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十二属性戦士物語【Ⅴ】――幽霊屋敷の亡霊と四神龍――  作者: YossiDragon
裏一章:過去『癒えぬ心と忘れられぬ記憶』篇
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第五話「瓦解せし五大帝国の関係」・6

「……あの、あなたは一体?」


 恐る恐ると言った感じで私が訊ねると、その鎧の兵士が兜を脱ぎ去りました。同時、兜に隠されていた髪の毛が靡きます。

 私達の瞳に映る、燃えるように真っ赤な灼熱の髪の毛。閉じられていた両瞼が開かれると、そこにはワインレッドの瞳がありました。


「ごめんなさい、説明している暇はないの。ただ、私があなた達の味方だって事だけは認識しておいて?」


「あなたが今、二人の兵士を燃やしたのって――」


「灯よ」


「え?」


 突如言葉を遮られた私は、思わず疑問符を頭上に浮かべます。すると、灯と名乗る女性は、柔和な笑みを浮かべて口を開きました。


「『灼槍(しゃくやり) (あかり)』……それが、私の名前。火属性を持つ有属性者なんだけど、皆と一緒でここに幽閉されていたの」


「そうなんですか……ということは、フレムヴァルト出身で?」


「ええ。それよりも、早くここから脱出しなければならないわね。でないと、兵士に捕まってしまうわ。脅すつもりはないのだけど、事前に忠告しておくわ。二度目はない……それを肝に銘じておいて?」


 二度目はない?

 私は、内心でその言葉を反芻し疑問に思いました。つまり、もし捕まってしまったら二度と脱出出来ないとか、動けない体にされるとか、そういう事なのでしょうか?

 そう思うと、突然不安になってきました。


「とにかく、ここから逃げ出すのならある程度の体力は必要だわ。……人数分はないけれど、良かったら食べて? 精の付く食べ物よ」


 チラリ出口の方に視線を向け、それから懐から食べ物を取り出す灯さん。


「ありがとうございます……。朱雀、神楽、千歳、李々、瑠々、愛李……あなた達が先に食べてください。体力が著しく低下してるでしょう?」


 私は、このメンバーの中で年齢が低い彼女達に食べ物をあげました。


「でも、暦達は!?」


 朱雀が少し申し訳なさそうな顔をしますが、私はその気持ちだけで十分でした。


「私は平気です。何も口にしていない訳ではありませんし、一応は……食べ物です。栄養はあるのですから、問題はありません」


 口ではそう言いますが、実際の所本当に体に害がないかは分かりません。何せ、見た目はボロボロで料理とはとても呼べないからです。


「おしゃべりの最中に口を挟んで悪いけど、時間はないようね……」


「え?」


 灯さんがやけに深刻そうな声音で言うので、私は疑問の声を口にしながらそちらを見やりました。すると、脱出口からぞろぞろと十数人程の鎧の兵士がやってました。

 各々手に武器を持ち、構えます。相手は完全に臨戦状態の様です。


「あらあら、穏やかじゃありませんねぇ~。戦いは負しか生み出さないというのに……」


 環さんが頬に手をやり悲しそうな顔をします。

 と、兵士と私達の間に灯さんが立ちはだかりました。それから、十数人の兵士の中に知り合いを見つけたのか、そちらへ体を向けて歯噛みしました。


「くっ、少し早かったですね……フィラーデル公爵」


 聞いたことのない名前を口にすると、フィラーデル公爵と呼ばれた男性が一歩前に進み出ました。


「お前の行儀の悪さは、逆に舌を巻かされるわ。やはり、狭苦しい部屋はお前の様なお転婆女には似合わんな」


「ふっ、分かっているようで何よりだわ。お答えの通り、この(ペット)狭所(きょうしょ)が大っ嫌いなの。もっと広々と羽を伸ばせる部屋がお好みなのよ。だから、飼い主に逆らって脱走しちゃった。分かったら、脱走の邪魔をしないでちょうだい?」


 例え話のような感じで淡々と言葉を紡ぐ灯さんに、私達は黙っているしかありません。まさに二人だけの世界という感じです。


「ほぅ、自身を奴隷(ペット)と自覚しているとは、見上げた物だな。だが、奴隷(ペット)が他の奴隷(ペット)を逃がすなど、聞いたこともないが?」


「あら、なら追加で書き足しておけば? 奴隷(ペット)も度が過ぎると子供の様に反抗期になるって」


「ふんッ、記憶の片隅にでも留めておこう」


 灯さんの言葉を鼻で笑ってあしらうと、言葉を言いきると同時にフィラーデル公爵は片手を顔くらいの高さまであげました。まるで何か指示を出すかのようです。

 しかし、私の予想は当たっていたようで、後ろにいた兵士が動き出しました。


「させないわよ!」


 兵士が動くと、灯さんもそれを防がんとするように得物を構えます。

 互いの武器が鍔迫り合い、金属音が暗がりの牢獄の部屋に響き渡りました。


「諦めろ、灯。お前は勝てん……さすがのお前でもこの人数は(さば)き切れまい?」


「舐めてもらっちゃ困るわね。不意打ちがお得意のあなた達が、正面から戦って勝てるのかしら?」


「お前こそ鎧一族という存在を知らぬわけではあるまい? ならば、分かるだろう。鎧は強固な物……山の様に固く、鋼は他の金属を貫かん。それを纏いし私達が、負けるなどという事は決してない!」


「なら、敗北の味を味あわせてあげるわっ!!」


 フィラーデル公爵にそう言いかえした灯さんは、両手で持っていた武器を片手に変えて相手を押し返すと、空いている片手を突きだしました。

 赤い魔法陣が煌々と輝き、そこから幾重にも重なった魔法陣が展開。薄い魔法陣は互いの隙間を作らないようにして厚みを増していき、約一センチくらいの厚みを作り出すと、そこから紅蓮の炎を放射。四方八方に放たれた炎は、大蛇の様に蠢いて鎧の兵士達を後退させました。


「今よ、早く逃げて!!」


「し、しかし……灯さんがっ!!」


「私の事はいいから、急いでっ!」


 いくら灯さんでも、この人数を全て相手にするのは無理な様な気がしました。相手も手練れだと、私には思えたからです。けれど、灯さんの曇りなき眼を見ると、逃げ出さなければならないような気がしました。

 灯さんは紅蓮の炎蛇を巧みに操り、鎧の兵士達を取り囲むようにグルリと囲みこみました。これでしばらくは逃げられません。私達の後を追うと言う事も無理でしょう。


「灯さん、必ず生きて脱出してください」


「ふっ……ええ、分かったわ。だから、早く行きなさい」


 私の真剣な一言に、灯さんは小さく笑うと瞑目してそう告げました。

 こうして私達は灯さんのおかげで薄汚い鳥籠から脱出出来たのです……。しかし、鳥籠から飛び立てても、屋敷から抜け出さなければ意味がありません。まだここは飼い主の領域なのですから。

 現に、私達の後を鎧の兵士達が追いかけてきます。ここで捕まれば全ては一巻の終わり。灯さんの厚意も無に帰す事に……。それだけは避けたい私達は、巫女装束で少々走りにくいのも気にせず、懸命に出口を探しました。

 が、こう広いと脱出するのは至難の業でした。

 そして――。


「はぁ、はぁ……追い詰めたぜぇ?」


 私達十四羽の鳳凰の雛は、親鳥の鳳凰に会う前に窮地に陥りました。このままでは脱出が出来ません。まるで、鳥籠から逃げ出した鳥を逃がさんがために窓を全て閉じてしまうが如く、逃げ道は塞がれてしまったのです。


「手こずらせやがって……こいつは捕らえた暁には、たっぷりお仕置きをしてやんねぇとなぁ」


 お仕置き……それを想像しただけで私達は嫌な汗をかいてしまいます。それほどまでに毎日が地獄だったのです。

 と、その時、私達の前に環さんと巴さんが進み出ました。


「ちょ、ちょっと二人とも何をしているんですか!?」


 何も聞いていなかった私は、完全にてんぱっています。すると、申し訳なさそうな顔をして巴さんが口を開きました。


「ごめんねぇ、暦ちゃん。お姉さん、さすがにもう歳みたいだから……これ以上派手な動きは出来ないのよぉ」


 次いで、環さんも口を開きます。


「本当、わたくしとした事が情けない限りですわ。あらあら、暦ったら……泣いているんですの?」


「そんな……どうして」


 私は、疑問符が涙と一緒にとめどなく溢れました。頭の中がいっぱいで何も考えられません。


「ふふっ、仕方ないわよぉ。こういう運命なのだから、受け止めるしかないわぁ。さぁ、最期の大仕事よぉ!」


 そう言うと、キリッとした目つきで巴さんが声をあげる。


「ええ、巴! 後輩達には、最期までいい所を見せないと……ですわっ!!」


 環さんも応えるように手を前に突き出す。それから互いに手を組むと、その中心から真紅と紺碧の色が光り輝き絡み合い、この場にいた鎧の兵士を一掃した。


「今よぉ!」「今ですわっ!」


 二人の声が重なり、私達を押し出します。まるで、声が私達の背中を押すようでした。

 その後も、背後から爆音や剣戟の音が聞こえましたが、必死に耳を塞いで足を進めました。

 しかし、またしても行く手を阻む敵が現れました。

 すると、私のすぐ前に立つ誰か……。

 その正体に気付いた私は、眼を見開き声をあげます。


「何を、何をしているんですか……要さん、命さんっ!!」


 そう、私達を兵士から守る様に立ちふさがったのは、要さんと命さんだったのです。


「ふんっ、勘違いしないでくれる? 私は別に、あんたのタメに囮になってあげようとか、そんなコト少しも考えてないんだから!」


「うふ、わたしぃ……これ以上笑顔でいられないような事、嫌なんですぅ。だからぁ~、今まで苦しめられた分を、ここで発散するんでぇ……みなさんはぁ、早く逃げてくださいぃ~」


 若干頬を赤らめてそっけない態度を見せる要さんと、やはりこんな状況でもゆったり口調は変わらない命さん。

 二人の態度は、その性格と同じ様に変わらないようです。


「二人とも……」


「何してんの、さっさと逃げなさいっ!」


「早くぅ~」


「くっ……! すみませんっ!!」


 私はキラリと光る熱い何かを零しながら、ダッシュしました。その後に、他のメンバーも続いています。


「に、逃がすなッ!!」


「追えぇええ!!」


「そうは」「させないわよぉ~」


 微かに聞き取れる二人の言葉の後、背後で大爆発がした。

 二人の犠牲は、絶対に無駄にしませんっ!!

 こうして四人の雛鳥を犠牲にした十人の鳳凰の雛鳥は、無事に奴隷屋敷の領域から抜け出し、自由な大空へ羽ばたく事に成功したのでした。




――▽▲▽――




「呼応召喚?」


「ヒヒッ……ああ。その昔、囚われの身だった仲間を助け出すために使用した、召喚術の一つだそうだよ? ヒヒッ、面白いじゃあないかい……試してみないかい?」


 俺――塁陰月牙は、ロムレス学園から夢鏡城へ向かう道中、猛毒雲猛辣からそんな話を持ちかけられていた。

 きっかけは、鳳凰一族の行方が未だに掴めない事にあった。そこで悩み事を愚痴の様に零していた所、猛辣に聴かれてこうなった次第だ。

 呼応召喚……。契約召喚のように召喚術の一つで、契約召喚に比べればそこまで難易度は高くない。しかし、世間的にはあまり知られておらず、スパイなどの陰陽稼業の連中が使用しているくらいらしい。ただし、影明は知らなかった。陰陽稼業の連中でも一部しか知らないっぽいみたいだな。そこまで知名度が低いと、逆に怪しくなる。


「だが、試すって言っても必要なのは呼応者と同じ血なんだろ?」


「ああ、同じ種族だとかだったら大丈夫だよ……ヒヒッ」


 相変わらずの不気味な笑い声を混ぜながら、猛辣が説明をくれる。なるほど、つまり鈴華の協力が必要だってことか。まぁ、雲雀でも大丈夫なんだろうけど……。




 夢鏡城へ辿り着いた。俺と猛辣は、先に玉座の間へ来た。そこに、鈴華がやってくる。事の詳細は事前に伝えてある。無論、猛辣の危険性についてもだ。

 それを雲雀も聞かされているのだろう、少々猛辣を見る目が冷たかった。

 まぁ、それはさておき準備は整った。

 既に呼応召喚用の魔法陣は描き終えている。後は、呼応者と同じ者の血を術式に書き込むのみ。


「ヒヒッ、それじゃあ……腕を出してくれ」


「は、はい」


 恐る恐ると言った感じで鈴華が腕を前に出す。無論、ちゃんと巫女装束の袖を捲ることも忘れない。


「綺麗な腕だねぇ……思わず舐めたくなるよ、ヒヒッ」


「ひぃっ!?」


 猛辣の言葉に、小さな悲鳴をあげて鈴華が腕を引っ込める。当然の反応と言える。だが、これでは呼応召喚が行えない。


「悪いな、鈴華。猛辣なりの褒め言葉のつもりなんだ……」


 と、軽くウソの情報を混ぜながら鈴華を安心させる。でないと、いつまでも先に進まないからな。無駄な時間を喰うのだけはゴメンだ。


「……ご、ご主人様が、そう仰るのなら」


 俺のためなら言う事を聞くしかないと思ったのか、鈴華は再び腕を差し出す。


「ヒヒッ、それでは採血するねぇ?」


 軽く口の端を吊り上げ、不気味に嗤った猛辣が注射器を差す。


「うっ」


 そうして抜き取られた鈴華の血は、猛辣の手によって呼応召喚用魔法陣の術式に書き込まれた。これで全ての準備が整った事になる。


「先に言っておくよぉ? この呼応召喚は、心臓の呼応にも関わっていてねぇ? ヒヒッ、死んでいたら反応しないんだ……つまり、生者しか召喚出来ないから……気を付けてねぇ?」


 それをここで言うか? こっちは無事かどうか、気が気でないってのに。本当に猛辣の容赦のない言葉には、呆れて物も言えない。鈴華に至っては、彼のセリフが効いたのか、眼を見開き瞳をオロオロさせている。

 不安でいっぱいという感じが、見ていて良く分かる。


「始めてくれ」


「ヒヒッ、了解……」


 俺の合図で猛辣が魔法陣を展開させた。赤黒い魔法陣が回転し、城の床が光り出す。

 そして、眩しさに目を瞑りもう一度目を開くと、そこには幾人かの巫女装束を身に纏った女性が横たわっていた。

 その姿にいの一番に駆け寄ったのは、案の定鈴華だった。


「み、皆さんっ!!」


 全員横たわっているので、生きているかは分からない。ただ、死んでいるという可能性は零だ。それは、さっき猛辣から受けた説明で既に承知済み。考えられる可能性は気を失っているくらいか……。


「あ、あれ……?」


 そこで何かに気付いたのだろう、鈴華が疑問の声をあげる。


「どうした?」


 俺が駆け寄ると、鈴華が目尻に涙を目いっぱい溜めてこう口にした。


「環と巴と要と命がいませんっ!」


 恐らくは名前と思われる人物名を鈴華が口にすると、雲雀が口元を手で覆う。ショックだったのだろう、悲しい顔をしている。ここに召喚されていないと言う事は、恐らく……。


「ぐすっ、そんな……そんなぁ~!!」


 床に膝を着いている状態だった鈴華は、そのまま前方に倒れて手を突き四つん這いになると、それから崩れるかのようにその場に蹲った。

 その悲しみを体現している震えを抑えようと、雲雀が鈴華の背中を撫でさする。


「み、皆ぁ……! うぅ~……」


 こればかりは俺にもどうしようもない。

 とにかくこの場は医療専門の葡豊達に頼むしかないな……。鈴華は……雲雀に任せよう。

 これからどうするかを決めた俺は、気絶している巫女達に手をあげる前に猛辣を連れ出し、玉座の間を後にした。

 その後、無事に目覚めた十人の巫女は、鈴華に再会するや否や感動の涙を流し始めた。鈴華曰く姿が若返っているという話だったが、理由は彼女達が受けたあらゆる実験や拷問、調教のせいだと言っていた。余程、辛い目に遭ったのか、精神がボロボロだったらしく、癒宇によってしばらくは精神治療(ハート・ケア)を受ける事になった。

 また、召使い(メイド)が増えた。え、誰かって? 無論、鳳凰一族の生き残りメンバーだ。なんか、鈴華が召使い(メイド)を務めているのだから、部下である自分達もやらなければいけないという使命感にも似た何かが、彼女達を動かしていた。

 とりあえず、そんなこんなで俺は平和な時間を愉しみつつ、一年を過ごすのだった……。

というわけで、またもや新キャラの灯さん。火属性を持つ有属性者です。また、もう一人登場したのが、鎧一族のフィラーデル公爵です。この二人の関係性は、またその内。

何とか牢屋から脱出する事に成功した鳳凰一族の巫女達ですが、その分の犠牲は大きかったです。

そして猛辣の言う呼応召喚について会話する月牙。猛辣の喋りはいつまでも変わりません。とまぁ、そんなこんなで呼応召喚に成功し、鳳凰一族の皆と合流できました。しかし、貴重な四人を失ってしまったわけですが。

てなわけで次回予告、過去編にひとまず区切りが出来たので、本編に戻ります。こっからは冥霊族の襲撃と、ようやく登場を果たすであろう二代目十二属性戦士について触れます。果たしてロムレス学園に通う有属性者から誰が選ばれるのか……そして、何人いるのか。という感じでお送りします。

次回更新は、来月かもしれません。では、お楽しみに。

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