第五話「瓦解せし五大帝国の関係」・1
今回は、なななんと……六部構成でお送りします。
「くっそぉ~放せ、放せぇ~!!」
「くそ、大人しくしろクソガキッ!!」
「んなっ、誰がクソガキだと!? てめぇ、この私をかの有名な『鳳凰の軍神』と知っての狼藉かっ!!」
ちんちくりんの少女が、鎧を身に纏う一人の衛兵に突っかかる。だが、体格差もある上に力量差が激しく、その少女の攻撃はまさに子供がじゃれついているようにしか感じられない。
鎧を身に纏う兵士は、その少女を軽く往なすと、即座にロープで拘束する。
「ぐあっ! くっそ、よもやこの私がこんなクソ兵士に捕まるなんて、世も末だなっ!!」
「大人しくしろつってんだろ? さもねぇと、この場で裸にひん剥いて傷物にしちまうぞッ!!」
ぎゃーぎゃーと騒ぐ少女に対し、兵士は激高して脅す。すると、脅しが効いたのか少女はしおらしくなって黙った。
「隊長、鳳凰の軍神の片割れを捕らえました」
「そうか、こちらはまだ手こずっている……」
「へっ、雲雀がそんな簡単に捕まっかよ!」
「ええい、黙れッ!!」
ドグッ!!
「カハッ! ゴホゴホッ!!」
苛立っていた隊長と呼ばれる男が、少女の腹部に蹴りをくらわせる。咽たその少女は、苦しそうに幾度と咳き込む。
「た、隊長……」
「力も何も持たぬただの小娘風情が、粋がるからだ」
「ゴホッ……て、てめぇ……私にこんなことして、ただで済むと思うなよ? ……ここには、鳳凰の御神体があるんだかんな!?」
拘束されて芋虫のような格好になっている少女は、歯噛みしながらそう告げるが、隊長は大して怯む事もなく言い返す。
「それがどうした、それならばこちらとてアレを遣うだけのこと……。ドルーミラ様に許可は得ているのだ。だが、あれは最終手段……貴様ら巫女の小娘共に使うまでもない! おい、鳳凰の右目はまだ捕まらんのか!!」
少女の言葉など無視して、隊長は部下の報告を要求する。すると、小型インカムに小さな魔法陣が展開されて、声が届く。
『報告します、鳳凰の右目は現在社から抜け出したとの報告ですッ!!』
「何、それは真か!?」
『はいッ!! いかが致しますか?』
報告を受けた隊長は、親指の爪を噛み考える。
このままでは確実な敗北宣言は出来ない。ここで鳳凰一族に負けを認めさせなければフレムヴァルトの敗北は成し得ない。それではここまで来た意味がなくなってしまう。
後戻りすれば、せっかくのドルーミラ伯爵の厚意を無にする事となる。それだけは避けたかった隊長は、最終手段に打って出る事にした。
「止むを得ん……アレを遣うッ!!」
『た、隊長……まさか、まだ早すぎますッ!!』
「うるさいッ!! 我らが負ける事は鎧一族の負けに同じッ!! それだけは何としてでも阻止せねばならんッ!! 例えエレゴグルドボト帝国が衰退しようと、これだけは成し遂げるッ!! すぐに準備するのだッ!!」
隊長の叫びに、インカムからは渋々了解の声が届いた。
鳳凰一族の住まう社。その中心に、巨大な魔法陣が形成される。真っ白な魔法陣が煌々と光り輝く。
その周囲には、幾人もの鳳凰一族の人間が魔法陣の周りに輪を作って座していた。全員巫女装束を着用し、ロープで拘束されている。足にも枷が嵌められており、自由な動きは不可能だった。
「あなた達、一体何なんですか? あの時も鈴華様を浚いに襲撃しに来たというのに、今度は一体何を……」
そう口にするのは、鳳凰一族の一人で『鳳凰 暦』だった。
「これはこれは、暦殿? あの時から大分経ちますが、これまた一層お綺麗になられて……」
「ひゃっ!?」
暦の声に気付いて近づいてきた一人の男が、彼女の胸を掴む。
「ガッハッハッハ、やはり巫女族といえど、所詮はただの不死身の生娘なだけか!」
「口を慎め、これより召喚の儀を執り行うのだ。神聖なる場に、穢れはあってはならん」
「す、すいやせん」
隊長の叱責に、ヘコヘコと頭を下げる男。その姿に、暦は小さく笑った。だが、それが聞こえてしまったのだろう。
刹那――。
ドグッ!!
「ガハッ!?」
「てめぇ、たかが神子産みの道具の分際で、生意気なんだよッ!!」
「うっぐ……」
「やめて、暦お姉ちゃんに乱暴しないで!」
「そうだそうだ、おねーちゃん何も悪くないでしょ!」
拘束されていて痛む腹部を押さえる事が出来ない暦を庇うのは、小さな双子の幼女だった。
「チッ、んだぁ? てめぇらも痛い目に遭いてぇのか!! あぁんッ!?」
完全にチンピラのような形相で、男は双子の幼女に歩み寄る。
その間にも召喚の儀は進み、淡く白い輝きを見せたかと思うと、その場に巨大な化け物が姿を現した。龍の顔を持ち、額から一本の角が突き出ている。白銀の鱗に包まれ、体中のあちこちに純白色の鎧を身に纏っている。
『き、麒麟様ッ!!』
一人の兵士を除いて、鎧を身に纏った軍兵が片膝をつき忠誠の意を示す。
【止せ止せ、我はそのように畏まられるのは慣れん……。それよりも、鎧一族の面々が一体どうしたというのだ? それにここは、真っ赤な真紅……鳳凰の住処だろう? 我が呼ばれた理由がどうにも分からん。それと――】
途中で言葉を区切り、チラッと一瞥した麒麟が何かを捕らえる。それは、先程忠誠の意を示さなかったチンピラ兵士だった。
【その方、先程幼き娘を痛めつけておったな……解せんな。女子は大事にせねばならんぞ?】
そう穏やかな眼差しで言いつつも、男を拘束した手元は力が籠められる。
「あが、ぁ……ぐぅ、うごぉ……っ………」
そして、とうとう男は息絶えた。
【おやおや、これは失敬。我はどうにも女子に手をあげる男が許せんでなぁ。して、本題は?】
「はい、麒麟様……フレムヴァルト帝国を、我らがエレゴグルドボト帝国の物にしたいのでございます!!」
【ほう、それはまた大胆な思いつきよのぅ。誰の差し金かは知らんが、一つ言わせてもらおう】
龍の顔を持つ麒麟は、顎に蓄えた真っ白な髭を梳き撫でる。
【……我の名は麒麟ではのうて、『索冥』ぞ。麒麟は黄色いのだからのぅ。我は純白……真っ白だ】
「では、改めて……索冥様、我らの頼み聞いてもらえませぬか?」
鎧の兵団を代表して、隊長が頭を下げる。
すると、索冥はかいていた胡坐を崩してこの場にいる人間を見渡した。
【そもそもこのような場所に霊獣召喚するとはな。我は御神体で眠っておったというのに……何をした?】
その問いに、思わず兵団は押し黙るが、しばらくして隊長がいの一番に開口して説明をした。
「申し訳ありません、索冥様。我らの帝王が暴走して砦を破壊したために、その際御神体が壊れたのです」
【な、何ッ!? それでは今現在、御神体はないのか!?】
先程まで穏やかで冷静だった索冥は、突如焦燥感に駆られた表情を浮かべる。
「はい……」
【それはマズイことになった。我々四霊獣のみでは押さえられん】
「どういうことですか?」
索冥の慌てっぷりに、鎧一族の面々も焦り出す。
【御神体には封印力が備わっておる。それを破壊されると、東西南北に封じられた神龍が蘇るのだ】
「蘇るとどうなるのですか?」
【蘇れば最後、再封印せぬ限りこの世界は終わる】
その言葉に、この場にいる全員が目を見開き言葉を失った。
【よいか、決してこれ以上御神体を破壊してはならんッ!!】
「ほぅ、それは面白い話を聞いた」
『――っ!?』
突如、どこからか声が聞こえてきた。その声の主を探すが、どこにも見当たらない。
「誰だ!! 何処にいる、出て来いッ!!」
痺れを切らした隊長が声を荒げる。すると、空間が歪んで一人の白衣姿の男が姿を現す。
「ま、まさか……レイヴォル!?」
一度襲撃を受けた際に見覚えのある姿に、思わず暦はその人物名を口にする。しかし、その正体は全くの別人だった。
「……フッ、残念だったなレイヴォルではない。我が名は、オドゥルヴィア……最強を目指す男だ」
そう言ってオドゥルヴィアは、開口一番に目の前にいる索冥に向かって手を振りかざす。
【何のつもりだ?】
渋面を作り訝しむ索冥に、オドゥルヴィアはただただ笑むのみ。
そして――。
「精神支配!!」
その言葉を放つと同時、索冥が声をあげる。
【ぐぅぅッ!?】
「し、しまった! マズイ、聖獣召喚の指揮下から離脱された!! もう我々の言う事を聞かんッ!!」
隊長が慌ててその場から離れる。
【ぬぐおぉぉぉぉぉぉ!?】
「くっふふふ……索冥、と言ったな。貴様に命令だ。ここにいる巫女全員を嬲り、不死身の力を奪い去れッ!! これ以上巫女族の存在価値などない。今回の駒に必要な人材は既に揃っている……」
【うぅ……や、めろ! 我に、そのような……事は、出来ぬッ!!】
「ほう、こいつは興味深い……さすがは四霊獣の一角。聞いているぞ? その昔、この世に跳梁跋扈した冥霊族を別世界に送るため、ある人物が四方陣を使用したそうだな。その際、封印の番として貴様らが使われた。くっふふふ……鳳凰輪廻も面倒な事をしてくれるものだ。おかげで、現世とあの世との隔離が成功してしまった。だが、その四霊獣を殺し、神龍が守る竜玉を破壊した時、世界に再び冥霊族が蔓延るそうではないか。それを聞けば、行動に移さねばなるまい? くっふふふ……世界に安寧など必要ないッ!!」
そう言ってオドゥルヴィアは索冥に向かって手を突きだす。
「くっふふふ……あの時厄介な事に幾つかの神罰を封印されてしまったが、完全には封印されていない。それで、残った神罰の中にも便利なのがあった。呪縛洗脳の神……こいつの神罰……今こそ絶好の使い時ッ!!」
目を見開くや否や、紫炎がオドゥルヴィアの四方に発生し、彼の手から紫色に発行する鎖が飛び出す。そして、それが索冥に雁字搦めに絡みついたかと思うと、楔が四肢に突き刺さった。
【ぬぐぁああぁあああああああッ!!!!?】
凄まじい激痛が索冥に襲い掛かる。意志を飲み込まれ、呪縛に囚われる。
「さぁ、やれ……索冥ッ!!」
【うぐぁあああああああああああああッ!!!】
「や、やめて……こ、来ないで……いや、ぁ……いやぁあああああああああああああああ!!」
「ぐふふふ、ぐふはははははははははははははははは!!!」
高らかなオドゥルヴィアの哄笑が響き渡り、瞬く間に鳳凰一族は敗北した。
索冥によって不死身の力を失った多くの鳳凰一族の面々は、拘束状態で索冥に嬲られ続けながら、フレムヴァルト帝国の晒し者になった。
そして、同刻……オドゥルヴィア率いる呪縛洗脳済みの隊長含む鎧一族の面々が、フレムヴァルト帝国に侵攻開始。ものの四時間でフレムヴァルト帝国は陥落し、エレゴグルドボト帝国に敗北宣言をした。
帝国民の多くは、女子供関係なく蹂躙され、呪縛洗脳された兵団によって凄惨な殺害を受けた。戦火の炎は絶え間なく木々を燃やし尽くし、武器庫も全て爆破。
僅かに生き残ったフレムヴァルト帝国民の何人かは、有属性者以外兵団の好きなように扱われた挙句惨殺され、有属性者は牢獄に囚われの身となった。
また、鳳凰一族の数名は索冥によって散々嬲られた挙句、オドゥルヴィアの玩具となって死んだ。
その他の鳳凰一族は、涙を延々と流し続けながら血まみれのボロボロ姿で牢獄に囚われ、永遠の奴隷になるよう、オドゥルヴィアに誓わされた。
後にこの惨状の悲劇は『鳳凰大火の襲撃』とされ、五大帝国のこれからに関わる大事件の引き金となった。
――▽▲▽――
「何ッ!? それじゃあ、フレムヴァルト帝国は事実上滅んだってことかッ!?」
俺――塁陰月牙は、驚きの事実を知って唖然とした。この報告は、隠密稼業が専門である影明から聞いた。
「御意。凄まじい戦火で、昨晩は煌々と真っ赤な炎が燃え盛っておりました」
「何で誰も助けに行かねぇんだよッ!!」
そうだ、炎と言えば水……ウォータルト帝国が進軍して手助けすれば、すぐに鎮火出来たかもしれないのに。
「そこがおかしいのでござる」
影明が疑問点を俺に告げる。
「どういうことだ?」
「昨晩、主殿は聞こえたでござるか? 爆発音や、燃え盛る炎の音が……」
「そういえば、全くと言っていいほど昨日は静かだったな。それはもう不気味なくらい……」
言われてみれば不思議だ。フレムヴァルト帝国と言えど、夢鏡城からそれほど離れている訳でもない。第一、朝ならまだしも真夜中なら戦火の炎が見えるはずだ。それが見えないとなると……何か秘密が?
俺が顎に手をやり思案していると、影明がこちらを見つめてきた。
「……まさか、何か知っているのか?」
「御意……実は、フレムヴァルト帝国の周囲に、とてつもなく巨大な魔法をかけられていたのでござる。それも、魔法とも言えないような力でござる」
「魔法とも言えない?」
影明の言葉を反芻し、俺が首を傾げる。この世界において、魔法と科学は対立しながらも共存している。有属性者が魔法の道、無属性者が科学の道に進むのがセオリーだ。
だが、影明の言い方からして科学ってわけでもなさそうだな。
「……一体、何の力なんだ?」
「調査してみました所、神族の力を感知いたしました」
調査報告書には、確かに神族の二文字が記されていた。神族のデータを元に測定しているだろうから、まず間違いない。恐らく、この調査は雷落が行ったものと思われる。
「雷落殿から渡された書類にござる。そしてこちらは――」
そう言って俺に差し出したのは、一枚の写真。
「これは拙者の推測にござるが、この男は……」
影明の言葉を耳で捉えながらも俺は写真に視線を下ろす。そこに映っていたのは、一人の男と思われる姿だった。白衣姿で拷問部屋らしき場所に立っている。髪の毛は白っぽい。
いや待て……まさかこの男――。
『オドゥルヴィア』
俺の声と影明の声が偶然にも重なる。
「……やはり、主殿もそう思われるでござるか?」
「ああ、間違いねぇ。それに、あいつなら神族の力ってのも納得がいくしな」
そうだ、あいつの体には多くの神罰が宿っている。異常方法で手に入れた神罰だが、あれを持っているならば、俺達の視界からフレムヴァルト帝国の惨状を消し去る事も可能なはずだ。でも、俺の記憶が確かなら母さん達に神罰を封印されたはずだ。完全じゃなかったって事か? そう言えば、途中でレイヴォル――バルトゥアスが邪魔してきたな……。
「聖龍と俊龍には感謝しとかないとな」
というのも、俺が影明をフレムヴァルトに向かわせた理由が、あの双子にフレムヴァルト襲撃の話を聞いたからなのだ。あれがなかったら、もっとフレムヴァルト帝国の惨状を知るのが遅れていた事だろう。
やはり、持つべきものは仲間と言える。
というわけで、今月中に投稿できました。今回の主なメインは鳳凰一族です。フレムヴァルトを初めに五大帝国の関係が崩れるという話です。にしても、とことんツイてない一族です。ゴッド・レジスタンスに襲われ、クロノスに襲われ、鎧一族に襲われるという……。挙句の果てには奴隷ですから、そろそろ精神を病んでもおかしくりません。
突如襲撃してきたドルーミラ伯爵の部隊によって囚われた鳳凰一族の巫女さん達は、全員牢屋行きです。そして、ここで御神体について触れました。これも後々関わってきます。にしても、オドゥルヴィアはホント心底邪魔なタイミングでやってきます。霊獣までも操ってしまうとは、神罰恐るべしです。ちなみに、Ⅳの時に封印された力はあくまでも一部なので、すべては封印しきれていません。厄介です。
二部に続きます。




