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第六話「ロムレス学園」・1

今回は二部構成です。

 王立魔法育成教育学校――ロムレス学園。夢鏡王国の敷地内に立地しているこの学園は、惑星ウロボロスに住む有属性者を悪しき者の手に渡らぬように、自立と自己防衛、何者にも負けない強い力を得る事をモットーに出来上がった。

 有属性者は、その昔、第一次神人戦争を止めた英雄――神崎王都の手によって生み出されたと言っても、過言ではない。神王族の何者かが企てた未だ謎多き計画――S.O.Lによってウロボロスに住む多くの人間が特別な力を得たという。しかし、中には王都の神将が皆既日食と同時に木端微塵になった際、その血を浴びて得たという話もある。

 どれが正しく、どれが正しくないかは分からない。調査は未だに続いているものの、なかなか解決の糸口は見つからないようだった。何せ、これらの話は過去の物……その時代を生きていた人物に聴かなければならないのだ。

 無論、世界四大神である太陽の神と月の神にも問うた。しかし、二人共首を振るだけで頑なに答えようとはしなかった。

 そうこうして今現在にまで至るのである。ロムレス学園が完成して数年経ったある日、遠路遥々(はるばる)やってくる有属性者の生徒のために、寮を設置した。

 それからは、さらに入学者数が増えて行った。逆に学園側は、こんなに多くの有属性者がいた事に驚いていた。年齢層は色々ではあるものの、その大半が三十に満たない若者ばかり。

 逆に三十を超える人間には属性が宿っていなかった。全く持って不思議なものだ。一体どのような因果関係が働いてこのような結果を生み出したのかは、誰にも理解出来ない。

 学園では様々な事を学べるが、属性の基礎や応用などが特に難しかった。それは、教える方も教えられる方も一緒で、なにぶんまだ謎の部分が多いのだ。

 属性の数は未だに正確な数が分かっていない。現在判明している属性の数は全部で三十一。その中には希少な属性も多く、どれほどの力を要しているかまでは分からない。

 ただし、引き出せる力にも限度があるらしく、その限度を超えた状態が――神力の暴走だという結論には至っている。

 このロムレス学園は、神力の暴走に至らない様に制御するという事も兼ねて存在している。力の使い方をちゃんと理解していない人間が多用すれば、周囲に影響を及ぼすどころか多くの死者を生み出しかねない。

 ロムレス学園には初等部、中等部、高等部が存在し、初等部では三年間にかけて主に基礎となる有属性者とは何なのかや、召喚術、戦闘術、体術、魔術などについての座学を行う。中等部では応用となる魔術や、所有している属性が一つではない場合の事について学ぶ。混合属性所持性者(ミックス)の場合、戦闘において属性を使い分ける事も考えなければならないからだ。これも三年かけて勉強する。

 そして、最後の高等部は実施だ。今まで頭に叩き込んだ戦術や知識などを活かし、戦闘する。数名でチームを組み、王国外のモンスターなどを退治するのだ。大分治安がよくなったとはいえ、五大帝国という関係が崩れて小さな国や村は衰退の一途を辿っている。

 それを好機とみなしたか、時折魔族が襲撃するのだ。現に、いくつかの村や町は魔族に蹂躙されているらしい。これも三年かけて学んでいく。

 そして、高等部の全過程を終えた時、立派な有属性者となった人間は、教師陣と戦い勝利する事で初めて一人前と認められ、卒業が可能となる。

 卒業した生徒は、自分の持つ属性を生活に有効活用したり、周囲の人の役に立つ仕事に就いたりする。また、王国の警備隊などになる事も可能だ。

 ちなみに初等部、中等部、高等部の三つだが、別段年齢で分けられている訳ではない。俗にいうエスカレータ方式がとられているので、中には自分なりに知識を得た人間が、初等部をすっ飛ばして高等部に進む場合もあるのだ。なので、学び舎の講堂には上は二十代、下は十代前半という事もありえるのだ。

 そんなロムレス学園の中等部に、俺は通っている。

 『嵐(あらし) 慌夜(こうや)』……それが俺の名前だ。年齢は十五歳、趣味は暖炉観賞だ。何だよ、笑うなよな……結構いいんだぜ、暖炉って。心が荒ぶってる時とかさ、眺めてると穏やかになるんだ……おっと、ついつい感傷に浸ってたぜ。

 俺は四帝族の一つ――嵐一族の人間だ。現在二代目長をしている。家族構成は父親と母親と兄と俺、後は親戚で伯母が二人……だな。

 と、幼馴染も紹介しとくか。


「ねー、何してるのこー君?」


 やけに明るい声音で喋りかけてきた少女。茜色の髪の毛に灼眼を持つ彼女の名前は『炎耀燐(えんようりん) 茜(あかね)』。俺と同じクラスに所属しており、入学式の時に会ってから何かと縁がある、俗にいう幼馴染だ。

 何故か彼女の家系は頭に炎の冠をつけるらしく、今も茜の頭には銀色の冠が被さっていて、そこからメラメラと炎が揺らいでいる。

 料理が得意でよく食べさせてくれるのだが、何故か卵料理が多い。基本的には明るい性格なので、話しかけやすいタイプではある。


「ん、ちょっと考え事だ」


「何考えてたのー? あっ、今日のお昼ご飯何かなーとか?」


「そりゃお前だろ!」


 などと、軽くツッコミを交えながら楽しく談笑。普通の休み時間の過ごし方だ。

 と、休み時間を終えて始業チャイムが鳴り響く。定番の音がスピーカーから聞こえてきて、俺の席に腰かけていた茜が自席へ戻る。

 ここは講堂の様な作りになっており、長机が段々状態になっている。その机に横並びで大体五人が吸われるようになっていて、室内に縦七つの横三つ。

 俺の席は入口から一番遠い列の三番目の端だ。ちなみに茜は、三つある列の中央の先頭だ。居眠り常習犯なので、この席にされた。まぁ、自業自得と言えばそうなのだが、はっきり言って俺は無駄だと思う。なぜならば、茜は学習能力なしだからだ。

 言い方は悪いが、本当だ。現に、始業チャイムが鳴って自席に戻った茜はというと、既に机に突っ伏して眠っている。

 そんな彼女を呆れて眺めていると、扉が開いて講師の先生が入ってきた。

 今から行う授業は、高等部で受ける実施に向けての事だった。中等部に入って三年が経って俺達は中等部の三年生。一年後には高等部に進学するのだ。

 なので、それに向けてあらかじめいくつか伝えておくのだろう。

 室内に入ってきた先生は、腰まで伸ばした青々とした髪の毛を持つ女の講師。白衣を纏っているその女性は、どことなく眺めているだけで癒される感がある。

 彼女の名前は『草壁(くさかべ) 葡豊(ぽぽ)』先生。俺達有属性者の中でも特別な力を持つとされる伝説の戦士の一人らしい。

 確か、父さんもその一人だって言ってたな。

 ちなみに草壁先生は、この学園にある書庫の管理人も務めている。今も、彼女はたくさんの書物を両手で抱えていた。それを教卓の上にゆっくり置き、額に滲む汗を拭っている。

 その仕草を見て、少しだけドキッとしてしまった。


「みなさん、お待たせしました。それでは授業を――あれ?」


 そこで先生が一人の生徒に視線を注ぐ。それは、茜だった。そりゃそうだろう。教卓の目の前にあるのが茜の席だ。講堂内のセンターに座ってる茜が眠っているのだ。嫌でも視界に入ってしまう。それは、生徒の方からも同じだった。一番後ろの席だからと言って見えないわけではない。段々状態になっているので、後ろに行けばいくほど、高くなっていくのだ。つまり、見下ろせば茜の眠っている姿が簡単に見える。


「はぁ、炎耀燐さん? 授業始まりましたよ?」


 嘆息して草壁先生が茜の名前を呼ぶ。しかし、茜はむにゃむにゃと口を動かすだけで起きる素振りがない。

 呆れ返った先生は、やれやれと首を振って茜の元へ歩み寄った。それから懐から何かを取り出す。それは、一本の試験管だった。中には緑色の液体が入っている。なんだか、少し不気味である。


「警告ですよ?」


 そう一言告げて試験管の口を傾ける。そして、緑色の液体が一滴、茜の頬に落ちた。


「ちべたいっ!?」


 悲鳴をあげてガバッと体を起こす茜。なんだ、ただの冷たい液体か。と、俺が安堵していると、草壁先生が茜の寝ぼけた顔に己の顔を近づけた。


「炎耀燐さん、涎が垂れてますよ?」


 茜の口元から垂れる涎。それを指摘しつつ、草壁先生が人差し指で掬った。それからそれを、先程の試験管に入れた。

 刹那――。


ジュボォッ!


 と、臙脂(えんじ)色の炎が、試験管の口から発生した。


「すごい、炎熱系魔法です。どうやら炎耀燐さんは、体液を使った液状魔法が出来るみたいですね」


「先生、液状魔法って何ですか?」


 生徒の一人が疑問を抱いて草壁先生に尋ねる。


「液状魔法というのは、体液などの液体を用いた魔法です。本来属性は己の体内に存在し、それを魔法陣や武器を介して用います。が、この液状魔法は、己の体液に属性を付与させて使う事が出来るのです。例えば、血液……。敵に切られたりして深手を負った際、血液に属性を付与。それを操る事で炎の血や水の血を使う事が出来るんです。いろんな工夫があるので、戦術に組み込むのもいいかもしれませんね」


 白板に図を描いて、丁寧に説明してくれる草壁先生。質問した生徒や、その他の生徒も何度もなるほどと相槌を打っていた。俺もその一人だ。当の茜はというと、こっくりこっくり船を漕いでいる。こいつ、本当に留年しそうだ。

 そうして草壁先生の授業も終えて休み時間。俺はトイレへ向かおうと廊下を歩いていた。

 と、曲がり角を曲がったその時、誰かにぶつかってしまった。


「いてッ!」「いったぁ!」


 ぶつかりあってお互いに痛みを訴える。俺は腰をさすりながら目を開けた。そこには小柄な体躯をした少女がいた。ツインテールに結った浅葱(あさぎ)色の髪の毛に新橋色の瞳を持つその子は、額にスポーツメガネをかけていた。フレーム部分はゴムのようだ。見た所初等部のようだが、どうして中等部にいるんだろう?

 などと思っていると、その少女が俺を見るや否や、ムスッとした表情で唇をへの字にして立ち上がる。


「ちょっと! あなた一体ドコを見ているの!? このアタシがケガでもしたらどーしてくれるワケ?」


「わ、悪い……。ケガないか?」


「ふんっ、あったらタダじゃすまないわよ!」


 腰に手を添えて偉そうに胸を張る少女の背丈は、俺の胸より下だ。随分小さいな。


「な、何よっ!」


 俺の視線、もしくは思考を察知したのだろう。少女が怪しむような視線を向ける。


「いや……」


 と、俺は慌てて視線を逸らし、ふともう一人近くに生徒がいる事に気付く。背丈は俺と変わらないくらい。露草色の髪の毛にシアン色の双眸を持つ少女は、とても色っぽい体つきをしている。出るトコは出て引っ込む所は引っ込んでいる。特に視線が彼女の豊満な胸に行ってしまう。

 おまけにセミロングくらいの長さがある髪の毛の頭頂部からは、それ単体が主張するかのようなアホ毛がぴょこんと伸びており、カーブしている。


「あのぉ~、わたしに何かあるんですかぁ~?」


 ゆったりとしたその口調は、トロンと垂れた瞳からも分かるように穏やかだ。恐らく、この人は滅多な事がない限り怒らないだろうと俺は思った。


「いや、別に……」


「ちょっと、人の家来(ボディーガード)に手ぇ出さないでくれる!?」


「ち、違う! そんなつもりじゃ……」


 何やら誤解を与えてしまったようなので、俺は手を前に突き出して首を振った。

 と、その時だった。俺はふとこの女性に見覚えがあった。


「あ、あの……君、どこかで会った事ある?」


「え~? う~んと、会った事はないと思いますよぉ~?」


 気付いた時には俺は既に質問していた。しかし、相手は顎に人差し指をあてがい、明後日の方を向くだけだ。どうやら、俺の勘違いらしい。


「もういい? 私達、これから授業があるんだから!」


「あっ、悪い……」


 小柄な少女の威圧感に、俺はたじろぐだけだった。客観的にも凄くカッコ悪い。

 とりあえず俺は、二人の後姿をしばらく眺めてからトイレへ駆けた。




 場所は変わって寮。寮は一部屋二人で、部屋はアパートくらいの広さがある。キッチンも一応あって、料理が出来るようになっている。三階建てのこの寮は、入口から入って右に男子寮、左に女子寮がある。

 そんな俺のペアは――。


「こー君、お腹すいたー? 待っててねー、もー少しで完成だから♪」


 やけに明るい女の子の様な声――もとい、女の子の声。え、声変わりしていない男子生徒じゃないのかって? いいや、俺の事を「こー君」だなんて呼ぶ輩は、世界中探してもコイツだけだろう。

 そう、俺の幼馴染である茜だ。

 とどのつまり、男子寮に茜という女子がいるという事だ。何でそんな事になるのか。理由は単純……女子の人数が一人多く、男子の人数が一人少ないのだ。分かりやすく言えば、寮の定員が4だと仮定する。この時、女子が5で男子が3だということだ。なので、女子生徒が一人余って男子寮に入るハメになったのだ。

 俺だっておかしいとは思う。無理やり女子寮に入れればそれでいいとは思うのだが、何ぶん部屋の構造上三人は無理らしい。恐らく、各々の荷物などがあるからだろう。

 で、茜が俺とペアになりだすとか言い出したのだ。教師陣側もそこまで異論はなかったらしく、あっさり許可が出てしまった。

 茜の父親である料理長の乱火さんにも申し出たのだが、普通に許可された。親父としていいのか、それで。

 そんなこんなで現在に至るのだ。ホント、決定した時の男子陣の嫉妬視線が尋常ではなかった。下手したら殺される可能性も無きにしも非ず。

 しかし、そんな生活も中等部三年となった今ではすっかりなくなってしまった。恐らく皆、呆れたかどうでもよくなったのだろう。第一、茜自身があまり女の子っぽく見えない。いや、こんな言い方は失礼極まりないが、本当にそうなのだ。現に、彼女の寝ている時の姿といったら無防備この上ない。

 パジャマではなく、単なる薄着のみ。寝相が悪いためか、朝俺が先に目覚めると、必ず俺のベッドにいる始末だ。

 ちなみに、寮のベッドは二段ベッドになっている。だから、本来他人のベッドに来れるはずはない。だが、茜は何故か俺のベッドに当たり前の様に入ってくる……謎だ。

 と、そんな事を考えていると、料理が完成したらしい。丸テーブルの上に茜が料理を並べる。


「おっ、美味そうだな」


「えへへー。今日のごはんは、特性卵とろーり♪オムライスだよー?」


「何か違うのか?」


 俺が見た感じ、ただのオムライスにしか見えないが。


「分かんないー? えとねー、ほーら……スプーンで卵を切ると、中からとろーり卵が出てくるんだよ」


 茜の言い方だと分かりにくいから、俺が補完するとだ。本来オムライスは、ごはんを卵で閉じてあるのが当たり前。そして、その上からケチャップやソースをかけるのが定番だ。

 が、茜の作ったこの料理は、卵の中にもう一層卵が入っているのだ。しかも、それが半熟のようにとろーり垂れてくるんだ。いや、マジで美味そう。早く御馳走になりたい。


「食っていいか?」


「まぁまぁ、そんなにがっつかないのー。一緒に食べるんだから♪」


 俺の鼻の頭を人差し指でつつき、茜が立ち上がる。いかん、たまにドキッとしてしまうから困る。やはり、女の子なんだ。普段はそうは見えないが、こういう一面があると本当に不意打ちを食らってしまう。

というわけで、今回は学園の事について触れるだけだったので短くなりました。今回の主な視点はⅤの主人公(?)的立場となる慌夜です。後はその周辺の人間が絡む感じです。ちなみに慌夜の初登場は七年前ですね。Ⅴの過去編で喋ってはいませんが出ています。

茜はここが初登場です。またまた新キャラです。そして葡豊が先生として登場。

また、休み時間に新たに二人の新キャラも登場です。謎多きこの二名については、名前はまだ伏せています。後で出ます。

二部に続きます。

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