな……そんなものっ!!】


 鞘に納められたままの刀を振り上げ、一気に振り下ろす。すると、タイミングよく刀身が隕石に直撃し、強制的に方向を変えられた隕石は、地面にぶつかって砕け散った。


「そ、そんな……!?」


【まさか、これで終わりとは言わないだろうな? 頼むから、私を失望させないでくれ】


「なら――」


 思考をフル回転させ、慧は次の攻撃手段に打って出る。


「いっけぇええええええ!!」


 手を横薙ぎに振るうと同時、空を切ってそこからいくつもの小さな流れ星が出現する。しかもそれは、確かな意思を持って自由に動いている。すべての流れ星が刀を構えているローラへ飛来した。


【ふんっ、こんなもの……光る虫だと思えば、なんとも陳腐な攻撃だな。これで私に勝つつもりか? 赤星慧……】


 先程と同じように刀を振り下ろし、その光る流れ星を叩き落とそうとする。が、その寸前で流れ星が急に方向転換した。


【ん? ……いや、偶然だ。こんなもの、ほんの数秒で――】


 ローラがそう豪語してからどれくらいの時間が経過しただろうか?


【はぁ、はぁ……な、なぜ叩き落せない?】


 そう、あれほど馬鹿にしていた慧の陳腐な攻撃に、ローラは事もあろうか翻弄されているのである。


「どうしたのかな? 僕の陳腐な攻撃に勝つ事なんて、楽勝なんだろう?」


【くっ、黙れ! こんな筈……】


「それを叩き落す事は絶対に無理だよ。その流れ星は敵の攻撃を空間の振動で察知し、生み出される衝撃波に流される事で攻撃を躱すんだから」


【ま、まさか……私の振るった刀の衝撃波で起こった僅かな風に乗って躱しているというのか!?】


「そうだよ、分かったかい? 君はこの攻撃には勝てない」


【……ふっ、勝てない……か。おかしな事を言う。私がいつ敗北したと言った?】


 慧の説明に顔を俯かせていたローラが、急に鼻で笑ってそんな事を口にする。


「往生際が悪いね……君の攻撃は効かないって――」


 と、そこで慧は口を閉じた。なぜなら、目の前で信じられない事が起きたからである。

ローラの周囲を飛び回っていた流れ星が、光を失って地面にポトポトと落ちていく。それはまるで、殺虫剤を撒かれて死に絶えた虫のようだ。


「こ、これは一体……」


【ふっ、……私にこんな攻撃は効かない。物理がダメならば……特殊でいけばいいだけの事だ】


 そう言うと同時、ローラが手を前に突き出す。すると、そこにオドロオドロしい黒々としたオーラを纏った球体が姿を現す。


「そ、それは……」


【どうせあなたは死ぬ身……教えてやろう。これは、七力だよ】


「し、七力!? ば、馬鹿な……七力は鳳凰一族にしか扱えないはずじゃ……そ、そういえば……その格好――」


【ようやく気づいたか……如何にもこの素体は鳳凰一族の物だ。だが、七力を持つのは元を正せば巫女族だ】


「み、巫女……族?」


 聞いた事のない言葉に、慧は首を傾げた。


【知らぬのも無理はない。巫女族は最早絶滅危惧種的存在だからな……今ではその名を変えている】


「じゃあ、鳳凰一族って――」


【ふっ、察しはいいようだな、赤星慧。まぁ、今更それに気づいたとて全て遅い。あなたはここで死ぬ……巫女族の事は誰にも知られはせん】


「僕は死ぬ訳には……いや、例え死ぬ事になったとしても、得た情報は全部伝えさせてもらうッ!」


 ただ死ぬだけでは割に合わない。せめて、それに見合うだけの成果を得ねば。そこで慧が行き着いた考えが、この情報だ。出来るだけ目の前の敵――ローラの情報をかき集め、それを伝える。そうすれば、幾らか対策も立てられ、いざという時に優位に戦えると思ったのだ。

 どうにかして仲間の役に立ちたい……そういう思いが、慧の体を精一杯動かす。


【あまり長居も出来ない……そろそろお暇させてもらおう!】


「ああ、是非ともお暇してもらえると助かるよ!!」


【だが、手土産もなしに帰る訳にはいかん……だからあなたの生首を寄越せッ!!】


 恐ろしい単語を口にし、ローラが動いた。


「ぐッ!?」


 ギリギリ斬撃を躱したものの、まだ勝機はない。それどころか物凄い敗北フラグを感じる。それも、その敗北の後に待ち受ける死さえも……。

と、そんな時だった。

というわけで、砂唯はなんとか助かりましたね。次はトゥインクル・ギャラクシー天文台の三人なわけですが、龍竜族の二人は……。

そして、ついにⅣであまり活躍できなかった慧の番。果たしてⅤでは一児の父としていい所を見せられるのか。

三部に続きます。

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